I/S ( IS×アルドノア・ゼロ)   作:嫌いじゃない人

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伊奈帆の存在感が薄い(愚痴)。


第十七話 保健室ではお静かに

「……なあ。クラス代表対抗戦って中止になるのか?」

 

「なるんじゃなくて"なった"のよ、一夏くん」

 

 アリーナ襲撃者との戦いの後、四人は保健室に運ばれていた。全員大事は無いように見えるが学園としても予期していなかった事態であるため念には念を入れて診断するらしい。

 伊奈帆、一夏、簪はそれぞれカーテンで区切られたベッドで寝かされ、怪我一つなかった楯無は一番ダメージを負った簪の手当てを手伝っている。

 

 なので会話はカーテン越しだ。

 

「また日を改めて、ということは?」

 

「それもないわねー。もともとクラス代表対抗戦の目的は生徒たちの学習のモチベーション向上だから、対抗戦自体にはやらなきゃいけないという理由はあんまり無いの。対抗戦のためにまた日程の調整をして通常授業を潰したら本末転倒。まあ生徒たちから不満が出ないように救済措置はあるでしょうね」

 

「はぁ。鈴との賭け、どうしたもんかなぁ……」

 

「あら一夏くん。簪ちゃんがこんな大怪我したのに対抗戦続行を希望するなんて、結構鬼畜?」

 

「え!! 簪さんそんなにひどい怪我なのか!?」

 

 驚いた一夏が咄嗟にカーテンを開ける。と、すぐ目の前に楯無が視界を塞ぐように立っていた。

 

「……えっと、楯無さん?」

 

「目潰し♪」

 

「っギャアァァ!!」

 

 ベッドに倒れ落ち、のたうつ一夏。

 

「もう。簪ちゃんの身体を拭いてるときにカーテン開けるなんてデリカシーがないぞ、一夏くん」

 

「いやワザとですよね楯無さん!!」

 

「お、お姉ちゃん。私は大丈夫だから」

 

「うそ、裸を見られても大丈夫だって言うの! まさか、二人がそこまで進んでいたなんて……!」

 

「進んでない!!」

「進んでません!」

 

「一夏、お客さん」

 

「ああ……。悪い伊奈帆、俺、いま目が見えないんだ。誰が来たんだ?」

 

 しかし伊奈帆が答えるより早く、訪問者の声が一夏の耳に届いた。

 

「堂々と女の子の裸を覗こうとするなんて、サイテー」

 

「り、鈴!? 違うぞこれは! 生徒会長の陰謀なんだぁ!!」

 

 幼なじみにあらぬ誤解をされては堪らないと、一夏は必死に縋りつきながら弁明を重ねる。

 

「……なにカーテンにしがみついてんのよ。キモい」

 

「あ、鈴はそっちか。いやちょっと視力がな」

 

「ま、別にいいけど。どうせあんたにはそんな度胸ないし。……にしても結構元気そうじゃない。ベッド使ってるもんだからてっきり骨の一つでも折ったかと思ってびっくりしたわよ」

 

「なんだ、心配してくれたのか?」

 

「これで心配の一つもしなかったら中々の薄情者よそいつ」

 

「それもそうか。ありがとな、鈴」

 

「ふん。見舞いの方はついでよ。それで? 勝負の方はどうするの?」

 

「あら。二人して学校行事で賭け事? 生徒会長として、お姉さん見過ごせないわねぇ」

 

 カーテンの向こうから楯無ひょっこりと顔を出す。

 

「生徒会長!? どうしてこんなところに!?」

 

「違いますよ楯無さん。賭けといってもお金とかじゃありませんから。こいつが昔――」

 

「わっ! わぁーなんでもないです! なんでもないんです会長!!」

 

「ふーん? それはひょっとして、"昔、鈴ちゃんとしたある約束を一夏くんが『毎日酢豚を奢ってくれる』という風に間違えて記憶していて、それに鈴ちゃんが激怒した"って話と何か関係があるのかしら?」

 

「な、なんで生徒会長がそのことを知ってるんですか!?」

 

「そそそれってもしかして、『毎日お味噌汁を……』的なプロポーズなんじゃ――」

 

 うっかり核心を突いてしまう簪。鈴音は慌ててその口を塞ごうとする。

 

「わーっ!! ちょっとアンタなに言ってんのよ!!」

 

 簪に跳びかかる鈴音。しかし彼女の首根っこを楯無が掴んで食い止めた。

 

「ホイっと。怪我人に無茶をしないの」

 

 鈴音は悪さをした猫のように捕まっている。

 

「フシャーッ!!」

 

「ううっ……」

 

「プロポーズかぁ。確かについさっき約束のときの言葉を思い出したんだが、言われてみればそう聞こえないことも……」

 

「――違うから!! プロポーズとか深読みしすぎだから!」

 

「おっ、おお。そこまでの勢いで否定しなくても分かってるって」

 

「あっ……。うん……」

 

 やってしまった。

 がっくりとうな垂れた鈴音を、楯無は床に降ろす。

 

「えっと。ごめんね凰さん」

 

「鈴でいいわよ、もう……」

 

 どんよりと、沈み込む二人。

 原因は分からないまでも二人の間の沈んだ空気を察した一夏は話題を変えようとする。

 

「あー。中華と言えばさ、鈴の親父さんの店、うまかったよな。日本に戻って来たってことはまたやるのか?」

 

「……その、お店はしないんだ。あたしの両親、離婚しちゃったから」

 

「え……。離婚?」

 

「私が中国に帰ったのも実はその関係でさ……。親権だと今はやっぱり母親の方が何かとやりやすいし、中国にも頼れる親戚がそれなりにいたから……。ああ、でも父さんとは一年くらい会ってないし、もしかしたら元気にお店やってるかも」

 

「そうだったのか……」

 

 さらに沈み込む部屋の空気。

 ここから何と声を掛けるべきか、一夏が悩んでいると突然腕に痛みが走る。

 

(痛ぇ! なに――!?)

 

 見れば、一夏のベッドに腰かけるように上がっていた楯無が一夏の腕を抓っていた。

 

(ちょっと一夏くん!? どうしてくれんのよこの空気! 簪ちゃんまで落ち込んじゃったじゃない!)

(いや俺も予想外でしたよこの流れは!? 鈴の御両親すごい仲良かったですし、まさか離婚するなんて……)

(言い訳しない! 私たち鈴ちゃんとはまだ付き合い浅いんだから、離婚の話題から変えられるとしたら一夏くんしかいないのよ! それとも鈴ちゃんがこの沈黙を破るまで待つつもり!?)

(い、伊奈帆! ちょっと助けてくれ! なにか良いアイデアは!?)

(分かった。増援を呼ぼう)

(……増援?)

 

 以心伝心で会話するここまでが4秒。伊奈帆が外部に通信を入れるまでが5秒。

 そして十数秒も経たないうちに廊下からバタバタと足音が聞こえてきて、保健室のドアが勢いよく開く。

 

「一夏!!」

「一夏さん!!」

 

 飛び込んで来たのは箒とセシリア――。

 

「―― って俺!?」

 

「界塚から聞いたぞ! 『一夏が上級生と一緒に保健室のベッドに乗っている』と!!」

「その女性はいったいどちら様ですの!?」

 

「……あら? それって私のこと?」

 

 一夏の隣に座っている楯無が、自分のことを指差す。実状は一夏の腕を抓るために近づいただけなのだが、今来たばかりの二人からは一夏と腕を組んでいるようにしか見えなかった。

 愕然とし俯いた二人の肩がぷるぷると震える。

 

「ふ――」

「ふ――」

 

「……ふ?」

 

「――不埒者ぉぉっー!!」

「――不潔ですわーっ!!」

 

「ちょ、待って二人とも話を!! 楯無さんからも何か言ってください!!」

 

「お姉さん退散(たいさ)~ん」

 

「待って置いてかないで楯無さん!」

 

「一夏ぁ! 覚悟ぉっ!!」

 

「うギャアァーー!!」

 

 

 

 

 

「なんか、また一夏が大変なことになってるね……」

 

「元気? 伊奈帆。見舞いに来たよ」

 

 一夏に襲い掛かる二人の後からシャルロットと韻子が保健室に顔を出す。伊奈帆は二人には救援要請を送っていないので、おそらく箒とセシリアの様子から察して来たのだろう。

 

「僕は平気。軽度の打撲だから本当はベッドも必要ないくらい」

 

「分かってるって。全然攻撃は喰らってなかったし、訊いてみただけ。本当に心配したのは更識さんの方なんだけど……今は近づける感じじゃないか」

 

 

 

 

 

 韻子の言う"更識さん"―― 簪は、一夏の身の潔白を荒ぶる二人に説明していた。

 本当に良い娘である。

 

「……だから、お姉ちゃんがふざけてただけで織斑くんは悪くないの」

 

「なるほど。そうでしたの……」

 

「いや、容易く信じるなセシリア。聞けばその生徒会長とこいつは姉妹だという。実は口裏を合わせて――などということも考えられるのではないか?」

 

「ハッ……! 更識簪……おそろしい子ッ!」

 

 

 

 

「――いや。あんたらいつまでコントやってんのよ」

 

 鈴音の冷静なツッコミ。

 

「む? コントだと」

 

「だいたい口裏合わせだの保健室のベッドだので騒ぐなんてどんだけ恋愛脳なのって話よ。別にこの姉妹のどっちかが一夏に惚れたってわけじゃないんでしょ?」

 

「――ひょえっ!!」

 

「む!?」

「ん!?」

「あら?」

 

 三人の視線が一斉に、不用意に反応してしまった声の方へ向く。睨まれた簪は鷹の前の雀のように怯えるしかなかった。

 

「……そういえば、一夏がアリーナに出たのってこの娘を助けるためだったっけ?」

「状況的にはそのように見えたな」

「一夏さんならやりそう……いえ。まず間違いなく助けますわね」

 

「あ、ああああ……。お姉ちゃ――」

 

「はいはいそこまで。あんまり怪我人を追い詰めない」

 

 韻子が三人と簪の間に割って入る。ここで楯無が動いても(こじ)れるとの判断だ。

 

「ふむ。確かに韻子の言う通りだな」

「この話は後日改めて、ということにいたしましょう」

「そういうことだから早く怪我を治しちゃいなさいよね」

 

 三人はとりあえず矛を収めた。

 

「えっと、ありがとう。網文さん」

 

「長い付き合いになるし、韻子でいいわよ。私もお姉さんと紛らわしいし簪って呼ぶから」

 

 

 

 

 

「ねぇ伊奈帆。あの二人って以前から知り合いだったっけ?」

 

 クラスの違う二人の生徒の接点を疑問に思ったシャルロットが尋ねる。

 

「日本の代表候補生選考に韻子も出てたから、たぶんその関係」

 

「あー、そういうのか。確かに一つの国の中だとISの世界って結構狭いもんね」

 

 

 

 

「ハイハイ。皆、友達のお見舞いに来るのは感心だけど、ちょっと騒ぎ過ぎ。と言うか人数多過ぎよ。そろそろ退散しましょ」

 

 静かになった頃合いを見て、楯無が号令をかける。

 確かに彼女の言う通り、保健室の中は見舞客だらけだ。新しく保健室を利用したい生徒が来たら困ってしまう。それに騒ぎ過ぎたのも事実で、もしここに織斑先生がいれば折檻を免れなかっただろう。

 

「そうだな。無事も確認できたし、私たちはこれで失礼するぞ一夏。……む? 一夏、寝ているのか?」

 

「まあまあ。白目をむいて床に寝転がるなんてお体によろしくありませんわ。ベッドの上に運んで差し上げないと」

 

「……一応聞くけど、あんたらそれギャグで言ってるのよね?」

 

「あははは……。それじゃあ伊奈帆、一夏、簪さん。お大事に」

 

「それじゃあお大事に……。あ、伊奈帆、怪我がないのは分かったけど一応今日は大事を取って入院しときなさいよ」

 

 

 

 ぞろぞろと退散する女子たち。

 立ち去った後の保健室は、先ほどまでの喧騒が嘘のように静かになった。

 

 

 

「……実際、更識簪の負傷はどの程度なのですか?」

 

 気絶した一夏越しに伊奈帆が尋ねる。

 

「大丈夫だよ。骨折みたいな大きな怪我じゃないし――」

 

「簪ちゃん、ウソおっしゃい。両足にヒビ入ってるでしょ。それに全身に重度の打撲。三日間は安静ね」

 

「ううっ……」

 

「でも、今回の事件を考えたらこの程度で済んだのは僥倖なのかもしれないわね。あのISのパワー、エネルギー兵器の威力。尋常じゃなかったわ」

 

「打鉄が、守ってくれたから……。それに織斑くんが助けてくれたし……」

 

「えーお姉ちゃんも頑張って駆け付けたのに……。恋する乙女の目にはもう、王子様しか映らないのね」

 

「ち、違っ!? お姉ちゃんにも界塚くんにもほんとに感謝しててっ、えっと!!」

 

「わかってるわよ。からかっただけ。簪ちゃんも、今日はよく頑張りました。あそこから立ち直れるガッツがあったなんてお姉ちゃん驚きよ?」

 

「えへへ……。あ! 織斑くんにまだ、お礼言ってない……」

 

「今は寝てる(?)し、また今度になさい。時間はたっぷりあるんだから焦ることないわよ。……私はこれでお(いとま)するけど、簪ちゃんも伊奈帆くんも、しっかり休んで早く治しちゃいなさい」

 

「はーい」

「この位の怪我なら動いた方が治りが……」

 

「駄目よ、伊奈帆くん。周りの人も心配するしここで休むのいいわね?」

 

「会長がそう言うのであれば」

 

「それじゃ二人とも、安静にしてるのよ」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

(……あれ? ここ、どこだ?)

 

 一瞬、見慣れない景色に戸惑うが、すぐにここが保健室で自分がベッドに寝ていたことを思い出す。

 

(確か、アリーナでよくわからないISと戦って、そのあと保健室で休んでたらセシリアと箒に――)

 

 ――思い出すのはよそう。

 

 ぼんやりとあたりを見ると、ベッド周りのカーテンがちゃんと閉まっていた。誰かが気を使って閉めてくれたのだろう。

 そのカーテンの向こうから声が聞こえる。

 

「―― だから―― 無茶はしないで――」

 

「大丈夫だよ――。――から、――」

 

「もう――。――。まったく……」

 

 

 

(ああ……。この声、伊奈帆のお姉さんか)

 

 目が覚めたばかりで喉が渇いたから水の一杯でも貰おうと思ったけど、今は外に出れる空気じゃない。

 しかたがないので、もう一度シーツを被り直ることにした。

 

 

 ◇

 

 

 

 ……カサっ。

 

「……ん?」

 

 浅い微睡みの中にいた一夏は、微かな物音に目を覚ます。

 

「……あれ? 千冬姉?」

 

「なんだ、起きたのか」

 

 目が覚めた一夏に、千冬は持ってきた紙袋を投げ渡す。一夏はその中身を開けてみた。

 

「『あんばた』と塩パンとアンパン……。購買の売れ残りのパンじゃねぇか!? しかも餡子で被ってる!」

 

「生憎、これでも教師として多忙の身でな。それに出来合いの物なら冷めても食べられるだろう」

 

「ああ、そうか……。ありがとう、千冬姉。代金は後で渡すよ」

 

「いらん。それに織斑先生だ馬鹿者」

 

 一夏がふと窓の外を見ると、陽はとっぷりと暮れていた。

 

「腹減ったと思ったら、もうこんな時間だったのか。昼に寝すぎて生活のリズムが狂っちまうぜ」

 

「なに、体力と精神力をすり減らして戦った後はそういうものだ。どうせ夜もぐっすり眠れるから安心しろ」

 

「織斑先生。今日襲ってきた敵、なんだったんだ?」

 

「"調査中"としか今は答えられん。ただ戦闘に加わった者には調査結果が出たら教えることになっている」

 

「そうか……」

 

「まったく、無茶をしてくれるな。IS操縦者としてある程度の危険は付き物だが、なにも好き好んで自分から突っ込んでいくことはないだろう。たった一人の家族に死なれては目覚めが悪い」

 

「ごめん、千冬姉。でもただ見ていることなんて俺には出来ないかったんだ。助けられる距離にいて助けられる力があるなら、俺は守りたい」

 

「お前がそういうヤツだということは百も承知だ。だが織斑、お前が身を挺してでも誰かを助けることに心を痛める人がいることを忘れるな。篠ノ之やオルコットにも後で謝っておけ」

 

「……ああ」

 

「飯を食ったら歯を磨いてさっさと寝ろ。お前たちは明日も通常授業だ。一旦寮に戻る分いつもより早く起きないと遅刻するぞ」

 

 

 

 

 

 

 千冬が帰った後、消灯した保健室のベッドの上で一夏は今日の戦闘について考えていた。

 

 確かに戦いには勝った。予期せぬ事態であったことや襲撃者の強さを考えれば三人ともこの程度の怪我で済んだことはむしろラッキーなのだろう。だが、自分はそれで満足していいのだろうか?

 楯無さんは昼間なにかとふざけていたけど、それでも妹の面倒は丁寧に見ていた。襲撃者の攻撃を何度も受けていたことを考えれば決して軽い怪我じゃないことは想像がつく。

 それに加え思い出されるのは、見舞いに来てくれた千冬姉や幼なじみたちのこと。みんな本気で心配してくれていた。それ自体は喜ぶべきことなのかもしれないが、裏を返せば不安にさせてしまったということだ。守る守ると(うそぶ)いて周りの人を不安にさせるようでは、それは自分が憧れた強さではない。

 

 

 (俺はもっと強くならなくちゃいけない。千冬姉にも心配をかけない、誰も不安にさせない、そんな強さが必要なんだ……。……ん? 何か違うような……)

 

 誰かを護る為には強くあるべき。それは間違いないのだが、何か千冬の言っていた言葉に引っ掛かりを感じる。

 しかし微睡(まどろ)みの中では簡単な思考もまとまらない。一夏はそのまま、眠りの中へ落ちていった。

 




 とりあえず一夏と簪のフラグは回収。基本、原作のヒロインは一夏とくっつけるつもりです。
 ただ個人的に楯無は一夏に惚れる前の方がお姉さんキャラとして魅力的だと思うので、改変があるとすればそこだと思います。
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