紫「……ちっ」
作「紫ちゃん?露骨過ぎますよ?」
霞「紫に何をされたかは聞かないが、良く無事だったな」
作「今度、番外編を書く事になりました」
霞「番外編?」
紫「今はまだ、知らなくても良いんですよ」
霞「なにそれ怖い」
相変わらず中国大陸にいる霞です。
なかなかに二人とも成長したようで、美鈴は俺が相手をする様になり、紫は独自の結界や封印術を編み出すまでに至った。
そんな平和な日常を過ごしていた俺達だったが、最近頻繁によろしくない噂を耳にする。
「妖怪殺しが人間を襲い出している?」
「えぇ、そのようです」
リビングでコーヒーを飲んでいると、紫が立ち寄った村での噂を話し出した。
「以前耳にしていた『妖怪を殺す妖怪』が、今度は人間を襲っているらしいです」
「なんだそれ。普通順番が逆だろ?」
本来なら人間を襲う妖怪。勢いを増した妖怪は、縄張りを広げるために他の妖怪を襲い出す。
「本来ならば。ですが、この妖怪は色々と違うようで」
「色々と違うって?」
「……まずは、いま師匠が仰ったように、順番。次にその目的ですね。その妖怪は食事の為に襲っているわけでは無いみたいです」
「喰うためじゃないのか?」
「んぁ?」
ドーナッツを齧っている美鈴が驚く。ほら、食べカスが落ちてるぞ。
「その証拠に、骸には喰われた形跡がないのです。妖怪にも、人間にも」
「なんだそれ」
また、ゲーム感覚で襲っているヤツの仕業なのか。
「そうか……」
「あと、1つ」
「まだあんの?!」
コーヒーを吹き出しそうになる。コッチとしてはもうお腹いっぱいなんだが。
「最大の特異点は、その妖怪がたった1人だと言うことです」
夜風を浴びながら月を見上げると、あと数日で満ちる月が浮かぶ。紫から妖怪の噂を聞いた日から、辺りの妖力を探知している。
ここ数日は目立った妖力の動きは感じられないが、むしろそれが何か良くない空気を纏っているようで、不気味に思える。
「師匠」
見るとテントから紫が顔を出していた。いや、顔だけって。
「寒いですから」
「そーですか」
「……なにか気になることでも?」
俺は懐からタバコを取り出し咥える。火をつけて煙を吐き出すと、空へ消えていった。
「紫はどう思う」
「どう、とは?」
「この状況さ。まるで……月が満ちるのを待っているような」
「……確かに、妖怪にとって満月というのは特別なものです。ですが、今までアレだけ暴れていたのに、今更満月を待つというのは、不気味ですね」
「だよなぁ……」
今度、月のアイツに言って、満月の光をどうにかしてもらうかな。出来るかわからないけど。
「つまり、次の満月。何かが起こる……のか」
「確証はありませんが、恐らく」
出来うるならば、この予想が外れることを祈るばかりだ。
なにせ、今までで1番面倒臭いことになる気がするから。
紫と美鈴の修行をしつつ、旅を続けた俺達はとある村にたどり着いた。
「静かな所ですねぇ〜」
「いや、美鈴?これは静かとは言わないよ?」
なんせ人っ子1人居ないのだから。
「これもあの妖怪の仕業でしょうか」
「多分な」
襲われた形跡の残る村。破壊され、所々に煙が立ち上っている。
「生き残っている人は?」
「どうやらいないようだ」
無残にも転がる人間の死体の数は、おびただしい量になる。
「まだ近くにいるかもしれないから、油断するなよ?」
「はい」
「了解です!!」
「酷い状態ですね。これだけの事をたった1人で起こすとわ、どんな妖怪なんですかね」
師匠や紫さんと別れて、生きている人間の方がいないか探す。破壊された家屋を覗くけれど、どこもかしこも血の海。惨たらしい死体はもはや原型を留めていません。
「師匠も怖い人ですが、この妖怪も恐ろしいです」
「そんな事言うなよ……」
ふと背後から声が聞こえました、が誰でしょうね。勿論師匠や紫さんではありません。聞き間違えるわけがないので。それに人間でもないようです。先程から気配を探っているにも関わらず、私の背後に立てるような人はいませんから。
「何方ですか?」
私はゆっくりと振り返ると、1人の女性が立っていました。赤色に染められた服は、元の色すらも分からないくらいに血に染められています。
とても友好的な表情ではないのが一目でわかると、咄嗟に飛び退き間を広げようとしますが、相手はなんの反応も示していません。
「いいわね。貴方、なかなか強そうじゃない」
「貴女は……とてつもないですね」
その隙のない立ち姿から相手の実力が、否応なくわかってしまう。自らの妖力を完璧に隠しているのもさることながら、底の見えない井戸のような、深い暗い眼は、合わせるだけで身体が凍ってしまいそうになるほど冷たいです。
「貴女は何発まで耐えられるの?」
その言葉を最後に、彼女は私の視界から消えてしまいました。
探索を続けていると、近くに突然大きな妖力を感知して、壊れかけの家屋から飛び出すと同時に、けたたましい爆音が響き渡る。
「美鈴?!」
私は叫び、煙と共に地面を転がる美鈴の名を叫ぶ。
壁にぶつかり勢いが止まった美鈴は、見るからに傷だらけで、血を垂れ流している。
「ゆ、紫さん!援護をお願いしますっ!!」
「め、美鈴?!」
口元の血を拭いながら叫ぶ美鈴は、目線を土煙から離さない。
少しづつおさまる煙の中に立っていたのは1人の女性。どことなく師匠と同じような服装だが、それが地のものか血で染められたのか分からないほど、赤黒い。
「こ、このぉっ!!」
大量の妖力弾を放つと隙間を同時に展開し、全方位から狙う。いつぞや美鈴を倒した技だ。
相手は避ける素振りも見せず、全てが音をたてて着弾する。
音が聞こえなくなるが、女性は無傷でそこに立っていた。
「妖力で守ってすらいないのに!!」
「今のは貴女?」
ようやっと、コチラに意識を向けた女の眼は、怒っている時の師匠に似ている。冷たい刃そのものの視線に晒されると、身体がこの場から逃げ出したくなる。
「でやぁぁぁああっ!!」
ふと、美鈴が目にも止まらぬ勢いで連打を叩き込む。さすが体術だけなら師匠の相手を出来るだけはある。
まぁ、師匠にとってはお遊び感覚なんだろうけど。
「……そろそろ、全力でやってくれないかな?」
しかし女は美鈴の拳すら、まるで当たっていないかのような。反応すらせずにいる。
「……化け物!!」
美鈴に当たらないように、ありったけの妖力を込めて弾幕をはる。
「なんか痛そうね」
そう言うと、殴っていた美鈴の拳を受け止め、掴むとそのまま振り回す。
「危ない!!」
女は振り回した美鈴で弾幕を防いだ。無論、私の弾幕をまともに食 喰らった美鈴は、腕を離されるとその場で倒れてしまった。
幼い割には丈夫な美鈴でも、流石にあれだけの量を受けるのは無理がある。
「あら、終わっちゃった。なら次は貴方かしら?」
女がコチラに向かって歩いてくる。マズイ。私は美鈴と正反対の遠距離型。近づかれるのは苦手だ。
「くっ!!」
スキマを開いて距離をとろうとする。
飛び退いて距離とったはず、はずなのに。
「面白い能力ね」
女は目の前にいた。スキマを女が通ったわけじゃない。ただの脚力で、一瞬にして間を詰めたのだ。
そんな考えが頭の中を過ぎるが、見上げると女は腕を振りかぶっていた。
殺られる!?
咄嗟に思ってしまった。
「俺の弟子に何してんだコラ」
さっきの子供は久々に面白い相手だった。私の攻撃を紙一重で交わし続けていたが、少し力を込めて動きの速度を上げると、やはり付いてこれなかったけど。
次に出てきたのはさっきよりは弱そうだった。でも妖力を使った面白い戦い方をする。まさか全部の方向から弾を当ててくるとは思わなかった。でも、私が近づこうとすると逃げるあたり、さっきの娘みたいに単純な力は弱いのかも。
まぁ、二人とも面白かったけど、そこらの妖怪よりも『ちょっと強い』くらい。私に快感を与えてくれる相手じゃなかった。現にこうやって距離を詰めて、殴ろうとすると涙目になって逃げようとしている。
「……師匠!!」
咄嗟に少女が誰かを呼んだ。師匠?この子たちの師匠?ならもう少し楽しめるのかしら。
そんな淡い期待を持ってしまう。
「俺の弟子に何してんだコラ」
いつの間にか腕を掴まれていた。今の私でも振り解けないなんて、面白いわ。
振り返ると同時に、そいつの顔を殴る。でもその拳すら受け止められる。あら、ほんとに何者かしら。私を2度も止めるなんて。
「……お前が噂の『妖怪殺し』か」
私はこの時、初めて相手の顔を見た。そして自分の目を疑った。なぜ?どうして?なんで貴方がここに居るの?なんで貴方が生きているの?!
私に最高の快感をくれた人。
私に初めて、いや唯一勝った人間。
「……会いたかったわ。貴方に……」
「俺は会いたくなかったよ、チクショウ」
「久しぶり、と言うべきか?」
「そうね、何千年、何億年ぶりかしら。よく覚えてないけど」
師匠と女は腕を掴んだ状態で話している。え、師匠は会ったことがあるの?!
「あの時は自己紹介も出来なかったな。俺は神条霞」
「鬼ヶ原姫咲、鬼子母神なんて呼ばれてるわ」
腕を離すと同時に2人わ距離をとる。鬼ヶ原と名乗った女の目には、もう既に私の事なんか映っていなかった。
「……師匠」
夜月を抜くと霊力の制限を3割程開放する。相手があの時の鬼ならば、長い年月と共にその力は以前とは別物にまでなっているだろう。
油断は出来ない。なんせ近くには紫と美鈴がいるのだから。
「あぁ、本当に、本当に本当に!!どれだけ望んだことか。もう既に死んだと思っていた貴方が、今私の目の前にいる!どうしてとか、どうやってとか、そんな事はどうだっていい!!また、私と戦ってくれる!!私の渇きを潤してくれる!!それが堪らなく気持ちいい!!」
「とんだ変態になったんだな」
前にあった時はこんな奴だったか?
かなり昔だからよく覚えてないが。
「いくよ!!」
姫咲は地を蹴る。本来なら反応できない速度を、霊力探知で無理矢理反応させる。身体を咄嗟に捻る事で拳を躱すと、夜月を振り下ろす。しかし。
「ほんと、化け物だな」
「褒めてる?ねぇ、褒めてる?嬉しいわぁ、貴方ともう1度会うために、誰にも負けないくらい鍛えたんだもの」
振り下ろした刃は簡単に指で止められ、引き抜く事も出来ない程の力で抑えられる。
片手で霊力を溜めて放つと今度は左手ではじかれる。
「楽しい、楽しいわ!!」
「俺は楽しくねぇよ」
姫咲の腹を蹴り上げ、ようやく夜月が自由になった。
「痛いわねぇ」
「ならもっと痛がれ」
全くと言っていいほどダメージのない姫咲は、笑顔を見せる。怖いから、その笑顔。なに?ヤンデレ?!
「でも、本気でやってはくれないのね?」
「本気になって欲しいのかよ」
「当たり前じゃない。だって……」
その瞬間、姫咲から妖力が溢れ出る。今まで妖力使ってなかったの?
「私の本気を受け止めてくれるのは、貴方だけなんだもの」
どす黒い妖力は、周りの建物を吹き飛ばし更地へと変えていく。紫美鈴は紫が張った結界でなんとか耐えたようだ。
「早く本気になってね?私も本気になりたいんだから」
あれ?まだこれ以上があるの?
これはちょっと……まずいかな……。
霞「あれ?これはヤバイの?ピンチなの?」
作「どうかな?」
美「わたし、活躍出来ませんでした」
紫「同じく」
作「ほら、コイツが規格外だから」
霞「俺を化物扱いするなよ」
作「でも次回は紫ちゃん大活躍だよ?」
霞・紫「え?!」
美「羨ましいです」