インフィニット・フレームアームズ~俺アームズでブンドド~   作:たちゅや

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十話

 早朝。

 肌寒さを感じながら龍也は寮の外にいた。手には木刀を持ち、服装は動きやすいジャージだった。首からはバーゼラルドの待機状態である剣の形をしたアクセサリーをしていた。

 周囲に誰もいないことを確認し、木刀を構え精神を集中する。

 思い描くのは最強の自分。相対するのも最強の自分。常に自分自身が最強の敵であり続ける。

 

 強いイメージは時として幻想を生み出す。

 今、彼の目の前にはもう一人の彼が同じ姿で立っていた。

 にらみ合いながら相対が続く。

 

 傍から見れば何もしていないにように見えるが、彼らの間では既に何百という打ち込み合いが交わされていた。

 とはいえ、あくまでこれもイメージによる訓練である。

 それなりに結果は得てきた方法なので、日課として行っているのだ。

 

 数十分ほど続けて終了し、部屋に戻る龍也。

 時刻は六時を過ぎたばかりだった。同居の刀奈はロシアに代表としての仕事があるとかでしばらく留守にしている。

 いつもいる人がいないのは、寂しさを覚えるが我慢すればするほど燃える、と彼らは言っている。

 

 さて、朝食の時間になったので食堂へと足を向けた。

 既に何人かが食事をしていたが、いつもより騒がしく見えた。

 こっそりと気配を消して入口に近いテーブル席にいる二人組に近づいていくと、

 

「ねぇねぇ聞いた?今日、中国からの転校生が来るんだって!」

 

「聞いた聞いた。でも、こんな時期に何でだろうね?」

 

「決まっているじゃない!織斑君がいるからだよ!」

 

 なるほどね。

 男性操縦者が見つかり、IS学園に入学。報道されるタイミングが遅かったために、各国からの刺客がようやくやってくるのか。

 転入させられてくる者も大変だろうな。

 きっと国からはハニートラップでも何でもしていいから国に連れて帰れや情報を送れ、等と言われているのだろう。

 これから色々な国からの接触があるんだろうな。

 

 一人納得した龍也はそっと二人から離れ、食券を買い早々に朝食を済ませるのだった。

 

 

 

 

 食事を終え、自室で制服に着替えているとスマートフォンからコール音がした。

 着信音は登録してある人、それぞれで設定するのが彼の趣味なのだが、今鳴っている音はブキヤのアキさんのものだった。

 こんな朝早くから?と電話に出ると、

 

『龍也くん。朝早くからすまない』

 

 アキさんが丁寧に名前を呼んだ。この人の癖で丁寧に名前を呼ぶときは大体、悪い知らせがある時だった。

 

「いえ、でもアキさんどうしたんですか?」

 

『……申し訳ない。本社が何者かに襲撃を受けた』

 

 その言葉に龍也は正直、あまり驚いてはいない。男性操縦者が所属しているというだけで、データを強引に奪い取ろうとする輩はいるし、物理的にも接触してくる可能性はあるだろう、と何度もブキヤや政府とも話をしていたからだ。

 現実に起きた場合に対応する為に、色々な措置もしてきたつもりだった。

 だから、まずは被害を尋ねる。

 

「被害状況と襲撃者は?」

 

『襲撃方法がブキヤのメインコンピュータへのハッキングだったために怪我人などは出ていない。ただ、開発中のISのデータが盗まれた。申し訳ない』

 

 電話口の向こうで深々と頭を下げているアキさんの姿が想像できた。

 そして、幸いな事に怪我人がいない事にホッとした。

 

「でも、怪我人がいなくてよかったですよ。で、どの機体のデータが盗まれたんですか?」

 

 バーゼラルド以外にも現在、何機かのFAタイプのISの開発が進行している中でどのデータが盗まれたのか。

 

『ヴァイスハイトだ……』

 

 ヴァイスハイト。コボルドとシュトラウスという二体のFAが合体して生まれる機体だ。

 重装甲に重火力をコンセプトにした機体だが、すぐにフレズヴェルクが登場し姿を消した、という設定だ。

 

「うーん、ヴァイスハイトですか。武装データは既存のISの物で作成してましたし、機体出力もラファール程度で抑えてあったと思うんであまり痛手にはなりませんが……でも、メインコンピュータの障壁システムは結構、分厚かったですよね」

 

『あぁ。こちらからも反撃を試みたが相手の特定もできなかったよ。だから、物理的にシステムを落として対応になったよ。はぁ、頭が痛いよ』

 

「……アキさん、次もあるかもしれないので開発データはネットワークから隔離しておく方がいいかもしれませんね」

 

『そうなんだよ。今、スタッフ総出でやっているところだよ。だから、たっちゃん。少しの間だけ諸々の開発が遅れるが了承しておいてくれ』

 

「ええ、もちろん。こちらも外出届が受理されたらブキヤに顔を出しますよ」

 

『いやー助かるよ!それじゃ、また!』

 

 電話を切り、思い起こす。

 ISを開発している会社からデータが盗まれるとあらば、大きな損失であり失態である。だが、バーゼラルドを発表してから何度もブキヤにはハッキングされてきた痕跡が残っていた。そのどれもがファイヤーウォールに阻まれ功を為すことはなかったが、今回はそれすら突破された。

 さて、誰がやったのか。よほどの腕前を持っている者というのは分るが、そんなのは世の中を探せば何人も出てくるだろう。

 

 特定の方はアキさんたちに任せるとして、盗まれたのはヴァイスハイトのデータか。

 

 良かった、と内心思っている。アレを再現するにはISコアを二つ用いるように設計をしているからだ。だから、他社が盗んだとしても再現するには相応の覚悟が必要だ。

 加えて、出力はラファール程度に抑えてあるので、昨今の機体よりも弱めである。これも、もしかしたらの保険だ。

 

「しかし、嫌な予感がするな。そうだなぁ、風が泣いている……とでも言っておくか」

 

 

 

 

 その後、教室に入ると食堂で話題になっていた転校生の少女が織斑の前にいた。

 中国の代表候補生である凰 鈴音だ。

 龍也も映像データで何度かは見たことがあった。話を聞いていると一夏とは何かあるようだが、時間の方が猶予を許さなかった。

 スッと織斑先生が現れたのだ。

 

「おーい、一夏と少女よ。HRの時間だぞー。先生たちも来てるぞー」

 

 一応、助け舟は出しておく。織斑先生、チッと言いながらこっちを睨み付けないでください。死んでしまいます。主に俺の精神的苦労で。

 

 凰は慌てて教室から出ていく。どうやら同じクラスではないようだ。一夏には後でゆっくり聞くとしよう。

 

 

 そう思っていたが、トラブルが起きた。

 時刻はお昼。昼食の時間だが、龍也は午前中の授業で疑問に思ったことがあり、織斑先生と山田先生に質問をしており食事の時間が遅れていた。

 慌てて食堂にやってくると、一夏と凰が何だか言い争っていた。穏やかな感じではなかったので何があったのか聞こうと話せる人を探した。

 ちょうどオルコットが目に留まり、彼女も手招きでこちらを呼んだ。

 

「オルコット嬢、一夏と凰さんは何で言い争ってるんだ?」

 

「どうやら一夏さんと凰さんは幼馴染みたいなんですけど、約束が云々と言ってますの。きっと、一夏さんが約束した内容をちゃんと覚えてないみたいなんですの」

 

 あぁ、何となく分る。

 

「そっか。それじゃあ落ち着いて食事をしたいから別の場所で食べるか。オルコット嬢はもう食べ終わった?」

 

「えぇ、食後のティータイムでしてよ。時間もあまりありませんので、急いだ方がいいですよ」

 

 言われて時間を確認すると残りの時間は少なかった。

 

「ゲッ、本当だ!ありがとう、オルコット嬢!」

 

 脱兎の如く静かに食事をできるところを求めて龍也は駆けて行った。

 

 

 

 

 更に時間は経ち、放課後になった。アリーナには龍也と一夏に篠ノ之、オルコットが揃っていた。

 それぞれがISを纏い、模擬戦による訓練を行っていた。

 龍也と一夏、篠ノ之にオルコットが相対している。

 

 龍也はバーゼラルドの装備を刀一本に限定し、近接での戦い方を一夏に体を持って覚えさせていた。

 

「どうした一夏!そこで踏み込まなければ一太刀すら入れられないぞ!!」

 

「くぅ、そんな事を言われて、も、な!」

 

 一夏は龍也の攻撃の速さに着いていくのでやっとだった。

 白式には慣れてきたが、如何せん動きに若干のラグを感じる。自分の思った通りに動かないもどかしさがまだまだあった。

 

「うおおおおおっ!!」

 

 雪片二型を強く握り、思いっきり前に出て袈裟懸けに斬る。

 思い描くのは姉の剣。辿り着き超えていくべき剣の型だ。黙って何度も見た映像を脳裏に思い起こし、再現すべく動く。

 まだ教わってもいない瞬時加速ができていた。きっとこうすれば、こうなるんじゃないのか、と考え行ったら出来た。

 きっと、一夏は理論よりも感覚で覚える方が性に合っているようだった。

 本当は理論を理解し、至るべき工程を経ての方が良いのだが、それはこれからだろう。

 

 龍也は正面から受け止め、拮抗させる。

 

 その動きは現状の一夏なら及第点の物だった。力と速さ、タイミング。入学したての、しかもISにまともに触れた経験がゼロの人間からすれば上出来だった。

 

 でも、少々力み過ぎている。だから、こうなるんだよ!

 

 龍也は一瞬、全身の力を抜きながら右に移動した。拮抗していた状態で相手が力を抜けばどうなるか、想像に難しくない。

 一夏はずっと力を入れ過ぎていた。故に、対応できず前のめりに体勢を崩した。

 

 しまった、と一夏が思った時には龍也は行動を終えていた。

 右足で背中を押し地面に叩きつけ、首筋に刀を添えられていたのだ。

 

「ま、参りました」

 

「うむ。でも、今さっきの一太刀は良かったよ」

 

 龍也が刀を納刀し、一夏を起こした。

 悔しそうな顔をしている一夏に彼が告げる。

 

「さて、一夏。もう一戦やってから次はオルコット嬢とやってくれ」

 

「おうさ!次はもう少し喰らいついてやるからな!」

 

 

 

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