では、どうぞ。
死神――――人を死へと誘う神だと言うがそれは少し違っている。人を死へと誘う死神は極一部の死神だけ。
他にも死神の上司である閻魔を補佐する死神や魂になった者達を三途の川を渡らせて彼岸へと移す船の船頭、等がいる。
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死んだ者の魂が集まる場所。
三途の川――――
そこに浮かぶ舟の上に魂魄達と大きな鎌を持った女性が座り込んでいた。
彼女は死神と呼ばれる人を死へと誘う神。だがそのなかでも舟の番頭を務める死神だ。
彼女は浮いている魂魄に楽しそうに話をしていた。
言葉が話せない魂魄に一方的に話す。端からみれば痛い人かもしれないが知ったことではない。
「少しだけだよ?あたいがサボっただけなのにさ――――」
口が止まることを知らずたまに彼岸に着いても話続けてしまうことがある。それで何回怒られたっけか……百回を越えた辺りで数えるのを止めた。上司の閻魔様にこっぴどく説教をくらう羽目になる。
それも一回につき短いときに二時間、長いときなんかはなんと丸二日近く費やす時がある。その間ずっと正座だ。足が本当に棒になるところだった。
…………ふ、と彼女は舟を動かすための棹動きを止めた。舟が急に止まったことによって魂魄達は何が起こったか分からず慌てふためく。
しかし当の彼女は水面に映る自分の姿を見ていた。
頭の中に一瞬だけだが疑問が過った。
―――――あたいが一人言が多くなったのはいつ頃だったか…………。
―――――あたいが仕事をサボり始めたいつ頃だったか…………。
それはまだこの世界にスペルカードルールと呼ばれるものが出来る前のお話………。
確か――――――――。
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三途の川の岸で集まる魂達を眺めながら女性――――小野塚小町はため息をついた。
「おーおー今回も豊作だねぇ………って言ったら縁起が悪いか………」
大きな鎌で川の中を漁りながら再びため息を吐く。
「最近物騒な妖怪が増えてきたのかな。死人が続出してる」
小町は本来死んで魂になった者達を彼岸へと渡らせる船頭の死神だ。大体働きはじめてから二年経とうとしていた。仕事もそれなりに慣れてきた頃だ。小町は休む暇無く働き詰めだったが少しも休もうとは思わなかった。なんせ船頭の死神は数が少ない。それ故に一人ひとりが働く時間が増えていく。サボればサボる分だけ後になって自らに返ってくる。
「………んー、そろそろ仕事しようかな」
軽く伸びてから舟へと足を運ぶ。
と、その時こちらに歩いてくる人影を視界の端に捉えた。そちらに顔を向けると少し目を見開いた。
何処にでもいるような少女だった。少し違うといえば……身体に痣が出来ている、という点であろうか。恐らくここに来る際に妖怪か何かしらに襲われたのだろう。それほどここまでに来るまでの道のりは厳しすぎる。
「…おや……迷子かい?」
たまに外来人って文字通りの外の世界から来た人間がさ迷う事はあるが………服装からして幻想郷の人間と想定する。
少女の前に来ると顔の位置が同じくらいになるように屈み込んで足元を見る。ちゃんと足は地に着いているようだ。
「ふむ、どうやらあんたは死人でもないようだね」
「…………………」
「どうしてここに来たんだい?」
「……………ぁ…」
蚊が鳴くような声が聞こえた。
「ん?」
「この川を……渡れば……死ねるん……ですか………?」
唐突に少女は物騒な事を口にした。
「…………は?なんだい、あんた自殺志願者かい?けど見た辺り十歳いってないように見えるけど」
「…………」
小町の問いに少女はゆっくりと頷いた。
「たまにいるんだよねぇそういうの……けど安心しなよ。あんたの寿命が尽きるのはまだ全然先だよ」
死神の目にはその人や妖怪等の寿命が見れる。必ずしもその寿命で終わるとは限らないが………。たまに延びたり逆に縮んだり。よくあることだ。だがそれでも大きな誤差は無い。
「………もしかして……お姉さん、死神?」
「…………いや、違うね。あたいはただ単に道に迷っただけだよ」
一瞬本当の事を言おうとしたが寸前で止めた。
「……どうしてそんな落ち着いてられるんですか?」
「別に。焦ったってどうにもならない。だから落ち着いてられるのさ」
「……そうなんだ」
「……それよりも自殺なんて考える物じゃないよ。止めときな。それよりあんたの親が心配するだろ?早く帰りな」
「………嫌だ」
「おいおい、それじゃあほんとに自殺しに来たのかい?あーヤダヤダ。最近の人間は」
「………?他にもいるんですか?」
「残念だけどいるよ。老若男女問わずね」
「………………」
「けどあんたみたいに幼すぎるのはこの二年間で初めて見た」
小町は近くの石の上に腰を下ろす。丁度仕事が一段落したところだ。少し休憩しても文句は言われないだろう。
「……何があったんだい?あたいで良ければ聞くよ」
「……………それは話せと言っているのですか?」
「少し気は紛れるだろ?」
「その考えは分かりませんが……」
「まぁいいから話してみなって。あたいは興味があるんだよ。あんたに」
「わ、私に?」
「あぁそうさ。あたいは中々どうして好奇心旺盛でね」
「……変な人ですね」
「それはお互い様。それに今から自殺しようと考えている子供に言われたくないよ」
「………確かに」
「おいおい、そこで折れるのかい?もう少し粘ってくれよ」
「どっちなんですか」
苛立ったのか少し少女の口調が強くなった。
「おっと怒らないでくれよ」
「………怒ってないです」
「ふぅむ、それなら良いんだけどね。ほら、話してごらんよ。それともなんだい?話せないことなのかい?」
「……別にそういうわけじゃ……」
「じゃあ話しておくれよ」
ニヤニヤと意地悪そうに笑うと少女は顔を真っ赤にして口を開いた。
「いい加減にしてください!私の気持ちも分からないくせに!」
「!」
急に少女は叫ぶと駆け出していった。
「ちょっと待ちなよ!」
小町は〈距離を操る能力〉で背後につくと手を取る。
「こっから先は危険だよ!いつ何処で妖怪に襲われるか分かったもんじゃない!!」
いや、少し語弊がある。実際ここまで来るのにもかなり危険なはずなのだ。
「そんなの貴方には関係のない話です!」
「待ちなって……!」
瞬間、小町と少女に大きな影が覆い被さる。
「………あれー」
嫌な予感しかしなく、顔を上げてみると妖怪化した獣、つまりは妖獣が二人を見下ろしていた。
「うわぉ」
『――――――!』
妖獣が咆哮を上げて鋭い爪を振り下ろしてくる。
「ッ!」
「なんだってんだいこの妖獣……ここは三途の川なのに……。もしかして妖獣の怨霊かい!?だとしたらあたい専門外だよ…!」
少女を抱え直すとその場から逃げ出す。
一応戦闘術は先輩死神から習っているが今は少女がいる。容易には倒せないだろう。
「い、一旦逃げるよ……!」
小町も半分ビビりながら足を動かす。
しかし、
「待ってください……!」
少女が小町から離れて妖獣へと向かってく。
「ばっ……!何しているんだい……!?」
妖獣が鋭すぎる爪を振り上げて少女に振り下ろす。
このままでは爪は少女を切り裂いて五臓六腑を撒き散らすだろう。
「ちょっと待ちな――――!!」
距離を操って間に割って入ると鎌を振り上げて爪を受け止めた。
「お、お姉さん……?」
「まったく……あんたは何自殺しようとしてるんだい!?少しは自分の命を大切にしなよ……!」
鍔迫り合いながら少女に悪態をつく。
「さてあんたも………いい加減成仏しな!!」
妖獣の胴体に手を沿えると能力を扱って吹き飛ばした。
『――――――!!』
距離を操られて為す術なく妖獣は三途の川へ落ちた。
「………間違っても三途の川を泳ごうなんて思わない事だね」
鎌を肩にかけるとひとつ息を吐く。
妖獣はなんとかして岸に上がろうとしたが三途の川に凄むこの場で自殺をした人々の地縛霊がそれを逃がさない。
妖獣の身体に手が絡まり川の中へと引き摺り込む。
「………………あんたにはそれがちょうどいいよ」
哀れむような目で見送ると腰を抜かしている少女へと駆け寄る。
「あんた無事かい!?」
「は、はい………」
「まったく…………無事だったからよかったものの……なんであんな真似したんだい?……まぁ大方理由はつくけど」
「……………………」
「……話してくれないかい?何があんたを死にたいと思えるほど絶望を与えたのか。まぁまずその前に……ひとまず安全なところ………って言ったってなぁ……この辺りは全域危険だしねぇ……。あんたよくここまで来れたね。ある意味尊敬するよ」
小町は少女の手を取ると三途の川の反対側へ歩き出す。
「あの……今のは?」
「ん、あの三途の川の事かい?……ここはあんたがここに来れたように現世と繋がっている。それ故に自殺をしに来る人が月に二、三人いるんだよ。だけどやっぱりそこは人間なわけで未練があるみたいでねぇ……死ぬに死にきれない亡霊。即ち地縛霊となった者が凄む。三途の川の向こう側にあるのは確かに彼岸だ。けどそれは死神の舟じゃないと渡れない。これは常識だよ」
「………………」
少女が疑うような目で小町を見てきた。それと同時にいきすぎた説明をしてしまった、と後悔した。
「……って噂で聞いたんだよ」
ひとつ咳払いして誤魔化すように苦笑いした。
「………お姉さん、何物なの?」
「ちょいちょい、その話はまた後日するとしよう。それよりも………あぁそうだ」
途端に小町は意地悪そうな笑みを作って少女の頭を撫でた。
「さっき助けたお礼ってことで話してくれないかい?………単純に興味があるんだよ」
「……………」
少女はひとつ、ため息を吐くと諦めたように口を開いた。
「………確かに助けられたもんね………いいよ、お姉さんがそこまで知りたいなら教えてあげる」
ようやく話してくれるのか、と半ば安堵しながら耳を傾けた。
……………そういえば閻魔様以外の声を聞いたのは何年ぶりだろうか…………。
「私、実は忌み子なんです」
――――――――は?
はい、まずは第一話を読んでくださりありがとうございました。
明日は19時辺りに投稿すると思います。
次回までバイバイです!