ONEPIECE NOVEL SKY DRAGON 作:夢現之巻
抜錨してから30分も経たぬうちに、彼女たちは三隻の海賊船全てを轟沈させるに至った。足となる船を失った海賊たちを捕らえるのはそう難しい話ではなく、彼女たちによって一人残らずお縄についていった。軍艦の甲板にて、捕縛された海賊たちが一同に列を成して軍艦内の収容設備へと連行されていた。
「ま、暁たちに掛かればこのくらい造作も無いわ!」
えっへん、と胸を張って得意げにそう語る暁。今回の戦果は何を隠そう自分たち艦娘、ひいては特型駆逐艦の活躍があってこそ。
「何度か敵の砲弾、喰らいかけたけどね」
「あ、当たらなければどうってことないのよ!!」
水を差す響に、彼女は両手をブンブンと猛抗議。傍から見れば、それは年頃の少女たちの他愛ない談笑。そんな彼女たちの様子に、それまで張り詰めていた空気に当てられていた海兵たちの堅い表情にも緩みが見られていた。
しかし、そんな中には――。
「いい子、いい子……。辛かったわね。でも大丈夫。今度からはもっと私を頼ってもいいのよ?」
「「えへへへ……」」
蕩けるような緩み切った恍惚な表情で膝枕をしてもらっている海兵を始め、雷の溢れんばかりの母性という灯りに当てられ、集う羽虫の如く多くの海兵たちが寄り添っていたり。
「大佐! 電ちゃんの容態に異常ありません! 心身共に健全であります!!」
「よしっ……だが念には念を入れて入渠の手配を急げ!」
保護欲に駆り立てられた海兵たちが一様に電へと過剰ともいえる気遣いをみせていたり。
「電は大丈夫なのです~! だから放っておいてほしいのです~!!」
彼らに決して他意はないのだろうが、電にとって彼らの過剰な配慮がかえっておぞましく映り、一目散に逃げ出し始めたのだが……。
「はわぁっ!?」
勢いよく駆け抜けた矢先にマストに頭を強打し、盛大に転倒する。そして、涙目で赤み掛かった額に手を押さえる彼女の姿を見るに堪えない海兵たちが、身を案じて一斉に駆け寄る。
「まったくなんなんだ、この体たらくは……」
仮にも正義を背負う者がこの腑抜け振りでは呆れて物も言えない、とモモンガはつくづく頭を抱えていた。艦娘が配備されるようになってからというもの、今回のように海戦においては殆ど彼女らに依存しているのもまた事実であり、また正義の自覚が薄れ、その状況に甘んじた海兵たちが現れ始めたのも問題の一つとして挙げられている。
「これでは海兵の立つ瀬も危ういんじゃねぇかって顔してんな、おっさん」
思考の外から、モモンガにもたれ掛かるように声を掛けてきたのは天龍であった。
「モモンガ中将、だ。お前に心配されるまでもない。兵無くして軍は成り立たん。それに……お前たちの運用が許されているのは海上だけだ」
「へぇ……ま、それならいいさ。オレは戦えればそれで満足だからな。これからもどんどん頼ってくれていいんだぜ?」
「馬鹿を言え、お前たちは海軍の「兵器」に過ぎん。使うかどうかは「我々」が決めることだ」
海軍の中には、彼らのように「人」として接する海兵も少なからずいるが、特に将校クラスになっていくほど彼女たちを「兵器」として見るものが顕著であった。
「目的は達成した。海賊どもの護送は我々の役目だ。お前たちは速やかに帰投してもらおう」
「わーてるよ。オレもこんなところでチンタラしたくねぇしな」
最後にじゃあな、と片手を振りながら天龍は踵を返した。
☆☆☆☆☆
艦隊が帰投してから。
海賊の護送の任を終え、帰路へと付く中でモモンガは静かに甲板の上で軍艦の進む先を見据えていた。
「単なる兵器であればよかった。確たる自我を持ち、人の形を成している……あれを我々はどう向き合っていけばいいというのだ」
彼女らを「兵器」としてみるのか、或いは「人」としてみるのか……。
その命題が何れ海軍と艦娘との間に大きな亀裂も生むことになるとはこの時、まだ誰も思ってはいなかった。
☆☆☆☆☆
ここは艦娘たちの活動拠点となる鎮守府。艦娘が誕生して以来、四つの海を始めとした様々な海域を管轄する海軍支部には艦娘を運用するための鎮守府が併設されてきた。
そして、ここもまた例外ではなく……。
『海軍G-5支部』
一組の机も椅子が置かれた一室。壁面には表彰された勲章、集合写真などが置かれていた。
「海賊掃討の任、ご苦労。キミたちの活躍のおかげで我がG-5には優秀な艦が揃っているとモモンガ中将からも良い評価をいただいている」
無事に帰投した天龍及び特型駆逐艦四名へと称賛を示したこの男の名はヴェルゴ。海軍本部中将にして、この荒れくれ揃いの海兵たちを纏め上げる基地長だ。
「ふふん♪ 今まで暁たちのことを子供扱いしていた此処の人たちも、これを機にレディとして見直してほしいところね!!」
「でも子供扱いされてるのって暁だけ……」
「響ちゃん……暁ちゃんの前でそれを言っちゃダメなのです……!」
得意げに鼻を伸ばす暁の横で危うく口を滑らせる響を、小声で電が戒める。幸いにも本人は聞こえなかったようだが、仮にその真実を知ってしまった時には猛抗議した挙句、泣き出すことだろう。
「キミたちが、こうして活躍できたのも更に言えば“彼”のおかげでもあるのかもしれないな」
「当然じゃない! 司令官がいて私たちがいるんだもの。……ただ、煙草の吸いすぎは身体に毒だからそこんところが心配ね」
「――だ、そうだ。“提督”」
ヴェルゴは、一室の片隅で凭れる人物へと話を振った。
提督――。
それは艦隊を指揮する者の役職。それは艦娘たちを束ね、鎮守府を纏め上げる司令官。この世界の海軍においては、従来の階級とは別に艦娘たちを管理・指揮する役職として提督の地位が授けられる。
「……その呼ばれ方は慣れねェんだ。それに心配もいらねェよ、おれにとっちゃ煙に蝕まれるなんざァ皮肉もいいところだ」
そして、艦娘として彼女たちが提督と慕う人物、その男の名は――――。
「実にキミらしい皮肉だよ、スモーカー中将」
TO BE
CONTINUED