霞「いきなり何の話だ」
紫「自分の性癖では?」
霞「……お前、焼かれずに煮てほしいのか」
作「なにその新しいプレイ」
人の気配もない、寝静まった夜の道を駆けた。
予感がした。確証のない、ただの勘でしかないけれど、きっとあの人が居ると。
私の目の前から消えてしまった、私の大切な家族。
血の繋がりなんてないけれど、それでも私にとってかけがえのない絆がそこにはあった。
逸る気持ちを抑えられず、途中何度も転びそうになりながらも、より深い暗闇へと走っていった。
あの人を探す旅の途中で出会った妖怪のお陰か、闇の中でも私の目はちゃんと見えていたし、何よりも見間違うはずはない。
なんで力を使っていないのかわからないけれど、そんな事は思考の隅に追いやって。ただあの人の戦う姿を目に焼き付けた。
靡く白い羽織、闇にも染められない青い着物、月のように白く輝く刀、そのどれもが今になっては懐かしく思えた。
間違いない。あの人だ。
何年も何年も探し続けた、私の家族。
すぐにでも大声で呼びたくなる。でも、今それをしたら、間違いなく邪魔になる。
力を使わないあの人は、普通の人間と同じだと昔聞いた覚えがある。ならば怪我をしてしまうと言うことだ。
私のせいで、もう二度と血を流して欲しくない。
だから、今は我慢。大丈夫。あの人が……『お父さん』が負けるはずなんてないんだから。
しばらく気配を殺し見守っていたけれど、どうも様子がおかしい。さっきから妖怪の数が一向に減らない。
夜目の効く私は辺りを見回すと、どうやら暗闇の中から次々と下級妖怪が生まれでているようだ。
それは終わりの見えない戦いで。いくらあの人でも、いや今のあの人だからこそ、次第に消耗していく。
そう言えば、近くにいるのは汽車で会った女性では?
妖怪だったのか。あの時は気が付かなかった。
あれほどの妖気を発する妖怪でも、この状況を覆せないのだろうか。
もう、我慢の限界だった。
お父さんが刀を構え直し、闇を睨んでいる。
それよりも早く、私は動いていた。
懐から1枚の札を取り出し、投げる。
札は真っ直ぐに闇へと消えていき、狙い通り妖怪の発生源へ張り付いた。
霊力をありったけ込めると、札は光り出す。たった1枚の札だけれど、今の私ならば十分。
そして私は叫んだ。あの人を呼ぶ代わりに、私はココに居ると教える代わりに。
「封印!!」
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声が聞こえた。
懐かしい、あの子の声が。俺のせいで人生を狂わせ、人としての生き方を出来なくさせてしまった。
一緒にいた時間は短いけれど、少なくとも俺は『家族』の様に思っていた、あの子。
「……夢……乃?」
声の主を探すと、それはあっけなく見つかった。闇の中でもはっきりとわかる、夢乃の輪郭。あの日、あの時と全く変わらない。
「やっと。やっと見つけました」
思考はメチャクチャだった。
なんで夢乃がココに居る?
紫だけにとどまらず、夢乃にまで見つかってしまった。それも一晩で。
何がどうなっているんだ。
それでも、妖怪は俺が落ち着くのを待ってはくれない。
どうやら夢乃が封印をしたおかげで、これ以上増えることは無いようだが、未だに多くの妖怪は残っていた。
「……師匠。これでもう、力を使わない理由はありませんね」
「……」
その通りだった。
誰にも見つからず、誰にも知られず。全てを終わらせるつもりだったのに。その為に、霊力も神力もあの日以降使わずにいたのに。
こうやって見つかってしまえば、もう意味は無い。
「そう……だな」
なら覚悟を決めろ。
「……しょうが……ないか」
後悔は後でいい。
「……紫、夢乃」
反省は心に留めておけ。
「すまなかったな」
俺は両手を合わせる。
何年ぶりだろうか。体の隅々まで力が流れて行くのがわかる。
あぁ、久しぶりだ。
「神力解放!神様モード!!」
俺は叫んだ。
今までの時間を取り戻すように、吹き出された神力は辺りを包み込み、世界を青く染めていく。
「久しぶりで手加減出来んが。遊んでやるからかかってこい」
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一瞬の出来事だった。
あの男が両手を合わせたと思ったら、その身から私でさえ怯んでしまいそうなほどの神力が溢れ出てくる。
紫様に聞いた限りでは、アレでも半分の力を封印されているという。つまり、単純にこの倍が本来の力なのか。
流石に『創造神』と言うだけはある。
「これ程とは……」
思わず口から零れた台詞。紫様には届いてしまったようで。
「アレでも恐らく1割も使ってないわよ?」
「はい?」
再び驚いた。アレで1割?
どれだけ規格外なのだ。
青く染められた神力は、竦んでしまう程膨大で、見蕩れてしまうほど純粋に美しかった。
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終わりは呆気なかった。
アレだけの数がいたにも関わらず、5分も経ってはいないだろう。
「霞……」
ゆっくりとこちらへ近づく姫咲。
「アンタだけ狡いわよ!!私だって暴れたかった!!」
「えぇ……」
もうちょい違う台詞を吐けないのか。
この場には夢乃と紫、あと紫の従者っぽい妖獣まで居るってのに。
「問答無用!とりあえず殴らせろ!!」
「だが断る!!」
今はそんな事をしている場合じゃないだろう。
振り返れば、微笑んでいる紫と、今にも泣き出しそうな顔の夢乃が立っている。
「……その……なんだ。久しぶりだなお前ら」
物凄く心苦しい。どう言い訳するべきか頭をフル回転させても、妙案は出てこない。
「そうですね。お久しぶりです。師匠」
「すっかり成長したんだな紫は」
俺の隣で脇腹をポコポコ叩いている、妖怪の頂点とは違う。
凡そ女性としては高い身長に、育ちきった身体。あの頃の面影を残しつつも、妖艶な大人へと変わった顔立ち。
これがまさか、俺の風呂に突入しようとしたあの紫とは思えない程だ。
「……その一言多い感じ。相変わらずですね」
「褒め言葉として受け取っておく」
薄らと涙を浮かべた紫は、扇子を広げ、顔を隠してしまう。
「まだ使ってたのか、それ」
紫の独り立ちの日、俺が創り餞別として渡した紫色の扇子。
「えぇ。私の宝物です」
なんとも、気恥しい限りだ。
「そんで、隣の彼女は?」
「あぁ、私の式。藍です」
そう紹介されると、九尾の妖獣--藍はペコリと頭を下げる。
「ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません。私、紫様の式を務めさせて頂いております、八雲藍と申します」
「おう。俺は神条霞。聞いているだろうが、紫の師匠をやっていた者だ」
よく見れば藍の額には微かに汗が見えた。
「恐れ多くも、創造神様とこうやってお話をさせて頂くのは初めてなもので」
「あ〜。別に畏まらなくてもいいから」
どうせ神としての責務は放棄しているし、この数百年間は神としても生きていなかったのだから。
「……んで」
その隣に顔を向ける。既に泣き出してしまっている夢乃。
不老不死となった為に、あの日と全く変わらない。老いることも、死ぬ事も出来ない身体の夢乃が、今目の前に立っていた。
「……夢乃」
「霞s……お父さん」
「お父さん!?」
おいおい。いつの間に俺は父親になったんだ。確かに家族のように暮らしていたし、思ってはいたが。
そんな事を考えていると、胸に軽くぶつかった感触が起きた。
見れば夢乃が俺に抱きついている。
「……夢乃」
「もう……何処にも行かないでください!!」
夢乃の言葉は涙混じりで、俺の胸を強く締め付け、濡らしていた。
俺は何も返すことが出来ず、ただ夢乃の頭を撫で続けるだけだった。
夢「お父さ〜ん!」
作「呼んでますよ?」
霞「……まぁ、夢乃なら良いんだけど。ほら、俺を父と呼ぶ奴が多くて」
天「父上様〜」
月「お父上〜」
龍「父上様〜」
作「……大家族やね」
霞「誰の所為だよ……」