読み返して夏目っぽくないと感じたら……修正すると思います……。
誤字脱字報告ありましたらよろしくお願いします。
それから夜が明けて、その日は一日ひどい大雨が降っていた。
「うわ、ひっでぇ雨。これじゃ遊びに行けないなぁ……」
西村が窓の桟に頬杖をついて愚痴を言った。
「昨日はあんなに晴れていたのにな。それに天気予報だってずっと晴れマークだったし……」
荷物の整理をしていた北本が西村に同意する。
今日でゴールデンウィークも三日目。
明日にはチェックアウトして、家へ帰るのだ。
「……あれ、外にいるの夏目のとこのブタ猫じゃないか?」
「えっ」
西村の言葉に慌てて夏目が窓の外を見ると、白い大福のようなものが跳ねている。
こころなしか泥水に濡れて汚く見える……。
「なんでこんな雨の日に外なんか……。俺、連れ戻してくる!」
「気をつけてな-!」
夏目が旅館からビニール傘を借りて外へ駆け出す。
捕まえたら絶対拳骨落としてお説教してやる! と意気込みながら。
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「ニャンコせんせーい? どこだー?」
探し始めてどのくらい経ったのか、未だに夏目はニャンコ先生を見つけられずにいた。
旅館と狐殿を挟んだ森には昨日釣りをした川があり、この大雨で近づくのはあまりよくない。
なるべく川に近づかないように森を歩き回っていると、視界の端に白いものが見えた気がして、夏目は慌ててそれを掴んだ。
「うわぁっ!?」
「捕まえたぞせんせ……い?」
自分の(自称)用心棒のブタ猫を捕まえたと思った夏目だが、捕まえた白いものは妙に毛深く、そして悲鳴もニャンコ先生のものではなかった。
「……なーつーめー!」
はたして、夏目が捕まえたのはニャンコ先生ではなく、眉をつり上げた空乃の尻尾だった。
「空乃さん!? ご、ごめんなさい!」
「いきなり掴まれたから本当に驚いたよ。今回は許すけど、次はないからね?」
眉をつり上げたままムスッとした表情で告げた空乃に、夏目はコクコクと頷いた。
「……で、こんな大雨の日に夏目は一体何故外にいるんだい?」
夏目が空乃に自称用心棒の飼い猫(妖怪)ニャンコ先生がいなくなった事を話すと、空乃は考え込んだ。
「もしかしたら昨日ここに入ってきた気配を探りに行ったのかも知れないね。もしくはこの雨の原因を見に行ったか」
「ここに入ってきた気配……ですか?」
「そう。二人位の人間の気配で、妙に術の気配を漂わせていたから、たぶん祓い屋だろう」
「祓い屋……」
その時夏目の脳裏に過ぎったのは、胡散臭さ全開の友人、名取周一。
そして的場家当主の的場誠司とその秘書っぽい人の七瀬だった。
「どうしてここに来たかは大体把握できてるんだ。きっと社の封印を解いた者と仲間なんだろう。大方あの子を自分の支配下に置こうと思っているんだろうね」
「あの子?」
空乃はあぁ、と言って川の方向を向いた。
「昨日、川の社の話はしたね? あの社は水の力を自在に操る事ができる子が封印されていたんだ。人を心の底から怨み、憎み、呪ってしまうようになってしまった子だ。そうなる前はとても仲がよかったんだけれど……」
当時の人間が、少しでもその心が安らぐように水辺に社を建てたのだという。
「私から言わせてもらえば逆効果なんだけどね。この雨はその封印が解けた所為で降っているんだよ」
「えっ、解けたんですか!?」
空乃は頷くと、あくまで想像でしかないけど、と話し出した。
「昨日の深夜にね、一人の人間が川の社の封印を解いてしまったんだ。あの子は自由の身になって、まず始めたのが雨を降らすことだった。恐らくその人間は後から入ってきた二人の人間の部下か何かだったんだろうね。雨が降り始めたことを確認した二人の上司は、あの子を従えようと森に入ってきた」
人間は傲慢だよね、と空乃はいつになく怖い顔で笑った。
そのせいでこの大雨さ、と掌を椀のようにして雨粒を受け止める。
「たぶんその子の気が済むまでこの雨は止まないから、夏目も友人と一緒に早く帰った方がいいよ。君の用心棒は私が探して森の出口まで送っていくから」
人間には大学寮みたいなものがあって、今はちょっと長めのお休みなんだろうけど、もうすぐそれが始まるんだろう? と空乃は言った。
大学寮とは平安時代、貴族の子どもが通っていた学校のようなものである。
「ちょっと待って下さい! この雨、止まないって……」
「言葉の通りだよ。人間にとっては困るだろうけど、昔と違ってこの辺りは全部森だ。旅館の人達はこの辺りの出身で、言い伝えの大雨が降ったと判断したら避難してしまうしね」
「言い伝え……」
「お狐様の伝説の方が有名であんまり知られていないけど、この辺りは昔、人身御供の流行った地域なんだよ。その供物の中に、一人の特殊な子がいて、その子の苦しみと悲しみ、怨みと憎しみがいつか激しく止まない雨を降らせるだろう、とね」
だから早くここから離れた方が良い、と空乃は言った。
「そ、空乃さんは……?」
夏目が空乃を案じて問うと、空乃は目を丸くして、それから夏目を安心させるように笑った。
「私は大丈夫。それにね、私はどうあってもここから動くことは出来ないんだ」
聞けば、お狐様として祀られた所為で、狐殿の周辺から離れられないのだという。
精々この森の中が限界だ、と空乃は笑った。
「水は川になり、川は海へと流れる。あの子の気持ちが全て流されて満足したら、きっとこの雨も止むだろう。
幸い狐殿は川から少し離れているし、濁流に呑まれることもないだろう」
「そんな……」
不確かなことに夏目が動揺すると、空乃は夏目の頭を撫でて言った。
「大丈夫だよ、夏目。そもそもこれはこの地の人間と、その人間を止められなかった私の問題だしね。夏目は今まで通り、人間と妖怪の狭間で穏やかに、健やかに育てばそれでいい」
そう言って空乃は川の方へ去って行った。
封印から解放された、仲のよかった子の様子を見に行くのだろう。
夏目はただ、そこに佇むしかなかった。
そして、呆然としている夏目の背に白い大福がぶつかった。
「うわぁっ!」
「おい夏目、お前ここで何をしている!」
夏目の探し人……もとい猫、ニャンコ先生だった。
まっしろいもちもちボディは泥に汚れてかなり汚い。
「先生! 今までどこにいたんだ!」
夏目がそう問うと、ニャンコ先生はフン、と鼻を鳴らして言った。
「妙に馴染みのある気配がすると思って見に行ったら、名取の小僧と的場の当主が二人してこの森に来ていたのでな。様子見をしつつこの気持ち悪い雨がどうにかならんものかと雨宿りをしていたんだ」
「名取さんと、的場さんが一緒に……」
「ああ。なんでも的場一門の何某とかいうのが一門から離反して禁術を行おうとしていたらしくてな。それを止めに来たんだが、肝心の術者は術の反動で動けなくなっていたらしい」
今はその術者の後始末の為に情報を集めているのだという。
「じゃあ、名取さん達は……」
「少なくともあの空乃とかいう狐の妖上がりの神擬きが言っていたように、封印されていた半妖が目当てではなかった、ということだ」
「そっか、良かった……。……半妖?」
ニャンコ先生の言葉に安心したが、最後の言葉に疑問が湧いた。
「そうだ。あの川の社に封印されていたのは、人間と妖の子ども、つまり半妖の子どもだ」
それを聞いた夏目の記憶が、旅館で温泉から上がった時に聞いた、この地にのみ伝わるお狐様の伝説にあった、お狐様が守った少女と、その子どもの事を思い浮かばせた。
宿った命に罪はない、と少女は怖がりながらも腹を撫でていた。
そんな少女を見ていた妖狐は、決意した。
少女を守ろう。力を削ってでも、少女を、その子を守り抜こう。
妖狐は、そう決意したんだ。
色が変えられることに驚きました……。あとタグが簡単で嬉しかったです……。