紫「ほら、作者!さっさと師匠が何処にいるか喋りなさい!!」
作「や、やめて!!死んじゃうから!!」
紫「アンタよりも師匠の方が大事!!」
作「……ぐふっ!!」
紫「あっ…………」
磯の香りを感じながら、港町を抜けていく。
時代は明治になり、この辺りは昔に比べたら随分と様変わりしたが、まだまだ古い町並みのままな部分も残っていた。
「さて、あの予言を信じるならココに居るんだけど」
汽車の中で出会った女性から告げられた予言。探しているあの人は、この地にいる。
幾度となく繰り返される疑問が胸に込み上げる。私はあの人に会ってどうしたいのだろう。
傷つけてしまったことを謝りたい?
突然居なくなったことを怒りたい?
それとも--
答えの出ない問はグルグルと頭の中を巡り、結局は会ってから考えようと、同じところに落ち着く。
どうして居なくなってしまったのだろう。
「とりあえず、先ずは聞き込みね」
そう言って、私は手近な茶店に入る。
必ず見つけ出すんだから。
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「はぁー。食った食った」
いつも世話になっている定食屋から出ると、春の日差しが明るく照らす。雲一つない空は、渡り鳥が気持ち良く飛んでいた。
「今日もやるの?」
「んぁ?当たり前だろ」
この街にやってきた理由。それは奴を探すため。
あの日以来、姿を消したあの男を見つけ出し、この手でケジメをつけるために、俺は態々アイツらから姿を消したんだ。
これ以上、誰も傷つけない様に。何も失わないように。
「でも、長い事ココに居るけど、なんの手掛かりも見つからないわね」
長く生きた割に、身体が成長しない姫咲は言う。確かに、横浜に来てからもう何年経っただろうか。そろそろ、周囲の人間に怪しまれるかもしれない。どれだけ経っても老いることのない2人として。
「まぁな。そろそろココも離れないといけないかもな」
今度は何処に行こうか。港町と言うことで、色々と情報が集まるだろうとここに来たが、アテが外れてしまった。
それにしても、今日は何故か面倒臭い事が起きるような気がする。
この感覚は久しく感じなかったが、何が起こるというのだろう。
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「師匠〜。何処ですか〜?」
今、私の目の前を歩くのは、私が最も尊敬する主。八雲紫、その人のはず。恐らく……きっと。
「ん〜。ここ?」
そう言って開いたのはゴミ箱の蓋。いや、貴女の師匠はそんな所にいるんですか?むしろ居たとしたら幻滅ものですけど。
紫様の式となってから、どれ位経ったかわからないけれど、こんな紫様は初めて見た。確かに、その師匠と呼ぶ方の事になると、紫様は異常なまでに執着していたし、その語り口から唯ならぬ想いを持っていると、容易に推測できる。出来るが……。
「ほら、藍!貴女もちゃんと探しなさいな」
「いや、紫様……。私はその神条様を知らないのですが」
私の知る神条という男の情報は、紫様から語られるモノだけで、その外見すらわからない。知っているのは青い着物と白い羽織。それ位だ。
「……ここか?!」
「紫様。紫様の師匠はそんな肥溜めに居るんですか?」
「……可能性は……あるわね」
どんな人物なのだろう。悪い意味でも凄く気になってきた。
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海風を浴びながら、懐からタバコを取り出し火をつける。
大小様々な船が並ぶ港を眺めながら、ふと昔を思い出していた。
ルーミアに紫、美鈴や夢乃。諏訪子や神奈子など、沢山の出会いと、それらとの繋がりを断ち切った俺。
今頃彼女らはどうしているのだろうか。
ルーミアは元気にしているのだろうか。
紫は今も夢を叶えるために頑張っているのか。
美鈴は今頃何処かを旅しているのか。
そして……。
「夢乃は俺を恨んでいるんだろうな」
「……さぁ。あの子の事だから、恨んでないかもね」
姫咲は気にもしていないような素振りを見せる。
「そんなに気になるなら、会ってあげればいいのに」
「……そうはいかんだろ。俺はあの子の人生を変えてしまったんだから」
俺のせいで、夢乃は不死になってしまった。不死とは、聞こえはいいかもしれないが、なってみれば分かる。なるべきものじゃないと。
親しい者の死を常に見続けなければならない孤独、それは想像を絶する苦しみだ。同じ不死である俺がそうだから。
「……そう。でもそれは私に言うべきじゃないわね」
「わかってるさ。姫咲に言っても、ただの言い訳にしかならない。いつか、アイツに会って自分の口で話すさ」
何時になるかわからないけれど。
「でも、その前にやるべき事をやらないとな」
次第に暗くなり、世界は夜を迎えた。
辺りは静まり、人ならざるものの世界へとその姿を変えていく。
最近では、めっきり少なくなった妖怪達も、しかしながら滅んだわけでもなく、確かに存在していた。
そこかしこにあるより深い暗闇からは、微量ではあるが妖気が感じられ、今にも人間を襲おうと息を潜めている。
「まったく、時代は変わっても妖怪は変わらないか」
「当たり前でしょ。人間が変わらないんだけら」
流石、妖怪の頂点とも言える姫咲が言うと説得力がある。
「さぁ、遊んでやるからかかってこいよ」
そう言って、俺と姫咲は深い闇へと潜っていった。
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「紫様、どうやらこの近くで妖怪の気配がどんどん消えていってます」
「そうみたいね」
もしかすると師匠だろうか。でも霊力も神力も感じられない。
どちらも使うことなく妖怪を相手することが、果たして出来るのか疑問だけれど、なんとなく師匠ならば出来てしまう気がしてならない。
「とりあえず行ってみましょうか」
「かしこまりました」
私は微かな期待を胸に、暗い夜道を音も立てずに駆けていく。
師匠、待っていてください……。
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「この気配は?」
宿を見つけ、一息ついていた頃、辺りから消えていく妖気に気が付いた。それらはあまりにも小さく、いつもならば気にもとめなかったけれど、ここはあの人が居るという横浜。もしかするとあの人が関わっているのかもしれない。
それに、消えていく妖気とは逆に、余りにも大きな妖力が二つ、この街を駆け抜けていた。
いったい、この街で何が起きているのだろう。
良くない予感と、あの人がいるかもしれないという期待は、私の身体を動かすには十分だった。
「霞様……!」
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「どうやら、面白くなりそうですね……」
藍「………………あ、どうも。紫様の式、八雲藍だ」
作「いやー、死にかけた!」
紫「ちっ……」
藍「紫様?そんな扱いで良いのですか?」
紫「いいのよ、どうせ死んでも復活するし」
作「流石に泣きますよ?」
藍「……なんか不憫な扱いなのに、不思議と同情出来ない」
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