日常シーンが書けないとあっという間にイベントに到達する。
クラス代表決定戦当日、一夏は箒と伊奈帆、シャルロットと一緒にある荷物の到着を待っていた。
決闘の場となる第三アリーナのAピットにいる四人の耳にまで、会場のざわめきが届く。
「一週間、早いもんだな」
「どうした一夏。今さらになって怖気づいたか?」
「まさか。やれるだけのことはやったんだ。ビビることなんて、ありゃしねえよ」
「そうか? なら、私の特訓が役に立ったのだな」
「……だな」
伊奈帆には授業でやったIS操縦の基礎理論の復習を手伝ってもらったし、シャルロットには実際にISを見せてもらって経験者からのアドバイスも貰ったが、箒とは結局、剣道の試合しかしていない。
(1人だけISとあんまり関係ない気がするけど……)
「何か言ったか? 一夏」
「い、いや!? ……それにしても、ほら。この格好はどうにかなんなかったのか?」
一夏は自分の服装を見ながらぼやく。
他の三人は普段通りの制服姿なのに自分一人だけ、肌にピッタリと張り付くような、上下に分かれたボディスーツを身に着けている。
一夏が来ているのは『ISスーツ』と呼ばれる、ISを操縦する際に着用する専用パイロットスーツのようなもの。
スーツそのものはISの操縦に絶対不可欠というわけではないが、体を動かすとき筋肉から出る電気信号を感知、増幅してISに伝達することによって、着ているだけでより効率的にISを運用することができるという特殊な衣服だ。
首元の電子タグにはバイタルデータを検出するセンサーが組み込まれており、いつでも生徒の身体状況を確認できるようになっているので有事の際にも安心。さらには小口径のピストル程度なら防げる防弾防刃性も備えている。
そんな至れり尽くせりの代物であるものの、一夏はその薄さと皮膚への吸着性に辟易としていた。
水着のようなものと言えばそれまでだが、水着だって街中で一人身に付けていれば恥ずかしい。それに一夏は水着はトランクスタイプ派だ。
「へぇ。男性用のISスーツって、こんな風になってるんだ」
当然、男性用のISスーツなどというものは今までこの世に無かったため、一夏が身に付けているのは半オーダーメイドの特注品である。
シャルロットはそれがよほど珍しいのか、上から下へと顔を近づけながら一夏のISスーツを観察していった。
「な、なあシャルロット、そんなにまじまじと見ないでくれないか」
「えっ! ……あ、ごめん!!」
自分が何をやっているのかようやく気付いたシャルロットは、耳まで真っ赤になりながら飛び上がる。
「不埒だぞ。一夏」
「俺が悪いのか!?」
三人で騒いでいると、ピット内のスピーカーから聞きなれた声の放送が聞こえた。
『織斑くん織斑くん織斑くん!』
なぜだか慌てている風の山田先生の声。
試合の開始時間は迫っているが、それは今さらなので急くような理由では無いはず。
なのになぜ彼女がこんなにもテンパっているのか、その答えはすぐに出た。
『届きましたよ! 織斑くんの専用IS!』
「!」
ピットの搬入口の扉が重厚な駆動音を立てて開いていく。
そしてその中から、一機のISが姿を現した。
「……これが、俺の専用機」
『はいっ! 織斑くんの専用IS『白式』です!!』
「これが一夏の――」
「――専用機、なんだね」
『織斑、今すぐにISを装着しろ。時間がないからフォーマットとフィッティングは実戦でやれ。いいな?』
「千冬姉!?」
反射的にピット上のモニタールームを見ると、特殊強化ガラス越しに、千冬姉の顔が見えた。
遠くからでも分かる。あれは『織斑先生だ、戯けめ』という目をしていた。
『機体が開いているだろう。そこに背中を預ければ、あとはISが自動的に最適化する』
「そう、一夏。そこに足をかけると、やりやすいから。うん。そこでいいよ。動かないで、そのまま」
一夏はシャルロットのアドバイスを受けながら、操縦者の収まるべき場所に中腰の体勢で座る。
すると腰から胸にかけ姿勢を保持するかのように体の前で装甲が閉じる。それだけでなく、腕や脚を挿入した各パーツも閉じて操縦者の身体に合わさっていく。
一夏が自分の体を見下ろすと、装甲が表面を僅かに波打たせながら、自分の体格に合わせて変形していくのが見えた。
「……ISって、すごいな」
「
「これだな。ああ、問題ないさ」
ISを通してみた景色は驚くほど鮮明に見える。普段、自分と見ている風景の間には何も遮るものなどないはずなのに、まるでそれが取り除かれたかのように鮮やかだ。
ISに乗るのはこれで二度目だが、相変わらずこのハイパーセンサーの感覚には驚かされる。
なにせ、普段よりも感覚が鋭敏になった上に360°全方位の視界がそのまま頭の中に流れてくるのだ。
文字通り見てる景色が、世界が違う。
『戦闘認可空域にISを確認』
『僚機設定対象外』
『機体名《ブルー・ティアーズ》』
視界に現れる複数のディスプレイが様々な情報を操縦者に伝える。
どうやらセシリアのISはいつでも戦闘態勢に入れる状態で待っているらしい。
相手を待たせてる状況に一夏は急かされる様な気分になるが、それをグッと堪える。
今さら慌てても勝機が遠ざかるばかりだ。
「一夏。出撃前に各事項を確認しないと」
「えっと、ハイパーセンサーはOK。……エネルギー残量良し、シールドバリアーと絶対防御も展開に異常なし。PICも……うん、大丈夫だな」
「武装」
「あ、ああ。白式、装備は?」
伊奈帆に言われ、一夏は慌てて量子格納された武装を確認する。
『武装一覧:近接格闘ブレード《名称未設定》』
「……これだけ?」
表示されたディスプレイを見て、一夏は呆然とする。
白式に呼びかけなおしても、表示内容が変わることも新たなディスプレイが表示されることもない。
「なあ。銃とかはないのか?」
『残念だが織斑、今から他の装備をインストールする時間は無い。腹をくくってゲートへ向かえ』
「ええ……。そんなことってあるか!?」
武装が近接一本のみという状況に、救いを求めた一夏は今まで頼りにしていた二人の顔を見る。
「う、う~ん。完全な近接オンリーの機体なんて見たことないからなぁ」
自信無さげに言うシャルロット。
「攻め方が限られる。一夏、相手のパターンに嵌れば挽回は難しいから、それだけ気を付けて」
不吉なアドバイスをする伊奈帆。
期待を裏切られた一夏に救いの手を差し伸べたのは、幼なじみだった。
「今さら何を気にする必要がある。素人のお前が慣れない武器を選べたとして、それでどうなるというのだ。剣に雑念が生まれぬ分、好都合だと思え」
「箒……」
「他の連中は代表候補生とIS素人の試合だと思って見ているのだろうが。私はな、剣士であるお前の戦いだと思っている。……それが分かったら、さっさと勝ってこい!!」
箒の檄を受け、一夏の心は落ち着いていった。
かつての篠ノ之の道場で培い、この一週間の箒との手合わせで思い出した、戦闘に際し最も適した緊張状態まで精神を遷移させる。
そうして見れば、何てことはない。
これから待ち受ける決闘も、今までの剣道の試合とそう変わらないものに思えてくる。
「箒」
「……これ以上話すことなど無いからな」
顔を真っ赤にして怒鳴る箒。
一夏は照れてるんだろうなぁと意地悪く思いながら、最後にもう一度言葉を交わす。
「ありがとう」
箒は赤いまま、そっぽを向いて答えた。
「……礼なら、勝って戻って来た時に聞いてやろう」
「ああ! 行ってくる!!」
今回は短めです。
文字数ではなく、ストーリーが少しでも進むよう意識して一話一話区切ってるので、これからも今回みたいに短かったり逆にダラダラと長くなったりすると思います。
一応一つの目安として、一話平均文字数が五千字になるように調整したいなーと思ったり思わなかったりラジバンダリ。