咲-Saki- 鳥屋野編 episode of side-T 作:秋のさんま
第一章
・藤城恋子の髪色を薄茶からレモン色に変更
・吉中美夏の髪色を青からシアンに変更
ページが捲れる音が大きい。ここは独りの読書室。外ハネの海老茶色の髪をしている少女は図書委員の好奇の視線に気づかず、ただ本の世界に耽っていた。小説の怒涛の展開は、周りの世界を遮断させ、ただそこにあるかのように彼女を虜にしている。
(『まぐわい』ってタイトルでちょっぴり敬遠気味だったけど、読んでみると面白い!)
今現在。主人公は喧嘩別れした恋人から離れ、ばったり会った幼馴染と肉体関係を持つに至った。主人公が後悔と懺悔。幼馴染に対し湧き上がる恋情に戸惑っている所、恋人が謝りに来ていた。
(ここからどうなるんだろう……私はやっぱり、この恋人さんを応援したいなぁー)
そうしてページを捲ろうと手に取った瞬間、轟音が彼女を世界から引き摺り戻した。図書室のドアが乱暴に開かれ、不躾者がドスドスと入り込んできたのだ。
「ここが、あの女のハウスね!!」
恋子は図書室の中に入り、皆に聞こえるよう言う。もっとも今は四人しかいないので、静かな図書室で言葉を聞かせるなら普通の声量で呟けば十分なのだが、彼女や図書委員には叫んでるようにしか聞こえない。この場にいない鈴井に言わせれば、彼女の普通の声がバカに大きいだけだ。その所為で少女は驚き、第一印象が最悪になったのは言うまでもない。
「恋子……ここ図書室だよ? 静かにしないと。ほら、読んでる人いるよ?」
「…それは分かる。でも私はあの何かオーラのある奴に用があるっ」
話の掴めない彼女は二人がどうして自らに用があるのか見当がつかない。そのまま声の大きい方に睨みに近い目を向け、言葉を待った。
「君が
その言葉で庵の表情に影が差した。彼女の変化を気にせず、恋子は強引に手を掴んできた。
「さあ! 君がいれば頂上が見える! 私と一緒に、テッペンをとろうじゃ」「麻雀に興味なんてありません」
庵は意気揚々とした発言を無表情のままぶっちぎる。理由の知らない、若干の麻雀への嫌悪が見えると、美夏は彼女に少し後ろめたい事があると理解した。しかしそれだけでは、恋子は面白くないと感じ引き下がらない。どうなるものかと美夏は状況を見守った。
「まあまあ、やらず嫌いはよくないと思うよ? 一回体験してみてからでも遅くないじゃあないか」
「いや、私は役とかそういうの分からないんです」
「分からなかったら私が教えてあげる! 心配はしなくていいから! 一回だけ! 先っちょだけでいいから!」
「何で先っちょなんですかぁ!? わっ、分かりました! 分かりましたよっ! もう!」
藤城は待っていたと言わんばかりにニタッと笑った。握った手を離して図書室の外へ楽しそうに歩く。庵はそれを見送ると、付いていこうとして席を立ち同じく図書室を退出する。美夏は軽く挨拶をしようと庵に近づいていった。
「ごめんね。読書中にこんなことさせちゃって。私は吉中美夏。恋子と同じ二年生なの。よろしくね庵ちゃん」
「あっ、よろしくおねがいします」
(って、何で挨拶してるんだろ。もうすぐ顔も見ないような関係になるのに)
庵は麻雀部に入るつもりは毛頭なかった。役を知らないからというのは咄嗟に出た虚言であった。麻雀なんてやっても楽しくならない。自分が麻雀をやれば皆に嫌われる――藤城に半ば強引に押し切られた形になった己をただ悔やむばかり。この調子ではあれやこれやとなって入部させられ、そのまま幽霊部員と化すのだろうと庵は確信していた。
「ところで庵ちゃん。その持ってる本はあなたの?」
「えっ? ええ、そうですけど」
「それ、鈴井君が知ってるって言ってよく話してたんだ」
「えっ…!? これ知ってる人がいるんですか!?」
「ええ」
その瞬間、庵の目の色は変わり、鈴井と呼ばれた人への好奇心に近いものが湧き上がってきた。本、特にテレビ等に映っていない無名の小説を読んでる若者はあまりいない。こんなマイナーの本を読んでるなんて、どんな人なのかと想像していた。
面白さも感じない道を歩いていると、普遍な扉の前に着き、部室に入る。部室は一つの教室ぐらいの広さで、中央に雀卓が一つ置いてあり、そこで三人が麻雀をしている。三麻の最中だろう。一人の少女は紙を見ながらやってるようで、庵と吉中は打ち方のぎこちなさから少女を初心者と見抜き、役や点数表を見ながらしていると思った。実際その通りであり、紙は麻雀を始める前に部長が記したものだった。
「帰ったぞー。ん、マイコー。その子は?」
「一年のクラリスさん。この子も入部することになったから」
藤城は部屋と鈴井の服装が元に戻っている事を気にせず、一人増えている事に質問した。
「新入部員か! いいねぇ! よろしくねクラリスちゃん! 私二年の藤城恋子!」
「れ、レンコ……? よ、よろしくおねがいします」
クラリスは少し怯えたようにする。しかし、それは藤城の眼中になく、彼女が次に見たのはクラリスの手牌であった。
「おっ、これフリテンだね」
「what!?」
東三局 ドラ{西} 親:鈴井
捨て牌
{発中1北南⑨⑦⑤南3横⑨}
クラリスの手牌
{23456③④赤⑤東東東西西}
「ほら、これ。索子の多面待ちだけど、待ちの1索が河にでちゃってるもん」
「アー……1索ツモる!」
「一枚しかない物を簡単にツモれたら苦労しないんだよ。捨てた牌はブーメランのようには帰ってこないんだぞ」
鈴井が自身の経験を含めたように重々しく声を上げる。鈴井の言う通り、河には1索が三枚出ている。実現するのは不可能のようにしか見えない。
と、この時は誰もが思っていた。
「えっ、1索」
藤城は驚愕して思わず声を出した。クラリスが牌に触れた時、庵のような浮世離れの力を僅かに感じたのだ。どうやらそれは藤城と庵だけが感じたようで、それ以外の周りは藤城を様々な感情を抱きながら見た。そうなのかと皆がクラリスが置いた牌を確認すると、紛れもなく1索であった。
「ツモ! アー、リーチ、一発、メンゼン、ピンフ、は違う。役にドラ1。えーと、マンガン!」
「南のドラは西で跳満じゃ。そして裏ドラちゃんと捲りなさいよ裏ドラ」
「アッはい!」
鈴井が自棄気味に言うとクラリスははっと気づく。
「ドラは……北がある?」
「北があるなら東がドラやー!! あー倍満だぁー飛んだぁー! なんで1索ツモできるんだよぉー!! こんなの理不尽だーっ!!」
鈴井は椅子ごと床に倒れ、背伸びしながら毒づく。対局は鈴井が飛んで終了。トップが内野部長になった。
「凄いじゃんクラリスちゃん!」
「あっ、でも。人を飛ばしちゃった」
「別に気にしなくてもいいんだよ。初心者に飛ばされた初心者以下のヤツなんかは」
達人の域と感じさせるほどの藤城の滑らかな罵倒は鈴井の気分を大いに害した。腹の底で怒りが熱く煮え滾っているのが分かる。この熱をどうしたものかと考えていると、鈴井はそれを冷やす手段を閃いた。
「ちょっ、ちょっと藤城さん。こ、腰抜けちゃった。立たせてくれ」
「えー。またぎっくり? 鈴井君この前にも痔って言ってたよね。本当に厄払いに神社行ってきたらどうだい? いいトコ知ってるよ」
「うるせっ」
云々愚痴りながら鈴井の近くに向かう。鈴井は足音が非常に五月蝿く聞こえ、心臓を激しく打ちながら、時が来るのを今か今かと待ち構えていた。そして藤城が手を差し伸べた刹那。
「今じゃあー!!」
鈴井はバッと飛びついて腕を取り、その勢いのまま巧みにアームロックを決める。あまりにもスムーズに関節技を決めるので、最初藤城はコイツ何かしでかしそうだなと薄々予感していたが、それでも突然の出来事に何が起きてるのか分からず、キシキシ痛む腕で状況を把握できた。
「いッ!? 痛い痛い痛い痛い痛い!! 何でこんな事するんだ鈴井!」
「する理由が分からないからバカなんだよっ! もう頭にきたっ。僕はこのまま君の腕を引き千切ってぇ、二度と麻雀できない体にしてやるッ」
「け、喧嘩、だめぇ!」
「く、クラリスさん!? 何をっ!?」
「駄目ですっ、止まって――」
クラリスの静止を静止しようとする内野と吉中。長年二人と付き添っている彼らは、何度も二人が喧嘩をしている所を見てきた。二人が加減というものを知らなければ、とっくにどっちかは亡くなっているだろう。血で血を洗うような惨状ではなく、馬鹿馬鹿しい理由で喧騒が始まるから、二人はまた始めたのかとまるで漫才を見る気分で喧嘩が治まるのを待っていた。しかしクラリスは彼等の喧嘩を目撃するのは初めてであり、喧嘩の酷さばかりを目にしていた為、止められずにいられないのだ。
クラリスは暴れてる藤城と鈴井の関節技を止めようと走るが、勢い余って、誤って二人を押してしまう。拘束を解こうとする藤城と、暴れるのを抑える鈴井にはその衝撃に耐えられる筈もなく――。
「あっ」
「うおっ」
二人は倒れ、同時に地面に頭をぶつける。拘束を解かれた藤城と拘束を解いた鈴井は声を詰まらせる痛みにもがき、地面を転がった。
「あっ、ご、ごめんなさい……」
「大丈夫ですクラリスさん。二人ともこんな事で死ぬ人じゃないですから」
(内野先輩……それはフォローになっているのでしょうか)
吉中の心中に反して、クラリスは少々落ち着いたようだった。さてと吉中は問題を変え、二人の方を見るが、安静にすれば問題ないだろう。逆に安静にしていないのが問題なんだと、吉中は激しく転がる二人を見て苦笑いを見せる。
「そ、それでもっ、コウ! レンコ! 喧嘩、駄目! 絶対!」
クラリスの一声で二人は転がるのを止め、藤城は打った所を擦りながら立ち上がる。鈴井はまだ立ち上がる様子を見せない。
「クラリスの言うとおりだぞ? 少しは反省しろよ鈴井」
それに追い討ちをかけるかのように藤城の罵倒が襲う。鈴井にはクラリスの情を裏切るような酷な事をする程悪ではない。となると今は藤城の言うとおり反省するしかないが、それをする程柔で気の弱い男ではない。鈴井の中では謝るか謝らないかのジレンマの体が成り立っていた。
「そうなの。喧嘩なんて本当は軽々しくやっちゃ駄目なの。ね?」
「そうなの。駄目なの」
「だろう? 今まで藤城とは人目も憚らずにやりあってきたけどもぉ、これからは二人共々反省してぇ、手をとって歩いていこうよ」
しかし鈴井は謝らないの方をとった。藤城の前ですみませんなんて情けない言葉を使うぐらいなら死んだ方がマシだった。
「ふふっ……そうだねっ。これからも二人はぁ、一蓮托生で行きましょうか。ほら、仲直りの握手しようか」
「そうだね藤城君。普通に仲の良い幼馴染に戻ろうか」
藤城の程よい細身の白い手が寝たきりの鈴井に差し伸ばされる。それをとった瞬間――握手は完成した。
「いよーしよしよしよぉし」
「これで鈴井と仲直りだねっ!」
「よぉし。手首を捻るなんてバカな事してくると思ってたけどな俺は」
「あははっ! なんなら今からしようか」
「バカ抜かすんじゃないぞ」
二人は共に腹から笑った。それに釣られるかのように内野も笑う。クラリスは安堵の感情を表情に浮かべ、吉中はくすりと静かに笑う。
「何ですコレ」
そんな中庵は呆気にとられるばかり。持っていた毒気も、すっかり抜けきってしまった――。
――――――
――――
「さあっ、早速対局するよっ! 鈴井ィ! 立てっ! 立つんだ!」
藤城はしゃがんで寝ている鈴井の顔をペチペチ叩く。鈴井は目を閉じたままただ笑うだけであった。四つの席は既に吉中と庵が二つ埋めており、クラリスはまだ麻雀初心者。富代はおらず、内野はクラリスの指導。ならば残っている面子は鈴井しかいない。だから鈴井は笑うだけで立ち上がらない。この面子で麻雀をすると碌な目に会わないと直感が語っていたからだ。
「起きるんだァッ!!」
強烈なビンタが鈴井の頬を襲う。部長が惨状を見て笑う中、赤い跡をほっぺにつけて、やっと鈴井は目を開けた。
「藤城くぅん。僕をこのまま惨めに床に伏させておくれよ。疲れたんだよ」
「くっくっくっ……起きなさいよ鈴井君! そのまま床で寝たら黙って死ぬだけだぞ」
藤城の口上空しく、鈴井は徐々に瞼を閉じ、そのまま死んだ。辺りには忍び笑いが響くのみであった。
――――――
――――
結局鈴井を起こして対局となった。鈴井の対面に藤城。上家――左に吉中。下家――右に庵。親は吉中になった。
「えーと、影向さん、読みにくいや。よろしくね庵さん。俺は一年の鈴井晃だ」
「よろしくおねがいします」
(この人が鈴井さん……さっき藤城さんと漫才していた人。インドア部活所属にしては体が大きくて、親しみやすそうな人だ。小説はどのくらいの頻度で読んでるんだろう)
(この子……藤城が連れて来たんだから碌な奴じゃねぇんだろうな。アホ毛が微妙に動いてやがる。明らかに普通じゃない……普通と言えば、胸は普通にあるぐらいだ。ここの女性では藤城が一番ちいせぇんじゃねぇか?)
藤城は妙に悪口を言われてるような気がした。しかしすぐに気のせいだと切り替える。
「んじゃ、ルールはインターハイと同じの半荘で。サイコロ振っちゃって」
「待ってください」
藤城の提案に庵は待ったをかける。麻雀のルールは多々あるが、大抵が半荘戦の赤四枚オカ有りウマなしで、特別なルールである割れ目等はあまりない。それ以外に何を付け足すのかと鈴井は心配になった。彼は小学生の頃に藤城にやらされて以来、麻雀を嗜んではいるが、身を入れてやった事は一度もないので、マイナーなルールはあまり知らないのだ。
「東風戦一回のみ。それで私より順位が上の人がいれば、私は入部します」
それだけ聞いて、鈴井は何だ、と気にしなかった。
「……なんだい。妙に自信があるね。それに役が分からないってのは嘘か。でもっ」
藤城は目を輝かし、一拍を置いて口を開く。
「それが面白いっ! いざ勝負!」
(二人で何勝手に勝負始めてんだよ……吉中や俺がトップにでもなったら気まずいぞこれ……)
「じゃあ、始めます」
吉中の声と共に、彼女の指がボタンに触れた。賽は振られた。周りの空気は一変し、勝負の時のピリピリ張り詰めた空気に変わる。鈴井はその空気を死を目前に突きつけられてるように感じる。いやいや、麻雀如きで死んでたまるか。最善を尽くして生き残ろうと意気込み、対局前の癖で三人の表情を見回した。
(本気を出さないようにしないと……!)
「……?」
(気のせいか、庵の瞳に黒色の炎が宿ったような……やっぱり碌でもないな。クソッ)
東1局 鈴井:南家 ドラ{2}
鈴井の配牌
{一三六七125④⑤⑥⑨白北}
(サンシャンテンだよな? とりあえず字配整理だな。序盤にして好調の配牌だな)
7巡目
河 {白北①1九⑨}
手牌
{一二三六七八225④⑤⑥⑦} ツモ{①}
(ドラ二つにイーシャンテン。タンヤオピンフ狙えてダマでも4翻の良い形……やはり藤城とやるとツモ運と配牌がよくなる。しかしそれは他の奴等と同じだ。河はどうだっと)
庵の河
{南発21北⑧一} {対面ポン東東東}
藤城の河
{③⑦北②東⑨赤⑤}
吉中の河
{一91七九⑥西}
(明らかに藤城染めてやがんな……まあ気にせずイーピン捨てか)
「ロン」
河に捨てた1筒が庵への危険牌だった。庵がロンを宣言したその瞬間、鈴井はやはり庵の目に黒炎が映ったのを見る。そしてそれは炎と呼ぶには余りにも冷たすぎる。まるで炎というより、闇や影と言ったものに近い。深淵の炎を認識すると、何時の間にか闇が足元に広がっていた。鈴井はそのまま足を飲み込まれる感触を覚え、足が見えなくなっていた。まるで足のみが別次元に。師走の夜の闇に放り出されているかのように冷たくなっている。
(速い…のは多分誰でもそうなるから置いといて、何だこの嫌な感じは…! こんなオカルト考慮しとらんぞ!)
庵の手牌
{二三四234①②③④} ロン{①} {対面ポン東東東}
「三色役牌ドラで3900」
点棒を渡し、東2局に移る。
(鈴井さんの顔が真っ青……やっぱり力が少し抑えられていないんだ。やっぱりやらなきゃよかったよ……お願いっ、耐えてっ)
庵は一層気を引き締めた。これ以上自分の麻雀で犠牲が増えないように。
点数(同点の場合起家に近い者が上位とする)
影向:28900
吉中:25000
藤城:25000
鈴井:21100
東2局 鈴井:東家 ドラ{①}
1巡目
「リーチ!!」
藤城のツモ切り牌は{東}。それは地を這いながら、竜巻のようにクルクル回転して河に行く。この皆まで巻き込む激しい熱さが藤城の麻雀の象徴であった。
(来ると思ったぞ藤城のダブリー! くそっ、問答無用で突っ張る!)
3巡目
鈴井の手牌
{一一三四九1223346⑦} ツモ{4}
(今の所、俺の持ってる現物はなし。ベタオリしたくてもできない状況。吉中の捨て牌がほとんど現物と字牌であるから、多分全部そっちにいってるんだ。{一九1}が比較的安全だが、それを出していいのか? 闇に食われた足がそう語っている)
鈴井はチラと三人の方に目配せするが、庵が眼に炎を宿らせている事はなく、藤城もにやけたまま、吉中も顔を歪ませたりはせず、何も変わった様子はなかった。
(いや、ここで降りたら放銃の時に後悔するだけ……! 突っ張って、潔く、死ぬ!)
九切りは功を成した。庵も次いで九を河へ落とす。
(流石に3巡目で庵が聴牌は……ないと思いたいけど藤城とやるとありえるんだよなぁ)
庵はまた九を切った。そのまま滞りなく進行し、6巡目――。
「ポン」
庵が藤城から5筒をポンと宣言する。{下家ポン ⑤赤⑤赤⑤}
(ドラ二つも持ってるよと言ってんのか。河に対子の{九}二枚とヤオチュウ牌が索筒萬ほどよくあるからタンヤオか?)
庵が捨てたのは{一}。藤城はツモらず{中}切り。吉中は字牌の{西}を切り、鈴井がツモった牌は{7}。
鈴井の手牌
{三四四22334456⑦⑦} ツモ{7}
(よしよしよし。タンヤオイーペーコーピンフが狙えるいい状態。{四}切ってダマテンだ)
「ロン」
(また庵からかよっ! まあ{四}だからロンされてもおかしくないか。一副露だから{赤⑤}利用してのタンヤオ速攻和了りで打点は低いと思うが……)
{四五五五555北北北} ロン{四} ポン{下家ポン ⑤赤⑤赤⑤}
「三色三暗刻トイトイドラ2で16000」
「ぶっ!?」
庵の声で影は腰にまで浸かった。体の奥底でどんどん血の気が引いていくのが分かる。このまま全身が浸かれば――その先の想像を恐怖と共に振り払うように頭を振る。二人は不思議そうにこっちを見るが、影向だけはこっちを見る事はなかった。
(なっ、なるほどっ……。東風戦一回のみって言ったのはこの為かっ……! このままロンを続けられたら……飲み込まれるっ……!! 影にっ……!!)
対局は東3局に移ろうとする。闇は、既に鈴井を捕らえていた――。
影向:44900
吉中;25000
藤城:25000
鈴井:5100