咲-Saki- 鳥屋野編 episode of side-T   作:秋のさんま

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第1局:鳥屋野高校、団体戦に異常アリ
第一章:鳥屋野高校麻雀部員達


―世界の麻雀人口が一億を突破したのは昔の話。

 

 今ではプロ麻雀というのがテレビやらインターネットやらで生放送され、麻雀は大衆に快く受け入れられる存在になった。彼らの活躍は人々を熱狂させ、またあの人のようになりたいという願望を加速させる。その夢の為に、人々は活躍の場を求め、更にそれが見世物になり、また大衆は憧れを募らせた。

 

 その中の例が全国高等学校麻雀選手権。通称インターハイ。それは全国の麻雀ファンを熱くさせる。中でも夏の女子団体戦は花形であり、文字通り日本全国から視線が届く。

 

 新潟でも、熱狂の渦が巻き上がる。その高校の一つの鳥屋野(とやの)高校の物語。

 

 鳥屋野高校は、今年の台風の目となり、新たなる伝説を作るのか――。

 

 

 

――――――

――――

 

 

 

「鈴井くーん。麻雀の試合なんてどうでもいいからチャンネル変えるよ」

 

 春の祝日。藤城恋子(ふじしろれんこ)は椅子にもたれながら声を低くして心底興味なさげに伝えた。この女、麻雀部員の癖に部室のテレビをプロ野球中継に変更する暴挙に出た。ふわっとしてるレモン色のサイドポニーにあまり膨らんでいない胸に平均的身長の体型。鳥屋野高校二年生である彼女の大雑把さに、鈴井はただ笑うしかなかった。

 

「……僕はもう呆れるしかないよ。麻雀部なのに麻雀じゃなくてプロ野球見てるもの」

 

 鈴井晃(すずいこう)は麻雀部員の一年生。藤城とは小学生からの付き合いである。だがこの男としてはこの縁は断ち切りたいと思っていた。何せ彼女は鈴井は面白いという理由で勝手に友人にさせられ、反応が面白いからという理由で友人諸共何も知らせず海外に連れて行ったりするのである。鈴井としてはたまったものではなかった。ここにいるのも、藤城に強制的に入部させられたのが理由だ。ここにいる訳は成り行きと言うしかない。彼自身は麻雀は一応出来るが、点数計算が出来ない位の経験者である。

 

「お前、この試合を見てたとは言わせないよ? その右手のゲーム機が悠々と語ってるぞ?」

「これは元々君がね。お前なんてこれでもやってろっつって堂々と渡したものだぞ? ゲーム名はオトナの麻雀。ご丁寧にタイトル画面にR-18と書いてありますよ。最初俺はこんなの部活じゃねえ! こんなの青春じゃねえと思ったさ。でもバカは麻雀を見ず野球を見てるときた。この有様を見る限り野球見る奴より部活をやってるんだと今更思うの僕は。なぁ?」

「ふふふっ……確かにそうだね! このエロ!」

「なんだいバカ」

「女性から渡されたエロゲーを平然とやってる時点で君もバカだぞ」

「あっはっはっはっは……」

「あははははっ……」

 

 鈴井の笑いに藤城が釣られて笑う。罵り合いは二人の日常茶飯事であった。彼ら二人の悪人が大体のアクシデントを巻き起こし、鳥屋野高校麻雀部が巻き込まれるのが日常だった。

 

「何でそんな麻雀の試合に拘る?」

「三尋木プロが打ってるだろうが。君とプレースタイルが似通ってるんだから君みたいなバカには参考になると思うぞ」

 

 三尋木咏(みひろぎうた)。迫り来る怒涛の火力と評される彼女と、藤城の打ち筋は似ている。しかし彼女の場合、面白い麻雀がやりたいという意識からか、自身含め周りの手が速くなり、火力も高くなるというオカルトが付け回ってくる。役満が面白いように出てくるが、跳満放銃三連続も湯水のようにやらかす。私生活も性根も大雑把な女である。

 

「ふっ、三尋木は駄目だ」

「おや。なんでだい?」

「私のようにエンターテイメントに溢れていないもの。ただ圧倒して勝つだけって誰も楽しめないでしょう?」

「君はそう思うだろうけどね。役満して四連続倍満放銃するのはエンターテイメントじゃないぞ? ただの実力だぞ?」

「あはははははははっ!」

 

 藤城が腹の底から笑うと同時にドアが開く。入ってきたのは渾名がマイコーの眼鏡部長の少年内野義春(うちのよしはる)と、シアンの髪のハーフアップで、上品ながらもスタイル良好な少女の吉中美夏(よしなかみか)。部長は三年生、美夏は藤城と同じクラスだ。

 

「おおっ、マイコーにミカ…あれっ、ミカ。トミーは?」

「富代ちゃんは実家の農業の手伝いをしています。とりあえず私達で麻雀しましょう。ほらっ、恋子。テレビ消して」

「任せた鈴井」

「オメーがやれバカっ」

 

 そういう事で、四人は麻雀を始めた。

 

 

 

――――――

――――

 

 

 

「ツモ。リーチメンゼンイーペーコーピンフドラ3。跳満だが点数が分からんから教えてくれ」

「7翻の跳満で3000・6000ですね。鈴井さんがトップで終了です」

「うぅ~~テッペンが遠い~~」

 

 美夏の読み上げが終わると恋子は背もたれに背中を預け、天を見上げ唸った。インターハイ公式ルールでの勝負は晃がオーラスにツモ上がりでトップになった。二位は安定した爆発力で場を混沌とさせた恋子。三位は義春、四位が美夏だった。

 

「そりゃ役満二回してもマイコーと美夏さんに二回ずつ跳満、俺に一回三倍満放銃をやったらこうなるよ」

「藤城君とやると麻雀がただの殴り合いになってくるねぇ」

「だねマイコー。ダブルロンが多発する殴り合いは誰だって疲れるよぉ。ちょーっと外出て休んでくる」

 

 鈴井は背を伸ばすと離席し、部室の外に出た。義春ことマイコーも、コーヒーを買うと言って席を離れた。

 

「ちくしょーいい気になってんな鈴井晃。今度またメキシコの刑に処してやろうかな」

「めっ、メキシコの刑って……何したの恋子」

「マイコーと鈴井を連れてメキシコ料理を作りにメキシコ行ったのさ。それでついでに三日の滞在期間代わりばんこで料理したの。中でも鈴井が作った二日目の朝タコス黄金の国風は凄く酷かったね。生米突っ込んでそのまま食べたもん。あれは食えるものじゃなかった」

「酷いねそれ……」

 

 想像を絶する料理だ。美夏は農家の富代を思い浮かべ、生米を食べるとは何たる事かと怒る姿が目に浮かんだ。

 

「で、でも、最近彼は麻雀の腕が上がってるよね。恋子も鼻が高いんじゃないの?」

「何を言ってるんだミカは。鈴井をフォローしなくていいのよー。あんなのは県大会本選で敗退さ」

 

 それより自分の事だよ。藤城は溜め息混じりに呟いた。

 

「インターハイの団体戦。足りないメンバーはあと二人。本当に間に合うのかねぇ……。あっ、いい事思いついた」

「恋子……また何かやらかすの?」

「やらかさないよ!?」

 

 4月29日。市立鳥屋野高校麻雀部はいつものように活動していた。

 

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