胸騒ぎがした。
何か、俺の知らないところで取り返しのつかない事が起きているような。
今まで色々と事件に巻き込まれたりしたが、今度のそれは違う。確信とも言える予感に、俺は神社へと続く階段を駆け下りる。
さっきから、人里の気配が『異様』なのだ。
別に結界が張られているわけでもない。
注意しなければ気付かない程度の、ほんの小さな違和感。
だが気付いてしまえば、それはあからさまな程に異質のものとして認識してしまう。
それが夢乃の不在と関係が無いとは言えない。この状況下でそこまで楽観視出来ない。
俺は両手を合わせ、穴を開く。スピードを落とさずにその中へと飛び込んでいった。
目の前に広がるのは異様な光景だった。
あたり一面血の海と化し、至るところに人間やそれ以外の死体が転がる。
漂う力の残留から、それが魔力だと気付くのに時間はかからなかった。
なんでコレだけの事が起こっていて、俺は気が付かなかった。
いや、今はそんな事を考えている時じゃない。
多分、ココに夢乃は居るのだろう。探さなくては。
その目的はすぐに果たせた。
血を垂れ流し、地に伏せる夢乃の姿を捉える。
「……おい、夢乃?なにそんな所で寝てるんだ、起きろよ」
微動だにしない夢乃からは返事がない。いくら呼びかけても、あの明るい声は聞こえてこない。
視界が暗くなる。
「予定外ですよ。まだ貴方に会う時では無かったのに」
ふと、傍らに立っていた男が話しかけてきた。
見た目は俺と大差ない年齢に見える。コイツか?
コイツが夢乃をこんな目にあわせたのか?
「何処の誰だか知らないけれど、私の邪魔はしないでよね」
傷だらけの女性が、崩れた瓦礫の中から現れる。誰だ。
「うーん。流石にお二人を相手にするのは部が悪いですね」
「……貴方の相手は私よ!!」
女性は日傘を刀のように振るい、殴る。
そこいらの妖怪よりかよっぽど速いその動きを、男は簡単に躱す。
すれ違いざまに背中に手が触れると、女性は弾けるように吹き飛んでいった。
「……貴女には興味は無いのですよ」
「……くそっ!」
色々な事が頭の中を駆け巡る。
そのどれもが、頭の中で処理をしきれず抜け落ちていくようで。いつの間にか握りしめられていた拳は血が滴っていた。
「しょうがないですね。計画より少々早いですが、貴方の力を頂きましょうか」
頭の中がグチャグチャだ。
男の言葉なんて、耳に入っても意味を理解出来ない。でもそんなことを気にしていられない。
込み上げる怒りをどうすればいい?
「……あー。もうどうでもいいや」
俺は思考を放棄して、両手を合わせる。
「神力、解放」
瞬間、俺の身体から溢れ出る力の奔流は、辺りを吹き飛ばす。
「……おやおや、そんなにこの子が殺されたのがショックですか?」
男は薄ら笑いを浮かべる。気味の悪い顔だ。表情を貼り付けたような、感情の見えない笑み。
「……コイツは……私の獲物よ!!」
背後から先ほどの女性が殴りかかってきた。
どうやらこの男と勝負をしていた様だが、全く相手になっていなかったのを気付いていないのだろうか。
「黙れよ」
俺は振り返り、視線を合わせると四文字の言葉に神力を乗せる。
それだけで彼女は膝から崩れ落ち、額から汗が吹き出す。
「……かっ……?!」
あぁ、呼吸が出来ないのか。
直ぐに終わらせるから、そこで待ってろ。
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突然現れた青い着物の男から放たれた言葉は、この私でも震え上がるほど、殺気に溢れていた。
もし一言でも喋ればその命は無い、そう宣告されたかのような錯覚に陥ってしまうほど、男の言葉は重く響いた。
なんなの、コイツらは。
片や私を赤子のように相手をし、片や私を言葉だけでひれ伏せさせる。
青い着物の男からは神力を感じるから、どうやら神だと推測出来るけれど。これだけの量の神力は、長く生きた中でも初めてだ。
男からの圧力で、呼吸もままならない私は、辛うじて手放さない意識の中、自分の身すら守ることも出来ずにただその場に崩れ落ちているしかなかった。
「さて、初めまして、と言うべきなのでしょうかね」
「お前みたいな奴は知らねぇよ」
男達の会話は、その一言一言に殺気が込められ、その度に私からは汗が吹き出る。
「おや、お忘れの様で。ワタクシ、1度ご挨拶はさせていただいたんですが」
「……これから死ぬやつの名前を覚えてられるほど、俺の頭には空きは無いんだよ」
青い着物の男はどこから出したのか、一振りの刀を取り出す。抜き放たれた刃には神力が行き渡り、その身を青く光らせている。その純粋までに研ぎ澄まされた殺意と神力で、不覚にも美しいと思ってしまった。
「では改めて。ワタクシ、無明と申します」
男達は1歩ずつその距離を詰めていく。
「お前を殺す神だ」
「おやおや。創造神様ともあろうお方が、たかが小娘一人にそこまでお怒りになられるとわ」
「……お前、もう喋るな」
二人の距離は伸ばせば触れられるほど近づいた。無明と名乗った男からは、なんの力も感じないのに、何故あの神力の圧の中平気でいられるの?
「それでは、いただきます」
「全力で遊んでやるからかかってこい」
その言葉を残して、二人の男の姿は私の視界から消えてしまった。
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突然走り出した霞を追いかけて、人里へとやって来た私は、一歩踏み入れた瞬間に霞のものであろう神力の渦に飲み込まれた。
「な、何よこれ!?」
なんで霞は神力使ってんのよ。
しかもかなりの量を解放しているし。
なによりも、わからないのは『人里に入るまで』霞の力に気付かなかった事。
妖力や霊力、ましてや神力も感じない。何も感じないのに、一枚薄い膜がかけられているような。
「と、とりあえず霞!!」
そうして私は再び駆けて行った。
作「次回、初めて霞さんが本気になりますよ」
夢「あれ?私、死んじゃったんですか?」
霞「いや、だとしたらココに出てきちゃマズイだろ」
作「まぁ、その辺も次回あたりわかりますよ」
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