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『うっす、元気にしてっか?』
委員会の仕事も終わり、玄関で靴を履き替えていると、普段は鳴らない携帯が鳴りだした。
普段はマナーモードにしているのだが、今日は新学期の準備のために他の委員会の生徒と連絡をとっていたために、マナーモードが切れていた。
俺はそれに気づき、急いで靴を履き替え、校門の外に出た。そこでようやく携帯を取り出し、見ると、携帯のディスプレイにはよく知った名前が映し出されていた。
相手の名前を確認して、何故だか急いで損した気になりながら電話に出ると、電話の相手は冒頭の言葉を口にした。
「あぁ、別段何の問題もない。それより何の用だ、"慎哉"。」
俺が普段通りに返すと、電話の相手は大きくため息をついた。普通、いきなり電話の相手にため息をつかれれば、誰であろうと不機嫌になるだろうが、こいつが相手となればそんなことはなかった。
むしろいつも通りであったために、ちょっとした安心感さえ感じた。
『お前さ、相変わらずなのな。』
"慎哉"は苦笑い気味にそう言うが、特に文句があるような感じもない。俺たちにとって、これはいつものことなのだ。
だから別段何があるわけでもないし、これが挨拶と言ってもいいようなものだった。
「まぁな。それより何の用だ。俺も暇じゃないんだ。」
『あぁ、わりぃ、わりぃ。イヤな、親父の仕事で急にイギリスに行くことになってよ、そのことを教えとこうかなって思ったんだよ。』
"慎哉"は笑いながらそう言って、俺の反応を待った。これはまだ話に続きがあるとみた。
「そうか。用件はそれだけか?他にないなら切るぞ。」
『…………え?』
"慎哉"は俺が何か言うのを期待していたようだが、俺が冷たく返すと固まってしまった。
とりあえず、いきなり電話を切るのも悪いから少しの間だけ、他に用件がないのかを待ってみたが、何も言ってこないので電話を切った。
まぁ、電話を切る直前に何やら騒いでいたようだが、気にする必要もないだろう。
そう思い、携帯をポケットに仕舞おうとした時、今度は違うやつから電話がかかってきた。
「"茜"、お前は何の用だ。」
『やっほー。用事があるって言うよりは報告かな?――君が冷たくあたるから"慎哉"が拗ねちゃった~。』
名前を確認して、ため息をつきながら出ると、相手は笑いながら全くと言っていい程必要のない報告を笑いながらしてきた。
『あぁっ!!ちょっ、待って!!切らないで!!ちゃんと用件を言うから!!』
必要のない報告にため息をついたのを聞いて、"茜"は俺が電話を切ろうとしていることに気づいたようで、慌てて俺に待ったをかける。
「最初からそうしろ。"慎哉"にも言ったが、俺も暇じゃないんだ。」
『うぅ、ごめん。えっとね、さっき"慎哉"も言ったと思うけど、お父さんの仕事でイギリスに行くことになったんだよ。でも私たち的には日本にいたいから、そのことを言ったら、お父さんの知り合いの家に居候することになったの。』
"茜"はしょぼくれながらもパッパと用件を話していく。まぁ内容は何となく予想がついていただけに驚きはなかった。
『その関係で2人揃って文月学園に転校することになったって言う報告だよ。』
「そうか、分かった。姉さんには俺の方から伝えておく。」
『うん、よろしくね。』
俺は"茜"の声色から、これ以上何もないと察し、何も言わずに電話を切った。切る直前で、"茜"は俺がしようとしてることに気づいたようで、切らないように言っていたが、そんなものは無視した。
「んにゃ?――ちゃん、電話切っちゃってよかったの?」
「あぁ、問題ない。」
今度こそ携帯をポケットにしまうと、後ろからやってきた女子生徒に声をかけられる。
「いやいや、問題ありだろ。電話の相手、まだ何か言ってたぞ……。」
「まぁ、――ちんが"問題ない"言うんだから気にしたらダメだよ。」
その後ろからさらに数人の生徒がやってきて、俺に声をかけていく。その生徒も、俺の態度に呆れているもの、特に気にしてないもの、電話の内容が気になっているものなど、いくつにも分かれていた。
「何一つ問題ない。だが今の電話で分かったことがある。」
俺の一言によりその場にいた全員が俺の方を向く。一部は何となく悪いことだと察しがついた様で、嫌そうな顔をしていたが。
「新学期から俺たちの学年は昨年度以上に騒がしくなるぞ。」
それを聞いてその場にいた面々は揃ってため息をつく。俺たちの学年が騒がしくなる=俺たちの仕事が大幅に増える。
これの式は最早当たり前だった。その場にいた面々もそれが十分に分かっているために、ため息をつくしかなかった。
「ため息をつきたいのは俺だって同じだ。この中で一番忙しくなるのは明らかに俺だからな。」
俺はその場にいる面々に聞こえるようにそう言うと、大きくため息をついた。