エタったままなので晒しておきましゅ。
――何か鋭い物が僕の体を貫いている。
そうか、間にあったんだ。僕はなでしこを護れたんだ、僕の大好きななでしこを。
愛しい女の子を……
なでしこは目を見開いて目の前の光景を見つめていた。愛しい、何よりも、誰よりも愛しい人が自分の盾となってドリルに貫かれ、血まみれとなっている光景を。
「あ、ああ……」
――なのに何故君はそんなに哀しそうな顔をするんだい?
「い…や……嫌…嫌ぁ……」
――ああ、この怪我の事かい?こんなのは全然平気だよ。君を護れたのならちっとも痛くなんかないさ。
「か、かお…るさ、ま……薫さ、ま…」
――だから笑って?僕は君の笑顔が見たいんだ。君の輝くような笑顔が好きなんだ。
薫の口から赤い血がこぼれる、だがそれでも彼はなでしこに優しい笑顔を向ける。
クサンチッペはそんな薫の体を放り投げる。辺りに彼の犬神達の、彼を慕う少女達の悲鳴が
「薫様ぁーーーっ!! いやあああああああああーーーーーっ!!」
なでしこはそんな薫の元へと駆けつける。魔動人形、クサンチッペの攻撃に仲間達は晒される、轟く轟音、響く悲鳴、しかしなでしこにはそんなものは聞こえなかったし見えなかった。
彼女の目に映るのは愛しい男性の姿だけ、聞こえるのは愛しい男性の声だけ。
「なでしこ、だいじょうぶ…僕はだいじょうぶだから……」
「薫様、薫様、薫様ぁーーー!!」
そんな彼等を見ながらクサンチッペは面白くなさげに呟く。
「う~ん、なにかちがうんだよな、ぜんぜんわらえない」
「なぜだろう?なにがたりないんだろう?ぼくは、はやくわらいたいのに」
「ころすだけじゃたりないのかな。そうだ、このよからけしてみよう!」
攻撃を加えて来る犬神の少女達を軽くあしらいながら大殺界のパネルに触るクサンチッペのその言葉に少女達の顔から血の気が失せる。
そしてその言葉は特命霊的捜査官・仮名史朗にも聞こえていた。
「川平薫を消すだと、そんな事させてたまるか!!」
「そうだ、急げ!! 間に合わなくなるじょ!!」
仮名史朗はボロボロの体に鞭を打ち、大妖孤によって赤ん坊の姿にされた川平啓太を抱えて大殺界に近づいて行く。
「あいつをけしちゃえ!あいつなんかこのよからいなくなっちゃえ!」
魔動人形のその願いに応えて大殺界は動き始め、川平薫の体が徐々に光に包まれ始める。
「さぁせぇるぅくわぁーーーーっ!! 頼んだぞ、川平啓太!!」
「どわあぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」
大殺界がクサンチッペの命令を実行し切る直前に仮名史朗に全力投球された川平啓太がコントロールパネルの基盤に激突した。
「あーーーーーっ!!」
大殺界のパネルに火花が走り、辺りの空間が一瞬歪み、クサンチッペが抗議の声を上げる。
その声に一瞬安堵する犬神の少女達だったが無情にも大殺界の力は発動し、川平薫の体はゆっくりと薄れていき、そして……
「薫さまあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ごめんね、なでしこ……それでも、僕は…君を……」
そうしてなでしこの……犬神の少女達の願いもむなしく薫の体はこの世界より完全に消えてしまった。
『薫さまあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
そして薫は………
☆
ようやく日が射し始め、人々が目覚め始める頃、朝霧の中から二人の人影が現れた。
師匠の事情など関係無く夜明け前から散歩をする人狼族の少女シロと抗議の声も虚しく、無理やり連れ出された彼女の師匠である横島忠夫である。
「先生ーーーーっ!! 早く来るでござるよ」
「あ、あのな…俺は朝の4時に叩き起こされて連れ回されたんじゃぞ。少しは休ませろ」
「だらしないでござるよ先生。朝の軽い散歩ではござらぬか」
「世間一般では往復30キロの全力疾走を散歩とは呼ばん!!」
「そんな事より早く帰って朝ごはんにするでござる。肉、肉でござる。肉を腹いっぱいに食べさせてくれると嬉しいでござる!!」
シロは尻尾を振り回し、横島の腕を引っ張りながらずんずんと進んで行く。何と言うか、凄くいい笑顔だ。
「ええーーい、落ち着かんかいこのバカ犬!!」
スパーーンッ
横島はハリセン状に変化させた霊波刀で彼の一番弟子、人狼のシロの頭をはたく。
小気味いい音が朝の霧に包まれた辺り一面に響く。
「痛いでござる、それに拙者は犬ではござらん、狼でござる」
「似たような物だろうが」
「全然違うでござるよ!!……ん?クンクン」
横島の犬発言に抗議するシロだったが、朝露に紛れているある臭いに気付きその臭いの元を探し始める。
「どうしたんだシロ?」
「この臭いは……!! 先生、これは血の臭いでござる!!」
「何だと!?」
「しかも…まずいでござる!死の香りも漂い始めているでござるよ。先生、急ぐでござる!!」
「解った、案内しろ!」
駆け出したシロの後を横島は追いかけていく。
やがて、たどり着いたのはまだ人気のない公園だった。
此処まで来ると噎せ返る様な血の臭いが辺り一面に漂っているのに横島も気付いた。
「シロ、血の臭いの元は何処だ!?」
「こっちでござる」
シロの指し示す場所に辿り着くと其処には一人の男が倒れ伏していた。
体中は傷だらけでその肩には何か鋭い物で貫かれた様な穴が開いており、未だに血は流れ続けている。
「…コイツはヤバいな。間にあうか!?」
さすがの横島もこの状況では相手が男だとかイケメンだとかは関係なく、すぐさま治療をする為文珠に【治】【癒】と込めて発動させる。
文珠の緑色の光の中で傷だらけの青年、川平薫の体は徐々に癒えていく。
だが、傷が塞がっただけに過ぎず未だに命の危機は去ってはいない。
「先生、まだダメでござるよ。早く病院に連れて行かねば」
「解っとるわい!! くぅ、何でワイが男なんかを担がねば……」
そう呟きながらも横島は薫を肩に担ぎ上げ、歩き始めようとすると薫はうめき声と共に愛しい少女の名を口にする、
「う、うう…な、で…し、こ……」
横島は余りに哀しみに染められたその声を聞き、そしてその頬を流れる一筋の涙を見て、ただ茫然と薫の横顔を見つめている。
(コイツも何か大切な誰かを失ったのか?)
「先生ーーっ!何をしてるんでござるか、急ぐでござるーーっ!!」
「あ、ああ。そうだな」
駆け出した横島の背に揺られながら薫の意識は少し覚醒する。
虚ろな眼差しの中に見えるシロの姿に薫はなでしこの、大事な犬神の少女達の姿を重ねる。
(僕は一体……此処は…皆は……なで、しこ……)
そして薫の意識は再び闇の中へと消えていった。
エタる。
(`・ω・)見ての通り「いぬかみっ!」本編の8巻から話が分離しています。
薫は本編では世界の大気と同化していたと言う設定でしたがここでは大殺界の誤作動でGS世界に飛ばされたという設定ですね。