インフィニット・フレームアームズ~俺アームズでブンドド~   作:たちゅや

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早くFA戦を書きたい……でも、もうちょっとだけ続くんじゃよ。


五十一話

 食事を終えた龍也は荷物を部屋に置き、一夏と風呂に来ていた。まぁ、千冬から男二人は風呂にでも行ってこいとお達しがあったからではあるが。

 さて、花月荘の浴場は広くゆったりと入ることが出来る。少々、男二人だけには広すぎるのだが、ここは贅沢に満喫させてもらうとしよう。

 

「はぁ~~~気持ちいいなぁ……」

 

「そうだなぁ……」

 

 湯を堪能する龍也に対して、一夏はぎこちない様子で返事をする。

 理由は幾つかあるが、彼の目線を見れば大きな理由は分った。

 

「おいおい一夏君よ。そんなに俺の体を見つめないでくれないか ? なんだ、君はソッチの気があるのか ?」

 

「なっ ⁉ バカ野郎、そんなわけあるかよ ‼」

 

 慌てながら必死に否定するが一夏を笑いながら龍也は天を仰ぐかのように、岩肌に背を預ける。

 

 ま、気になってるのは俺の全身にある傷跡だろうな。

 

 幼少時から剣術や戦闘技術を学び、荒事にも携わってきた自分には大なり小なりの傷跡がある。小さい傷は忘れてしまっているが、大きな傷を負った時はよく覚えている。特に、左腕と腹部の傷跡は忘れるわけにはいかない。この傷を負った時こそ、愛しき人である刀奈と結ばれるに至った思い出があるのだ。

 

 一夏はそれらの傷を見て絶句していたのだ。

 彼はコレを見るまで勘違いしていた。龍也が強いのは理解できていたが、苦労はしたことが無いんだろうと。周りの人間に恵まれ、さぞかし不自由のない環境だったんだろう、と思っていたのだが……。

 

 傷だらけの体じゃないか……。

 

 一夏は知らない。龍也が時に命を落としかけたことがある事を。

 一夏は知らない。龍也の強さには裏付けされた根拠がある事を。

 一夏は知らない。龍也とて、時には挫折しかけた事がある事を。

 

「……何不自由なく俺が“力”を得たと思っていたか、少年よ」

 

 一夏はビクッと体を震わせる。龍也から発せられた声が、あまりにも大人びており威厳があったからだ。

 

「 “力”を得るには、対価が必要だ。ISに関して言えば、VR訓練で強くなったかもしれないが、それ以外は幼い時から必死に修行をし、実戦を経験してきた。時には“死”が目の前をよぎった事も一度ではない。それで、何度も挫折をしては立ち上がってきた」

 

「……龍也でも、か ?」

 

「その通りだ。俺が苦労していないとでも思っていたのなら、甚だしい間違いだ。だから、言おう」

 

 龍也は一夏に向き合い言い放つ。

 

「強くなりたければ、愚直だと言われようと鍛え続けろ。そして、お前の価値観で物事を判断せず、視野を広げ続けろ。強くなる為の最短ルートは存在しないのだから」

 

 それから、と一拍置き、いつもの龍也の声色で放つ。

 

「お前は確実に強くなってるよ。俺は一夏の基礎を伸ばそうと、多くの訓練を基礎向上に努めてきた。時には必殺技を伝授したけどね。だから、そろそろ次の段階へ行こうと思う」

 

「―― “次” ?」

 

「ああ。基礎がしっかりできたんだ。これからは応用の訓練だ。俺もそろそろ加減するのに飽きてきたしね」

 

 せっかく良い話で終わりそうだったのに、最後のセリフで台無しになりそうな事を言っているが、一夏は満足していた。

 

「そっか。強くなっているのか、俺は」

 

 そう、単に彼は認められたかったのだ。

 だから、龍也はもう一度言った。

 

「応とも。強くなっているさ。しかし、言葉だけでは不安だろう ? 明日の訓練の時にでも目に見える形で証明させてやるよ」

 

「え ? 明日はそんな時間があるのか ⁉」

 

「……いやいや、しおり位は見ておけよ ? 二日目は専用機持ちとそれ以外に分かれての訓練時間があるんだよ。専用機持ちは主に武装テストとかのデータ取りがメインだけども、多少は実戦形式の訓練時間もある」

 

「面目ない……。浮かれてて、ちゃんと見てなかった」

 

 あはは、と笑う一夏に、今日一番のため息を龍也は吐いた。

 

「……こういう所が無ければなぁ」

 

 

 

 

 時は同じくここは千冬の部屋。

 部屋には呼び出しを受けた一夏・龍也ラヴァーズの面々が、千冬が酒を煽っている事の口止めとして飲み物を飲まされていた。

 

「いやぁ~仕事終わりのビールは最高だ。ん~ ? 何だお前達。飲むのがゆっくりすぎないか ?」

 

 あ、酔ってるわこの人。

 

 と面々が理解し、彼女が酒を飲んでいる場面には今後遭遇したくないと考える。

 そして、最初の被害者になるのは……彼女らだ。

 

「さて……篠ノ之に鳳、ラウラ。お前達は一夏のどこが良いんだ ? ん ? ほれほれ言ってみろ」

 

 えぇ……と三人は答えないといけないの ? と眼で訴えるが彼女は早く話せ、という態度である。

 となると、誰から話す ? となるのだが、意を決し箒が先陣を切る。

 

「鈍っていた腕が上達してきた所ですかね……」

 

「ア、アタシは、腐れ縁ってだけだし」

 

「つ、強い所でしょうか……」

 

 箒に続いて鈴、ラウラが答えた。

 

「ほう、まぁ今はそんな答えで良しとしてやろうか」

 

 さて、ともう一口酒を呑んでからもう二人に目を向ける。

 

「で、オルコットにデュノア。龍也のどこに惚れたんだ ? ヤることはヤったんだろ ? さぁ吐け吐けっ」

 

 うわぁ、本当に最悪だ、と織斑千冬の印象が底辺に達した瞬間である。

 えー……この空気で喋れって言うんですか ? とセシリアとシャルは顔を見合わせながら悩ませる。

 しかし、こちらも千冬の凄い目力を向けられ、しょうがないかと話し始める。

 

「そうですね……わたくしは、やはり一年前にとある件で助けてもらった時でしょうか」

 

一年前といえば代表候補生襲撃事件か。日本ではイギリス政府の用意周到な警護によって無血で終息したと報道されていたが、秋野が絡んでいたか。……そろそろ奴の正体も聞く必要があるな。

 

 千冬がそう考えている間、セシリアは恥ずかしさから指で髪をくるくると巻きながら話を続ける。

 

「詳しくはお話しできませんが、その時に男性の逞しさを知り、ひとめ惚れしてしまいました。あぁ、あの時の龍也さんと言ったらもう、すごくカッコよくて……」

 

 と一人夢心地になる彼女に続きシャルロットが話す。

 

「僕も個人的な事情を解決してもらって、龍也の強さや人柄に……かな ?」

 

 アハハ、と照れ笑いをする。

 

「そうだな、龍也は確かに強い。人柄も良い方だ」

 

「それに、“持久力”も凄いもんね」

 

 更に顔を赤くしながらサラッと発言するシャルロット。

 

「何戦しても萎えませんもんね……。よくもまぁ楯無さんはお一人で……」

 

 セシリアも真っ赤にしながらモジモジと身をよじる。

 

 え、この二人いきなり何言ってんの ? と狼狽するのは箒に鈴。ラウラは何だ訓練の話か ? と知識が無いゆえに話にはついていけなかった。

 千冬も自分で言った手前ではあるが、経験があるわけではないので酒で赤くなったのが増していく。

 

 羨ましい、と思ってしまうのは良くないか。だが、世の中の男は見る眼が無さすぎるぞ。誰もいい寄ってこないではないか。周りにいる男といえば一夏に龍也くらいか……。全く男運が無さすぎるぞ。

 

 IS学園という特殊な環境で教鞭を振るっている為に出会いもなく、この女尊男卑の世の中で特別ともいえる立場にある彼女に近づいてくる男なんていないのであった……あぁ無常。

 やってられんな、とセシリアとシャルロットの龍也との夜の話をBGMに新しい缶を手に取り呑んでいく。男二人が部屋に戻ってくるまでこの宴は続くのであった。

 


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