夏目友人帳 小噺集   作:詩諳

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久しぶりの更新で文章の雰囲気が変わっているどころかずっと読み専だったので文章力落ちています。
長いこと更新せずに申し訳ありませんでした。


お狐様の物語:2

 その翌日夏目達は狐殿へと向かった。

西村の先祖が狐殿から盗んだという装飾品は櫛と色褪せた元結だった。

 

 「なんで女性の装飾品と男性の装飾品の二つがあるんだ?」

 「お狐様って性別分からなかったっぽいよ。元々神様に性別あるか分かんないけど、そういうのって見た目で判断できる部分もあるじゃん? ほらこれ、お狐様の姿絵っぽい何か」

 「墨絵ってやつか」

 

 西村が見せた古い和紙には墨の濃淡だけで描かれた一人の立ち姿が描かれていた。

髪は腰まであり、それなりに背も高い様子で、尾が5本ある。

だが着ている物はどうやら男物の着物のようだ。

顔は墨と黄ばみで汚れてよく見えない。

 

 「髪が腰まであるのに男物の着物だな」

 「想像の産物だと思うけど、一応な。……お、見えてきた。あれが狐殿。お狐様のおわすお社だ」

 

 見えてきたのは殆ど半分焦げて燃え尽きている古い本殿と、短めの石畳。鳥居も苔が生えている。

柔らかく差す陽の光が神秘的な雰囲気を醸し出している。

 

 「朽ちかけって言葉が似合うけど、あの旅館が出来てからは少し手入れしているみたいだな」

 

 北本が本殿の境内を見てそう言った。

確かに他の部分と比べて境内だけは綺麗に掃除してあって、僅かに積もる塵が陽光に照らされて輝いているように見えた。

蜘蛛の巣も張っていない。

 

 「旅館にとっては一番の名物だろうからなぁ……。さて、さっさとこれ返して謝って旅館帰ろーぜ」

 

 西村が境内に風呂敷を敷いて、その上に櫛と元結を置く。

三人で手を合わせ、西村が、ご先祖様の代わりに返しに来ました。盗んでしまってすみませんでした、と謝って礼をした。

さわさわと吹く風が木々を揺らし、優しい音を立てる。

その風が段々強くなっている気がして夏目が顔を上げると、そこに昨日旅館の大風呂で出会った青年……空乃が立っていた。

 

 「!」

 「しぃ……」

 

 唇に人差し指を立てた空乃は風呂敷で櫛と元結を包むと持ち上げ、本殿の奥へと消えていった。

その瞬間強い風がゴォッと吹いて、木々がざわめいた。

 

 「な、なんだなんだっ」

 「……随分強い風だったな。夏目、大丈夫か?」

 「……あ、あぁ……」

 

 流石に西村と北本も顔を上げて辺りを見回した。

その時、西村があっ! と声を上げる。

 

 「装飾品がない!」

 「……本当だ……」

 

 さっきの風で飛ばされちゃったのかなぁ……と頭を掻く西村。

北本が探そうと言って、三人で周辺を探す事になった。

夏目が一人になり、本殿の裏に回った時だった。

 

 「やぁ夏目」

 「うわぁっ!」

 

 いきなり声をかけられて夏目が振り返ると、そこには空乃がいた。

風呂敷包みを持ったままだ。

 

 「あ、あの、空乃さん……」

 「ふふふ、驚いたかい? 昨日話したと思うけれど、お狐様は長く生きた力のある妖怪なんだ。あの程度は造作もない」

 「じゃあ、貴方が……」

 

 夏目が驚きのまま尋ねると、空乃は頷いた。

 

 「そう、私がお狐様。かつて妖怪の子を宿した少女を守り、この地に祀られた狐の妖怪さ」

 

 ザァァ……と風が吹いた。

**************************

 その後合流した夏目達は、結局装飾品は見つからず、風に持って行かれたからしょうがないだろう、と結論を出した。

とにかく西村の用事だった装飾品をお狐様に返す、という目的は達成できたので、後はゴールデンウィークを目一杯ここで過ごそう、という事になった。

とはいえ狐殿以外に観光名所があるか、と問われると特になにもない、と仲居さんは言う。

近くに川があるから、川釣りなんていかがでしょう? と勧められて、三人は借りた釣り竿とバケツを持って川へと向かった。

さらさらと流れる透明な水流に、何匹も魚がいるのを見つけた夏目達は、それぞれ別々の場所で釣りをしよう、と自分のベストスポットを探しに行った。

夏目も少し岩のせり出した場所で釣りをしようと竿を振った。

暫くその場でジッと待っていると、すぐ横に誰か立った気がして其方を向く。

 

 「静かな場所で一人釣りをするのも中々楽しいものらしいな? 夏目」

 「うわぁぁぁっ!!!」

 

 そこにいたのは空乃だった。

 

 「夏目-? どうしたー?」

 

 遠くから西村の心配する声が上がる。

 

 「すまん西村! ちょっと足を滑らせただけだ!」

 「気をつけろよー!」

 「ああ! ……で、なんでここにいるんですか、空乃さん」

 

 なんとか誤魔化すと、空乃は可笑しそうに笑った。

 

 「いやぁ、楽しそうな声が川の方からするから、つい足を運んでしまって。一緒に見ていても良いかな?」

 「……別に……構いませんけど」

 「ありがとう」

 

 それから暫く糸を垂らしていたものの、中々魚が釣れる気配はない。

遠くから西村の6匹目-! という声が上がる。

 

 「……場所悪いのかな……」

 

 一人ぼやいた夏目に、空乃が言う。

 

 「だと思うなぁ……。夏目、あそこに小さい社が見えるだろう?」

 「えっ」

 

 空乃が示した方向に、確かに小さな社があった。

赤子しか入れなさそうな大きさの社で、水に濡れて苔むしている。

全く手入れされていないような有様だった。

 

 「……あの社は?」

 「……あれは……まぁ、あんまりよろしくないものの為の社だよ。狐殿が焼かれる少し前に建ったもので、色々……あったのさ。そのせいか……あまり動くものはこのあたりに近づかないんだ」

 

 社を見つめる空乃の眉が僅かに下がる。

なんとなく悲しんでいる雰囲気を感じ取った夏目はそれ以上は触れず、釣りに集中した。

結局夏目は一匹も釣ることができず、西村に笑われ北本に慰められる、という形でその日を終えた。

**************************

 「……これか……」

 

 その後、深夜。

一人の男が川の近くの社の前に立った。

男は手に持った金槌で社の扉を割り、中にあった丸く薄い石の板を持ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

 『……おかーさん……どこ……?』


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