やはり俺の夢の世界は間違っている。   作:コウT

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第1話

春。

それは終わりが訪れ出会いが訪れる季節でもある。

ゆえにこの季節が俺は嫌いだ。ようやく仲良くもない連中と別れることが

できたのに結局また同じようなやつらと会わなきゃならない。

なんで同じことを繰り返さなければならないのか、

どうせもう会うことないのになぜ別れに涙を流すのか

どうせ一年間しか同じクラスで勉強することなんてしないのに

なぜ出会いを喜び笑顔を見せるのか

と考えつつ俺は教室の窓から雲を眺めていた。

 

 

 

あの3人でのデートの一件以来奉仕部には特にこれといった依頼はこなかった。

 

依頼がないのはいいことだがこの時の俺達は却って困っていた。

 

原因はわかっている、あの一件以来俺達奉仕部を取り巻く状況は

 

少しずつ変わっていた。

 

 

由比ヶ浜は相変わらずのように優しく笑顔を振りまいているが

どこかぎこちない雰囲気を感じる。

 

 

雪ノ下もいつも通り部長としてあの部屋で依頼人を待つ。

しかし昔みたいにずっと本を読むことをせず

じっと何かを考えるような顔を見せることが多くなった。

最も俺の勘違いかもしれないがなぜか勘違いだと思えない・・

 

 

一方で俺はというと・・・・

 

 

 

逃げているのだ。

 

俺はあの場で知ってしまった。

 

由比ヶ浜の本当の気持ちと雪ノ下が解決しなければならない問題。

 

そして俺が求めている本物は決して3人が笑顔でいることができないことに

 

なる形になるかもしれない。

 

それでも俺はあの場で・・・・・・ああいうしかなかった。

俺達は楽しみながら時には悩み、時には対立し、時には涙を流した。

 

だからこそだ。俺はあいまいな答えや馴れ合いの関係を嫌い

悩みつづけ、もがいて、それでも答えを見つけるために

必死に何回も同じことを続ける・・

 

 

それで出た答えが俺が求めていた本物だと思う。

俺は少なくともそう感じている

そしてそれはあの場にいた二人にも分かち合えたと俺は思っている。

 

そしてあれから俺達奉仕部には特にこれといった依頼は来なかった。

まあそれでも材木座がメールでいつも通り泣きついてくるのだが

それはスルーしていいだろ・・・いやめんどくさいから返すべきか・・・

 

 

やっぱスルーしよ。

 

そしてあっという間に終業式が来て春休みがきた。

由比ヶ浜が「2年生終わった記念にパーティーやろうよ!」と

いつも通り企画しようとしたのだが

雪ノ下は家の用事で春休み中は東京に行くことになり

俺はというと予備校があるので今回は流れることになったが

「じゃあ新学期!3年生になったら必ずやるよ!」と

俺と雪ノ下に突きつけるように告げる。

いつもの由比ヶ浜なら“そっかー・・しょうがないよね・・”と

諦めるはずだ。けど彼女は引かなかった。

それは彼女なりの気遣いでもありそして彼女のわがままでもあるのだ・・

 

 

 

 

ピンポーン、ピンポーン

 

さっきから由比ヶ浜がイライラしながらインターホンを連打する。

いやさすがにそんなに連打すると壊れそうな気がするのですが・・

 

「もういいだろ。こんだけ押しても反応ないならいねぇんだよ」

 

「そうなのかな・・」

 

またこの顔だ。由比ヶ浜の不安そうな顔はどうもいつもと違う。

今までもこの顔を見てきたことはあるがでも今日は違う。

少なくとも俺の直感がそれを感じている。

 

「でも家にいないってことはでかけてるってことだよね?」

と言いながらケータイを取り出す由比ヶ浜。

慣れた手つきで操作し、雪ノ下に電話をかける。

 

「いやケータイにも出ねえだろ。恐らくだけど・・」

 

「わかんないじゃん・・それに・・」

 

彼女はふとケータイを耳元から下ろす。

 

どうした、いつもの由比ヶ浜結衣はこんなに歯切りが悪くない。

確かにあの日から俺達はぎこちない感じだった。

それでも由比ヶ浜だけは変わらなかった。いつも通り馬鹿みたいな話を

雪ノ下に話して少しでも雰囲気を崩さないように

自分なりの努力をしていた。

 

しかし今のこいつは違う。

というより今日気になる点がある。

さっきの学校だって雪ノ下の家に行こうとした時だって慌てるかのように

俺を引っ張った。

 

ここはさぐってみるか。

 

「なあ・・もしかしてお前何かあったのか?」

 

「え?いや・・別に・・」

 

由比ヶ浜はふと目を逸らす。

こいつは知らないのか、人が嘘をつくときは相手の目を正面から見ることができないことを。

 

「そういう嘘はいいから話してみろ。なんか思うところがあるんだろ・・」

 

「・・やっぱヒッキーがすごいね。そういうのわかっちゃうんだ・・」

 

とずるずるとその場にしゃがみこむ。

そして寂しそうな笑顔を見せながら語り始めた。

 

「・・春休みの間、ずっと考えてたんだ。あのデートで私達が今後どうするかは

決まった。でも実際あれから特になにかするわけでもないし・・

雰囲気もなんかね・・あたし空気を読むことが取り柄だからそういうの

わかっちゃうっていうかさ・・ははは・・」

 

彼女の乾いた笑いは俺の何かに刺激した。

その何かを俺は具体的に言葉に表すことはできない・・・いやしたくない。

それを言葉に出すことは俺達がまた逃げ続けていることを

意味しているのだから。

 

「・・考えすぎだ。お前はそういう空気を少しでも変えようとがんばってた。

俺達が何もできないのに対してそういうことができたのは・・その

・・助かったっていうか・・なんつーか・・」

 

 

そして雪ノ下のマンションの訪問から

数日後に由比ヶ浜が失踪した。

由比ヶ浜のママさん曰く書置きの手紙で

 

「「ゆきのんを探してくる!すぐ帰ってくるから心配しないで!」」

 

と書かれていたそうだ。しかもケータイを置いて行っている。

普通ならばありえない。あいつがケータイを手放すなんて

それこそ千葉が崩壊するよりも怖い話だ・・・

いやまあ・・それはないか、うん。

 

 

そして今この現状である。

つまり雪ノ下が消えて由比ヶ浜がそれを探しに消えた。

ミイラ取りがミイラになったともいうべきか、最もそんな冗談を

笑えるような状況ではないが。

 

「・・とりあえず俺の方も探りいれてみますよ」

 

「探り?何か知ってそうな人を知っているのか?」

 

「いるじゃないですか・・俺達のことを何でも見通せる人が」

 

 

そう、事の発端が雪ノ下の失踪なら当然それについて知ってる人がいる。

それは俺達奉仕部の今の現状を作った張本人でもあり元凶ともいうべき人

 

 

雪ノ下陽乃。

彼女ならば何かを知っている、俺はなんとか連絡を取り今日会うことに

なっている。最も電話したとき彼女はまるで俺が電話してくるのを

予想したかのような口ぶりだった。

相変わらずだよ・・・本当に。あの人に今、頼るのは不本意だが

それでも頼らずにはいられない。

 

「・・比企谷。君の事だから心配はいらない、ただ今回の件はこれまでと違って

色々とまずい気がする。だから・・用心するように」

 

平塚先生はそういって煙草をもみ消す。

そして腕を組みながらこちらをじっと見つめる。

 

「わかってますよ・・あの人と会うときはいつも警戒してるんで」

 

「そうか」

 

俺はそのまま立ち上がりその場をあとにする。

そうだ、雪ノ下陽乃がどんな人かを知っている。

だからこそあの人に対して警戒を怠らないということはない。

これまで通りでいい、俺が何かをすることはない。

警戒しつつ話を聞けばいいのだ。

 

 

 

 

待ち合わせは奉仕部部室。

鍵はすでにあけているため俺は扉を開ける。

そこには雪ノ下の席に座りながらケータイをいじる雪ノ下陽乃がいた。

 

 

 

 

 

 

「とりあえず・・久しぶりだね」

 

「お久しぶりですね、雪ノ下さん」

 

こんな感じの会話で始まりが雪ノ下さんと俺だ。

お互いある程度の距離感を保ちつつの会話。

もうわかっているから余計な前振りなどもいらない。本題に入ろう。

 

 

「それじゃあ・・さっそく聞いていいですか?」

 

「んーせっかちだな。そんなに雪乃ちゃんのことが気になる?」

 

「・・やっぱ何か知ってるんですね」

 

「まあね・・けど今回に関しては比企谷君に簡単に教えるわけにはいかないかな」

 

言葉一つ一つが冷たい。以前の陽乃さんなら俺を遊ぶかのように楽しみ

それでこそここまで冷たさを感じはしない。けれど今は違う。

俺のことを・・・敵視している?

 

「・・ならどうしたら教えてくれるんですか?」

 

「なんでですか?とか聞かない辺りさすが比企谷君だね。そういうとこ

お姉さんは好きだよ。でもこれは正直君に教えられない・・

いや教えたくない」

 

雪ノ下さんはそういって頬杖をつきながらこっちを見つめる。

 

教えたくない?

なんとなくその先の意味を必死に俺は考えていた。

 

「教えたくないならなぜここにきたんですか?それこそ時間の無駄だと思いますが」

 

「お姉さんが比企谷君に会いたかったから・・じゃだめ?」

と首を軽くかしげる。そういうとこはさすが姉妹とだけあって

雪ノ下雪乃と似ているところがある。

けれど・・

 

「悪いですけどこっちはこれでも必死なんです。雪ノ下だけじゃない。

由比ヶ浜もいなくなった、二人の安否もわからない状況ですから

真面目に頼みます」

 

思わず強い口調で言ってしまった。

しかし雪ノ下さんはニヤっと笑い、

「ふーん・・そんなにあの二人が心配なんだ。

まあ教えてあげないこともないけどその代り条件がある」

 

「条件?」

 

「うん。まず比企谷君は今日ここで聞いた話を誰にも口外しないこと

もちろん静ちゃんにもだよ」

 

誰にも口外しない。つまりそれは誰の協力も借りれない。

辛いことかもしれんが俺は一人で行動してきた人間だ、今更なんだというんだ。

 

「わかりました」

 

「うん。それともう一つ」

 

雪ノ下さんは少しためらいつつもはっきりとした口調で告げた。

 

 

 

 

「もしこれから先私がいなくなっても絶対に私のことを探さないで。

もし探してしまったらもっと被害がでるから」

 

被害が出る。

その言葉に俺は少し動揺を隠すことが出来なかった。

しかしそんな俺を横目に雪ノ下さんは話を続ける。

 

 

「まず事の始まりは数週間前。春休み最後の日、雪乃ちゃんに会いに行こうと

思ってマンションに行ったの。そしたら鍵は開いていて中には誰もいなかった。

最初は鍵の閉め忘れと思ったけどケータイも置きっぱなしで

何より一番驚いたのは書き置きがおいてあったの」

 

「書置き?」

 

「そう」

そういいながら机の上のケータイを操作し、これが書置きだよと俺にケータイをシュっと

スライドさせてきた。

俺はうまくキャッチしその画面を見るとそこには

雪ノ下が字で書かれた書置きが映っていた。

 

 

「「恐らく最初にこれを見るのは姉さんだと予測しているわ。

だから単刀直入に言います。

私は雪ノ下家と縁を切ります、そしてもうあなた達の前には

現れません。

雪ノ下家だけでなく総武高校の友人にも会いません。

一応言っておきます、探さないでください」」

 

 

「最初は雪乃ちゃんは雪ノ下家と縁を切るために

わざわざこんなことしたのかなと思った。

だから家の力を使って全面的に捜索した」

 

「・・・それで?見つかったんですか?」

 

 

 

「うん・・一応ね」

 

 

俺はこの時何か妙だと気付く。

この話の本質は雪ノ下が家との縁を切るために失踪した・・ように

見えるがでも雪ノ下さんを見ている限りどうにもそんな気はしない。

むしろ妹である雪ノ下が見つかったのに

なぜあんなに寂しい顔をしているのか。

 

「・・無事・・なんですよね・・?」

 

 

「・・・・・」

 

 

「黙らないでくださいよ。無事なんですよね?」

 

焦りを感じていないはずがない。今だって手に汗が溜まってきてる。

やがて雪ノ下さんは諦めたかのように小さな笑みを浮かべ俺の問いに

答えた。

 

 

 

 

「無事・・・・なのかな。

雪乃ちゃんを見つけたのは東京のビジネスホテル。

チェックアウトの時間になってもこないから

ホテルの人が部屋まで確認したらベットで寝てる雪乃ちゃんを

見つけたらしい。すぐにその情報は雪ノ下家に届いて私達は迎えにいった。

雪乃ちゃんに外傷はなく、起きたら話を聞こうと家に連れ帰ったまでは

よかったんだ・・

 

 

 

けど・・もう3日も目覚めない」

 

 

陽乃さんの声は響いた。誰もいないせいか最後の言葉だけが

俺の頭の中にずっと響いている。

 

 

 

 

 

 

目覚めない?

雪ノ下が?

寝坊なんてしたことがないような女だぞ?

そんな雪ノ下が寝たきり?

 

「もちろん医者にも見せたけど何もわからない。

至って健康。だから原因がわからずどうしていいかわからない状況なんだ」

 

そういって雪ノ下さんははあ・・とため息をつく。

この人もこの数日で色んなことがあり精神的にも少し疲れた部分があるのだろう。

 

「・・わかりました。でも・・なんでそれを俺に言いたくなかったんですか?」

 

「うん・・ここからが本題かな。

家で寝ている雪乃ちゃんに付き添ってた時、雪乃ちゃんが何回か寝言いったの」

 

「寝言?」

 

「うん・・ちょっとケータイの画像フォルダ見てもらえる?

その中の音声メッセージに入ってるから」

 

俺はつかさず雪ノ下さんのスマホの画像ファイルを開く。

その中にある音声メッセージと書かれたファイルが

3つあった。

 

「・・その音声メッセージ聞けば何かわかるかもしれない。

けど・・・比企谷君にとってはちょっと酷な内容かもしれない。

それでも聞く?」

 

「はい」

 

即答だ、決まっている。

酷な内容?罵声を浴びせ続けられて育ったような俺だ。

今更そんなのなんだというんだ。

 

 

 

 

 

俺は一つ目のメッセージを開く。

 

 

「「「・・・お願い・・もういや・・・・・もう・・・やめて」」」

 

 

 

これだけだった。

このメッセージがどんな意味を持つかはまだわからない。

けど何かに怯えているのか。声が震えている。

 

 

二つ目のメッセージも開いてみる。

 

 

 

「・・なんで・・きたの・・・由比ヶ浜さん・・あなたのこと・・・・いで・・・

わたし・・・・」

 

 

ここにきて由比ヶ浜の名前が出てくる。

どうやら雪ノ下が寝ていることと由比ヶ浜が失踪した件は何か関係しているに

違いない。

 

「ガハマちゃんの名前出てきたときは驚いたよ。

雪乃ちゃん探して失踪したことは知ってたけどね」

 

 

とうとう最後の3つ目である。

これには重要な手がかりが残されているのか、

それとも意味のない手がかりなのか。

どちらにせよ今まで何もつかめなかった現状から少しは前進した。

何かに恐怖している雪ノ下

由比ヶ浜との関連性

この二つは雪ノ下が必死に残してくれたメッセージだ。

となるとこの3つ目も恐らく何かのてがかりには違いないだろう。

 

俺は思いっきり3つ目のメッセージを開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

え・・・え・・・え・・・

 

 

「・・やっぱり君には聞かせるべきじゃなかったか」

 

 

 

 

 

何が起こったかわからない。けど俺は唖然としている。

もう一度だ、もう一度冷静に聞いてみよう。

何かの間違いかもしれない。

 

俺は再び再生ボタンを押す。

 

 

 

 

「「「・・・なんで・・・助けてくれなかったの・・比企谷君・・

あなた・・・の・・ど・・て・・

 

 

 

 

 

 

 

私を見捨てたの」」」

 

 

 

 

 

見捨てた・・・俺が雪ノ下を?

見捨てたなんて・・嘘だ。俺はいつだってあいつを見捨てたことなんかない、

 

戸塚のテニスの時や川崎の件、千葉村や文化祭、体育祭、修学旅行や生徒会選挙、クリスマスイベントだって俺は奉仕部の為・・あいつのためだと思ってやってきた・・はずだ。

 

 

「・・・比企谷君」

 

茫然としている俺に雪ノ下さんは語りかける。

 

 

「君は恐らく今回の事件に何も関係ない、

でも雪乃ちゃんが起きない原因はちょっとは君が関係しているのはないかと思う」

 

「俺が・・なんで・・?」

 

雪ノ下さんは立ち上がり俺に近づきながら言い放つ。

 

「なんで?それは君がわかっているでしょ?

君がガハマちゃんと雪乃ちゃんと3人でデートいって

雪乃ちゃんの依頼を聞いた。

その依頼がどういうものかは私は知らないけど

あの後雪乃ちゃんが私に今後どうしたいかを真剣に語ってくれた。

私はその勢いに負けちゃって家に戻ることにした。

お母さんからは色々言われたけど雪乃ちゃんのあんな言葉を聞いたらね・・」

 

そして俺の目の前にたどり着く。

俺は見上げるとそこにはさっきまで小さな笑みも消え

冷たい視線でじっと見つめる雪ノ下陽乃がそこにいた。

 

 

「けど・・比企谷君達は何もしなかった。結局雪乃ちゃんが

行動という行動を起こしたのはこれだけでそれからずっと

ぎこちない感じが続いていたのは知ってる。

ガハマちゃんもだよ、あの子もわかっていて何もしないんだから

同罪だよ」

 

「いや・・でも雪ノ下の問題はあいつが自分で解決するべきで・・」

 

「本当にそう思ってた?」

 

 

返す言葉が出てこない。

 

心の中で俺はまたあいつを助けようとしてたのかもしれない。

あいつがどこかで助けを求めるサインを出していたのに気づき

俺はどうにかしてあいつを救おうとしていた。

そのことに関しては否定はできない。

 

「比企谷君なら少なくとも何かを変えることはできたのかもしれない。

けど結局何もしなかった比企谷君は結局は雪乃ちゃんを

見捨てたってことになるよね」

 

「いや・・俺は・・」

 

 

「いいよ、言い訳とか聞きたくないし。

私も少しは比企谷君に期待したからちょっとがっかりしただけだし」

 

そういって雪ノ下さんはドアのほうへと歩いていき、

 

「じゃあね比企谷君。

あ、ちゃんと約束通り誰にも他言しないことと

私が消えても探さないでね」

 

 

「ちょ・待ってください!」

 

 

そうだ、もう一つ肝心なことをここで聞き忘れるわけにはいかない。

 

 

「雪ノ下さんが消えるって・・どういうことですか?」

 

 

「・・・・それは言えないな。

言えば君も同じことすると思うから」

 

「同じこと・・?」

 

「これ以上はもう無理。

じゃあね比企谷君」

 

そういって部屋から出ていき教室のドアが閉まった音がする。

 

 

 

 

 

 

雪ノ下・・・

俺が・・お前を見捨てる・・

俺が・・助けなかったのが原因なのか。

確かに前に彼女はこういった。

 

 

 

いつか、私を助けてね。

 

 

今でもあの時の雪ノ下の顔を鮮明に思い出せる。

あの薄い笑みで雪ノ下が俺に言った願い。

しかし俺はそれを叶えることができなかったのか。

もう叶えてあげることができないのか。

 

ただ茫然とすることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰るなり俺はすぐさま部屋に行きベットに蹲る。

もう何を考えても無駄だ。

ずっとあの言葉が俺の頭の中で響き続ける。

 

比企谷君・・比企谷君・・・・比企谷君・・

 

 

 

 

 

 

 

何で見捨てたの?

 

 

 

「うるせぇ!!」

 

 

俺は思わず叫んでいた。

はっと我に戻ると全身汗をかいていて気持ち悪い。

 

「はは・・何やってんだろ・・」

 

俺は体を起こしてベットに座りこみ頭を抱える。

わからないことが多すぎて結局俺の中で残っているのは

俺のせいで雪ノ下は目が覚めないという事実である。

そしてこれを誰にも口外することができず、俺はその事実を

背負ってこれから生きていかなければならない。

 

その時ガチャっと部屋のドアが開いた。

 

「お兄ちゃん・・どしたの?」

 

我が愛する妹小町が心配そうな顔でこちらを見つめてくる。

どうやらさっきの声が下にも聞こえたらしい。

「別に・・なんでもねぇよ」

 

「・・なんでもなくはないでしょ」

 

 

反射的に投げやりな言葉しか出てこない。

俺はまた同じことを繰り返そうとしている。けどもうどうでもいい。

 

「・・いいからほっといてくれ。今は誰とも話したくない」

 

何かを察したのか小町はそっとドアを閉め下に降りていく。

何かぶつぶつ言っていたようだが俺の耳には聞こえなかった。

 

 

ふとケータイを覗くと着信がきていた。

平塚先生だろうか、と言っても雪ノ下さんとの約束を

破るわけにはいかないから何も言えないが

と思いながら着信履歴を開いた俺はそこに映る名前に衝撃を隠せなかった。

 

 

確かにそこには書いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由比ヶ浜結衣と。

 

 

 

 

俺は何も考えてなかった。

考えるより先にすぐに由比ヶ浜に電話をかけた。

こういうときの行動の速さをいつも活かせばいいとは思うが

まあそううまくいかないのが俺だ。

 

 

 

 

 

 

・・・出ない。

 

そりゃあ簡単に出れば苦労はしてない。

勘違いだったのか。

 

 

 

ガチャ

 

 

「・・・もしもし・・?」

 

 

「!!」

 

驚きの余り声が出ない。

こういう時に冷静になるしかない。

よし一度深呼吸・・・・・・・・・よし!

 

 

「由比ヶ浜!!無事だったのか!?」

 

「うん・・てかヒッキー声でかいよ、耳痛い」

 

「あ、ごめん・・」

 

全然冷静になってなかった。

でも俺は心の中でどこか嬉しかったのかもしれない。

俺が・・・会いたいと思っていた人の声が聴けた。

 

 

 

「由比ヶ浜・・お前今どこにいるんだ?」

 

「説明するとすごいわかりにくいんだけど・・」

 

 

由比ヶ浜は一呼吸おいてはっきりとした口調で確かに告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、夢の中にいるの」

 


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