霞「いや、寝ろよ」
紫「むしろ、2度と起きなくても……」
作「流石に言い過ぎじゃ?」
輝夜に警護を任された翌日、俺はテントの中で頭を抱えていた。なんせ今度の相手は月の民。しかも、俺が知っている頃よりも技術は発展しているだろう。封印される前の俺ならば、いくら攻めてこようが物の数ではないが、今回ばかりはそうはいかない。
それに紫達の事もある。姫咲は良いとしても、紫と美鈴は月の民と勝負にすらならないだろう。なんせ、向こうは妖怪を相手にするプロなのだから。
輝夜の話によれば、迎えには永琳も来るという。ならば永琳もこちら側についてくれるだろう。
「で、何も思いつかなかったの?」
「相手の戦力がわからない以上、考えても無駄だろ?」
輝夜の屋敷に上がり込み、爺さんが出してくれた茶を啜る。
爺さんには輝夜が話してくれた様で、顔パスで屋敷に入れるようになった。
部屋に案内される際に『どうか、宜しくお願いします』と言われたからには、是非とも頑張らなくてはいけないのだが。
「まぁ、全く考えてないわけじゃないさ。それでも、不確定要素が多すぎるから、本番で臨機応変に対応するしかないさ」
「なんとも、不安になるわ」
言うなよ、俺だってそうなんだから。
空を見上げると、小望月が浮かんでいた。とうとう明日は月からの迎えが来る日となった。縁側に腰を下ろし、静かな夜の風を肌で感じる。
「寝れないのか、輝夜」
何処からか霞の声が聞こえる。声の出処を探すが、その姿が見えない。
「上だ、上」
その声の通りに庭から見上げると、酒瓶を片手に屋根に上った霞がいた。夜風を浴びて月明かりに照らされた霞の姿は、どこか神々しくて不覚にも綺麗だと思ってしまった。
「輝夜も飲むか?」
「……ご相伴に与ろうかしら」
そう言うと、霞は一息で庭に飛び降り私の腰に手を回す。「舌を噛むなよ?」と一言呟くと、再び私ごと屋根へと飛び上がった。
「もうちょっと優しく出来ないの?」
「これ以上ないくらい優しかっただろ」
何処からか出したのか、もう一つ盃を取り出すと私に差し出す。受け取ったそれに酒が注がれると、月が写り込み小さく波打つ。
「これでも、帝も惑わすかぐや姫なんだけど」
「何が姫だか。俺からすれば普通の女の子ってとこだよ」
その答えは予想していなかった。地上に降り立ってから今まで、自慢じゃないが私を普通の女の子として見てくれた人はいなかった。誰もが私の身体か財産を目的としていた。私に求婚してきた人達も、誰もが『私』を見てくれなかった。
「……あなた、変わってるわね」
「褒め言葉として受け取っておく」
霞の横顔を眺めていると、気がついたのか視線が合う。何故か咄嗟に顔を背けてしまう。顔が熱い、動悸が激しくなっているような気がする。
「明日、私の事ちゃんと守ってよね」
ついキツイ言い方をしてしまう。いつもの私ってこんな感じだったかしら。
「輝夜は神様を信じるか?」
「……何よ急に。……まぁ、藁にも縋りたいからね。神でも死神でも、今度ばかりは信じるわよ」
「……なら大丈夫だ」
そう言うと、霞は笑っていた。
昼の鐘が遠くの寺で鳴った頃、私の屋敷には帝から多くの兵士が送られた。屋敷の中だけじゃなく、外も囲うように配備された兵士は物々しい装備をしている。まぁ、月の技術には到底及ばないものだけど。
「まったく、無駄に命を落とすことないのに」
私はさっきから庭を警備する兵士達を見ながら、タメ息を吐いた。
「そう言うなよ。帝だって輝夜の事が心配なのさ」
「どうかしらね」
結界を張って、私以外にはその姿を見えなくした霞が隣で答える。
だって私を見る目付き、いやらしかったんだもの。
何万の言葉を紡ごうが、山程の宝を貢がれようが、あの目をする人間は信用ならない。あの手の人間は、自身に危険が及ぶと判れば、何においても保身に走る。この場に帝が居ないのが良い証拠だ。
「貴方は裏切らないでね」
そらからは時間が経つのが早く感じた。
夜の帳が降りて、庭に松明が焚かれると空気は一気に緊張感に包まれる。
空は雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうで、不気味だ。
「そろそろかしらね」
部屋の中で座っていると、外が騒がしくなってきた。
「そう言えば、あの子達はどうしたの?」
「ん?それぞれ隠れてるよ」
昼間から気配を感じないのだけれど、流石妖怪と言うべきなのかな。
「アイツらも、これから起こる血の匂いを感じてるんだよ。そう言う部分だと、俺よりも鋭いからな」
まったく、妖怪ってのは油断ならないわね。
「それでも、ここにいる兵士達よりは頼りになるさ」
まぁ、霞がそう言うならば信じるけどね。
そんな会話をしていると、外から大きな声が聞こえてきた。
「な、なんだあれは!!」
「えぇい、狼狽えるな!かぐや姫をお守りするのだ!!」
……どうやら、とうとう迎えが来たようね。
師匠から言われたのは、人間の兵士と月の兵士達との争いには絶対に手を出さないこと。落ち着くまでは私のスキマの中で静かにしていること。
1番不安なのは姫咲なんだけど、それに関しては私がスキマを開かなければ外には出ていけないだろうし、大丈夫かな。
「!……あれが月の民?」
空を覆っていた雲が急に晴れていき、その合間から牛車に似た物が空を飛んでコチラに降りてきていた。
何処か優雅に見えるそれは、ゆっくりと、しかし確実に近づいていた。
「弓矢!打てぇっ!!」
兵士達は牛車目掛けて幾つもの矢を放つけれど、届いていないのか動きを止めた気配はない。
「……なんて力なの」
結界に似た壁に遮られ、全ての矢は消え去っていく。師匠や私の能力に似ているけど、あれは何処かに移しているのではなくて、ただ単純に消し去っているようね。
そうして、とうとう牛車は庭に降り立ってしまった。
こうなると、この庭の中で矢を撃つわけにもいかない。他の兵士に当たる可能性があるのだから。
それぞれが腰の刀を抜き、構えている。
牛車は音もなく簾が上がり、中から数人の男が出てきた。見たことの無い着物に身を包んだ月の民は、その手に長く細い筒の様なものを持っている。なんだろう、あれは。
「き、貴様らが月よりの迎えか!!」
「……そうですね。大人しく蓬莱山輝夜を差し出しなさい」
抑揚のない言葉は、人間っぽくない雰囲気。だけれども彼等から感じるのは紛れもなく霊力だから、人間なのだろう。
「我らが帝の命である!命が惜しくば早々に立ち去れ!!」
「……」
月の民はまるで猿か何かを相手にしているとでも言うような表情をしていた。
「あなたがたの様な野蛮で、我々の足元にも及ばない知能の、凡そ獣と同等の者達に話す言葉は持ち合わせていない」
そう言うと、細い筒を向ける。あれは武器かなにかかしら。
「早々に死になさい」
次の瞬間、筒から眩い光が放たれて、私には一筋の線のように見えた。それは兵士に触れても止まることなく、身体を貫いていた。
「?!」
光が当たった兵士の腹には、大きな空洞が開けられている。あの光の結果と見て間違いないだろう。
触れた部分を焼きながら貫通する。私達妖怪にも難しい事を平然とやってのけた月の民。しかもそれと同じ物を全員が装備しているようで、無残にも息絶えた者を見た兵士達はたじろいでいた。
それはそうでしょうね。あんな物、私でも相手をするのは嫌だ。
そこからは一方的だった。
月の民は近づくこともなく、ただ光を放つだけ。一直線に伸びる光に触れた者から、次々に倒れていき、庭に立っている兵士はいなくなってしまった。
「これが月の技術……」
スキマから覗いていた私は、その光景に恐怖しながらも、その優れている力に魅せられてしまった。
「いつか、あの力を手に入れてみたい……」
そんな欲望とも言える呟きを吐きながら。
霞「いや、戦力差ありすぎだろ」
作「うそっ!……地上の兵士……弱すぎ?!」
霞「うるせぇ」
美「あんなのと戦うんですか?怖いなぁ……」
姫「あんなのと戦えるの?楽しみねぇ……」
霞「この2人、性格が正反対……なのか?」
作「多分、似たもの同士だと思うよ?」
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