目を覚ますと、僕は見知らぬ天井を見上げていた。
今まで見たことも触ったことも無いくらい、柔らかな感触の布団(?)に横たわっていたようだ。
というか、ここは何処だろう。
「ここは俺の……まぁ家だ。んで俺は神条霞」
見知らぬ男性が顔を覗かせる。この家の主だそうだ。あ、名乗られたのだから名乗り返さなきゃ。
「僕は……水斑律」
男性……神条さんは僕の返事に満足したのか頷いて、水を差し出してくれた。とても綺麗な透明の器に注がれた水は、冬場の井戸水のように冷たかった。
そらから幾つか質問をされた。
それで漸く気づく。なんで僕はココにいるんだろう。神条さんの話だと行き倒れの様に倒れていたらしいけど。
それに……僕はなにものなんだろう。
「んで、コッチにそのおかしな村があると?」
俺達はルーミアの見つけた村へと向かっている。
「えぇ」
ルーミアはく短く、どこかイラついた様に答えた。
「無性に腹が立つのよ。そこに行けるのに、行けない。出来るのにそれをさせようとしない自分がいることに」
まるで目に見えない鎖で拘束されているかのような。
しかも結界を感じず、神力霊力もなかったという。
「なんとも不思議な村、ねぇ」
なんとも陳腐な感想だが、その通りなのだろう。
暫く歩くと、件の村は直ぐに見つかった。小さいが長閑な印象を受けるその村は、凡そ『不思議』というセリフが似合いそうにもない。
俺には何も感じないけど?
振り返るとルーミアはかなり遠い所で立っている。
「どうした?」
「なんか、この先には進みたくないのよ」
これがルーミアの言う『不思議』なのだろうか。
「ふむ。もしかすると妖怪にだけ効く結界か?」
それならばルーミアが近づけないのも頷ける。が、力を感じないのには違和感がある。
「まぁ、行ってみればわかるか」
そう言って、ルーミアに異空間へ入るよう告げる。
「おや、見慣れぬ顔じゃのぉ」
村に入ると1人の老人が声をかけてきた。
「あぁ、俺は旅をしている者で、途中でココを見かけたから寄ってみたんだが」
「そうかそうか。まぁ、何もない村だがゆっくりして行きなさい」
どうやらこの村は雰囲気だけじゃなく、人まで穏やかなようだ。
「して、そちらは……おや、お久しぶりですな」
後ろにいた律に老人は挨拶をする。顔見知りなのか?
「随分昔にいらしてから、月日は経ちましたがな」
「え、えーと……」
「あぁ、どうやらコイツは記憶を失っているようでな」
「なんと!?それはそれは……」
「で?なにか思い出せそうか?」
「……いえ」
キョロキョロと辺りを見回していた律に訪ねたが、状況は芳しくないようだ。
期せずして律と関わりのある村へと来ることが出来たのだが、なにも得られないのだろうか。
「しかし、この村は平和だな。妖怪も襲ってこないのか?」
「えぇ、そうですな。ここ数年妖怪は近づいてすらいませんな」
「……近づいて……いない?」
どういう事だ?ルーミアの言う、不思議な結界のせいなのだろうか。
「なにか結界でも張っているのか?」
「いえいえ、そんな力のある者はこの村にはおりませんよ」
「そう、ソチラの方がいらした時に襲われたのが最後ですな」
「どう思う?」
異空間に閉じこもっているルーミアに訊いてみた。先程の老人……この村の長との会話をルーミアは聞いていただろう。
「まぁ、十中八九過去の妖怪襲撃がキッカケでしょ」
「だよなぁ」
それ以降妖怪に襲われていない、って事から簡単に想像がつく。しかし誰が、どうやって、何をしたのかがわからない。
特に『何をしたのか』わからないことが一番問題だ。
そして……。
縁側で星空を眺めている律。その後ろ姿を見やる。
記憶を失った彼は、今何を考えているのだろうか。
「律もこの件に関係しているのだろうか」
星を眺めると、落ち着くような気がした。
何処か懐かしいような、煌めく一つ一つの星が全て僕に向けて光を指しているかのような、錯覚すら覚える。手を伸ばせばその一つに届きそうで。
「『この手に光を』」
そう無意識に呟いてしまった。なんか恥ずかしい。
その瞬間に、伸ばした右手が淡く輝いた。
驚いて手を開くと、その光は蛍のように空中を彷徨い、空へと登っていった。今のは……何だったのだろう。
「……」
今のはなんだ。
律が空へ手を伸ばし、なにか呟くと、右手が輝き出した。
いや、問題は律がなにか呟いた時に溢れ出した『神力』だ。
コイツは人間じゃないのか?
ごく普通の、一般的な量しか感じられない霊力と違い。先程の神力は、そんじょそこらの神より、ヘタをすれば天照よりも多かった。
直ぐに消えてしまった力の波は、まるでそれが幻であったかのように感じられない。
「……ほんと、なんなんだ」
その日、月夜見から聞いた話だと、一つの星が消え去ったという。
さぁ、まだまだ続くぜ!!