オーバーロード 黒き触手   作:灰男

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初めまして、灰男と申します。
あなたの時間を無駄にしないように努めますので、どうか宜しくお願い致します。



序章
零話 久方ぶりの邂逅


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 ――足音。

 

 いや、それは足音と呼ぶには異質であった。

 ぺたん、ぺたんと、やけに水っぽい音。否、足音というよりは、何かを引きずるような音。

 

 普通の『ユグドラシル』のプレイヤーならば、大方面倒な――スライム系または触手系のモンスターだろうと感づき、警戒するであろう音だ。

 

 

 

 ――が。

 

 『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドマスターである、モモンガからすれば、それは――

 

 

 

「――お久しぶりです、モモンガさん」

 

 若い男の声であった。

 部屋から出て行きかけていた骸骨が、振り返る。

 もう誰かが来る可能性は低いと、そう思っていた。

 

 そう思っていたからこそ、「行こうか、ギルドの証よ。いや――我がギルドの証よ」などと決め台詞を言い放ったのだが。

 

 思っていたのだが。

 

 モモンガが、その声の主を見て取る。そして同時にこの上なく驚愕する。

 もしその顔が動く仕様であれば、瞳のない目は見開かれ、その口はあんぐりと開いていただろう。

 

「いつも通り仕事が詰めていまして……もう少し早く来ようと思ってたんですけどね」

 

 

 

 そこには、『黒い触手』と形容すべき存在が居た。

 

 ぱっと見た感じは、黒い巨大な蛸である。

 黄色く輝く目は顔の前に四つ。今は全て、目の前に居る骸骨を射抜くように見つめている――その視線は石化能力を有しているが、アンデッドであるモモンガには関係ない。

 触腕は六本。ただし増やそうと思えば任意で数を増やすことができるので、六本にしているのは単に移動しやすいからであり、戦闘時にはもっとたくさんに増える。蠢くそれらは、触れただけで様々な状態異常効果をもたらす粘液を湛えててらてらと光っている。

 外装は非常にシンプルだ――クリエイトが大きな楽しみの一つといえる『ユグドラシル』のプレイヤーにしては、それが逆に珍しいといえるだろう。

 

 その種族名は、disaster tentacle<ディザスター・テンタクル>。触手系の異形種である。気持ち悪い見た目から、そしてその能力の厄介さと嫌らしさから忌み嫌われる触手系モンスター、その中でも最高位のモンスターだ――冒険者から格別に嫌われているのは言うまでもない。

 

 その触手は、触腕のひとつを上げた――実にわかりづらいが、挨拶のジェスチャーである。

 

 

 

「僕も他のギルメンに会いたいと思ってたんですけど、ね」

 

「――ルタール・ウルさん!?」

 

 モモンガは、思わず大きな声を上げていた。

 まぁ、他のギルメンの中でも、絶対に来ない――否、来れないと思っていた人が来たのだから、それも仕方ないことである。

 

「ご無沙汰してます、モモンガさん」

 

「本当にお久しぶりです! 何時ぶりですか?」

 

「……だいぶ前ですね、本当。一度クビにされてからインしてないから……一年半くらい? いや、大討伐隊が来たとき以来かな?」

 

「もうそんなになるんですかね……リアルでは大丈夫でしたか?」

 

「ええ、まぁなんとか職に就きまして……今でこそぎりぎり食いつないでいる、ってレベルですけど」

 

「お互い大変ですね、本当に……」

 

「まぁ、大丈夫ですよ。なんとかなってます、これからもなんとかなりますよ――多分。まぁ今日は早めに帰ったから給料が半分くらいになるかもしれませんけど。ははは」

 

「笑い事じゃありませんって! ――でも、ありがとうございます」

 

「いえいえ、僕も好きで来たわけですから」

 

 そしてルタール・ウル――ウルは、モモンガの持つ杖を見た。

 禍々しい、どす黒いオーラを放つそれは、『アインズ・ウール・ゴウン』のギルド武器。

 

「――スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」

 

 ウルはその作りこみの細かさと美しさに、思わず杖の名を呼んだ。

 何せ、今始めてギルド長に持たれたのだから、そのエフェクトを目にするのは初めてだ。

 

「そんなに、作りこまれていたんですね――」

 

 作りこみ細かすぎでしょ、とウルがつぶやくのを聞いて、モモンガは微笑む。

 

「――最後は、このギルドの証と迎えようと思いまして」

 

「……ええ、いいと思いますよ。そういうの、素敵で好きです。モモンガさんがギルド長としての権限を使ったことなんてほとんどありませんし、一度くらいなら、きっと皆さんも許してくれますよ」

 

 少しの間、沈黙。

 モモンガは聞きたいことがあった――ウルは読心しているかのように、その考えに答えた。

 

「僕も、サーバー停止まで居るつもりです」

 

「――――――」

 

「そのために来たんですよ――さすがにこんな終わり間際に来て挨拶だけじゃ終わらせませんって」

 

 ちょうどそれについて聞こうとしていたのか、モモンガは口を開き、そのまま閉じる。

 

 モモンガは再度、骨だけの手に握られている杖を見つめた。

 瘴気は人の苦悶の表情を象っては霧散し、また集まって表情の形を作る。

 様々な思い――懐古や寂寥のこもった視線をしばらくの間杖に向けていたが、やがてモモンガは顔を上げた。

 

 今度は、その虚ろな光の宿った落ち窪んだ眼窩が、目の前の触手をまっすぐと見据えている。

 

「――行きましょうか、ウルさん」

 

 いつかのように、親しみをこめた呼び方で、モモンガはウルを呼ぶ。

 

「ええ、行きましょう、モモンガさん――いえ、ギルド長」

 

 黒き触手が触腕を上げて答える。

 やがて二人は、ゆっくりと部屋の外へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 そして、異変は起こった。

 

 

 

 




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