インフィニットでストラトスな短編集   作:キラ

4 / 4
更新遅れて申し訳ありませんでした。


今こそ絆を深めるとき!(後編)

 IS学園の生徒会長という肩書きが持つ意味は、通常の学校のそれとは似て非なるものである。

 その役職に求められるのは、生徒のトップに立つことのできるカリスマ性だけではない。肉体的に強者であること、『学園最強』であること。これを守れなければ即座に地位を剥奪される。何をもってこういうルールが生まれたのかは知らないが、この分野においてIS学園はまさしく世紀末ワールドである。

 

「そこに不満があるわけじゃないんだけど」

 

 更識楯無。

 私に与えられた名前の重みを考えれば、常に生徒の挑戦を受けて立つくらいはできて当然のものと扱われる。更識家の当主というのはそういうものだ。

 

「でも、書類が多すぎるのはもう少しなんとかならないのかしらねえ」

 

 昼休みを犠牲にして、ひとり寂しく生徒会室で書類の山を片付ける作業を行っていると、どうしても退屈で肩が凝って思わずため息をこぼしてしまう。

 

「一夏くんでも呼び出しておもちゃにしようかしら」

 

 彼は名義の上では生徒会副会長なので、会長の私が放送で召集をかければ逆らうわけにはいかない。生徒会室に来てもらって、肩でも揉んでもらいながら言葉で彼をからかえば、この退屈な気分も晴れるだろう。

 

「まあ、さすがにそれはかわいそうだからやめましょう」

 

 あまり好き勝手な振る舞いをして、嫌われてしまうのはイヤだ。

 

「……ん?」

 

 今、少しおかしなことを考えたような。

 ……私が一夏くんに嫌われるのが、イヤ?

 確かに織斑一夏はIS学園にとって重要な存在で護衛対象でもあるため、私が敬遠されて近くにいさせてもらえなくなると都合が悪いといえば悪い。

 だけどそれは『問題が生じる』だけであり、『イヤ』という個人的感情にはたしてつながるものなのかしら。

 そもそも、最近妙に『一夏くん何してるかなー』とか『今度一夏くんと何話そうかなー』なんてことを考える回数が増えているような。そしてそのたびに、ほのかに体が熱を覚えているような――

 

「大丈夫よね? 百歩譲って、友情の範囲内よね?」

 

 これ以上は何かが危なくなるような予感がしたので、書類に視線を戻して思考を無理やり打ち切った。

 

「考えるなら、簪ちゃんのことにしましょう」

 

 つい最近仲直りへの第一歩を踏み出すことのできた、最愛の妹の顔を頭に浮かべる。

 廊下で会ったら軽く言葉を交わす程度にはなったのだけれど、姉妹なのだからもうちょっと深く踏み込みたい。しかし何年もの間離れていた簪ちゃんとの距離感を劇的に変えるのはなかなかどうして難しく、勝手がわからないというのが実情だ。

 そんな状況を打破しようと、とりあえず共通の話題を作るための試みを始めた。具体的に言うと、簪ちゃんが大好きだというヒーローアニメの視聴である。

 正直話の大半が子供向けの内容であることは否定できないが、たまにハッとさせられるような深いエピソードが混ざっていたりするから油断ならない。脚本家の本気、といったところだろうか。

 

「あと、ヒーローのポージングもかっこいいわね」

 

 戦いの最中に余計な動作を挟む必要があるのか、という疑問はさておき、今見ている作品の主人公の決めポーズにはセンスを感じる。

 

「確か、右腕を斜め上にあげて、左手は……」

 

 体をほぐすという目的も兼ねて、記憶に残っているポーズの真似をしてみることにした。

 

「よっ、ほっ、はっ!」

 

 敵を追い詰め、必殺のパンチとキックでとどめを刺してから流れるような動作で180度回転してフィニッシュ!

 

 ガチャリ。

 

「かいちょー、いますか~?」

 

 ビシッとポーズを決めた瞬間、ドアが開いて本音ちゃんが顔をのぞかせた。

 

「………」

 

「………」

 

 一瞬の沈黙、そして。

 

「失礼しましたあ」

 

「待って! 失礼しないで私に弁解の時間を与えなさい!」

 

 そそくさと無駄に機敏な動きで部屋を出て行った本音ちゃんの後を追い、私もドアを開けて廊下に出る。

 

「あっ」

 

 しかし本音ちゃんの姿はすでに見当たらず、かわりに向こうから歩いてくる見知った人物に気がついた。

 

「簪ちゃん!」

 

「あ……お姉ちゃん」

 

 こちらから声をかけると、向こうも私に気づいたようで小走りで駆け寄ってきてくれた。少し前までは考えられなかった光景に、今さらながら感動に似たものを覚える。

 

「簪ちゃん。このあたりで本音ちゃんを見なかった?」

 

「本音? ……ううん、見ていない」

 

「そっか……」

 

 仕方がない。どうせそのうちまた顔を合わせるのだし、誤解を解くのはその時でいいわよね。

 

「あ、あの……」

 

「うん?」

 

 下を向いて、簪ちゃんは何やらせわしなく両手をいじいじさせている。何か言いたいことがあるのかもしれない。

 

「どうしたの? お姉ちゃんに何か頼みごと?」

 

「そ、その……」

 

 数秒間逡巡した様子を見せたのち、簪ちゃんは意を決したように私の目を見てはっきりと口を開いた。

 

「わ、私と一緒に、映画を観に行ってくれませんか……?」

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

「簪ちゃんに映画に誘われたの」

 

「はい」

 

「簪ちゃんに映画に誘われたの」

 

「そうですか」

 

「簪ちゃんに! 映画に! 誘われたの!!」

 

「しつこいですよ! いきなり部屋に来たと思ったら何回同じこと言うつもりですかあなたは!?」

 

「この興奮した感情を誰かにぶつけたかったの」

 

「……そうですか」

 

 その日の夜、私は一夏くんの部屋を訪れていた。

 

「これってデートのお誘いよね。どうしたらいいのかしら」

 

「姉妹で仲良く出かけるのをデートと言うんならそうなんでしょうけどね。どうしたらもこうしたらも、普通に映画見てお茶して帰ってくればいいじゃないですか」

 

 何でもない事のように語る一夏くん。モテる男の余裕といったところかしら。

 

「簡単に言ってくれるわね」

 

「簡単にって……楯無さん誰とでも打ち解けてコミュニケーションとれるんだから、むしろそういうの得意なタイプだと思うんですけど」

 

「甘いわね一夏くん。確かに私は誰にでも遠慮なく突っ込むことができるけれど、こと身内のことに関しては普通の人以上に不器用だと自覚しているわ」

 

「なんで胸張って言うんですか」

 

「大きいでしょ?」

 

「し、知りませんよ」

 

 つれないことを言ってそっぽを向こうとしながらも、一夏くんの視線はばっちり私の胸部をとらえていた。うぶなところが大変可愛らしい。

 

「でも本当、うまく頭が働かないのよ。だから一夏くんの知恵を貸してほしいと思ったの」

 

「知恵って言われても……とりあえず観に行く映画のタイトル教えてくれませんか」

 

 簪ちゃんに言われた題名をそのまま告げると、彼はあーあれか、と納得したように頷いた。

 

「典型的なヒーロー物のアニメですね。深夜に放送していたのが人気が出て、このたび劇場版が作られたとかなんとか」

 

「詳しいのね」

 

「最近、ちょっと簪に影響されたんで」

 

 ということは、一夏くんは簪ちゃんからアニメの紹介とかされてるのかしら。それって当然、私よりも進んだコミュニケーションが取れているというわけで……少し嫉妬。

 

「元々テレビでやっていたのなら、映画を見る前に内容を勉強しておいたほうがいいわよね?」

 

「あ、いえ。これテレビ版の内容をリメイクしたものだから、予習の必要はないと思います。多分簪もそう考えて楯無さんを誘ったんじゃないかな」

 

「へえ、そうなの」

 

 簪ちゃんと出かけるのは土曜日の午後で、今日は火曜日。あまり時間もないので、映画を見るにあたっての事前準備をしなくていいというのは素直にありがたいと思った。

 

「どうしたらいいのか、とか不器用だとか言ってましたけど、楯無さんは楯無さんのしたいようにすればいいと思いますよ。簪だってその方が喜びますって」

 

「そういうものかしら」

 

「そういうものです」

 

 妙に自信ありげに言う一夏くん。はっきり断言されると、それでいいのかもとなんとなく安心できた。

 

「せっかく来たんですし、マッサージでもしましょうか?」

 

「マッサージ? そうね、お願いしようかしら」

 

「じゃあ横になってください」

 

 指示通りベッドにうつぶせになると、早速一夏くんは両手を使って私の右脚をほぐし始めた。

 

「最初にマッサージをお願いした時は、興奮して鼻血出してたわよね」

 

「そんなこともありましたっけ」

 

「今はどう? ヘンな気持ちになっちゃいそう?」

 

「2回目ともなれば、多少は慣れも生まれてきますから」

 

「やん。一夏くんが男として一皮剥けちゃった」

 

「何わけわかんないこと言ってるんですか……しかしまあ、これでようやく楯無さんにも本当の俺のマッサージを味わってもらえそうです」

 

「え?」

 

 本当のマッサージっていったい――

 

「はぁんっ」

 

 瞬間、体中を電撃が走り抜けたかのような感覚に襲われる。嘘、今のいやらしい声、私が出したの……?

 

「この前は気恥ずかしさが先行したせいで手の動きが硬くなってしまいましたが、俺の本来の実力はあんなもんじゃありません。今からそれをお見せします」

 

「え、ちょっと待って。一夏くんなんだか目がギラギラしてる――」

 

 

 

 

 

 

「あ、そこ、そこすごくイイわ。もっと、もっと激しく突いて……やぁん、気持ち良すぎておかしくなっちゃいそう♡」

 

「楯無さん、めちゃくちゃ敏感ですね……特にこのあたりとか」

 

「はぁん! や、そこは駄目、あ、あんっ……」

 

 腰あたりのツボを絶妙な力加減で圧され、無意識のうちに嬌声をあげてしまう。これでは私がまるでいやらしい女であるかのようだ。

 

「妹のことになったら取り乱しちゃったり、ツボ突かれるのが弱かったり、楯無さんって意外と弱点多かったりします?」

 

「そ、そうかしら? これでも一応、学園最強を名乗ってる身なんだけど」

 

「少なくとも、今この瞬間は最強の面影ひとつ見当たりませんね」

 

「な、なんだか今日の一夏くんは辛辣ね」

 

「普段さんざん振り回されてることへの仕返しです」

 

「な、生意気ね……出会ったばかりの頃はあんなに従順だったのに。あの時の可愛いキミはもういないのかしら」

 

「それだけ楯無さんに慣れたってことです。最初はむちゃくちゃなことする上に完璧超人だから手のつけようがないと思ってたんですけど、何度も話すうちにそうじゃないって気づいたし」

 

 腰から肩にマッサージの位置を移しながら、彼はなぜだかうれしそうな声で私に語りかける。

 

「なんていうか、普通に弱いところもあるんだなって。……あー、弱いっていうと失礼ですよね? 俺が言いたいのは、楯無さんにも女の子らしいところとか、可愛らしいところとかあることがわかったってことです」

 

「………」

 

「あれ? 楯無さん?」

 

「なるほど。つまりキミの中では最近まで私は女にカテゴライズされてなかったと言いたいわけね」

 

「ええっ!? いや、けしてそういうわけではなくてですね」

 

「ふふ、冗談よ」

 

 ドキリとさせられた仕返しに、少し言葉でからかってあげた。

 

「そろそろお暇させてもらうわ。体もしっかりほぐしてもらったし」

 

「あ、わかりました」

 

 マッサージを止めてもらい、私はベッドから下りて部屋を出ようとする。

 

「今日はありがとう。将来一夏くんが無職になったら専属マッサージ師として雇ってあげましょう」

 

「はは、それは光栄です。……そうだ、なんか生徒会の仕事で俺がやれることとかありますか?」

 

「どうしたの? 突然そんなこと聞いてくるなんて」

 

「一応俺副会長なんで。たまにはそれらしいことしておこうかなと」

 

「殊勝な心がけね。なら明日は書類整理でもやってもらいましょう。放課後、生徒会室に来てくれる?」

 

「了解です」

 

「それじゃあ、おやすみなさい」

 

「おやすみなさい」

 

 挨拶をして、一夏くんの部屋を後にする。

 彼のおかげで多少は心も落ち着いたし、週末を楽しみにしながら仕事を頑張るとしましょう。

 

 

 

 

 

 

 あっという間に日付は進み、約束の土曜日がやってきた。

 午前までの授業を終え、部屋に戻って私服に着替える。10月も終わりに近づき肌寒くなってくる時期なので、気持ち厚めの生地を使った服を選んだ。

 

「簪ちゃんは……いたいた」

 

 待ち合わせ場所の正門には、すでに簪ちゃんの姿があった。清潔感を感じさせる白を基調とした服装がとてもよく似合っている。さすがは私の妹といったところかしら。

 

「あ、お姉ちゃん……」

 

「ごめんね簪ちゃん、待たせちゃったかしら」

 

「ううん……私も今来たところ」

 

 頭上には青空が広がっており、出かけるにはちょうどいい天候だ。

 

「それじゃ、出発しましょうか」

 

「うん」

 

 肩を並べて、一緒に校門を出る。ただそれだけのことが、無性にうれしく思えた。

 

 

 

 

 

 

 それまで無為な人生を送ってきた18歳の青年が、ある日突然異世界から来た女の子にヒーローとして任命され、力を与えられた。勝手に異世界の救世主的存在に仕立て上げられたその青年は、戸惑いながらも悪の軍勢と戦っていく――

 

 正直に言って、映画の内容は微妙だった。終盤に主人公がこれまでのことを振り返りながら敵に啖呵を切るシーンだけはなかなかに熱かったが、それも声をあてている役者の演技力によるものが大きいように思えた。

 ……なんて感想を、隣を歩く妹に素直に言っていいものかしら。映画館を出てからの道すがら、私はそんなことを考えていた。

 

「お姉ちゃん」

 

「なに? 簪ちゃん」

 

「映画……あんまり面白くなかったでしょう?」

 

 申し訳なさそうな顔で、簪ちゃんは私が思っていることをそのままズバリと言い当てた。

 

「べ、別にそうでもなかったわよ?」

 

「私から見ても、あまり出来がいいとは言えなかったから……無理に取り繕わなくてもいいよ」

 

「……そうね。本音を言うと、ちょっぴりつまらなかったかしら。アニメはほとんど見ないからよくわからないけど、全体的に演出がよくなかったような」

 

「同意見……内容を詰め込み過ぎたせいで盛り上がりに欠けてた」

 

「でも、声優さんの演技はよかったと思うわ」

 

「……お姉ちゃん、なかなか見る目がある」

 

 なんだかよくわからないが、思ったことをそのまま言ったら褒められてしまった。簪ちゃんは目をキラキラさせて喜んでいるようなので、これでいいのかしら。

 

「途中で眠らなかっただけでも、お姉ちゃんは頑張ったと思うの……」

 

「そのくらいは当然よ。せっかく誘ってくれた簪ちゃんに失礼だもの」

 

 中盤あたりかなり危なかったのは秘密にしておこう。昨晩十分睡眠をとれていたから良かったものの、そうでなければ居眠りしてしまっていたかもしれない。今週は仕事が多かったので、虚や本音ちゃん、一夏くんが手伝ってくれていなければ徹夜することになっていただろう。

 

「でも、最近お姉ちゃん疲れが溜まってるみたいだって聞いたから……」

 

「え?」

 

 簪ちゃんの思わぬ発言に、意図せずして口から声が漏れてしまう。

 確かにここ最近、生徒会の仕事や更識の家の仕事が重なっていて疲労は蓄積していた。だけど、それを周りの子たちに気取られるようなことはしていないはず。

 

「簪ちゃん。その話、誰から聞いたの?」

 

「誰からって……一夏、だけど」

 

「一夏くん?」

 

「うん……この前マッサージした時、かなり体が凝り固まってるみたいだったから……映画の途中で寝ちゃってても怒らないでやってくれって」

 

 ……なるほど、そういうことね。彼には以前にもマッサージや肩もみをしてもらったことがあるから、その時と比較して私が疲れていることを見抜いたというわけだ。

 

『なんか生徒会の仕事で俺がやれることとかありますか?』

 

 そうなると、あの言葉も思いつきで言ったわけじゃないようね。どうやら知らないうちに、私はまた彼に借りを作ってしまっていたらしい。

 

「お姉ちゃん……着いたよ」

 

 簪ちゃんの言葉に足を止める。映画館を出てから、彼女の先導で喫茶店に向かっていたのだが――

 

「すごく綺麗なところね……簪ちゃん、よくこんなお店知ってたわね」

 

 大通りから若干離れた位置に店舗を構えた喫茶店は、内装も非常に趣のあるものだった。派手すぎず地味すぎず、客に西洋の雰囲気を自然に感じさせる。素人ながらに評価すると、そんなところだろうか。

 

「……これも、一夏に教えてもらった。クラスの人に聞いてみたって……なぜか激しく責め立てられたとも言ってた気がする」

 

「それは……なんとなく想像がつくわね」

 

 一夏くんのことだ。『女の子が行って喜びそうな喫茶店知らないか?』というふうに軽く質問したところ、変な誤解をした箒ちゃんやセシリアちゃんたちに問い詰められたのだろう。

 あまりに簡単にその光景が浮かんできたことが可笑しくて、思わず笑みがこぼれてしまう。

 

「一夏くんには、あとでお礼を言わないといけないわね」

 

「うん……」

 

 席に座って、それぞれ飲み物を注文する。私はコーヒー、簪ちゃんはクリームソーダ。

 

「昔から好きだったわよね、クリームソーダ」

 

「……覚えててくれたの?」

 

 心底驚いたというような表情をする簪ちゃんに、私は優しく笑いかけた。

 

「当たり前でしょう? 私はあなたのお姉さんなんだから」

 

「……うん。そうだね」

 

 小さく頷いて、簪ちゃんも笑顔になる。

 

「今日はね……お姉ちゃんとたくさんお話がしたくて、ここに来たの」

 

 恥ずかしがりながらも、簪ちゃんの視線はしっかりと私の顔に向けられていた。

 

「何年もの間、お姉ちゃんを遠ざけてしまっていた……すごく、もったいない時間を過ごしてきたから」

 

 私は、何を迷っていたのだろうか。

 

「そうね」

 

 妹がいて、私が姉で、仲良くなりたいと思っている。それだけで十分なのに。勝手がわからないとかどうしたらいいのかとか、甘っちょろいことこの上ない。

 

「私も、簪ちゃんに話したいことがたくさんあるわ」

 

 絆を深めたいのなら、そうすればいい。やりたいようにやればいいのだ。

 

 

 

 

 

 

「いろいろありがとうね、一夏くん」

 

『え、何がですか?』

 

「私の体を気遣ってくれたこと。いい喫茶店を紹介してくれたこと」

 

『ああ、そのことですか。別にお礼言われるほどのことじゃないですよ』

 

 その日の夜、私は電話で一夏くんにお礼の言葉を伝えた。

 

「でも、どうしてあの時本当の理由を言わなかったの? 生徒会の仕事を手伝おうとしたのは、私が疲れてると思ったからでしょう?」

 

『あー、それはですね。楯無さん意外とひとりでなんでもやっちゃうタイプだから、疲れてそうだから手伝いますなんて言うと逆に断られるんじゃないかと思って』

 

「……馬鹿ね。私はそんなに天邪鬼じゃありません」

 

『ですよね。余計な気遣いでした』

 

 ……でも、うれしかったわよ。そこまで私のことを考えてくれていて。

 

「今度、お礼をしないといけないわね。何か希望するものはあるかしら」

 

『お礼なんていいですよ』

 

「ダーメ、素直に受け取りなさい」

 

「……そこまで言うんなら。でも希望ですか、えっと……うわっ! なんだお前ら!」

 

 一夏くんの答えを待っていると、急に電話口の向こうが騒がしくなった。

 

『ふ、2人ともなんだよその恰好!?』

 

『お、お兄ちゃん! 今日は僕たちがなんでも言うこと聞いてあげるニャン!』

 

『何言ってんだ……すみません楯無さん、この話はまた今度お願いします!』

 

 慌てた様子の彼の声とともに、通話が切られる。

 

「よくわからないけれど、一夏くんの周りはいつも騒がしいわね」

 

 お礼については急を要することでもないし、彼の言う通りまた今度話せばいいだろう。

 

「私も、争奪戦に参加しちゃおうかしら」

 

 本気なのか、冗談なのか。自分でもよくわからないまま口を突いて出た言葉は、誰にも聞かれることなく宙に消える。

 

「簪ちゃんにおすすめしてもらったアニメでも見ましょうか」

 

 思考を切り替えて、テレビとDVDプレーヤーの電源を入れる。

 アニメの話をする簪ちゃんの幸せそうな顔を思い出して、私は暖かい感情がこみあげてくるのを感じていた。

 




というわけで更識楯無視点の短編をお送りいたしました。最後のほうで一夏があわてていたくだりは、また別のお話で補完されます。

この短編集は全12話予定なので、これで3分の1が消化されたことになります。簪視点、ラウラ視点、一夏視点、楯無視点と、各話ごとに一人称がばらけています。せっかくの短編集なので、今後も一人称はバラバラでやっていくつもりです。

一夏だけすべての話で登場していますが、そのぶん話ごとにいろんな一夏の側面を描くように心がけています。簪の話では頼れる兄貴分だったり、楯無の話ではできる後輩だったり、ラーメンの話では友達とバカな会話を楽しむ男子学生だったり。

ここまでISが登場したシーンゼロ。タグに戦闘シーン少ないとかありますけど少ないどころか完全にないですね。

次回は満を持してマイフェイバリットヒロインが主役の話です。サブタイトルは「時には昔の話でも(凰鈴音編)」。

感想等あれば書いていただけるとうれしいです。
では、次回もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。