いよいよボス討伐が開始される。最寄りの街に集った精鋭たちは、迷宮区へ続く森を歩いていた。
俺たちの仕事はボスの取り巻きの始末。ボス本体はディアベル率いる主力部隊が叩く手筈になっている。他のパーティーが世間話に花を咲かせる中、俺たちは連携などの確認を念入りにしていた。
「マチは中衛として後衛を守ってくれ。最初は俺とハチが前衛に出る。後衛はルルとアスナ。あとは必要に応じてスイッチで交代。ーーそれでいいか?」
「ああ」
「もちろん!」
「はい」
「いいわよ」
全員が了承し、最後にキリトが頷く。
あくまで俺の主観でだが、どうもうちは他のパーティーと温度差がある。他のパーティーはマジメさというか、必死さが伝わってこない。人数の差なのだろうか。なんとなくだが危ない気がした。
そういえば昨日のルルもーー
ーーー昨夜ーーー
扉を開けるとルルがいた。そうとしか表現のしようがないので許してほしい。マチやアスナの姿はない。ということはひとりで来たのか。
「どした?」
とりあえず理由を訊いてみる。すんなり話してくれれば楽なんだけど、そういうわけにはーー
「明日」
「は?」
「明日、大丈夫……だよね?」
……なるほど。ボス戦を前にした緊張か。ルルはなまじ賢いから、マチのように適当な理由で誤魔化すことはできないだろう。聡明な子だがやはり子供なのだ。
ルルの子供らしい一面を見れたことに嬉しさを覚える。これが父性というものか。子供もいないくせに父性に目覚めてしまうとは……
「バカみたいなことを考えていないで真面目に答えて」
ルルにじと目で睨まれてしまった。ふざけていたわけではない。
それにしてもこのお子様、気落ちしていても口は減らないらしい。つくづく雪ノ下に似ている。
いや、リアルは忘れよう。頭をフルフルと振って雑念を追い出す。そして改めてルルの問いかけに向き合った。
頭の中でシュミレーションする。
[CASE1]
「大丈夫に決まってるだろ」
俺はルルを安心させるようになるだけ優しい声音で言った。
「……根拠は?」
「……」
はい、撃沈。
[CASE2]
「気にするな」
「気になるから相談してるんだけど」
はい、ダメー。
結論、俺にルルは説得できない。
俺のお兄ちゃんスキルをもってしてもルルは説得できなかった。マチのように誤魔化しが効かないのが敗因だった。……いや待て。誤魔化せないなら誤魔化さなければいいんだ。今まではルルの悩みを解決しようとしたために浮かんだ案だった。しかし、俺やルルのようなぼっちはそんなものを求めていない。他人に相談して解決しようなんてぼっちの対極にいる存在ーーリア充がとる行動だ。だからぼっちはぼっちらしく、
「分からん」
と、事実を突きつければいい。
「俺は未来予知なんてできないからな、未来のことは分からん」
「そっか……そう、だよね。うん、ありがとう八幡」
ルルは目を潤ませながらこちらに手を伸ばしーー引っ込めた。そして感謝の言葉を残して扉に手をかけた。
そう。それでいい。ぼっちは悩みは自分で抱え込み、自分ひとりで向き合って折り合いをつける。
ただ、そんなぼっちに贈る言葉はーー
「ま、なんとかなるだろ。知らんけど」
ルルは振り返って、
「バカ」
「ほっとけ」
「でも、ありがと」
笑みを残して部屋を出て行った。
ーーー現在ーーー
そして現在。
「やっ!」ズシャ
剣戟の最中の刹那のタイミングを掴んで単発のソードスキル《リニアー》を発動。ルルはMobを2体まとめて葬り去った。
結論から言えば、ルルは昨日の悩みなどなかったかのように絶好調だった。動きが冴え、アスナの剣速にも迫るものがある。
出会うモンスターのことごとくを、千切っては投げ、千切っては投げーーと殲滅。その戦いぶりは戦闘狂のキリトをも唸らせた。
ルルの活躍もあって、攻略メンバーはほとんど消耗せずにボス部屋前の門に辿りついた。
メンバーのリーダー的存在のディアベルを筆頭にボス部屋に入る。
ーーいよいよ、ボス戦の幕開けだ。