シャルティアの胸は人体錬成の代償に持って行かれました。
「残るはデミウルゴスか、アルベドが入っていると良いのだが。」
アインズはそんな事をぼやきつつ第七階層を一人で歩いていた。シャルティア(inアウラ)やコキュートス(inマーレ)にはデミウルゴスならばある程度対応は出来ると言い訳し、単独での視察へと赴いたのである。
だが実際は、シャルティアやコキュートスの体でこの溶岩地帯は些か辛いだろうと言う、アインズなりの心遣いであったのだが、そんな事を言ったら二人の涙腺や感動が開幕ぶっぱ待ったナシになりかねないので黙っておいた。
そんなこんなで暫く歩いていると、見覚えのある3体の人影が現れる。それはデミウルゴス配下の憤怒の魔将、嫉妬の魔将、強欲の魔将であった。
皆一様にアインズの姿を確認すれば、その場へと傅き頭を垂れる。以前変装して外出しようとした時にビビっていた事は忘却の彼方へと追いやりつつ、静かに片手を上げて返礼とする。
「デミウルゴスは居るか?直接伝えねばならぬ事があるので会いたいのだが。」
「デミウルゴス様は只今赤熱神殿に居られます、火急とあらば私共がお呼び致しますが。」
「良い、それには及ばん。何しろ重要な案件なのだ、二人で会わせてくれ。」
魔将の提案をあっさりと棄却し、そう告げれば嫉妬の魔将がウホッと変な咳払いを1つ。だが気にせずそのまま廃墟同然の神殿へと歩を進めれば、後からハッテンだのレスリングktkrなどの意味不明な単語が聞こえてくる。
(新しい魔法の開発でもしているんだろうか、流石はデミウルゴスの配下だな・・・シャルティアにも見習って欲しいよ。)
知る人が聞けば頭が痛くなるような単語も、アインズからすれば未知の言葉。こればかりは”仕方ないね”。
神殿内部へと入れば外観とは裏腹に、趣きのある調度品やデミウルゴス作の芸術品が並べられていた。そして再奥にある部屋へと入れば、其処には三つ揃えのスーツに身を包み、刀の様な武器を手入れする悪魔の姿があった。
「邪魔をするぞ、デミウルゴス」
「はっ、アインズ様。申し訳ございません、武器の手入れに意識を向けるあまり、御方の来訪に気付かぬとは。このコキュートス、一生の不覚。」
「良いのだ、コキュートス。普段であればお前の知覚は研ぎ澄まされた刃の如き鋭さだろう。だが今はデミウルゴスの体、慣れぬ環境もあるのだし仕方の無い事だ。」
刀から視線を外して振り返れば、普段の余裕を持った笑みは無く、ただただ武人としての生真面目な表情が顔には浮かんでいた。
そしてアインズは内心外れか、と嘆きつつ残りの可能性を考えて無いはずの背中に冷や汗をかき始める。
(デミウルゴスの中にコキュートス、つまりセバスの中に居るのは・・・うわぁ、髭面に抱き着かれた上に身体能力も化物とか逃げ切れる気がしないぞ!?)
脳内で繰り広げられるのは奇声をあげつつタックルをかまし、その髭で顔面をふさふさしてくる鋼の執事長。
そんな悪夢は見たくないが、可能性が高い以上何かしらの策を講じる必要があるな等と考えていたら、廊下から足音が聞こえてくる。
「む、来たようだな。構わん、入ってくれ。」
足音は部屋の前で止まると二回扉を打ち鳴らす、それにデミウルゴスが声を掛ければ扉が開き、ある人物が入ってくる。
それは、紛れもない鋼の執事長たるセバスその人であった。
「おや、アインズ様もいらっしゃったのですな。それならばもう少し身形を整えてから来るべきでしたな。」
アインズは最悪の展開に身構え、《心臓掌握》からの《嘆きの妖精の絶叫》発動すらも考えていたのだが、どうにも心配していたよりもセバスは普通の様だ。
「よくぞ来た、セバス。今ちょうどデミウルゴスにも事情を説明しようとしていたところだ。」
「なるほど、今回の体が入れ替わってしまった件についてですな。しかしながらアインズ様、吾輩セバス殿では無く恐怖公であります。不敬かとは思いますが、訂正させて頂きます。」
───今なんと言った?恐怖公?
セバスの口から出た言葉にアインズは最悪の事態を超えた、超弩級の悪夢という事すら生温いと言える場面を想像する。
───辺りを覆う黒き波
───流星の如く駆ける白銀のG
───それらを操るは、ナザリックで最もアインズを愛する悪女
アインズがその悪夢により光ったりしたが、努めて冷静に《伝言》を各階層守護者に飛ばす。
「守護者各員、すぐ様完全武装にて第八階層へと集え。これより最大の脅威と対峙することになる。」
その名はアルベド、アインズを心の底から愛し敬服し畏怖する者。
これを打ち滅ぼさねば───ナザリックに未来は無い。
恐らく次が最終話になります。感想欄にて中々鋭い考察をされている方がいらっしゃったので肝が冷えました。