暗い寝室で目を覚ました俺はチカチカと光る携帯を手に取った。
夕方頃に帰宅して今まで完全に沈んでたらしい。
時刻は九時を過ぎていて、石黒からのメールが三時間前にきてる。
メールの時点で緊急の用事じゃないんだろうがと思いながら文面を見ると事務的でカッチリした文字が並ぶ。
けどその内容もあんま面白いもんじゃなかった
夕方頃に医大へあの男が現れて何やら真琴と話をしたらしい。ただ話を終えた後の真琴の様子から、心配する部分は見られない。
だから預かっている鍵を真琴に渡した。今頃はマンションに向かってるだろう。
というところまで読んだ俺は慌てて飛び起きた。
三時間前に向かってるなら、もうここにいるってことじゃねぇか
寝室を飛び出した俺はリビングに漂う暖かな匂いに眉を浮かせた。
独り暮らしの男には縁遠い味噌の匂いだ。
それでもキッチンをのぞく勇気が出ない俺がリビングで突っ立っていると、逆にキッチンから真琴が出てきた。
「そろそろ起こしてやろうと思ってた」
いつもと変わらない真顔で言い放った真琴は、ソファを指差して座っているようにとも言う。
言われるままソファに腰を下ろした俺は、なんで自分が素直に言うことを聞いているのかと考える。
後ろめたいことをしたとは思ってない。
写真の事は、真琴なら説明すればわかってくれるはずだ。
あの男が何を言ってきても俺は関係ない。
ならあとは堂々としてて良いはずだよな
なのに真琴が戻ってきただけで緊張に固まる俺がいる。
どうしちまったんだ俺
トレイを手に戻ってきた真琴はテーブルに皿を並べる。
つっても、おにぎりと味噌汁とだし巻きか玉子焼きかわからないやつだけなんだが。
「おにぎりが食べたい気分だったんだ」
「……おまえ、そこまで石黒に毒されたのか」
どんな影響だよと呆れながら頭をかく。すると真琴はそんなことはないけどと笑った。
それだけでなんか安心する俺がいた。
真琴の笑顔を見るのなんて何日ぶりだ?
やべー、なんかすげー落ち着く
つーかなんか泣きそうなんだが何なんだ
「そういえば魚がないなんて珍しいな」
こみ上げるもんを誤魔化すように話をふりながらおにぎりを手にする。
真琴はそうでもないと涼しい顔で答えながら味噌汁を一口飲んだ。そして少し薄味かもとつぶやく。
俺はそんな真琴を眺めながらおにぎりをかじって、前言を撤回したくなった。
おにぎりの具材に鯖が潜んでいたからだ。
「隠してやがったのか」
「おにぎりの具材は鯖缶と鮪のしぐれ煮とかつお節だ」
こいつたまにこういう悪戯みたいなことするよな。そういうとこは可愛いし和むから良いんだけどよ
つーか、今はダメだろ
マジで真琴にハマるっつーか……
「俺やっぱおまえが好きだわ」
溢れた気持ちを吐露した俺に真琴が目を向ける。
「そんなに美味しかったのか」
「そういうことじゃねーよ」
なんでこいつはこんなに鈍感なんだよ。こんなじゃきっと俺の気持ちなんて半分も通じないだろ
けどまあ、それも含めてこいつに惚れてるんだから良いんだけどよ