「そうだ、僕がキラだ」
大黒埠頭YB倉庫。
追い詰められ、うろたえていた夜神月は突如落ち着きを取り戻し、先程までの悲壮な表情はなりを潜め、笑顔すら浮かべていた。
「ラ、月君。本当に…本当に君がキラなのか?」
「ああ本当だ」
松田桃太の問いに月は表情を変える事無く答える。
「何故!何故なんだ!何故こんな事をしたんだ!?」
「何故…か。そうだな、大抵の人間には解らないだろう。だからこそキラは生まれたんだ」
「解らないから…キラが生まれた…だって?」
松田がそう問い返すと月は笑みを浮かべていた表情を一変させ、憎悪を隠そうともせずに怒声を上げた。
「考えても見ろ!この世には許されざる悪が多すぎる。自己の欲望を満たす為、自己の快楽を満たす為、そんなくだらない物の為に悪人は平気で他人を傷付ける。だが、人が作った法はそんな悪に対して余りにも無力すぎる。そして僕はそんな悪を滅する力を、デスノートを手に入れた。神となれる力を!」
そんな月に対して表情を変えようともしないニアは冷静に、そして冷徹に月を見据えながら答える。
「神?笑えますね。貴方がした事はどの様な言い訳をした所で所詮ただの大量殺人でしかありません。そう、貴方は神などではなく犯罪者。…悪です」
「……悪か。いいだろうニア、認めてやる!僕は正義では無く悪だと。だが逆に聞くがニア、お前は正義なのか?」
「…どう言う意味です?」
「お前の”正義”で人は救えるのか?いいや、”お前達の正義”では人は救えない」
月はニアを指差し、口元に薄ら笑いを浮かべてそう言う。
「そうだろう?仮に今、世界からキラが消えたらどうなる。キラという存在によって抑えられていた犯罪や戦争はまた直ぐに始まり、世界は以前の様に弱者が強者によって苦しめられる世界に逆戻りする。そんな苦しんでいる人達をお前はどうやって救う?救えはしないだろう。何故ならばお前が救おうと…いや、護ろうとしているのは法だけだからだ!」
そんな月をニアは反論できずに否、反論しようともせずに月を見返している。
「たとえ今は恐怖によって縛られているとしても何れ世界から悪意は消えて無くなる時が来る!人は優しくなれる!誰もが幸せに暮らせる世界になる!その為に僕は…」
「だが君は局長を、自分の父親を死に追いやったじゃないか!そうだ、夜神局長を死なせたのは、殺したのは月君、君だ!」
「…違う」
「何っ!?」
「あの時さっさとノートにメロの名前を書いておけば父さんは撃たれずに…死なずにすんだ。そうすれば事態はもっと早く治まっていた筈だ。メロを殺せなかった父さんの甘さが父さん自身を殺したんだ!」
「貴様ぁっ!」
後悔や反省する素振りも見せずに、それどころかその顔に怒りすら浮かべる月に松田は拳銃を向ける。
「何をするつもりだ松田!」
「月君も止めるんだ、もう何処にも逃げ場は無い。大人しく…」
《捕まるんだ》相沢がそう言おうとした瞬間、月は腕時計の中に忍ばせておいたデスノートの切れ端を取り出し、ニアの名前を書こうとする。
そしてそれは松田が心の中で必死に押さえていた最後の理性の糸を切る事になった。
「夜神月ォォーーーーーーーッ!」
「があぁっ!」
怒りの叫びを上げながら松田は引き金を引き、その弾丸は月の頭を撃ち抜いた。
「ば…馬鹿、が……ちくしょ…」
そんな怨嗟の篭った呟きを残し、月の体は崩れ落ちそのまま仰向けに倒れる。
ニアはその姿を哀れみの視線で見つめ、それ以外の者達は驚愕の表情で見ていた。
「はあ、はあ、はあ。……、あ、ああ。あああ」
そして徐々に落ち着きを取り戻した松田は眼前で息絶えた月の体を見るとその手から拳銃は落ち、頭を抱えながら絶叫する。
「うわあぁぁぁーーーーーーっ!ラ、月君、月君、月くーーーーん!」
松田は怒りのままに命を奪ってしまった月の遺体に駆け寄り、その身体を抱きしめ号泣する。
相沢達はその光景を何も言えないまま見つめ、キラによる犯罪が終わりをつげた事にも安堵感を感じないままだった。
『まさか、こんな終わり方をするとはな』
《夜神 月》
リュークもまた全てを見終え、自らのデスノートに月の名前を記す。
その瞳には月との関係が終わった事による若干の寂しさが浮かんでいた。
ー◇◆◇ー
その後、キラの最後は世間には知らされる事は無かった。
何しろ警察関係者、それも日本捜査本部のトップがキラ自身であったなど公表する訳にはいかなかったからだ。
月の死についてはキラ事件とは別件の捜査中の事故として公表された。
事件を隠蔽した事で松田は月を殺害した罪を問われなかったが彼自身は警察を辞職し、今は出家をしてキラ事件の被害者、そして自分が射殺してしまった月の冥福を祈る毎日を過ごしているという。
そして世間では……
未だ”キラ”による裁きは収まってはいなかった。
「また心臓麻痺か」
「立て続けに15件、もし別のデスノートがあったとしても到底一人で出来る様な事じゃないぞ」
日本捜査本部、及びSPKは未だ解散されずにキラ対策本部として合同捜査をしており、ニアも3代目Lとして事件解明の為に動いていた。
「名前や顔だけじゃなく、捕まえた事すら公表していないのに」
「それだけじゃありません」
メロの真似か、それとも名残を残す為なのか、板チョコレートを食べながらデーターの整理をするニア。
「我々が漸く居場所を特定し、逮捕に向かえば既に死んでいた件も6例ほどあります。勿論、心臓麻痺で」
「一体どういう事なんだ!」
「ネット上にも何の痕跡も残さずに情報を得る事なんか出来ない筈なのに」
デスノートによる殺人なのは明白だが、未だに何の手掛かりも掴めないでいる事に捜査員達は徐々に苛立ちを隠せないでいた。
パサリ
そんな時、部屋の真ん中に一冊の黒いノートが落ちて来た事にその場に居る者全員が驚愕した。
当然であろう、何故ならばそのノートは皆がよく知っている物……
デスノートだったのだから。
「な、何故デスノートが此処に?」
疑問を感じながらも相沢はノートを拾う。
『よう、久しぶり』
「リ、リュークッ!?」
突如現われたリュークに驚く捜査本部の面々、嘗て存在していたデスノートは既に焼却処分されてはいたが、記憶自体は消されていないのでリュークを視認できるのだ。
「な、何をしに来た?やはり今起こっている連続殺人もお前が持ち込んだノートが原因か!」
『いいや、今現在人間界に存在するノートは其処にある一冊だけだ』
「何を企んでいる?」
無駄と知りつつも拳銃を構え、冷汗をかきながらも相沢はリュークに問い詰める。
『ご挨拶だな、せっかく良い事を教えに来てやったのに。ジジイを騙して二冊目のデスノートを手に入れるのは苦労したんだぞ。ノートが人間界に無いと人間との接触は原則禁止だからな、前回の一件で死神のルールも結構厳しくなったんだ。お、懐かしのリンゴちゃん♪』
「良い事…、ですか?」
机の篭の中にあったリンゴをさっそく頬張るリュークにニアは怪訝な表情を浮かべながら聞き返す。
『おう、今犯罪者共をデスノートで殺しているのはな……死神だ』
「なん…ですって?」
『ひゃははははははっ、面白!その顔、月にも見せたかったぜ』
リュークの言葉にニアの表情は固まる。
それは一向に進まない捜査に、もしかしたらと頭の片隅に浮かんでいた事だからだ。
「し、死神が殺しているだって?」
「そんな…、じゃあ」
『これからの、じゃないな。これまでの捜査はまったくの無駄だったて訳だ。残念だったな、ははははは』
笑い続けるリュークにその場に居る者達は怒りを向ける。
「何故、死神がキラの真似事を?」
その答えを聞く事はニアにとっては屈辱ではあったが、殺人を行っているのが死神であるならばこれ以上の捜査はリュークの言う通り無駄である為聞くしかなかった。
そしてリュークも笑いを止め、冷たい目でニアを見据えながら答える。
『真似事じゃない。あいつ等は月の意志を継いだのさ』
「遺志を継ぐ?」
『死神にはランクがあってな、下位の死神は人間界の事には無関心だが上位の死神はずっと月の事を見てたのさ。自身の欲望や欲求じゃなく、あくまでも世界を良くする為にデスノートを使い続けていた月をな。まあ、結果的に壊れちまったがそれで月の評価が下がった訳じゃない。だからあいつ等は心半ばに散った月の為にキラの裁きを引き継いだって訳さ』
その言葉を捜査員達は呆然と聞く事しか出来なかった。
キラの捌きを行っているのが死神ならばリュークの言う通りこれまでの、そしてこれからも何をした所で全てが無駄だという事なのだから。
つまり、月は望み通りに神になったのだ。
死神達の神となってこれからも裁きは続いて行く、月の願いが叶うまで……
誰もが言葉を失った部屋の中で”死神”は冷ややかな目で笑みを浮かべる。
~THE END~
(`・ω・)と、言う訳でデスノート偽最終回その2でした。
それはそうと、アフターの読みきり二話収録した再編集版作ってほしいなぁ。
( ・ω・ )では、また何時の日か会える事を楽しみにしているよヤマトの諸君。