作「もうそろそろネタがなくなりそうだから」
霞「別にココを面白くする必要はないんじゃないか?」
「いやぁ、なかなか面白い喧嘩だったね!」
近づいてきた女の鬼--星熊勇儀と名乗った--は俺の背中をバシバシ叩いて杯を酒で満たす。
いや、結構痛いんですが。
「是非とも私とも喧嘩して欲しいね」
「うむ。だが断る」
注がれた酒を飲み干し、1度振るってから勇儀に差し出す。
受け取った勇儀に、今度は酒を注いでやる。
「ありゃ、それは残念だ」
ちっとも残念に思えない笑みを浮かべながら、酒をあおる勇儀からは、隣で既に酔っ払っている萃香と同等の妖力を感じる。
「それに、鬼とこんだけ酒を汲み交わせる人間なんて、初めて見るしね」
さっきから普通に飲んでいるが、確かに人間が飲むには度が強い。ってか、普通なら1口呑んだら卒倒するレベルの酒だぞ?
「あれだけ強いとは、その昔母様を倒したっていう人間みたいだね」
「母様?」
酒のせいなのか、上機嫌な勇儀が口にした母様という単語。本来、妖怪は人間の畏れや恐怖から生まれるのが普通だが。妖怪が繁殖するとは知らなかった。
「いや、母様と言っても血のつながりがあるって訳じゃないんだけどね」
ん?どうやらなにか理由がある様だ。
「その……母様ってのは何処に?」
「ん〜。今は何処かの山に隠居してる筈だけどね。聞いた話だと、かなり昔に……それこそ気が遠くなるほど昔に、1度死にかけたらしいけど、その時地底に穴を掘って難を逃れて以来、あんまり表には出なくなったんだよ」
「母様はものすご〜く強いんだよ〜」
酔っ払っている萃香は顔を赤くしているが、しっかりとした口調で自慢げに話す。
「そんな母様が若い頃、1度だけ喧嘩に負けたんだって」
誇らしげに語る萃香と勇儀。この2人がコレだけの言うのだから、その『母様』ってのは相当強いのだろう。そしてその『母様』に勝ったという人間は、それ以上の化物なのだろう。
「なんか、昔は今よりも人間は知恵があったようでね。面白い力を使っていたのさ」
「なんか光を出す筒とか、切り裂く光とか。今とは比べ物にならないくらい強かったらしいよ」
うん?光る筒?切り裂く光?
「今よりも高い建物とかもあったみたいだけど。なんか、ある日突然大きな光と共に、町ごと一瞬で消え去ったみたいでね」
……なんだろう。どっかで聞いたことが……ってか体験した事がある様な。
「そんな遥か昔のたった1人の人間に、母様は負けたんだって」
「まぁ、よくわからないこと言ってたみたいだけどね。なんか『ちゃーしゅー』がどうとか。なんだろねちゃーしゅーって」
「……」
……うん。俺だわ。流石にチャーシューと叫びながら妖怪を倒すような人間は、史上俺くらいしかいないだろう。
「そ、そうなのか……」
「もしかすると、アンタはその人間の子孫なのかもね!」
「ハッハッハ、あながちそうなのかもね」
子孫ってか、本人です。
そうか、あの時の鬼は今も生きているのか。
……会いたくはないけどね。
すっかり暗くなった夜の山。
未だにその熱を失わない鬼の宴は、終わりが見えなかった。
「そうだ、喧嘩をする前に言っていたこと、考えてはくれないだろうか?」
「んあ?」
視線の覚束無い萃香が、顔だけはこちらに向ける。ってか話聞いてる?
「……なんだっけ?」
「……はぁ。この山の近く。都と言われる人間の住む地に、近付かないでくれって話だよ。それを約束してくれたなら、こちらも山に近付かないことを約束しよう」
「あぁ、そんな事も言っていたね。いいよ?」
「そうか、こちらとしてもこれ以上は…………はい?」
「ん?だからいいよって」
「いいの?」
「うん。別にここにいる妖怪は、どうしても人間を襲わなきゃいけないって、わけでもないし。最悪、その都っての以外なら……その、いいんだろ?」
勇儀は俺が人間だからか、若干言い辛そうにしていたが。
「まぁ、俺が言うのもなんだが。妖怪だって生きていかなきゃいけないんだ」
人間だって、生きていくために動物を殺すのに、自分達だけがその摂理から外れていると思うのは烏滸がましい事だ。
だが、人間だって、知恵を持ち妖怪に抗う。ただ襲われるのを待っているだけではないさ。
「ま、そう言うならこの山の妖怪は、ウチら鬼の名にかけて、約束をしようじゃないか」
そう言って、勇儀は右手を差し出し、俺もそれに答えて握手した。
日が登ったころ、俺は山を下りていた。
ほぼ寝ずに飲み続けたため、若干頭が痛い。
これが二日酔いってやつか?
ともかく、この山から感じた妖力もわかったし、少なくともここの妖怪達は都に近付かないと約束してくれた。
鬼が都に攻めてこないとわかっただけでも、十分な成果と言えるだろう。
とりあえず、早く都に帰って布団に潜り込みたい。
俺は結界を貼り、人間や妖怪から認識出来ないようにしてから、空を駆けた。また神子に見つかって天狗扱いされても面倒臭いからな。
「あぁぁぁぁああああっ!!」
屋敷中に布都の声が響く。朝から大声を出さないで欲しいものです。
「た、たたた、太子様!!」
大きな足音をさせて、勢いよく私の部屋に飛び込んできた布都は、息を切らせながら一冊の書物を胸に抱えていました。
「……はぁ、朝からなんですか。騒々しい」
私はお茶を啜りながら布都を一瞥する。何度言っても改善されない布都の騒々しさは、もはや一生モノなのでしょう。
「わ、わかったのですよ!あの男の正体が!!」
あの男?あぁ、天狗……じゃなかった、神条殿の事ですね。
「で、正体と言いましたか?……やはり天狗でしたか?!」
「いやいやいやいや!!それどころじゃありませんよ!!」
いつもならもうそろそろ落ち着き出す布都は、興奮冷めやらぬ状態が続く。天狗どころじゃないとは一体どういうことでしょう。
「こ、コレを見てください!!」
差し出されたのはかなり古びた書物。どうやら日本の神々の系譜や、その逸話が記されたもののようです。
「?これが?」
布都はそのなかで、一箇所開いて見せた。神の系譜が記された項のようですね。
「ここを見てください!!」
……どうでもいいですが、耳元でそんな大きな声を出さないでください。
布都が指さしたのはその系譜の中でも最上段。最上位に存在する神の名でした。その神は『この世を創りたもうた神』であり、また『自由を司る神』でもあると書かれている。そんな神が存在するとは、初めて知りました。この書物も見たことがありませんでしたし。
「……え?!」
その最上位。創造神の名は。
『神条……霞?!!』
萃香「あれ?霞はどこ行った?」
勇儀「いや、帰ったよ?」
萃香「えぇ〜!?これから二次会を始めるってのにかい?!」
勇儀「日付跨いだ二次会って、どうなのさ」