ではではどうぞ。
………………何が起こったのか分からなかった。
本来ならすでに鎌が小町を裂いているはず。しかし小町は鎌に裂かれていなかった。
裂かれていたのは。
「し、四季様…………」
四季映姫だった。
「無事………ですか小町………」
顔を上げて口から血を垂らしながら笑っていた。
「四季様!?どうして……!」
「それはこっちの台詞ですよ……。何死のうとしてるんですか……」
「そ、それは………」
「自らの命を経つことが………報いとは限りません……。貴方は、貴方はあの子の分まで生きなければなりません……」
映姫の華奢な腕が小町を包む。
「……それが今の貴方に出来る………善行です」
「……四季様…………」
「まったく………世話の焼ける死神、ですね………」
「ごめんなさい………ごめんなさい………」
「………きっと許してくれますよ。あの子は、とても優しい子ですから」
いつの間にか雨は上がり、青空が見えていた。そこから見える太陽は全てを見守っているようだった。
―――幻想郷は全てを受け入れる。それは美しくて、とても残酷なものですわ。
いつかの妖怪の賢者が言っていた言葉。初めは何を言っているんだ。そう思っていた。だけど今なら分かる気がする。
あの子の死を受け入れなければならない。自分にはその義務がある。
きっと立ち直る、立ち直ってみせる。だから、せめてだから今だけは泣かせてくれないかい?
「う、あぁ………あああぁぁぁ―――!!」
その日、一人の少女が短い生涯を終えた。
▼
――――それから気が遠くなるほどの月日が経ち、博麗の巫女が二代替わった。
暖かい日差しに照らされて意識が覚醒してくる。
ふと、目が覚めると小町は舟の上で寝そべって寝ていた。どうやら霊達を彼岸へと渡し終えてから寝ていたらしい。
「んん……ぁ……よく寝た」
ひとつ伸びてから立ち上がる。辺りを見渡すと遥か彼方に岸が見えた。
「うーん、ゆっくり漕いでいくのもありだけど……面倒だからいいや。そろそろ時間だしね」
能力を使って一瞬で岸に着くと舟から下りるとごく自然な足取りでその場を離れる。きちんと仕事をしている者達から見てみれば職務放棄だと思われるが小町にとっては日常茶飯事のようなものだ。
「さ、行こうか」
楽しそうに喉を鳴らして彼岸を後にした。
▼
博麗神社へ続く階段近くの森の中にその子の墓はあった。本当は博麗神社の境内に立てるつもりだったのだがさすがに妖怪退治を専門とする者が住むところに妖怪となった少女の墓を立てるのはまずいと思い、なるべく人に見つかりにくいこの場所にした。
「やぁ、ごめんね遅くなって。少し寝てた」
もちろん誰もいない。だけども小町は誰かがいるように話し続ける。
「仕事はいつも通りサボってきたさ。まぁ後で大目玉くらうだろうけどさ」
小町はあの日を境に毎日とはいかずにほぼ毎日だがこうして仕事をサボり、少女の墓へと足を運んでいる。
ケラケラと笑って先程里で買ってきた花束を置く。
「………あんたの好きな花は分からないよ。いつまで経っても。………聞いとけば良かったかな」
話しているうちに一人言も多くなったのかもしれない。
「私も貴方がいつサボるのかいつまで経っても分かりません」
「…………………………………………え?」
背後から久し振りに聞く声がした。それと同時に地獄を見た気がする。振り返ると満面の笑顔の四季映姫・ヤマザナドゥ。
「(°Д°)」
「よくもまぁ堂々とサボってくれましたね」
「ま、待ってください!さ、サボったことは謝ります!ですがお願いします!この子と会話をさせてください!」
土下座をして額を地に擦り付ける。
「………ハァ、貴方のそういうところは変わりませんね」
「と、ということは許して………」
「許しません」
「え………」
「今日という今日は許しませんよ!」
腕を掴んで小町を引っ張る。
「やめてくださいー!」
半泣き状態になりながらも遠ざかる墓に視線を向ける。すると目を見開いた。
木々の間から陽射しが射し込み、墓の部分だけを照らしている。さらに半透明な少女が墓の前に立って小町に手を振っていた。
「映姫様………」
「何ですか、今は…………」
小町の視線に気付いたのか映姫も目を見開いた。
しかしすぐに少女は煙のように消えていなくなる。
「……………今のは?」
「……………貴方の気持ちが伝わったようですね」
「……………」
「貴方を許したのか話しに来たのか。それは分かりません。ですがこれだけは言えます。間違いなく今のはあの少女でした」
小町から手を放すと小さく掌を合わせた。
「私達が出来ることはあの子が無事に転生出来ることを願うことだけです。………それからは彼女次第。私達部外者が口出しすることではありません」
「…………そうですね」
小町は墓へ歩み寄るとその表面を撫でる。
「………あんたはあたいを許してくれるかい?」
答えは返ってこない。当然のことだ。
だがそれでも小町の耳には届いていた。
「そうかい………」
微笑むと視界が揺らぐ。いや、涙で揺れているのか。
「…―――――」
そういえば少女の名前は一回も聞いたことがなかった。
だがそれでも小町は少女を愛している。名前を知らない忌み子を。
名前なんか知らなくったって少女の笑顔を思い出せればそれで充分だ。
瞳を閉じるといつだって少女がいてくれる。
小町はきっと恋をしていたのだと思う。決して叶わぬ恋を。里に嫌われながらも必死に生きようとした名前なき忌み子に。
「さようなら…………そして、ありがとう。願わくば、今度は人間として生まれることを……………」
あたいはこれからも何回も名前の知らない少女の墓の前へと来るだろう。例え記憶が巡るほど長い時間がかかろうとも、あたいはここに来続ける。決して一人言なんかじゃない、あの少女とお話をするために。
それがあたいの、『小野塚小町がサボる理由』なのだから。
………暖かな陽の光が小町と少女の墓を包み込む。それは少女が小町を包む暖かさなのか、それとも………。
陽の光はずっと、ずっと二人を包んでいた。
―――――小野塚小町がサボる理由 完
はい、今回でこの「小野塚小町がサボる理由」は終わりです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
この作品はふと小町は何故サボっているのだろう、というふと思ったことが書く発端でした。初めは鎌も波打ってない、ということでそこを無駄に強調したりしてました。………出来ていたのか……?
人の形をしておきながら人でない。そんな少女は果たして小町と出会って幸せだったのか。………私は幸せだと思ってます。短い生命でしたが小町という自身を理解してくれようとする者がいればどんなに組織から孤立していようが誰も理解してくれる人がいないよりかはずっと幸せだった、私はそう思います。
少女は何回も何回も生と死を繰り返し、何度も甦ります。そしてその輪廻転生の中で再び少女が小町と出会えることを………。
さてさて、最後に小町とその少女を描かせて頂きました。挿絵として入れたかったのですが入れるところがなくて………。
【挿絵表示】
感想、評価お待ちしております。
ではまた違う作品で出会えたらその時までバイバイです。