今日は朝から親友が何か企んでいたようで、館の中はメイドたちが慌ただしく動いていた。
喧騒を嫌う私は、朝食を済ませるといつもの様に図書館へと引きこもり、魔法の研究の為、魔導書を読み耽る。
今日は使い魔の小悪魔も、私が諸用を頼んだので朝から居ない。棚から何冊もの本を持って机まで運ぶのすら、少し息が切れた。
こんな事ならば、普段から少しは運動をすれば良かった。と、意味の無い後悔をしつつ、お昼頃に咲夜が持ってきた紅茶で喉を潤しながら、本を捲る。
小悪魔もなかなか美味しい紅茶を淹れてくれるが、流石は『完全で瀟洒なメイド』。本当に同じ茶葉を使っているのかと疑いたくなるような紅茶を淹れる。
昼を過ぎて、私1人の図書館は耳が痛くなるような静けさに包まれていた。聞こえてくるのは私自身の呼吸音と、ページを捲る音だけ。
私はこの静けさが好きだった。もちろん、小悪魔が五月蝿いという訳では無いが、これだけ静寂だと研究に集中できる。
ふと、窓から外を見れば、空が紅く染まっていた。どうやら、これが親友の企んでいたことらしい。確か、数日前に霧を出す魔法を教えた気がするが、こんな使い方をするとは。何が目的かは聞かなくても分かるけれど、それにしてもやりすぎではないかと、少し思ってしまう。まぁ、私に被害が及ばないのであれば、彼女が何をしようと良いのだが。
そんな中、突然何処かの窓が開く音がした。最初は気のせいだと思ったが、明らかに私以外の人間の気配が、この図書館の中に入ってきていた。
ソイツは私に気が付いていないのか、堂々と棚から本を抜き出して、風呂敷の中へと放り込んでいく。まったく、門番は何をしているのかしら。
堂々とした泥棒に声をかけると、どうやら魔法使いらしい。確かに、コイツからは魔力が感じられる。と言うか、見た目からして魔法使いなのだが。一見すれば仮装かと思われるような格好の泥棒は、自身たっぷりに私を指差し、まだ本を盗んでいくと宣言する。
ホント、普段からもう少し運動をしておけば良かった。
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目の前に迫る光を見ながら、私は敗北を覚悟した。これだけの至近距離、どうやったって避けられるはずもなく、咄嗟に目を瞑り来るべき衝撃を待った。
しかし、いくら待っても痛みが訪れることは無く、恐る恐る目を開くと、そこには何故か苦しそうに倒れ込む紫もやしがいた。
術者自身が力を維持出来なかったからか、魔法は途中で無効化され、消え去ってしまったらしい。
私は一応、罠の可能性も考えつつ。もやしの側へと降り立つ。
見れば胸を抑え、苦しそうに息をしつつ咳をしていた。
おいおい、なんだよ。私の弾幕は1発すら当たっていないんだから、考えられるのは元々の持病か、もしくは魔力の枯渇による体へのフィードバックか。
さっきまでの様子から、恐らくは前者だろう。だって見た目、健康そうな感じじゃないし。
「おい、大丈夫か?」
「ゴホッ……大丈夫…に……見える?」
少なくとも悪態を付くくらいには元気そうだけど。
そんな事を考えていると、もやしはさっきまで座っていた机を指さす。
「あ……あそこに……ゲホッ……薬が……」
「お、おう。薬だな!?」
薬を飲ませると、幾らか楽になったのか、もやし……パチュリーの顔は血色が良くなった。
流石にこの後、また弾幕ごっこを続ける気にもなれずに、手持ち無沙汰でいると、図書館の外から叫び声と共に爆発音が響いた。館全体を揺らすほどの爆発は、どうやら地下で起こったらしい。なんだよ、霊夢のやつが暴れてるのか?
すると、息を整えたパチュリーが何とか身体を起こす。
「……今日は厄日ね。アナタ、さっさと逃げなさい。まだ死にたくはないでしょう」
「いやいや、どう考えても死にそうなのはお前だろ?それに私は異変を解決しに来たんだぜ?まだ帰るわけにはいかない」
「そんな事を言っている場合じゃないのよ。どうやら、あの子が……悪魔の妹が出てきたらしいわ」
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突然揺れた赤い館。その持ち主である、目の前の小さな吸血鬼は、明らかに動揺していた。
長い廊下を抜けて、他の部屋とは造りの違うドアを見つけると、私の勘がこの部屋だと告げ、ノックもせずに問答無用で突入したのがほんの数十分前。
部屋に入れば、廊下などの装飾とは比べ物にならないほどの、より高級そうな調度品で揃えられた空間だった。しかしながら、外の霧のせいもあり、光の刺さない部屋は薄暗く、所々に灯るロウソクだけが怪しく揺れていた。
そして1番偉そうな椅子に、偉そうに座っている少女。
見た目はまだ年端もいかないくらいだと思うけれど、反して醸し出される雰囲気は、充分大妖怪と言える。
そんな吸血鬼、レミリア・スカーレットと相見えた私は、この異変を止めるべく、弾幕ごっこを繰り広げた。
死闘とも言えるような、長く苦しい戦いの末、何とか勝利した私だったが。どうやら、今回の異変はこれで終わらないらしい。
「……これもアンタの仕業なのかしら?」
そう訊いてみたが、当の本人すらも予想外の出来事らしく、その表情は明らかに焦っていた。
「ま、まさか。あの扉を破ったというの……」
館を揺らす爆発音は、徐々にこの部屋へと近づいていた。
まるで一つ一つ扉を壊して、中を確かめるように。
私と吸血鬼は扉から外へ飛び出す。すると、最後の爆発の煙が消えようとしている所で、その惨状は言葉では言い表しにくいほどに、無残なものだった。
散らばる瓦礫の中、いくつものメイドの格好をした妖精が倒れている。妖精ならば時間が経てば復活するはずで、しかしそこに倒れている妖精はそんな気配を微塵も感じさせなかった。
煙の中から現れたのは、傷一つないこの爆発の主犯。
赤い洋服を血で濡らし、幼い身体をまるで蛇のように重たく這いずるように歩く。
表情は帽子に隠れて見えないけれど、どう考えても正常とは言えない。
「……なによ、アイツ」
「……私の妹。フランドール・スカーレット」
なるほど、吸血鬼の妹か。
確かに、羽とは言いにくいけど背中には宝石のように輝く物が見える。
見比べてみれば、隣の吸血鬼と似ているし。
「まったく。アンタ達は次から次へと問題を起こすわね」
そう言いながら、一枚の札を取り出す。先程までの連戦で、幾らか疲労はあるけれど、あの吸血鬼を止めなければこの異変は終わらないらしい。ならば身体にムチを打ってでも終わらせなきゃ。
「やめておけ、お前ではあの子に勝つことは不可能だ」
「何言ってんのよ。アンタに勝ったのは私よ?アンタの妹なら楽勝でしょ」
そう思っていた。
今思えば油断していた。なんせレミリアの妹なのだから、姉よりも強いとは思わなかった。
そして何よりも。
『弾幕ごっこ』のルールを知らないとは思わなかった。
フランドールから放たれる弾幕は、そのどれもが当たれば致命傷となるようなものばかり。
お世辞にも『ごっこ』で済むような代物ではなく。ましてやあの能力は反則だ。
「お姉様。フランと遊びましょ?」
「……部屋に戻りなさい、フラン。まだアナタが出る時ではないわ」
私とレミリアは、当たれば致命傷となる攻撃を、紙一重で躱していた。
しかし完全に避けきれるはずもなく、身体の至るところに傷が作られた、血が流れる。
「……何を起こっているの?お姉様。フランは悪くないわ。悪いのはこの世界なのでしょう?だからフランはこの世界を壊すの。そうすれば、私は自由になれるの」
言っている意味がよく分からないけれど。少なくとも普通の考えではないことは確かだった。
こんなの、どうやって止めろっていうのよ。こんな事なら、紫を無理矢理にでも連れてくるんだった。
「さぁ、お姉様。先ずはお姉様から」
そう言って妹は掌をコチラに向ける。あの手だ、あの手が握られると同時に、爆発は起きる。
握られる手を見ながら、私は死を覚悟した。
短い人生だったと、走馬灯が流れるようだった。
何処の誰か分からない、声が聞こえるまでは。
「そんなに遊びたいか?なら俺が代わろう。遊んでやるからかかってきな」
次回は早くても今週中にあげる予定です。
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