I/S ( IS×アルドノア・ゼロ)   作:嫌いじゃない人

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セシリア戦は再び一夏の一人称です。
読んでても書いてても混乱するので、視点の切り替えは一話あたり二、三人に抑えたいと思っています。


第八話  クラス代表決定戦

「あら、あまりに遅いのでてっきり尻尾を巻いて逃げたものかと。男の方にしては度胸のある……いえ。無謀と知らないだけですわね」

 

 セシリアはアリーナの空で俺を待ち構えていた。

 片方の手に六十七口径級特殊エネルギーライフル《スターライトmkⅢ》を下げ、もう片方の手を腰を当てた不遜な態度で悠々と俺を見下ろしている。自身の圧倒的勝利に疑いがないのだろう。

 その姿が様になっていると思ったのは、ここだけの秘密だ。

 

「まさか。逃げ出すわけないだろう」

 

「そうですか? なんでしたら、今ここで謝るというのなら許して差し上げようかと考えておりましたのに」

 

「人を小馬鹿にするのもそこまでにしとけよ。俺は今、お前と同じ空にいるんだぜ」

 

「小馬鹿になど……。わたくしはただ、あなたを苛めたくてこうしているわけでないと知っておいて欲しかっただけですわ。ですが断られてしまった以上は、大勢の前で惨めな姿を晒しての敗北という結果を受け入れてもらうしかないようです。残念ですがこれで――」

 

 セシリアは一瞬の動作で構える。

 銃口は覗き込めるほど、真っ直ぐこちらに向けられ――。

 

 

『射線に入らないこと。それだけ守っていればどんな銃の名手も一夏を墜せない』

 

 

「お別れですわ!」

 

 意識より先に体が動く。

 パワーアシストで無理やりに体を捻る。そのすぐ脇の空間を、衝撃を纏った閃光が突き抜けた。

 シールドエネルギーは削れていない。完全に回避できた。

 

 だが今の一撃。当たればどうなっていたか。シールドは破られ、装甲は砕かれ、もし生身なら骨すら残らなかったに違いない。あの威力は紛れもなく兵器のそれだ。そんなものが体のすぐ隣を通り過ぎていった。人に向けて撃つ方もそれを観て歓声を上げるギャラリーもどうかしている。

 頭の中の大切なところが麻痺する。心臓を冷えた手で握りつぶされたようだ。

 この感情は恐怖。あの誘拐以来の恐怖だ。

 だがそれは自覚してすぐに霧散し、代わって胸の奥底から闘志が湧き起こる。攻撃を受けた事すら、自分が苛烈な闘争の中にいることを実感させる興奮材料へと変わる。

 

 

『ISの操縦者保護機能の一つである脳内物質量制御。これは操縦者の精神に作用することでパニックや鬱状態を事前に防ぐ。ただし強すぎる感情の起伏はISでも完全に制御できるとは限らないから、個人的にはあまり頼るべきでないと思う』

 

 

 さらに一撃。

 回避したつもりが脚先から衝撃が響く。同時にダメージアラート。幸いにしてブースターに損傷はないようだ。

(……クソッ! 回避に集中しろ! 白式のスピードは足りてる。回避は出来るハズなんだ!!)

 

 俺が射撃からの回避に追われているその隙に、セシリアは遠く高く離れていく。

 近接装備しかない俺は距離を詰めなければ手が出せない。セシリアは勝ち誇った笑みを浮かべながらさらに引き金を引く。

 

「さあ踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!!」

 

 

 ◇

 

 

 

「さて。相手があのブルー・ティアーズとなると、一夏がまず知るべきは射撃武器の避け方かな」

 

「それはすごく知りたい」

 

 シャルロットの授業、IS実戦編。

「まず知っておいてほしいのは、"ISを狙って撃つ"のはそれなりに難しいことだということ。理由は二つだね。ISは射撃の的としては小さすぎるし速すぎるんだ」

 

「ISが速いってのはわかるけど、小さいイメージはあんまり無いな」

 

 現に俺はIS『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』に乗って地面に立つシャルロットから見下ろされている。

 

「射撃武器の適性距離って結構長いからね。例えば生身の人間同士の銃撃戦だと5、6メートル離れてても撃ち合いになるけど、ISだともう近接格闘の距離なんだよ。それ以上に離れるとなると、人より少し大きいくらいのISは的としては小さいね」

 

「なるほど。でもだからってセシリアが弱いってことにはならないんだろう?」

 だとしたら誰も射撃型ISなんて作らない。

 

「そりゃあね。IS操縦者は当然それができるだけの実力が付くまで訓練を重ねるし、遠距離射撃型の操縦者なら尚更だよ。ただ、だとしても難しいことをしているのは間違いない。つまり大事なのは、とにかく動きまくって狙いにくい的になること!」

 

「おお! (こす)い!」

 

「狡い言わない! とにかく、これが射撃の避け方入門編。わかった?」

 

「わかるけどなんつーかアレだな。ドッヂボールでそういう避け方してる奴いたな」

 

「『ドッジ』? 確か英語で『逃げる』とか『躱す』とかの意味だった思うけど、なにそれ?」

 

「え? フランスにはドッヂボールないのか!?」

 マジか。フランスの小学生は休み時間なにしてんだ。

 

「……とにかく次は初級編。ISには超音速のスピードとハイパーセンサーがあるから、"あ、撃たれるな"って操縦者が思ってから回避するだけのポテンシャルはあるの。でもそれはコンマ秒以下の駆け引きだから、ぶっつけ本番だと難しいかも」

 

「確かに難しそうだな」

 

「一夏は弱気発言禁止だよ。だからISの回避方法にはこだわらないで、ここは生身での銃の避け方を考えてほしいかな」

 

 生身で銃を避ける。マト●ックスかな。

「イヤ、よけい難しそうになったぞ」

 

「あーまた言ったぁ。次から弱気発言ペナルティーだからね。僕が言いたいのはホラ、人間って銃弾より早く動くのはムリでしょ。だからどうするのかっていうと、とにかく銃口の先、射線上には立たないようにすること。あとは代表候補クラスだと見越し射撃もマスターしてるだろうから加速(とば)し過ぎないようにジグザグ飛行かな。うん、ただそれだけ」

 

「……さっきからシャルロット、当たり前のことしか言ってなくないか」

 

「当たり前のことをシンプルな言葉にするのが大事なんだよ。なんとなく出来ることをなんとなくやってるだけだと無駄が多かったり遅くなったりするでしょ。追い詰められたときにパニックにならないためにも大切だね。とにかく一夏がまず覚えるのは、逃げると決めたら相手の射線に入らないこと。それだけ守っていればどんな銃の名手も一夏を墜せない。 ……理論上はね」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「簡単に言ってくれるぜシャルロット! どこまで逃げてもキリがねぇ!」

 

「逃げてばかりでは勝てませんわよ! お行きなさい、《ブルー・ティアーズ》!!」

 

 セシリアの呼びかけに応え、ブルー・ティアーズの非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)から四つのパーツが分離する。レーザーを発射する砲身と最低限の慣性制御装置、スラスターのみで構成された独立浮遊砲台(ビット)、《ブルー・ティアーズ》。

 四つのそれは解き放たれた猟犬のように俺を囲い込み、砲口を俺に向ける。

 

「くっ!」

 

 射線軸から飛び退いたその直後、四方からの光線が(くう)を焼く。

 これがオールレンジ攻撃。四方向から延びる射線軸全てを意識しなければ―― 違う!

 

 とっさに腕をあげシールドを任意(マニュアル)で展開し紙一重で《スターライトmkⅢ》の狙撃を凌ぐ。衝撃に体勢を崩されたところへ迫るブルー・ティアーズの追撃をギリギリでかわす。マニュアルの防御はオートよりエネルギー消費は少ない。ダメージは最低限に抑えた。

 だけど失敗した。BT(ブルー・ティアーズ)は確かに脅威だが単発の威力ではセシリアが持つライフルの方が遥かに高い。多少BTの攻撃を貰ってでもライフルだけは避けるべきだったのに、回避に夢中になって真っ直ぐ飛び過ぎた。

 

 焦りか高揚かは知らないが、冷静になり切れてない証拠だ。

 

「無駄な足掻きを!」

 

「『白式』! 武器を!」

 

 俺の呼びかけ(コール)に応え白式の腕のあたりに青い光の粒子が舞い―― 次の瞬間凝集し、消える。後に残ったのは白式の右手に握られた一振りの刀。なんら特徴のないIS用近接武器にしか見えないが無手よりはずっと良い。最終手段としてセシリアにぶん投げてやるのもアリだ。

 

 その間にも絶え間なく降り注ぐ閃光。白式の機体性能のおかげで、そのほとんどは回避すること出来る。自分でも驚くほど動けている。

 しかしその状況から脱することが出来ない。

 高機動型のIS『ブルー・ティアーズ』の機動性は俺の『白式』とほとんど互角。攻撃を避けながら追いつくことは限りなく不可能に近い。かといって回避行動に徹しても完全に攻撃を凌ぐことは出来ない。BTのレーザーが掠めるたびにシールドエネルギーはジリジリと削られていく。

 

 とにかく、第一目標は事前に立てた作戦通り。BTを墜す。それが出来ない限りセシリアには近づけない―― が。

(BTにすら近づけねぇ……! 俺の間合いに入らないように距離を取ってやがる!)

 ブルー・ティアーズはビットを操作している間は機体を動かすことが出来ず、逆に機体が動いている間はビットの動きが止まる。操縦者がビットの操作に意識を集中しているからだ。

 その事実は試合前にビデオで確認している。

 そこが俺にとって攻撃のチャンスとなるはずだったが、その直前にBTは大きく距離を取り俺の間合いから逃れてしまう。そのおかげでライフルからの射撃を事前に察知できるのが不幸中の幸いと言えるが、それで出来ることは回避することが精々だ。

 

 試合状況は完全に一方的。複数の敵から意識を逸らさないよう高速でジグザグ飛行を強いられ、ひたすら後手に回される。

 精神力がガリガリ削られていくのが自分でもわかる。

 でも、精神面で追い詰められているのは実はセシリアも同じだ。

 ビットの操作には適性だけでなくかなりの精神力を要する。そこへ加えて代表候補生である自分が初心者に苦戦するわけにはいかないという重圧。試合が長引けば長引くほど、彼女は二重の意味で苦しくなる。

 

 

 どちらが先に参るか、精神力の戦いに持ち込む。―― それが一夏(おれ)の作戦その二。

 

 

 相手の限界を信じて飛び続けること、およそ十分。

 根競べの末ついにセシリアの攻撃に綻びが生じる。セシリアが動く寸前、大きく距離を取るはずのビットが一機、俺の近くに取り残された。

 この機を逃す手はない。俺はライフルを回避し、取り残されたBTに攻撃する。

 

「かかりましたわ!!」

 

 奇襲の成功を目前にして、俺の進む先をレーザーが横切る。咄嗟に刀身で受け止めるものの、減速した瞬間さらに降り注ぐ攻撃を受けシールドエネルギーがガンガンと目減りしていく。

 転げるように地上スレスレまで撃ち落とされながら可能な限りレーザーを切り払い、そうして追撃から逃れ切ったところでようやく、これがセシリアの罠だと気が付いた。

 

 仕掛けた方の彼女は勝ち誇った笑みで俺を見下ろす。どうやら相手より高い位置にいるのが好きみたいだ。

 

「やはりビットから狙ってきましたか。それにしても、この程度で騙されるなんてアカギツネよりチョロイですわ」

 

「そうかよ……」

 

 今の攻撃でシールドエネルギーの残量はほとんど無くなった。

 それでもまだ、諦めるつもりはない。勝機だってある。

 ハイパーセンサーはセシリアの顔にうっすらと汗が浮かんでいるのを見落とさなかった。ビットを囮にした攻撃も見方を変えれば追い詰められている証拠だ。

 

「ええ。ほんの少し策を弄すれば簡単に手の平で踊ってくださいますもの。逃げるのは得意なようですが、所詮はそれだけが取り柄の男……。時間も惜しいですし、次で終わりにして差し上げます」

 

 セシリアに呼び戻されたBTがブルー・ティアーズに接続、エネルギーを再充填する。

 その間俺は自由(フリー)

 これも罠かもしれないが―― やっぱり待つのは性に合わない。

 

「ああ! そろそろ決着つけようぜ!!」

 

閉幕(フィナーレ)ですわ!!」

 

 

 刀を構え真っ直ぐに飛び込む。

 セシリアはライフルを下している。いつでも避けれるように心の準備をして最短距離で突撃。セシリアも全力で後退するがバックでは全速は出せない。

 互いの距離がだんだんと縮まり―― セシリアがライフルを構える。試合開始直後の焼き直しのような光景。だが、あのときより俺は落ち着いている。

 迫る蒼光を、シャルロットの見様見真似バレルロールで回避。

 だがセシリアの攻撃はそれで終わらない。アーマースカートのうち腰の両側から突き出ていた円柱状のパーツがガシャリと動き、砲門を俺に向ける。

 

 反応する間もなく"それら"は発射される。ただ直線には飛ばず、俺の動きに合わせて軌道を曲げる。

 

「―― ミサイル!!」

 

 白式のディスプレイが新たな脅威を表示する。

『ブルー・ティアーズ《追尾弾頭型(ミサイルタイプ)》』

 

「こいつもBTかよ!」

 

 速く飛び過ぎた―― このまま飛んだらBTミサイルとの相対速度が速すぎて切り払うタイミングがない!

 バレルロールの勢いのまま、ブルー・ティアーズへの直線軌道から弾かれるように逃げ出す。ここまで来て背を向けるのは癪だけど我儘を言うだけの余裕(シールド)はない。一度退いてミサイルを切り捨てて――

 

「そう簡単にはいかないか!!」

 

 再び眼前を横切り、視界を蒼で埋め尽くす光。

 急速方向転換でセシリアの偏差射撃を回避する。この試合での経験が活きた。

 

(おかしい。セシリアはビットとライフルを同時には扱えないはず。ミサイルは攻撃を命じないぶん楽なのか? ……なっ!?)

 

 その姿が目に入ると同時、理解するより早く機体を細心の意識で操り、平行に飛翔した4本のレーザーの間をすり抜ける。

 レーザーが飛んできた(もと)には、ブルー・ティアーズがBTを自機の背に扇状に並べていた。その切っ先はライフルと同じ方向を向き、セシリアが引き金を引くと同時にレーザーを発射する。

 飛んでくる光線は計5本。背後からは2発のミサイルが迫るため減速も出来ない。

 

(……はぁっ!! 飛ばさなきゃビットも同時に使えんのかよ! 完全反則だろ。……危ねぇ!!)

 

 この試合が始まってから一番ギリギリでの連続回避。死に物狂いで切り抜けたが、そう何度と成功する試みではない。

 しかしここまで追い詰められると逆にわかりやすい。打つ手は一つ、再突撃だ。

 

 決断は一瞬、機体を反転させる。進行方向にはアリーナの隅を陣取ったセシリアとブルー・ティアーズ。背後を取られる憂いと共に退路を捨てた完全な迎撃態勢を取っている。

 しかしセシリアの《スターライトmkⅢ》は連射型ではない。射撃直後の今仕掛ければ、俺がセシリアにたどり着くまで撃てて後一発!

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

 未だ後ろについているミサイルを振り切るように全力で加速。

 馬鹿正直に突っ込む俺の脇をBTのレーザーが走り抜けていき、うち何本かが掠めシールドエネルギーを奪っていくが無視をする。今止まれば攻撃は届かない。

 この一撃を入れただけで勝てるわけではないのに。勝利が目的なのか唯の足掻きなのか、自分でも判断が付かない。

 

(考えるな!! まずは一撃! この一撃に集中しろ!!)

 やはり精神的に限界が近いのかBTの狙いが定まらない。あとは本命のライフルを避ければ勝てる!

 

 

 

 弾雨(あめ)が止んだ。

 ビットは沈黙し、セシリアだけが静かにライフルの構えを調整する。ミリ単位以下の繊細な作業。迫りくる白式(てき)など存在しないかのような、落ち着いていて手慣れた動き。

 それでも間違いなくブルー・ティアーズのヘッドギア、セシリアの額の中央にある複合センサーレンズは俺を捉えている。無機質なはずのレンズと()()()()()

 

 

 

『だけどね一夏。本当に完璧な狙撃っていうのは、わかっていても避けられないんだよ』

 三度(みたび)、シャルロットの言葉を思い出す。

『単純な理屈の上で言うなら銃身の角度をほんの少しだけ傾けるのと、その延長線上にある二点間の距離を飛ぶのとでは前者の方が圧倒的に早い。……もちろんこれは理論上の話で実際は中々そうはならないよ。動作自体は小さくても細かな作業の方が人間やっぱり時間がかかるし、偏差予測の精度にも限界は来る。まあ一応は警戒しとくに越したことはないかなって程度だよ。それに避けられないなら防御すればいい話だしね』

 

 

 シャルロット、残念なことに防御が許される状況じゃないんだ。

 まずい。

 これは、躱せない。

 

 セシリアが引き金を引く。角度をつけた刀身で受け流そうとするが、無理だ。セシリアの狙撃は俺の()()()()()()を寸分違わず撃ち抜く。

 衝撃で減速した俺の背後にBTミサイルが追いつくと、わかっていても手の打ちようがない。詰みだ。

 

 

 ミサイルの直撃。想像と違って音は無かった。視界は爆炎の赤と白、それと潰したような黒で埋まる。爆風は巨人の手に握り潰されているみたいで、シールド越しの炎は焼けるというより炙られる感触。

 自身の敗北を、俺は冷静かつ他人事のように認識していた。

 

 『____ mkニdeiチカ__《限定情報共有(リミテッド・シェアリング)》切断 フォーマットとフィッティングが終了しました』

 

 

 ◇

 

 

 爆炎の後に黒煙が立ちこめ、命中した目標の姿を覆い隠す。

 

 セシリアは確かな手応えを感じていた。しかし油断なく煙を見つめながら、一定の距離を保ち迂回するようにアリーナ中央の広い空間に戻る。

 自分の筋書きの通りなら今頃は試合終了のブザーが鳴っているはず。つまり予想していなかったことが、きっとあの煙の中で起きたのだ。

 

 黒い煙を白い剣で切り払い、それは姿を現した。

 

 

 ◇

 

 

 煙が晴れてすぐ、俺はセシリアを視認した。心なしか全方向視界の中から目標の相手を見つけるのが速くなった気がする。

 

「……まさか、一次移行(ファーストシフト)!? あなた、今までは初期設定の機体で戦っていたというの!!」

 

 セシリアが何かに驚いたリアクションをするので自分の姿を改めて確かめると、確かに変わっていた。

 

 (いや)。ただ単に変わったというよりも人の作った形から()()()()()()()だ。

 背中の推進部も一回り大きくなり、もともと白かった装甲からはこの戦いで生じた傷や歪みが消え白式()の名の通り曇り一つない純白を陽の光に輝かせている。

 

 そして俺にとっての一番の変化は、手に握る武器だった。

 日本刀の形を模したIS専用近接武装。名称《雪片弐型(ゆきひらにがた)》。

 

 《雪片(ゆきひら)》――それはかつて、千冬姉が振るっていたISの武器の名前だ。

 その名を冠する武器を持つということは、多くのIS操縦者が憧れと同時に畏れ多く思うだろう。だが俺は血縁関係云々に関係なしに躊躇なくそれを受け入れていた。この雪片が自分のためにある武器だという確信が、温かな熱のように握る手を通して伝わってくる。

 

「まったく……俺は、世界で最高の姉さんを持ったよ」

 

 それはもしかすると世界中の姉を持つ弟が同じように思っていることかもしれないけれど、今だけは断言させてもらおう。世界でブリュンヒルデを姉に持つのは俺だけなんだから伊奈帆だって許してくれる。

 

「でも雪片(こいつ)を託されたからには、もう守られてばかりってワケにはいかないよな。これで負けたら千冬姉の恥になる」

 

「……あなた、さっきから何を言っていますの?」

 

「独り言だよ。とりあえずセシリア、お前には勝つことに決めたからな!」

 

「世迷言を……! ブルー・ティアーズ!!」

 

 セシリアの叫びに応え四機のBTが俺を取り囲む。俺は多方向から絶え間なく飛んでくるレーザーを曲芸のように避けた。反撃する余裕がないのは変わらないが、一次移行を経てから掠める不安もない。今の落ち着いた気持ちと思い通りに動く機体のがあれば、むしろずっと回避し続けられる気すらしてくる。

 セシリアもそれを感知し、ビットを下げる。セシリア自身が攻撃をする前兆だ。

 俺は素早く動く。ライフルの鋭い一撃を回避し―― BTを一機切り捨てる。

 

「なんですって!!」

 

 セシリアの驚嘆。ビットの動きが止まったその瞬間に雪片を投擲、近くに浮かんでいたもう一機に突き刺すとそれが落下するより早く飛付き、武器の柄を掴んで突き刺さっていたBTを蹴り捨てる。大穴を開けたビットは先に真っ二つにされた仲間を追うように落ちていく。地上で続けざまに二回、小さな爆発が起きた。

 

「そんな……どうして!?」

 

「気付かなかったのか? 全力を出せるようになった白式の機動力はさっきまでの比じゃない。セシリアのブルー・ティアーズより上だ。気をつけなきゃすぐに追いつくぜ」

 

「くっ……。いくら速くともそれだけでは獣と同じこと!」

 

 残るBTは二機。数が減った分、操作に割ける意識の割合は上がるはず。新しいパターンの攻撃を警戒するが、BTは今までより俺との距離を離しただけだった。

 はっきり言おう。物足りない。

 セシリアのオールレンジ攻撃最大のポイントは、例え一つのビットに狙いを定めて落とそうとしてもすぐに他のビットやセシリア自身がカバーすることで包囲網を崩さないことにあった。しかしビット二つでは牽制にしかならなし、最も精度の高いライフルの狙撃も、ビットの動きが止まることを恐れてか狙おうとしてこない。

 そして俺自身、オールレンジ攻撃そのものに慣れてしまった。本来ならIS初心者である俺には十字砲火(クロスファイア)や挟み撃ち射撃すら脅威となるはずだったが、この試合のうちに長時間その脅威にさらされたせいで脳ミソが完全にオールレンジ対応モードになっている。

 

 たぶんセシリアは今のが悪手であることには気付いていない。チャンスだ。

 

 俺はちょうど上を飛んでいたBTに狙いをつけて飛んだ。逃げるビットを追う。背後からもう一機が撃ってくるが、この程度の牽制では白式とBTの機動力の差は埋められない。

 間合いを詰め、斬る。装甲に裂傷が走り火花が散らせながら斬られた衝撃で空中でクルクルと回るそれを、俺は掴んでセシリアに投げた。

 

「なっ!!」

 

 彼女は完全に虚を衝かれたようだ。一瞬BTに命令を飛ばそうとし、それがもはや通じないと気づいてから避けた。

 そしてその間に俺は最後のビットを破壊した。

 作戦その三『セシリアが自身への攻撃に対処している間にBTを落とす』、大成功である。もともと俺のISに射撃武器があることを想定して用意した作戦だったから実行不可能だと思っていたけれど、まさかこんな形で成功するとは。

 

 セシリアは自分が大きな判断ミスをしたことを理解したらしい。表情に少し赤みがさし、奥歯を食いしばっている。

 

「物を投げるなど、猿のような真似を……! やはり男は野蛮、こんな奴をクラスの代表にするわけにはいきませんわ!」

 

 悪態の雰囲気も少しだけ変わった気がする。俺を辱めるというより、無理にでも自分自身に言い聞かせるような感じだ。

(まあ試合には関係ないことだし、気にするようなことでもないだろ)

 

 もう俺とセシリアを遮るものはない。雪片を構え突撃する俺に、ミサイル型のBTが発射される。

 2発のミサイルの間の距離は、一息で斬るには離れすぎている。片方を迎撃すれば、その隙にもう片方に攻撃される。回避しながらなら両方を斬り落とせるが、それではセシリアの狙撃の的になる。

 それが彼女の狙いなのだろう。

 だから俺は止まらない。

 

「白式ぃ!!」

 

 すでに全ての推進力を回しているはずなのに、まだ先があると白式(こいつ)が教えてくれる。

 だからこの機体に賭けて、駆ける。

 俺は突き動かされるままに、スラスターの後ろに潜在する熱量を、今まで散々追い回された苛立ち(フラストレーション)と一緒くたにブチ撒けた。

 瞬間、さらなる推進力を得た白式はもう一段階加速。セシリアが反応する間もなくミサイルの間をすり抜ける。

 

「……瞬時加速(イグニッション・ブースト)!!」

 

 固く握りしめた右手を通じて、まるで"敵を斬る"という俺の意思に応えるかのようにエネルギーが雪片弐型へ流れ込むと、雪片の刀身が鎬に掘られた溝に沿い縦に割れ刃の根元からエネルギーブレードが伸びた。

 白く輝くエネルギーの奔流の刃渡りは実体部分の1.5倍ほど。それが並々ならぬエネルギーを持つことは明らかであった。セシリアの表情が引きつる。

 ブルー・ティアーズの回避は間に合わない。近接装備で防ごうにも、今から展開するには一秒ほど時間が足りない。

 

 ――いける!!

 

「ぅおおおぉっっ!!」

 

 上段から全力で振り下ろす袈裟払い。

 

 

 

 

 

 その一撃が当たる直前、雪片のエネルギーの刃が力なく縮み、消えた。そしてアリーナに試合の終了を告げるブザーが鳴る。

 

『試合終了。勝者、セシリア・オルコット』

 




原作と結末は変わりません。バトル内容を変えたのは、そのまんま原作やアニメの展開を持ってくると盗作に引っかかりそうでビビったという理由が大きいです。

バトルシーン書くの、正直苦手です。油断するとすぐ同じ表現が四個くらい重なったり、ターン制バトルになってしまいます。あとボキャブラリーがすぐに尽きるので類語をググりながら書いてる。
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