オーバーロード 黒き触手   作:灰男

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幕間

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 モモンガとウルが守護者達の前から転移し、レメゲトンにて言葉を交わす前のことだ。

 

「――なるほど。各員の()()()()()考えは十分に理解した」

 

 守護者達の自分に対する印象を聞いた後、モモンガが鷹揚にうなずく。

 

「――ならば、ウルさんに対する考えはどうだ――シャルティア」

 

 ウルが、『えっ』という顔をする。

 唐突のことであった。

 

(モモンガさんが言われてたみたいなこと言われたら恥ずかしくて死にそう)

 

 言われなければそれはそれで支配者として問題なのだが、言われると今度は支配者としての演技が崩れそうでもあった。

 

「災厄の体現者であります。進む道に立つ愚か者はみなひれ伏し死を待つのみである、モモンガ様と同様なる絶対者でございます」

 

 シャルティアは、モモンガのときと同様に、こちらも迷い無く言った。

 ウルはかなり恥ずかしく思った――ポーカーフェイスは崩さなかったが。

 

「ふむ――コキュートス」

 

「モモンガ様ト同ジク、守護者全員ヲ越エル強者デアリ、ナザリック大墳墓ノモウ一人ノ支配者ニ相応シイ方デ御座イマス」

 

「――アウラ」

 

「慈悲深く、モモンガ様と同等の冷静な判断力をお持ちのお方です」

 

「――マーレ」

 

「ふ、深くご配慮をなさってくださる――お方です」

 

 間が開いたのが、気になった。

 ウルはそこを聞くのが少し怖くもあったが、口を開いた。

 

「……マーレ?」

 

「っ、は、はい」

 

「正直に言ってくれたほうが嬉しいのだけれど」

 

「っ! も、申し訳ありません!」

 

 マーレはものすごい勢いで頭を下げ謝罪した。と同時に、他の守護者の白い目がマーレに向いた。

 ――そしてさらに同時に、全ての守護者の目が、ウルの方に向く。

 怒っていないか、と、誰もの視線に恐怖の色が混ざっていた。

 ウルは触腕を振って怒ってない事を伝える。その程度のことで怒るものか、と思うほど、ウルからすればささいなことであった。

 

「……マーレ、正直に言って見なさい」

 

 モモンガが促すと、マーレはようやく口を開いた。

 

「ふ、深くご配慮をなさってくださるお方ですが……少し、怖いとも思います」

 

 若干怯えながら言ったマーレに、ウルがおもむろに触腕を伸ばす。

 

「っ……」

 

 きゅっと体を固めたマーレの頭に、そっとその触腕が置かれた。

 

「――正直に言ってくれて有難う、マーレ」

 

 その黄色い四つの目が薄まり、少し優しげな表情をした。

 

「……デミウルゴス」

 

 ウルが触腕を戻すのと共に、モモンガが続ける。

 

「極限の冷静さを持つ一方大胆さも持ち合わせたお方。沈着冷静と言う言葉をその身に顕した、豪胆な方かと」

 

「セバス」

 

「至高の方々の中でも上位の実力を持つお方。モモンガ様と同様に私たちを見放さず残ってくださった慈悲深きお方でございます」

 

 そんなに自分は強かったか、とウルは小首をかしげる。

 

「――また最後になったな。アルベド」

 

 アルベドは、小さく考えた――それは至高の四十一人に絶対の忠誠を捧げる守護者にしては少し長い間であった。

 

「――至高の方々の一人であり、モモンガ様と同じく私どもの最高の主人であります」

 

 その笑顔に、ウルはほんの少しの違和感を覚えた。

 ――まるで、作っているかのような。しかし、おそらく気のせいだろうと、ウルはその考えを振り払った。

 

「……なるほど」

 

『滅茶苦茶恥ずかしいんですけど』

 

<伝言/メッセージ>を発動し、モモンガにウルが話しかける。

 なんとか触腕で顔を覆わずに済んだようであった。

 

『俺はアンデッドなので、感情は抑制されるみたいで……ウルさんは大変ですね』

 

『本当ですよ、もう顔から火が出てそうです。火炎耐性は取ってますけどね』

 

「――各員の考えは十分に理解した。それでは、私の仲間達が――」

 

<伝言/メッセージ>で会話しながらも、モモンガは指示をこなす。

 そしてモモンガとウルはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの能力でレメゲトンまで転移した。

 

 

 

 

 

 二人が転移した少し後、守護者達が立ち上がる。

 

「す……すごく怖かったよ、お姉ちゃん」

 

 マーレは他より大きな安堵の息を漏らす。

 

「マーレ!」

 

 アウラがそれを怒鳴りつける。

 

「ウル様に嘘をつくなんて、信じられない!」

 

「ご、ごめんなさい……僕、怖くて……ごめんなさい、ごめんなさい……どうかしてた……」

 

 そこにいないウルに謝るかのごとく、マーレはうつむく。

 自分の感情に任せ、至高の御方々に嘘をつくなど、守護者から、否、アインズ・ウール・ゴウンに所属する者からすれば死に値する行為。

 それをウルはこの上なく広い心で快く赦した――と守護者の目には映っていた。

 

「……今回はウル様が赦してくれたから良かったけれど。今度嘘をついてみなさい、モモンガ様やウル様が赦しても、私が――」

 

「つ、つかないよ!」

 

「まあまあ、マーレに大きく非があるとしても、ウル様はその寛大なる御心と温情を以って赦してくれた。それならもう、アウラが言える事ではないのじゃないかな」

 

 そう言われ、アウラはしぶしぶ引き下がった。

 ウルが赦したのにアウラが赦さない、それは従者にしては傲慢にすぎる態度である。それは主人の決定を否定するということなのだから。

 

「――しかし、モモンガ様のあの力……」

 

「……本当。あたし押しつぶされるかと思ったもん」

 

「流石ハモモンガ様――」

 

 モモンガの絶望のオーラとそのカリスマに中てられた守護者達が、口々に声を上げる。

 スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンによって強化されたオーラは、同格の100レベルNPCに、恐怖効果を与えるまでは行かずとも畏怖は与えた。

 効きすぎるのも逆効果だが、少ししか効かなかった事が逆に功を奏したようだった。

 話はだんだんと、モモンガのすばらしさの話へと変わって行く。

 

「――のどが渇いたかって、モモンガ様は飲み物まで出してくれて」

 

 その一言で、各守護者の気配がぴりぴりとしだす。空気にこめられているのはそれぞれからにじみ出た、色の見えるような嫉妬と羨望。

 空気と同じものがこもった視線をその場にいる全員から浅黒い肌に向けられたアウラは、咄嗟に大きく声を発する。

 

「――ウ、ウル様は! ルタール・ウル様も凄いよね!」

 

 途端にそれぞれの空気が変わる。アウラはほうと息をついた。

 

「……あの方は本当に恐ろしいお方だ」

 

 初めに口を開いたのは、珍しくデミウルゴスであった。

 

「あら、デミウルゴスがそういうだなんて珍しいわね」

 

「ルタール・ウル様はとても底が知れない。モモンガ様が話している間、かの方はずっと静かでいらっしゃった。常に、あの四つの目で、我々を射抜くように見つめていた」

 

 おそらく我々の考えていること全てを見抜いているだろう、とデミウルゴスは一人つぶやく。

 

「確カニ。ソレニ、モモンガ様ノヨウナスキルニヨル特別ナオーラハ発サレテイナカッタガ、ソレデモ圧サレテイルヨウナ感覚ガシタ」

 

「あの方もまた、王の器なのだろうね」

 

「……思ったより、優しいお方でよかった」

 

「物理戦闘では、モモンガ様より強いんだっけ?」

 

「モモンガ様ハマジックキャスターナノダカラソレハ当タリ前ダロウ。シカシ、総合的ニ見テモ――」

 

「お姉ちゃんは、ウル様が力を見せるところとか、見てないの?」

 

「うん。モモンガ様が魔法を使うのは見たけど、ウル様のほうは……」

 

「知力、戦闘力、共に底が知れない……」

 

「……ただわかるのは、あの方もモモンガ様と共に我々の造物主であり、絶対の支配者であるということよ」

 

 底が知れようと知れまいと、私達のために残っていただいた方であるのには違いない、という顔をアルベドはしている。

 他の全ての守護者はそれに対し大きくうなずく。

 強さがどうだろうと、賢さがどうだろうと、判断力が、冷静さが、カリスマが、王としての器があろうがなかろうが。

 そんなことは問題じゃない。自分達のため残ってくれたのには変わりないのだ。ならば極限の忠義を尽くし身を捧げるのが従者としての務めだろう。

 全員が、そんな考えで頷いたのだった。

 

「――私は先に戻ります。モモンガ様とウル様がどこに行ったかは分かりませんが――」

 

 アルベドの言葉を了解という言葉で断ち切り、セバスは小走りで去って行った。

 その後、シャルティアがアルベドと喧嘩したりコキュートスが夢想に走ったりなんやかんやするのだが、それはまた別のお話である。




閲覧いただきありがとうございました。
なんだか本編より長くなっちゃいましたね。
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