少女の話を一通り聞くと小町は少し顔をしかめた。
少女は里に住んでいる忌み子、と呼ばれる半人半妖であった。実質少女の親は両親とも人間であったが先祖返りなのだろうか突然変異なのか。分からないまま少女の両親は里に少女を殺さない約束をして自らを犠牲にした。
「………なるほど、よく分かったよ。それなら自殺をしようとした理由もつく」
顎に手をあてながら少女の話を思い出していた。
「……けどほんとにそれだけなのかい?里の連中って結束が強いって噂でよく聞くけど」
(………まぁ所詮噂は噂か)
どうしたものか、と頭をかいた。話を聞いたはいいが中々どうして複雑なものだった。聞いたこっちが逆に萎える。
(どうしたものか、このまま里に帰すのもあの話を聞いた後じゃ気が引けるしな……)
首を捻るが中々良い案が浮かばない。所詮は死神ってところか。
「あー………あんたはどうしたいんだい?あ、間違っても死にたいなんて口にするんじゃないよ」
「…………じゃあどうすれば」
「それを今考えているんだよ」
半ば本気で考えながら頭に手をあてる。
(仮に里に届けたとしよう。そしたらこの娘は必ず里の者からバッシングを受けるだろう。約束をした、なんて言ったがそんなのその場任せの名目だ。どうせこの娘を妖怪という理由だけで痛め付けている……。この子を放っておくわけにはいかない………)
「…………駄目だぁ。あたいじゃななにも良い案が浮かばないよ」
散々考え抜いた答えがこんなものだった。
「……別にいいですよ」
少女は特に気にした様子もなく冷酷な瞳で虚空を眺めた。
「………にしても死神さんは何処にいるんでしょうか」
「………………あんた、どうしてそれほどまでに死神にこだわるんだい?」
小町にはそれがどうしても理解出来なかった。自殺を図る輩も死神には会おうとしなかった。
それは何故か。
今自らの命を絶とうとしているのに死神の眼で見られてお前が死ぬのはまだ先だ、なんて言われたら自殺もくそもない。
「……私が死ぬときはいつなのか、それが知りたくて」
「あんた変わってるねぇ。もしまだ死ぬのが先だった場合どうするのさ」
この子が死神の寿命の話を素直に聞き入れる子だったらまだいい。だが納得しない答えを言った場合どうなるか、この娘は。
「そんなの決まってるよ。殺してもらう。それで全て終わり」
「……………………」
(忌み子とはいえ一人の少女にここまで言わせるか人里――――!)
小町の中では憤怒の炎が燃え始めていた。生物は皆生まれながらにして罪を持っている。原罪というやつだ。それを生物は全うに生涯を果たし、生命を終えることでその罪を閻魔に裁いてもらい、転生するまで霊界にある白玉楼まで送られるないしは地獄に送られ、生前の罪を永遠に償わされる。
気が付いた時には小町は少女を抱き締めていた。
「――――え?」
「辛かっただろうね。こんな齢十歳のアンタが一人で生きるのって……」
嘘偽りのない心からの言葉だった。確かに小町は死神ではあるがお迎えの死神ではない。少女の命を奪う道理などないのだ。
「さっきは嘘ついてごめんよ。人間なんて嘘っぱちさ。本当はあたいはあんたの探している死神さ。ただし舟の番頭だけどね」
「死神…………?」
「そうさ、だからあんたの寿命を見ようと思えばいつでも見れる」
そう言う小町の顔に影が射す。嘘をつくということがどれほど悪いことか閻魔の部下である死神が一番良くわかっている。だがそれでもつきたかった嘘を自白した。それほど今の少女には伝えておきたかった。
「だが今は教えれない。アンタは若すぎるからね。……人間としても…………妖怪としても」
「……別に……構わないです」
「助かるよ」
小町は少女を放すと頭を撫でる。
「約束しよう。あたいはいつまでもあんたの味方だ。……信用するしないはあんたの勝手だ。……………けど頭の端にはそのことを覚えておいてくれないかい?」
「ぇ………ぁ…………」
「あたいでよければいつでもあんたの話し相手になるから、さ」
「……………」
ふと少女の手が小町に伸びて服を掴む。すると少女が嗚咽を漏らし、泣き始める。
「死神さん………」
「…………よく一人で頑張ってきたね。でも大丈夫。これからはあたいも一緒だからね」
「うん……うん………!」
微笑んで少女を三度抱き締める小町は裏腹に殺気が自身の中で湧いてくるのを感じていた。
(里の馬鹿共が…………)
▼
「ここがあんたの家かい?」
結局夜になってしまったので里にある少女の家にまで小町は着いてきていた。
その際に周りから軽蔑する目が小町に貫くがどこ吹く風で受け流した。
「うん………かなりボロいけど」
少女が言う通り少女の家は家、というよりボロい小屋と言った方が自然だろうか。
「家があるだけまだマシさ。家は自らの空間、プライバシーが唯一護られているところだからね」
(この子の場合はどうだか知らないけど)
じゃあこれでね、と手を軽く上げて立ち去ろうとする。
「あ、あの死神さん……」
「ん?どうかしたかい?」
「今日は…………ありがとうございました」
「…………………さて、何のことやら」
おどけるように肩を竦めて首だけ振り返る。
「暇が出来ればお邪魔させてもらうよ」
それだけ言い残すと歩き出した。
「うん、待ってるよ。死神さん………」
▼
「…………そこの死神、少し待ってもらおうか」
里から出る寸前凛とした声をかけられて足を止めた。
「………へぇ、あたいのこと死神だって分かるんだ」
半ば感心しながら振り向くと青を貴重とした服を着た女性が立っていた。
「それでなんだい?里の守護者さんよ」
小町の視線の先には里の守護者であるワーハクタクの上白沢慧音。
「…………先程お前が………例の子を連れているのをいるのを見てな…………あの子とはどんな関係だ?」
「…………………………」
小町は慧音を冷ややかな目で見つめた後ため息をつく。
「……………こんなところで話せるわけないだろ」
夜とはいえ今は里の中。少なからず人の通りはあるだろう。そんな中であの子の話はしたくない。
「そうか……では私の家に来い。そこでだったら里の皆に聞こえることはないはずだ」
「……………………わかった」
「話が早くて助かる。じゃあ私についてきてくれ」
慧音が踵を返して歩き出す。それに小町はついていく。
「………あんた、この里の守護者って聞くけど………どう見ても普通の女性じゃないか」
「そう言ってくれるのは嬉しいが私は普通じゃない。………ワーハクタクだ」
「あぁあの満月になると角が生えるっていうやつ?」
「まぁ概ね正解だ」
「よくそんなのが里の守護者なんてなれるもんだね」
「…………里を潰すのが人外の者であるならば里を護るのも人外の者の勤めかと思ってな」
「立派だね…」
「そうでもないさ。けどな、そうでもしないと……この世界ではやっていけないんだ」
「…………………ふん、古い考え方だね」
「仕方無いさ」
「……あの子から聞いたよ。里の者からかなりの暴行を受けているってね。………それでも、そうでもあんたは仕方無い、なんていえるのかい!?……ただ単にあの子は生きたいだけなのに忌み子という肩書きだけで………!あの子だってあんた等に迷惑かけてないんだろ?だったらあんたが護ってやりなよ!」
小町が慧音の胸ぐらを掴み上げる。
それを慧音は落ち着いた様子で振りほどいた。
「…………残念だがそれは出来ない。あの子が人間としての自我が持てるのはおおよそ数週間だろう」
「なッ………!?」
あまりの衝撃の言葉に思わず胸ぐらから手を放して後ろに下がる。
「………彼女はそう長くない。……それまでは私が責任を持って………」
「―――――――ふざけるな!!」
「ッ………」
「あの子は今日三途の川にまで来て自殺しようとしてたんだよ!?……護っていれば普通は自殺なんて考えないはずだ。……結局あんたも他の里の馬鹿共と一緒だ。………あたいはあんた等を一生軽蔑する」
慧音を睨み付けてからその場から消えた。能力を使って移動したのだろう。
慧音は俯いていた顔を上げると双眸を鋭く光らせた。
「それは違うぞ死神。どれだけの犠牲を払ってまでも………間違いは正さなければならない」
はい、慧音さん初登場。
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では次回までバイバイです。