インフィニットでストラトスな短編集   作:キラ

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はじめまして、あるいはお久しぶりです。キラと申します。
あらすじの通り、ISの短編集を書き始めました。設定の隙間を埋めるとかそういうのではなく、単純にキャラ同士の交流を描くような感じになっています。


今こそ絆を深めるとき!(前編)

 平和な街に巣食う闇。

 それらは人の心を弄び、繁殖を繰り返している。

 

「ひ、ひぁ……」

 

 この女性も、その闇に狙われた不幸な人間のひとり。誰もいない路地裏に追い詰められた彼女の視線の先では、彼女の理解を超えた存在が不気味に笑いながら立っていた。

 

 

「もう逃げられんぞ」

 

 体色は黒。2本の角を頭に生やし、鎌を構えている姿は、まさしバケモノと形容するにふさわしい。

 バケモノは威圧するように言葉を発し、ゆっくりと彼女の方へ歩み寄ってくる。

 

「あ、あ、嫌……」

 

 後ずさりするも、すぐに背中が壁にぶつかってしまう。右も、左も、どこにも逃げ道はない。

 

「さあ、絶望しろ」

 

 バケモノが言う。

 同時に彼女は理解した。もう、逃げられないのだと。

 体中の力が抜けて、そのまま地面に腰が落ちる。冷たい汗が、全身から噴き出していた。

 視界はすでに、眼前まで迫ってきたバケモノの体で埋まっている。

 彼女が浮かべた表情は、まさに絶望――

 

「そうはさせない」

 

 男の声が聞こえたのと、火薬が弾けたような音が聞こえたのは、ほとんど同時だった。

 

「ぐあっ!?」

 

 バケモノがよろめき、うめき声をあげながら建物の壁によりかかる。それによって視界が開け、彼女はバケモノの後方に銃を構えたひとりの青年の姿を捉えた。

 

「貴様、魔法使いか!」

 

 振り返ったバケモノは、驚きと怒りが入り混じったような叫びを青年にぶつける。

 

「その通り」

 

 対して青年は恐れることもなく、ひょうひょうとした態度を崩さない。銃をいったん下ろすと、彼は何やら指輪のような赤い物体を取り出した。

 

「そして、俺が最後の希望だ」

 

 青年の腰のあたりに、銀色のベルトが出現する。彼は指輪を左手にはめ、流れるような動作でそれをベルトにかざした。

 

「変身」

 

 奇妙な電子音とともに、青年の隣に大きな赤い円が現れる。それはゆっくりと彼の体を通過していき、同時に起きたある変化に彼女の視線は奪われた。

 

「ぬう……」

 

 円が通過した部分から、青年の体が鎧に包まれていく。バケモノの唸り声も、今の彼女の耳にはきちんと届いていなかった。

 やがて円が彼の体を完全に通り過ぎ、役目を終えたかのように消滅する。青年は、仮面の戦士に姿を変えていた。

 その光景に、彼女は思わず心を奪われてしまった。今も自分の目の前にはバケモノがいて、いつ殺されるのかわからない状況なのにもかかわらず、だ。

 彼女の心の中で、『きっと自分は助かる』という思いが生まれ、大きくなっていく。なぜかと問われれば、答えはもちろん決まっている。

 

「さあ、ショータイムだ」

 

 彼自身が言った通り、赤い仮面の戦士が、彼女にとっては『希望』に見えたからだ。

 

 

 

 

 

 

「というわけで、思った以上に面白かった。いやほんと、予想外に」

 

「そう……なの」

 

「特撮は子供っぽいとか思って卒業したつもりだったんだけどな。今見るとまた違った良さがあるというか……来週から日曜朝はテレビにかじりつくことになりそうだ」

 

「気に入ってもらえたようで、なにより……」

 

 専用機持ちによる全学年合同タッグマッチがお流れになってから1週間後。寮の部屋で本を読んでいた私のもとに、突然一夏が訪ねてきた。何の用かとどぎまぎしたのだが、どうやらこの前貸したアニメや特撮のDVDを返しに来たらしい。色々な作品を見てもらいたいと考えて結構な量を渡したのだが、もう全部観終わったのだろうか。

 

「やっぱり……仮面ライダーが面白かった?」

 

「そうだな。他のもそこそこだったけど、一番はそれだ」

 

 今回貸したのは、仮面ライダーシリーズの中でも『魔法』を題材にした一作。ヒーローが皆を救うという王道展開の要素が強いため、私の中のライダーランクでも上位に位置している。

 

「魔法が希望の象徴だっていうわかりやすさがいいよな。主人公もちょっとキザなところあるけど熱いキャラだし、やっぱヒーローってのはああじゃないと」

 

「うん、わかる……私も同感」

 

 感想を語る一夏の饒舌っぷりを見るに、彼もすっかりハマってしまったようだ。時折見せる無邪気な笑顔に、思わず胸がどきっとする。

 

「買おうとまでは思わないけどさ、1回くらいはおもちゃのベルトで遊んでみたいんだよなあ」

 

「ベルトで……?」

 

「そうそう。簪は考えたことないか?」

 

「私は……ない、と思う……」

 

 ヒーローではなく、ヒーローに救われるヒロインに憧れた事なら、たくさんあったけれど。

 試しに、一夏がベルトを巻いて変身ポーズをとる姿を想像してみる。

 

「……ぷっ」

 

 笑ってしまった。変身後の決め台詞まで再生してしまったのが間違いだったかも。

 

「……ちょっと傷ついたぞ、今の」

 

「ご、ごめんなさい……でも、あなたにああいうのは合わないかも」

 

「……ま、それは言えてるな。買う気はないし、冗談ってことで流してくれ」

 

 あのライダーは動作がスタイリッシュだし、一夏が真似る対象としては何か違う気がする。もっと一生懸命さが前面に押し出されたものの方が合っているだろう。たとえば、別作品の青いクワガタのライダーとか。

 

「あ、そうだ。もし他の仮面ライダーのDVD持ってるなら貸してほしいんだけど。なんかあるか?」

 

「うん、たくさんある……」

 

 気分がいつになく高揚しているのを感じる。なぜだろうか。

 好きな人――一夏と仲良く話せているから? それもあるけど、一番の理由じゃない。

 

「これは……どう? 一応、私の一番好きな仮面ライダー……」

 

「おお! それは期待大だな、サンキュー簪」

 

 一夏に限らず、誰かとこうして好きな作品について語り合えること。それ自体が、すごくうれしい。

 

「あ、の……一夏」

 

 今なら、少しだけ勇気を出せる気がする。勢いそのままに、言ってしまえるかもしれない。

 

「よ、よかったら……一緒に、映画に……あ、あの、今仮面ライダーの劇場版がやっていて、だかりゃ」

 

 ……支離滅裂なうえに、途中で噛んで言葉が強制終了してしまった。

 

「う、うぅ……」

 

 恥ずかしさで頭を抱えたくなる。どうして私はこう、はっきりとものを言うことができないのだろうか?

 

「簪」

 

 自己嫌悪のスパイラルに陥りかけていた私の肩を、一夏が軽く小突いてきた。視線を移すと、彼はちょっぴり唇の端をつり上げていたずらっぽい笑みを浮かべていた。

 

「仮面ライダーの劇場版がやってるから、なんだ? ちゃんと最後まで言ってくれないと、俺もなんて返事をすればいいかわからないぞ?」

 

「………」

 

 その言葉に、私を責める類のものは含まれていない。ただ純粋に、私の話の続きを求めている。

 背中を優しく押されたような気がして、私はもう一度、ゆっくりと口を開いた。

 

「よかったら、一緒に映画に行ってくれませんか」

 

「ああ、喜んで」

 

 

 

 

 

 

 ありったけの勇気を振り絞って実現した、想い人との初めてのデート。

 映画は何時からのものを見るのか、映画を見た後はどうするのか。スケジュールを念入りに組み、一夏の合意も得て無事決定。

 加えて、もっとも頭を悩ませたのは服装だった。制服と室内着、およびISスーツを着た姿しか見せたことはないので、彼にちゃんとした私服を披露するのは初めてのこととなる。気負うのも当然というものだ。

 一夏はどんな雰囲気の服が好みなのか。それ以前に、私自身に似合う服装はどれなのか。

 考えた。考えて、考えて、考え抜いた結果。

 

「あれ? 簪、制服で来たのか」

 

「……うん」

 

 やっぱり、私って駄目な子だ。次、次一緒に出かける機会があったら、絶対に私服で来るから……!

 今は、これで許してほしい。

 

「それじゃ、さっそく映画館に行こうぜ」

 

「わかった……」

 

 時刻は午後1時。待ち合わせ場所だった駅前から移動し、近場の劇場に向けて歩き出す。なぜ一緒に寮を出なかったのかというと、一夏は午前中に別の用事があったらしく、早い時間に外出する旨を伝えられていたからだ。

 

「上映開始は1時45分だったよな」

 

「うん……十分、間に合う」

 

「だな」

 

 ここから目的地までは10分ほど。パンフレットや飲み物などの購入時間を考えても、余裕が残るはず。

 

「簪は、アニメや特撮の映画はよく観に行くのか?」

 

「結構……頻繁に。でも……誰かを誘ったのは、今日が初めて」

 

「そうか。それは光栄だな」

 

 軽い口ぶりで笑う一夏。……私としては、それなりに特別な思いをこめた言葉だったのだけれど。でも、今のは察しろという方が無茶な部類に入るかもしれない。なんでもかんでも彼の鈍感のせいにするのは、やっぱりよくないと思う。

 

「でも、恥ずかしいとかなかったのか? 周りが小さい子と親御さんばかりの時とかさ」

 

「え……?」

 

 確かに、子供向けの作品を観に行った際、親子連れに囲まれたことなら何度かある。その時はまったく意に介することなく映画に集中していたのだが、あれはひとえに他人との間に壁を作っていたためではないだろうか。

 ……今は、曲がりなりにも他者と接することの大切さみたいなものを学んだ状態だ。それを踏まえて、もう一度他人の目というものを考えてみると。

 

「……なんだか、思い出したら急に恥ずかしくなってきた……」

 

「えっ!? ああいや、そんないきなり落ち込まれても困るというか」

 

「あれ? 一夏じゃねーか」

 

 若干鬱になりかけたところで、男の人の声が一夏の名前を呼ぶのが聞こえてきた。

 

「弾か。おっす、元気にしてるか……って」

 

 一夏の知り合いらしき男の人は、赤みがかった茶髪を長く伸ばした、いかにも現代の男子高校生という感じの風貌だった。それは問題ないのだが、私も一夏も、彼の隣に立っていた人物に気づいて目を見開く。

 

「こんなところで会うとは奇遇ですね。簪さま、それに織斑君」

 

「う、虚さん!?」

 

「どうして、ここに……?」

 

 予想外もいいところで、一夏の友人と一緒にいたのは虚さんだった。いったい、どういう接点が2人に……?

 

「か、簪さま? 一夏、お前またすごそうな女の子連れてるな……だがしかし! 今日は俺もお前と同じ立場だ。なんつったって、虚さんと初デートの真っ最中だからな!」

 

「そうはっきり宣言されると、なんだか恥ずかしいわね」

 

「マジでか……ちゃんと進展してたんだな、お前と虚さんの関係」

 

 事情をよく理解できないうちに3人だけで話が進んでしまっている。このまま置いていかれると、疎外感がどんどん大きくなってしまいそうだ。

 

「あ、あの……」

 

「ん? ああ、悪い悪い。簪は弾とは初対面だったよな。紹介するけど、こいつは俺の友達の五反田弾だ。それで弾、ここにいるのが更識簪。前にあった更識楯無さんの妹だ」

 

「なるほど。それで虚さんが様づけしてたわけか……更識さん、はじめまして。いつもウチの鈍感バカが世話になっています」

 

「こ、こちらこそ、はじめまして……」

 

「簪? 俺に対する鈍感バカというセリフは訂正してくれないのか」

 

「事実、だから……」

 

 一夏の抗議の声を流しつつ、五反田さんと挨拶をかわす。一夏と虚さんが仲良くしているのだから、きっと彼もいい人なのだろう。

 

「それで、一夏と更識さんはどこに向かってるんだ?」

 

「映画館だ」

 

「映画館デートか、王道だな。何の映画観に行くんだ?」

 

「仮面ライダー」

 

 ためらう様子もなく答える一夏。先ほどのやり取りをまだ引きずっている私は、他人に子供向け映画を観に行くことを教える彼の行動に少し不安を煽られる。

 

「仮面ライダーだあ!? お前この歳にもなって、しかもデートにそれって」

 

「簪さまは昔からヒーローものが大のお気に入りでしたからね。私自身も、あのような王道作品はいいものだと思っていますよ」

 

「やっぱ仮面ライダーって最高だよな! 一夏も更識さんもいいセンスしてるぜ、すごい!」

 

「俺はお前の手の平の返しっぷりの方がすごいと思う」

 

「あ、あははは! それじゃあ、俺達はそろそろ行くから楽しんでこいよ。虚さん、行きましょう」

 

 一夏の冷たい視線に耐えかねたのか、五反田さんはそそくさと私達から離れていく。

 

「では簪さま、織斑君。また学園でお会いしましょう」

 

 優雅に一礼してから、虚さんは五反田さんの後を追って行った。

 

「結構距離も近かったし……案外相性いいのかもな、あの2人」

 

「そう……なのかも」

 

 遠ざかっていく2つの背中を眺めながら、私達も気を取り直して映画館に向かうことにした。

 

「さっき、ひとりで映画観に行ってたのが恥ずかしくなってきたって言ってたよな」

 

 道中で、一夏が思い出したようにそんなことをつぶやいた。私が頷くと、彼は笑ってから、

 

「今日は俺がお前のそばにいるから、恥ずかしがる必要なんてないぞ」

 

 なんて歯の浮くようなセリフを、堂々とのたまった。

 

「……ずるい」

 

「え? ずるいって、何がだ?」

 

「ずるいったら……ずるい」

 

 そういうことを、照れずにはっきり言うなんて、ずるい。

 体温が上がっていくのを感じながら、私は一夏に顔を見られないようすたすたと映画館への道を歩き続けた。

 

 

 

 

 

 

「いやー、やっぱり戦闘シーンはスクリーンで観ると映えるな」

 

「だから、劇場版は映画館で観るに限る……」

 

「今ならその言葉がよく理解できるよ。ストーリーも良かったし、文句なしだ」

 

 2時間弱の映画を観終わった後、私達は近くの喫茶店で休憩がてら作品の感想を語り合っていた。一夏も満足してくれているようで、彼を誘ってよかったと改めて感じる。

 

「ラストの最終フォームへの変身が本当にかっこよくて……簪?」

 

 ヒーローの映画を見て、テンションが上がっていたのかもしれない。

 普段なら絶対言えないことを、私ははっきりと彼に向かってぶつけていた。

 

「……ありがとう」

 

 私の口から出たお礼の言葉に、一夏は驚いたふうに目を見開く。

 

「あなたのおかげで……大切なことを、たくさん知れた」

 

 他者と触れ合い、助け合い、何かを成し遂げること。

 他者と何かを共有し、語り合い、めいっぱい楽しむこと。

 これらが与える喜びを教えてくれたのは、紛れもなく一夏だ。

 

「だから……あなたは、私のヒーロー……完全無欠じゃなくても、ヒーローだから」

 

「……ヒーロー、か」

 

 ど、どうしよう。

 言ってしまってから、私の心に不安の波が押し寄せ始めた。

 ……確かに告白っぽいセリフになっちゃったけど、ヒーローなんて表現じゃ唐変木の一夏はきっと気づかない、よね。ああでも、万が一、億が一正しく意味を理解しちゃったらどうしよう。別に今すぐ返事は求めていないけど、でも――

 

「悪いけど、俺はお前のヒーローにはなれない」

 

「……え?」

 

 返ってきたのは、明確な拒否の言葉だった。

 

「……それって、どういう」

 

 一夏の意思を図りかねて、気づけばそう聞き返していた。のどはカラカラに渇き、頭は少しぐらぐらしている。

 

「そんな顔しないでくれよ。というか、まず言い方が悪かった。ヒーローになれないっつーか、俺だけじゃヒーローにはなれないって言いたかったんだ」

 

「………?」

 

 首をかしげる。私の想像した最悪の内容とは違うみたいだけど、果たして一夏は何を言おうとしているのだろうか。

 

「俺は知っての通り、まだまだ未熟で弱い。だから、ひとりじゃ簪を助けられないことだってあると思うんだ」

 

 だけど、と。そこでいったん言葉を切ってから、一夏は私の目をじっと見つめる。

 

「けど、もしお前が助けを求めるようなことがあったら、たくさんの人が立ち上がってくれる。俺だけじゃない、楯無さんやのほほんさん、虚さん。他にもいろんな人が、簪のために動いてくれると思う。だって、みんな簪がいいやつだってことを知ってるから」

 

「……一夏」

 

「その時は、俺達みんなが合わさって、お前のヒーローになってみせるよ」

 

「みんなが……ヒーロー……?」

 

 一夏の言葉が、その裏に隠れている思いが、だんだんと理解できてきた。

 

「簪が頑張れば、そのぶんみんなが応えてくれるさ」

 

 ――そこでようやく、私の中で何かが吹っ切れた。

 

 ようやく気づいたのだ。ただ享受するだけでは、何も得られはしないということに。

 今のままでは、昔の私と何も変わっていない。ただ、依存する対象がヒーローアニメから一夏やお姉ちゃんに移っただけ。

 そうじゃない。それじゃいけない。私の方から、働きかけなければならないんだ。

 私が誰かと関わって、私が誰かを助けて、私が誰かに助けられる。それが、きっとあるべき形。一方的な依存からは、何も生まれない。

 私がいいやつだと知っているから、みんな私を助けてくれるはずだと一夏は言った。この場合の『みんな』とは、私が今までに関わってきた人達のことだろう。私がいいやつであるかどうかは別として、彼の言い分だって『私と触れ合った人達だからこそ私のために動いてくれる』ということだ。

 

 自分から動かなければ、世界は変わらない。

 

 ヒーローに救われるヒロインだって、何もしていないわけじゃない。何かを頑張って、あがいて、精一杯生きているからこそ、ヒーローは彼女らに救いの手を差し伸べるのだ。

 

「ねえ……」

 

 だから、私がやるべきことは。

 

「今度、お姉ちゃんにも……アニメとか、特撮とか、勧めてみようかな……」

 

 小さなところからでもいいから、あの人にもっと歩み寄りたい。

 

「そりゃいいな。きっと楯無さん、喜ぶと思うぜ」

 

「大丈夫かな……ちゃんと、観てもらえるか、心配で……」

 

「簪が頼んだら、あの人は仕事放り出してでも観るだろ。観たうえで面白いと思ってもらえるかどうかは別問題だが……そんなこと、恐れていても仕方ないしな」

 

「うん……それは、わかってる」

 

「なら大丈夫だ。どーんと行ってこい」

 

 そう言って、一夏は優しく微笑んでくれた。

 

「……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

「かーんちゃん、遊びにきたよ~」

 

 その日の夜。ルームメイトが外出中のためひとりで部屋にいたところ、本音がえへへと笑顔を浮かべながら訪ねてきた。

 

「おりむーとのデートは楽しかったー? ……うわっとと」

 

 足もとに置かれていたDVDを踏んでしまいそうになり、バランスを崩した本音はいやにきれいな動作でベッドに倒れこむ。……少し、物を散らかしすぎていたかもしれない。

 

「わあ、ふかふかだ~」

 

「本音の部屋と、同じベッドでしょう……?」

 

「隣の芝生は青いというお話なのです」

 

 ……よくわからない。

 

「それにしても、ずいぶんたくさんDVD出してるねー。何してるのー?」

 

「お姉ちゃんに、何か観てもらおうと思って……どれにしようか、考え中……」

 

「そうなんだあ」

 

 心なしか、本音の声には喜びの色が表れているような気がした。シーツに顔をうずめてふかふかを堪能しているため、どんな表情をしているのかは読み取れないけど。

 ……改めて振り返ると、彼女には心配ばかりかけてきたと思う。いろいろ面倒な人間である私の傍にいて、幼馴染として優しく接してくれたことには、感謝してもしきれないだろう。

 

「……本音」

 

「なあに、かんちゃん?」

 

「本音もどれか、アニメ見てみる……?」

 

 自分の趣味を他人に勧めるのは、これで2回目だ。最初の時ほどは、特別な勇気を必要としなかった。

 

「ほんとに? うれしいなあ~」

 

 シーツから顔を上げた本音は、満面の笑顔でとことこと私の方に近寄ってくる。

 そんな彼女の様子につられて、私も思わず笑ってしまうのだった。




トップバッターは簪さんでした。原作8巻がまだ出ていない以上、この話と原作の間で大きな矛盾が生じる可能性はありますが、その時は仕方ないですね。

10月に仮面ライダーの映画はやってないだろというツッコミは……IS世界では秋にも劇場版が放映されるということにしておいてください。もしくは何かの記念で秋に特別上映ということで……

簪は現在放送中のウィザードがお気に入りだと予想しています。理由は本編で語っている通りです。逆に555とかは苦手なのかな……いやでも案外いけそうな気もします。

基本的に今回のような短いストーリーを今後も投稿していくことになります。よろしければ次回も読んでいただけるとうれしいです。

次回は後編……ではないです。そもそも前編と書いてはいますが、お話自体は今回でわりとすっぱり切れているので、次はまったく別の短編を仕上げる予定です。こういう短編集だと次がどんな話なのか読者の方にはさっぱりわからないと思うので、一応タイトルだけ書いておきます。

次回サブタイトル「ラウラは友達が少ない」

感想等あれば書いていただけると喜びます。
今後もよろしくお願いします。
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