ソード・アート・オンライン withこはる   作:パニパニ

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「どうして助けたの?」

 

 

「すらっ!」スパン

 

俺はまず、群れの端にいたモンスターを《スラント》で斬り伏せた。ディレイが解けると、今度はソードスキルではなく通常攻撃で、別のモンスターを斬りつけた。倒せはしないが、タゲは取れる。注意を1体でも多くこちらに向けさせられれば、マチやルルの負担軽減になる。少女が対処する敵の数を減らすことにも繋がるから、まさに一石二鳥。あれ、俺だけ損してないか? 気のせいじゃない。やっぱり人助けなんてしてもろくなことない。

 

「はぁぁっ!」スパパパパン

 

横ではキリトが鬼神のごとき働きをしていた。モンスターの群れのただ中に飛び込んでからの《ホリゾンタル》。単発とはいえど全方位範囲技。高レベルのキリトが放つそれは、1対多の戦闘における最大の武器だ。モンスターの耐久値が低いこともこちらに利している。

主にキリトが活躍して、モンスターの駆逐が完了した。少女も無事だ。よくやったな、マチ。さすが俺の妹。

 

「やったな」

 

「ん? おお」

 

突き出されたキリトの拳。そこに拳を当ててグータッチを交わす。

キリトの顔がやけに生き生きしている。……はっ! もしかして戦闘狂ですか。妹の成長に多大な害を及ぼしかねないので、半径1キロ以内に近づかないでください。ごめんなさい。

と、内心で一色風にまくし立てたが、それを声に出すことはない。ぼっちスキルのひとつ《噯気にも出さない》だ。

勝利をひと通り喜び終えると、その注意の矛先はルルたちが救い出した少女に向かう。

それにしても可愛い。俺がぼっちの中のぼっちーーマスターぼっちでなければ一目惚れして告白、振られるまである。

その美少女は開口一番、

 

「どうして助けたの?」

 

と、このデスゲームでは愚問でしかないことを訊ねてきた。

あー、もしかしてこの子は由比ヶ浜タイプだろうか。ルックスよくて中身はポンコツーーアホの子……どっちも変わんないか。そんなアホな質問をする美少女に贈る言葉はただひとつ。

 

「別に、死なれたら困るからだ。デスゲームだからな。死ねば終わりなんだよ」

 

「……死にたいの」ぼそっ

 

「へ?」

 

「死にたいのよ、私」

 

「そうか。勝手に死ねば?」

 

「え?」

 

目を丸くする少女。心底意外そうだ。いや、死にたいって言ったの自分でしょう? あるいはーー

 

「は? なにその意外そうな表情。もしかして引き留めて欲しかったの?」

 

「そんなわけないでしょう!」

 

「なら、死ねば?」

 

「だからそれはあなたたちが邪魔をしてーー」

 

「それが『実つき』を故意に攻撃した奴の言うことか?」

 

「?」

 

「……はぁ」

 

『実つき』という単語がどういう意味か分かっていなかったようなので、意味を説明する。

 

「知らなかったわ」

 

あっさり認めちゃったよこの子……。俺の中で、密かに彼女をアホの子認定した。

説教の続きをしようと口を開けようとすると、横からキリトが割り込んできた。

 

「『実つき』を攻撃したら、普通はそれを知らないと思うから助けるよ。それに、簡単に命を捨てないでくれ」

 

「それ、俺が最後に言おうと思ってたセリフ……」

 

「結局、最後まで説教するんだ」

 

「あはは……」

 

ルルの冷静なツッコミに、マチが苦笑いで追従した。いやだって、命は大切だからね。

 

「とにかく、お前はしばらくの間は俺たちと一緒に行動してもらう」

 

「嫌よ」

 

「拒否権はない」

 

「いいのかハチ?」

 

「ああ。見たところセンスは悪くない。それにあいつの武器は細剣だ。ルルの武器を手に入れる時に役立つ」

 

「このクエストはどうするんだ?」

 

「もう必要分は集まったぞ」

 

ウィンドウを可視化してキリトに見せる。そこには目的のアイテムが2つあった。

 

「い、いつの間に……」

 

「乱戦だったからな。俺も分からん」

 

そう言って俺は肩をすくめる。事実、これらがいつ入手できたのかは分からない。確かなのは、あの乱戦の最中で手に入ったということくらいだ。

村に戻り、まずキリトがクエストを依頼したおばあさんにアイテムを渡し、続いて俺が受注して即座にクリアした。

 

「これでハチたちの依頼も終わりだな。じゃあまた……」

 

「ちょっと待て。それで終わりなのか?」

 

「どういうことだ?」

 

「こいつのお守りしてもらわないと、俺ひとりじゃキャパが足りん」

 

「……」

 

俺の視線の先にはムスッとむくれている少女がいる。森からずっとこの調子だ。大丈夫かね?

 

「……仕方ないな」

 

「決まりだ」

 

渋々といった様子でキリトが同意し、ここに野良パーティーの存続が決定した。

 

 

 


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