舟を漕ぎながら小町は昨日のことを思い出していた。
ずっと考え続けていた。忌み子である少女を救う方法を。しかしいくら考えたところで………。
「いい案は浮かばないものだね」
少女が完全に妖怪化するのも時間の問題。その前に手は打っておかないといけない。
博麗の巫女が動くような事態にならなければいいのだが……。いや、それ以前に里の守護者が少女を殺す、というケースもある。
二人同時に来たらそれこそ最悪だ。いくら死神で、さらにチート並みの能力を持つ小町ですら無謀に近い。
「くそ……。何か、何か……まだやれることはあるはずだ」
「小野塚小町」
「ッ!」
真後ろから声がけられて反射的に舟を漕いでいた櫂を振り抜いた。しかし、
「上司を殴り付けようとするとはいい度胸してますね。しかも櫂で」
四季映姫が笏で受け止めていた。
「え、えええ閻魔様!?す、すみません!」
「言い訳はしなくて結構。貴方が思い耽っていることくらいお見通しです」
「あ………はい」
慌てて弁解しようとしていた口を閉ざした。
「さて、貴方が今思いに耽っていることはことがどれほど幻想郷の要と言っても過言ではない里にとって重要なことかわかってますか?」
「………………………はい」
「ならばよろしい。今後一切の接触を禁止します」
「え………!?」
「死神である貴方がホイホイ里に行ってもらっては困るのですよ」
「ッ………!」
握った拳から血が垂れるが知ったことではない。
「あの子が殺されるのを黙って見てろって言うんですか貴方は……ッ!」
「………何故貴方が……こう言っては失礼ですがただの人間なのですよ?興味がそそられるところもない。……貴方のことは問いについてですが簡単に言ってしまえばそういうことです」
「――――――そうですか」
フラリと小町の身体が揺れる。
――――――直後目の前に櫂を振り上げた小町が。
「ッ!」
笏で受け止めるがその衝撃で舟に皹が入って壊れた。
「……ッ。小野塚小町、貴方舟を……」
「たかが舟だ!壊れたところで何も心配いらないよ!………一人の命の比べたらね!!」
飛び上がると櫂を映姫向けて投げ付けた。
「いい加減にしなさい!!」
笏を叩き付けると砕け散らせる。いつ来てもいいように身構えるがいつまで経っても来なかった。
「…………小町?」
そこに小野塚小町の姿はなかった。
「…………何とか逃げ切れたか……」
映姫が櫂を砕くと同時に能力を使って逃げた。すぐに追われる心配があったが姿が見えなければ多少時間は潰せるだろう。
「早く行かなくちゃ……」
目的は里。あの子を守りに行く。
「待っていなよ……すぐに行くから……!」
音を立てることなくその場を後にした。
▼
慧音は自らの目を疑っていた。
目の前に広がる血の海を前にして。
その中心には例の少女が。
朝に少女の家にその日の食料を届けに行った。その時は寝ていたので何も言わず帰り、寺子屋でその日の授業を終わらせて明日の授業の内容を考えている内にいつの間にか夜になっていた。ふと、何やら外が騒がしいと同時に窓から里にあるまじき光景が慧音の瞳に映っていた。人の肉が、内臓が、血が、そこら中に飛び散っていた。
慌てて外へ飛び出すとその中心には忌み子が。その周りには犠牲になった人間達が屍となり、転がっていた。
「――――――き、貴様ァ!」
今夜は満月ということもあり、ワーハクタクと化した慧音は一瞬で少女に迫ると首を掴んで床に叩き付ける。
「貴様……里の人間を……!」
少女を睨み付けるが次の瞬間驚愕した。
「アハ……ハ……ハハハハハハハ!!」
突如少女が嗤っていた。
「く、狂ってる………」
(いち早くこの世から消す!)
手刀で脳天を狙う。
しかし寸前で横から何者かに吹き飛ばされた。
「グ……!?」
吹き飛ばされながら慌てて体勢を整えるとつい今しがた自分を狙った者を睨み付ける。
「小野塚、小町……!」
憎々しげにその名を呼ぶと小町は鎌を構える。
「あんた、今この子を殺そうとしただろ!」
「その少女はもうお前の知ってる子じゃない!今すぐそいつから離れろ!」
「ハッ、あたいを騙そうとするつもりかい!?そんなの知ったことじゃ―――」
ズブッ、という音と同時に小町の言葉が強制的に途切れさせられる。
「……………え?」
少女の手が小町の脇腹を貫いていた。貫いた少女の手が真っ赤に染まる。
「死神!」
「アッハハハハ!」
「あんた………どうして……」
膝が崩れて血が口から吹き出る。
「まさか………」
「逃げろ死神!そいつはもう妖怪だ!」
「何でいきなり……」
「そんなの私が聞きたい!」
小町が能力を使ってその場から消えて家屋に屋根に避難する。
「不意討ちにしちゃあやってくれるじゃないか………!」
「ガアァァァァァ!!」
「ッ!」
目の前に迫る少女の腕を掴んで止める。すると横から慧音が少女を蹴り飛ばす。
「ッ!馬鹿!」
追撃をかけようとする慧音の足を掴んで止めた。
「何をする死神!」
「殺しちゃだめだ……!」
「今はそんなこと言ってる場合ではないんだ!大人しくしていろ……!」
「黙って言うこと聞くと思うかい?」
「だったら聞かせるまでだ……!」
「やれるもんならやってみな!!」
その場で鎌を振り上げると一瞬で慧音の目の前に現れる。
「何………!?」
「死神の恐ろしさ…………その身で体感しなァ!」
「させるか!」
柄を蹴り飛ばして距離を離す。しかしそれもまた潰される。
「ハァッ!」
鎌を振り下ろして慧音がそれを再び蹴り飛ばす寸前後ろに移動して深く裂いた。
「ッゥ!」
怯んだ隙に生えていた尻尾を掴んで家屋に投げ付けた。
「あんたの相手をしてる暇ないんだよこっちは!」
「あいにくとこっちもだ!」
家屋の中から足の低い机が飛んでくるが鎌で裂く。次いで懐から銭を取り出す。
この銭は特別なもの魂が三途の川を渡る際にその魂が生前に人のために使った量の銭に相当するもので量によって早く彼岸に着いたり遅く着いたりする。最悪三途の川に突き落とされる。
「これでもくらいな!」
「断る!」
銭を投げ付けて小町自身は背後に移動して迫る。
「嘗めるなよ死神風情が――――!」
腕を振るって銭をはたき落として弾幕を小町に放つ。一撃でも入れば戦闘不能になるだろう。だからこそ、接近する。
「……!?」
「それはこっちの台詞だ――――!」
当たる寸前で頭を傾けて避けると下から鎌を振り上げて裂いた。
「ぐぁ………」
片膝が折れて、しかしそれだけで耐える。
「この程度で………」
血が垂れて地を染めていくがそれでも倒れることを拒絶する。
「私は………里の為にも……その少女を殺す………!」
「………折れないんだねあんたは」
「当たり前だ……!その少女に……殺された者がいるんだぞ!放っておけるか!」
気力だけで立ち上がり、小町を睨み付ける。
「どれほど邪魔されようが私はあの子を殺す!」
「やってみなァ!!」
ワーハクタクが放った拳と死神が振り抜いた鎌が激突して辺りに衝撃波が広がった。
▼
二つの巨大な力が激突するなか少女は森の中へと駆けていた。
何故あの死神が自らを庇ったのかは知らないが今のうちに逃げていなければ間違いなく殺される。別に今でなくとも人間を喰らうのは出来る。今日は三、四人喰った。しばらくはもつだろう。腹が減ったのならまた後日来ればいい話だ。
少女にはすでに人間であった記憶は失せていた。
「ハァ……ッハァ………」
まだ妖怪になりたてなのか、身体が付いていけなかったのだろう。すぐに息が切れた。
何処か近くで休むところがあればと思い、首を忙しなく動かしていた。と、少女の目にひとつの建物が見えた。
森の中の高台にポツンとある、神社。ここなら休めるだろうと思ってその鳥居を潜った寸前。
「妖怪風情が神社に何のようかしら」
その一言と共に少女の意識が吹き飛んだ。
小町、グレたナリー
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では次回までバイバイです。