平日の昼下がり、薬剤部に製薬会社の人間が何人か来ていた。その場に出くわした石黒と真琴は製薬会社の人間たちから名刺をもらう。
そしてその中のひとりが真琴にかなり興味を持った様子だったという。
そんな話を俺は仕事終わりの研究室で石黒に聞いた。けど睡魔MAXの俺は石黒の話がほとんど頭に入ってなかった。
14連勤はさすがにキツい
「明紫波、寝るなら帰ってからにしてください」
机に突っ伏している俺に石黒の少し厳しい声が落ちてくる。
けどもう石黒の説教も苦味のきついブラックコーヒーも効かないらしい
眠くてたまんねー
「明紫波外科部長、こちらにいたんですね」
ほぼ眠りに落ちかけた俺の耳に知らない声が流れてくる。
本来なら返事をしないといけないとこなんだが、この時ばかりは無理だった。
「明紫波は就業時刻を終えていますので、話があるのなら日を改めていただけますか」
そんな俺をフォローするように石黒が来客に言葉を向ける。
すると来客は軽く笑った。
「そうですね。つもる話もありますから、また時間のある時を狙ってみます」
たぶん外科部長に何か売り込もうって魂胆なんだろう。男の言葉にそう思いながら俺は眠りに落ちていた。
どれくらい寝ていたのか
肩を揺すられて目を覚ました俺はぼんやりと頭を持ち上げる。するといつの間にか真琴が来ていて俺に心配そうな顔を見せている。
「大丈夫か? 帰れないようなら仮眠室へ連れていくけど」
「……あー……大丈夫大丈夫。おまえの顔見たら元気出たわ」
可愛い恋人に心配させまいと、俺は笑いながら立ち上がった。とたんに軽いめまいに襲われるがなんとか耐える。
そんな俺のそばで真琴が笑顔を見せた。
「俺もあと少しで終われるから、後でマンションに行っても良いか?」
この顔は、また何かたくらんでるのか?
真琴の笑顔の理由は気になったが、断る事もないと俺は快く承諾した。
帰宅した俺は真琴が来るまでに飯の支度を済ませてやった。どうせあいつのことだから魚が食べたいとか言うに決まってる。
飯の支度をあらかた済ませた頃に真琴が紙袋持参でやってきた。
魚のマークがついた白い大きな紙袋は前にも見た気がする。
「なんだそれ」
「光秀に着せようと思って、前に買ったんだ」
あー……また一着何万もするもんを買ってきたのか。
呆れながらも恋人を部屋に招き入れると今回はどんなもんなのかと問いかける。
すると真琴は早速と紙袋を俺に手渡してくれた。
俺はその中身を見て…………眉を潜めた。
「なあ、真琴。いま夏だぞ」
「そうだな」
問いかける俺のそばで真琴がエアコンの設定をいじり始める。
「これだけ涼しくすれば平気だろう」
いったい何が平気なのか。天才外科医に問いかけたい気持ちはあったが、それをグッと飲み込む。
「こんな変なもん着ないからな」
「光秀は自分で着るより着せられるほうが好みなのか」
んなこと言ってねぇだろ。
真顔の恋人にそう返したいのをさらにグッと飲み込む。
そうして話題を変えるべくキッチンに目を向けた。
「飯を作っておいたから先に食わねぇか。おまえの好きな……」
「鯖か!」
「あー、いや鯖はなかったから違う魚になった」
今日はマグロしか売ってなかったからと、そう告げれば真琴は少しがっかりしたような顔を見せた。
だがすぐに気を取り戻したのか、俺の腕をつかむとソファに無理やり座らせる。
「その前に聞きたいことがある」
不意に真顔を取り戻した真琴が俺の前に立つ。
そしてポケットから一枚の写真を取り出した。
それを見た瞬間、俺は完全に固まっていた。脳の奥底まで硬直した中で心臓だけが激しく脈打つ。
写っていたのは女秘書の格好をさせられ意識のない状態の俺自身だった。
「光秀は自分で着るより、着せられるほうが好みなのか?」
改めてさっきと同じ言葉が真琴から向けられる。
けど俺は真琴の問いかけに返すことができなかった。