I/S ( IS×アルドノア・ゼロ)   作:嫌いじゃない人

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かなり久しぶりの連続投降&今回も少し短め。


第十話  界塚姉弟+α

「ねえ伊奈帆。聞いた? 転入生の噂」

 

「いいや」

 

 ある金曜の朝。ホームルーム前の時間、机に付いた伊奈帆に韻子が話しかける。

 話題は今朝仕入れた転校生の噂だ。

 

「時期的には珍しいね。中途入学には国家の推薦が必要だけど、何処の国?」

 

「中国の代表候補生だって。ウチのクラスかな?」

 

「それは無いと思うよ。机の数が変わらないから」

 

 IS学園の机はタッチパネル等を内蔵した最新型の電子機器だ。数が足りないからといって空き教室から運んでくるような代物ではない。

 

「そっか。残念」

 

「二組だって、転校生」

 

 二人が話しているとクラスメイトの一人が会話に参加してきた。

 

 基本、伊奈帆が一人でいるときクラスメイトから話しかけられることはあまりない。

 しかしそれは決して伊奈帆がクラスメイトから忌避されているわけではなく、単純に絡み辛い相手だからである。

 話しかけても相槌を打たず、表情も動かず、必要以上に口を開かない。沈黙を嫌う今時女子高生にとっては彼とのお喋りはなかなかの難関だった。それでも、クラスメイトの彼に対する興味は尽きない。

 最近では、"伊奈帆上級者"の韻子が一緒にいるタイミングを狙って声をかけることが、三組のスタンダードになっていた。

 

「最新情報。ってか教室覗いたら二組の机が増えてた」

 

「わざわざ見に行ったんだ」

 

「まーね。そこはほら若さから来る好奇心ってやつ? あとそれとさ、もう一つ情報仕入れたんだけど、聞きたい?」

 

「勿体ぶらないで教えてよ」

 

「……界塚くんは?」

 

「僕も聞きたい」

 

「ふふふ。実はここだけの話。今朝早くのことなんだけど、今まで学園内で誰も見たことのない若い女の人を、茶道部の朝練組が見たんだって」

 

「待って茶道部の朝練組ってなに」

「続けて」

 

「その人なんだけど、歳は千冬さんと同じくらいでスーツ姿だったからたぶん教師らしいの。ほら三組ってまだ副担が来てないでしょ。だから――」

 

「皆さん。着席してください」

 

「うひゃぁ!!」

「今日のイザベラ先生、急に来るわね」

 

 いつの間にか教室に入ってきていた三組の担任、イザベラ先生が生徒たちに着席を促す。それにより先生の入室に気付かなかった大勢の生徒たちが慌てて自分の席に戻りだした。

 彼女には決して学生の不意を衝こうという意思はない。ただただ動きが静かなのだ。

 そのため三組の女子たちは休み時間が来ても、いつ教室の扉の陰から担任が顔を出すものかと考えてしまい、ある程度は自重してしまう。結果としてそれが三組の風紀維持へとつながっている。

 

 そんな彼女についたあだ名は『サイレントティーチャー』。またの名を『アサシン先生』。

 

「あの、先生? まだホームルームの時間には早くないですか?」

 

 生徒の一人が質問する。

 イザベラ先生は千冬先生とは異なり五分前行動には括らないタイプの教師だ。

 彼女自身、普段はホームルーム開始のチャイムが鳴っている間に教室に入ってくることが多い。しかし今日は少しだけ時間が早い。

 

「なにか不都合でも?」

 

「あ、いえ。そういうわけでは」

 

 時間が早いとはいえ、ほんの数分のこと。教室には全員揃っていた。

 

「まあ、なんと言いましょうか。今回は彼女に急かされたので」

 

 

 

「彼女?」

 

 そこで質問していた学生は気が付いた。いつもなら教室に入ってきたイザベラが後ろ手に閉めるはずの扉が、今日は開いたままになっている。

 直後、その扉から女性が入ってきた。黒髪の日本人。白いシャツに紺のスカートというオーソドックスなスタイル。表情には微かな緊張が表れているが、それでも美人と言って差し支えのない容貌をしている。

 

「…………」

 女性は無言のまま歩き、先生の隣に立つ。

 

 韻子はその姿を驚いた顔で見つめていた。

 

 イザベラが口を開く。

「どうぞ、自己紹介を」

 

「えっと、みんな初めまして。このクラスの副担任を勤めることになりました、界塚ユキです。教師の経験は初めてですけど現役のIS操縦者として伝えられるだけのことはみんなに伝えたいと思っています」

 

「えっ?」

 クラスメイトが騒めく。

 

「界塚?」

「珍しい苗字だし、間違いないでしょ」

 

「あの、先生!」

 

 クラス全員を代表するように一人の生徒が質問する。

「界塚先生って、やっぱり……」

 

「んーまあ、みんなの想像する通り。界塚伊奈帆の姉、界塚ユキです」

 

 その一言に教室の騒めきの音量がさらに上がる。

 

「皆さん。お静かに。新しい先生に質問する時間が足りなくなりますよ」

 

「あれ? 質問タイムあるんですか!?」

 

「今、設けました。さあ界塚先生、おとなしく挙手している生徒から指名してくださいね」

 

 シュパッ!

 

 幾本もの腕が上がる。

 しかしその中でも天井を衝かんばかりの勢いで上がった腕が一本。界塚ユキには、その気迫から目を逸らすことは出来なかった

 

「はい。韻……網文さん」

 

 当てられたのは韻子だった。

 ユキと韻子は、ユキがまだ中学生だったころからの付き合いだ。韻子の実家である食堂に度々招待して家族のように夕食を食べた。幼なじみの姉というだけでなく、歳こそ離れているが親友のような感覚で接していた部分もある。

 聞きたいことは山とある。それこそ、なにから聞けばいいのか分からないほどに。

 

「なにから質問したらいいかわかりません!」

 

「……えー」

 

 

 

 

「いやぁ。まさか、ユキさんが先生になってくるとは思わなかったなー」

 

 時は変わって昼休み。韻子と伊奈帆は食堂でお昼を食べていた。

 

「伊奈帆は知ってたの? ユキさんが来るって」

 

「うん」

 

『知っていた』ということは事実だが、実のところそれだけではない。

 伊奈帆がIS学園に入学を決めたとき、ロジャーに幾つかの条件を出した。ユキのIS学園教師としての就任もその一つ。ロジャーはその要求を呑んだのだ。

 

「知ってたなら教えてくれればよかったのに。恥かいたの、伊奈帆のせいだかんね」

 

「大げさなんだよ韻子は。最後に会ってから一ヶ月しか経ってない」

 

「……話には聞いてたから、ユキさんが無事だってことは分かってた。問題は私の方。これからIS学園に入学で一世一代の大勝負ってときに伊奈帆のニュース聞いてさ、頭ん中こんがらがって。私にISのこと教えてくれたのユキさんだったから頼りにしてたのに、あのタイミングで連絡付かなくなったの結構パニックだったんだよ」

 

「ごめん韻子」

 

「伊奈帆が謝ることじゃないでしょ。なんでIS動かせるのか分かんないけど、伊奈帆には仕方のないことだし」

 

 

 

 

 二人で話していると、いつもの見知った顔が近づいてくる。

 

 

「あ、伊奈帆。ここ座っていいか? 連れもいるんだけど」

 

 昼食の乗ったお盆を持った一夏がそう訊ねる。

 

「いいよね韻子」

 

「もちろん。ほら伊奈帆、もっと奥に詰めて」

 

 テーブルにやって来たのは一夏だけではなかった。一組の専用機持ちのセシリアとシャルロット、幼なじみの箒。

 彼女たちと伊奈帆は一組の代表決定戦以降も何度か会っている。韻子とも十分に顔見知りだ。

 

 ここまではいつものメンバー。

 

 今日はそれに加え、知らない顔がいた。ツインテールの小柄な少女だ。東洋人だが日本人とは少し雰囲気が違う。子供らしい自信ありげな笑みに、大陸系の美貌を含んでいる。

 それだけで韻子にはピンと来た。

 

「ひょっとして転校生の」

 

「ああ。紹介するぜ。今日二組に転校してきた鳳鈴音。中国の代表候補生だ」

 

 一夏は二人に紹介する。

 

「ふーん。あんたがもう一人の男ってワケね。……一夏と比べると随分貧相じゃない」

 

 初対面の相手に対しては失礼な物言いだが、言わんとしていることは事実だった。

 学園への入学以降、伊奈帆も運動量を増やしている。だがそれでも、幼き日から竹刀を握り中学生になってもアルバイトで体を動かしてきた一夏と、主に健康の維持と老後への貯蓄を目的として体を動かしてきた伊奈帆とでは、身長のみならず筋肉量にも差がある。

 

 無論、そのことと礼儀の話は別だ。

 韻子が受けて立つ。

 

「……"貧相"だなんて、その身体でどの口が言うのかしら?」

 

「誰? あたしにケンカ売ってんの?」

 

「注意されたら逆切れ? 若者のモラル低下は日本に限った話じゃないみたいね。嘆かわしい」

 

「まあまあ二人とも、そうカッカすんなよ」

「韻子。僕は気にしてないから」

 

「一夏がそう言うなら……」

「気にしてないって……少しは気にしてよ。なんで私が怒ってんだか」

 

 男たちに宥められ、二人の少女は矛を収める。

 

「一夏、いいかげんに答えろ。その女とはいったいどのような関係なのだ!」

 

「そうですわよ。朝、会ったときからあんなに馴れ馴れしく……。まさか、こ、恋び――」

 

「僕だって気になるよ。一夏に中国とのパイプがあるなんて聞いたことないもん」

 

 三人の言う通り、一夏の鈴への親し気な態度は、以前から友人か或いはそれ以上に親密な関係にあったとしか思えない。

 必死の形相を見せる彼女たちに一夏はあっけらかんと答える。

 

「なにって、幼なじみだよ」

 

「幼なじみは私のはずだっ!!」

 

「いやそうだけど。ええと、箒が引っ越したすぐ後くらいに、中国からこっちに越して来たんだよ。確か小学五年生くらいのときか?」

 

「……私が越したのが小学四年の頃だな」

 

「んであたしが日本に来たのが五年の頭ね」

 

「そうそう。それからまたしばらくして、中二のときに国に帰っちまったんだよ。だから箒とは完全に入れ違いだな」

 

「ねえ一夏。僕の記憶が正しければ、日本語の『幼なじみ』って小さい時から一緒にいた同年代の友達のことだよね。そのくらいの歳からの付き合いでも、幼なじみって言うものなの?」

 

「別に幼なじみのルールなんてものは無いだろシャルロット。でもタイミング的に二番目に出来た幼なじみだから、"セカンド幼なじみ"だな」

 

「セカンド幼なじみ……。そんな日本語もあるんだ。知らなかった」

 

「いや普通そんな野球のポジションみたいな呼び方しないって。騙されないでよシャルロット」

 

「辞書には載ってないね」

 

 一夏の感性を理解する者は、残念ながらこの場には誰もいなかった。

 

「そんなことより一夏、あんた一組のクラス代表なんだって?」

 

「ん? おお」

 

「残念だけど、あたしも二組の代表になったから。これで専用機持ちはあんた一人じゃなくなったわけ。簡単には勝ち残れないわよ」

 

「そりゃ、簡単だなんて思っちゃいないけどさ」

 

「ふ~ん、わかってんじゃん。それじゃ、あたしがISの操縦教えたげよっか? べつに勝ち譲るつもりないけど、幼なじみが大勢の前で恥をかくのも目覚めが悪いしね」

 

「待て! 一夏を鍛えるのは私の役目だ!」

 

「わたくしのことを忘れてもらっては困りますわ! だいたいあなたは二組でしょう!」

 

「えっと、一夏の指導役は一組で十分間に合ってるから、気持ちだけもらっておくよ」

 

 一夏の指導役をめぐり、四人の間で火花が散る。当事者であるはずの一夏は蚊帳の外。伊奈帆は箸を休めることなくその様子を観察する。

 韻子は言い争いを重ねる一組の面子に対し、何か言いたげに口を開き――。

 

「駄目だよ。韻子」

 

 小さな声で伊奈帆に諫められた。

 

「……わかってるわよ」

 

 言いたいことなのに、今は言えない。韻子は拗ねたように口を閉じた。

 

 

 

 

 

 




ようやくユキ姉登場。ただ先生なので生徒と絡めるのが少し難しいかもしれません。チャンスがあれば織斑姉弟との絡みも書きたいですね。
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