side 咲夜
その惨状を、どう表現すれば良いのか。私には筆舌にし難い、目の前の現実を未だに受け入れられなかった。
私は勿論。お嬢様やパチュリー様ですら、恐怖によって動けずにいる。純粋なまでの力の差を見せつけられた時、生き物は全てを諦めるのかもしれない。
血の海に沈む、動かなくなった美鈴を見ながら、私たちはなす術なく立ち尽くしていた。
もはや、能力が使えるとかそういった次元の話じゃない。
生まれたての赤子が、大の大人に敵うわけがないのと同じく。正しく最強の妖怪に、ましてや人間である私が太刀打ちできるわけもなく。
「さて、次は誰かしら?」
そう言いながら、俯せの美鈴の頭を踏む。そこには勝者と敗者しかない。
-殺される。
そんな言葉が頭をよぎった時、背後から声が聞こえた。
それは言葉と言うには暴力的で、雄叫びと呼ぶには感情的なもの。
「がぁあああっ!!」
妹様の暴走。
咄嗟に理解出来たのは、その事実。
眼を赤く光らせ、鋭く牙を剥き、全身から妖力を滾らせる妹様。
私の知る、『吸血鬼』という種族から掛け離れた、獣じみた様相を見せる。
「よぐも!美鈴をっ!!」
力がこもり過ぎて、かろうじて聞こえたのはその部分だけ。
次の瞬間には、妹様の姿は私の視界から消えていた。
「っ!?止めなさいフラン!!」
お嬢様の言葉にすら、妹様は見向きもしない。
振るわれた爪は鬼の腕の皮を裂いた。
流れる血に、初めて驚きの表情を見せる。しかしそれも束の間。直ぐにそれは笑みと変わり、身震いするほどの殺意と変わる。
「良いわ。次はあなたね」
腕が消えたのかと見間違えるほどの速さで殴る。妹様は避けることなく、額で受けた。遅れて走る突風。
「殺スっ!!」
そこからは、二人の間に言葉はなかった。
妹様は顕現させたレーヴァテインで斬りかかり、鬼は回し蹴りで軌道をずらす。体制を崩すことなく、妹様はそのまま回転し、横に再び薙ぎ払った。
今度はそれを避け、再び間合いを詰め拳による連撃。
辛うじて見ることのできたのはそれ位。
気が付けば、当然と言わんばかりに妹様は血を流し、鬼は余裕を持って立っていた。
「吸血鬼ってのはこんなものなの?」
その表情は、もはや興味をなくしている。
自分以外の血によって染まった着物は、赤黒く。恐怖を感じる。
「しょうがないか。そろそろ遊ぶのも飽きてきたし、さっさとアイツの所に行かないと」
そう言った鬼は、右拳を握る。込められていく妖力は、今までのそれとは桁違いの濃さを放つ。
「三歩必殺」
周囲の空間すらも歪めそうなほどの力が、私たちに迫る。
もはや、逃げることすらもできない。
もっと早くに、お嬢様と妹様だけでも逃がしておけばよかった。そんな後悔をした。
振るわれる拳。
死を覚悟した。
目の前に迫る力の嵐。
ふと、誰かが目の前にたった気がした。
それは黒い姿。
闇よりも深い黒に染められた、金色の髪の女性の姿。
「面倒臭いけど、アイツの命令だから。助けてあげるわ」
side ルーミア
まったく、面倒臭いにも程がある。
幾ら私でも、鬼とやり合うなんて、神と戦う事の次に御免だもの。
それでも、一応は主人だから命令には従うけれど。いつか絶対にこの札を外させてやるんだから。
必殺技っぽいのを剣で受け止めると、鬼は明らかに動揺していた。
「アナタ、何者?」
鬼が問う。
「分かりきった答えを聞くなんて、無駄じゃない?」
私の力の半分以上は、霞からの神力を妖力に変換したものだ。大本が同じなのだから、気付かないはずが無い。
「……そう。アイツは来ないのね」
「あら、ふられて寂しいの?」
軽口を叩きながらも、飛び交う殺気と妖力。
長らく感じていなかった、命のやり取り。
さぁ、始めましょう。
常闇と鬼の、力のぶつかり合いを。
「遊んであげる。かかって来なさい」
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