私生活でのトラブルがありまして――読者の皆様の中には
「最近アイツでないなー、ペドーさんみたいなことをして捕まったか……」
と考える人もいたでしょうが、大丈夫です。
捕まってませんよ?
「ふぅむ……」
「なぁ?ペドー?」
小さくうなりながら、ペドーがリビングでテレビを見ている。
隣にいる十香の言葉など聞こえないように、ボオッっとしている。
狂三とのデートの終わりに真那が狂三を殺害するところを見て以来この調子だ。
「ぺ、ペドー!!」
「なんだよ?何か用か?」
十香の声にやっと反応したペドーが首を動かす。
「一体どうしたと言うんだ?ずっと心ここに有らずではないか?」
「そんな事は無いぞ?ほら、お前の好きな『お母さんと一緒にいた男の人の事はお父さんにはナイショ』の時間だろ?」
そういって、テレビのチャンネルを変える。
そうすると軽快な音楽と共に、踊るキャラが現れる。
「お、今日はゲドーさんがメインの回みたいだな」
「おお。これが見たかったのだ!!」
一瞬何かを言いそうになったが、番組が始まると十香の意識は食い入る様にテレビを見始める。
テレビの中では、長身のどこか怪しい風貌をした男が子供たちにクイズを出している。
『いい子のみんな~、なぞなぞクイズの時間だよ~?
早速だけど、第一問!おしゃべりしないお野菜って、な~んだ?』
司会の出す問題に、十香がうなり始める。
「ぬ?しゃべらぬ野菜?むむ……?」
「カイワレ大根じゃないか?会話零で、カイワレ」
「おおさすがペドーだ!!」
ペドーの答えに十香が目を輝かせる。
『シンキングタイムしゅーりょー!!答えは――――カイワレ大根!!
とでも思ったか!?このガキどもが!!野菜がしゃべるわけねーだろバーカ!!!
かわい子ぶってんじゃねねーよ!!ゲード、ゲドゲドゲド!!!』
司会者が非常にゲスい顔をすると同時に、会場のライトが激しく点滅!!
赤や黄色など非常に目に悪いフラッシュが焚かれ、会場内にもけたたましい警告音が大音量で鳴り響く!!さらに止めと言わんばかりに、真っ白な蒸気が会場中に激しく吹き付ける!!
さっきまでぬるま湯の様なホンワカした会場は一瞬にしてヴァイオレンスに包まれた!!
『うわぁぁぁぁぁぁぁん!!』
『おかあしゃぁあああああ!!』
『怖いよぉおおおおおお!!』
『びえぇええええええええ!!』
会場の子供の8割が泣き出す頃、ようやく仕掛けは元の会場に戻った。
『信じる者が
信じれるのは己のみ!!それでは皆さんまた明日~ゲド!!』
「……んだこれ……毎回放送コードをぶっちぎってるよな……」
ペドーが隣で震える十香を見ながらひとり呟いた。
フラクシナス内部
「シンの様子は思った以上に安定しているな」
「あんなことが有ったのに……メンタルだけはトップクラスね」
令音と琴里がリビングの二人を確認(盗撮ともいう)しながら言葉を交わす。
「まぁ、彼ならなんとかしてくれるだろう。
それよりも琴里、頼まれていた例の検査結果出ているよ」
そういって、令音が数枚の紙を取り出す。
その紙には以前、真那がうちに来た時出したガラスコップから採取した唾液によるペドーとのDNAなどを比べたものだった。
「確かに、彼女はシンの妹と言えるようだ。
さらに彼女の遍歴も調査した結果
それだけじゃない――」
「これは――!」
令音に渡された資料。
その内の一枚を目にした琴里が驚愕に目を見開いた。
「そう、魔術師は基本的にリアライザの使用のために脳の一部を強化するが――
彼女は度が過ぎている、この異常なまでの数値……これではまるで精霊だ」
「当然こんなことしたら、寿命なんて……」
脳に無理な負荷がかかるとどうなるか、そんなことは考えれば誰にでもわかる事だった。
「ますます聞くことが増えたわね」
琴里が自身のポケットの中のインカムをにぎり、その場を後にした。
「なぁ十香。楽しいな」
震える十香に対してペドーが笑いかけた。
「何が楽しい物か!!あの男、私を脅かして喜んでいるに違いない。
全く、なんと恐ろしい物の怪か……!!」
十香はいまだにゲドーさんが怖いらしい。
「フフッ、楽しいってのはこういう日常がって事」
「ぬ?」
訳が分からないと言いたげな十香の顔をペドーが見る。
「何にもないこういう日が、すっごく楽しいって事」
「うむ、私は前まで殺そうとしてくるやつらがいたが、もうそんな事もなくなった。
楽しいぞ!ペドー、私はこんな『日常』が大好きだ!!」
一瞬考えた十香だったが、すぐに理解しはにかんだ笑顔をこちらに向ける。
「ああ、そうだな。なら、こんな日をプレゼントしてやらなきゃな」
殺意ではなく友愛を、銃弾ではなく手を、怒声ではなく挨拶を――
必ずあの子に届けよう。
ペドーが小さく心の中でつぶやく。
「できれば、買った下着も」
この前買った、過激なデザインの女児下着のことを考えペドーが破顔する。
「ふひひひひひひひひひひ……」
怪しい顔で笑いだすペドーを、十香が不気味なものを見る目で見た。
翌日。
「ちぃーす狂三!」
「あら、ペドーさん。おはようございます」
今日もまた、昨日真那に殺されたはずの狂三が自身の椅子に座っていた。
死者が生きているという異常事態。
しかし、それでもペドーは揺るがない。
「なぁ、狂三。今日は、こっちの姿なんだな?」
「……あら、ペドーさんは年下好みでしたわね?
また今度、デートに行くときはアッチに変わってあげますから」
お互いがお互いを牽制し合う用な口調で話す。
けど――
「今日の放課後を生き抜いたらですけど?」
狂三が酷く嗜虐的な顔をして、何かを企む様なそぶりをして見せた。
同時刻とある廃ビルにて――
「ゲッホ、ゴッホ……埃っぽいわね……
レディを呼び出す所じゃないわよ……」
手に一枚のカードを持って琴里が小さくつぶやく。
その手のカードには、ここを示す地図と時間の指定があった。
今朝目覚めると、琴里の部屋のガラスに貼ってあったのだ。
(十中八九この手紙は、真那の書いたもの――
この前のデートの時、ペドーが落としたインカムを拾ったんでしょうね)
そう、以前のデート時不可解な質問がこのインカムから送られてきたのだ。
その後琴里が調査した結果、やはりペドーが実際に話したという事はなく、ペドーの声真似をした『誰か』が送ってきた物だと判明した。
(さて、予定より早いけど――ここが約束の場所!!)
階段の影に隠れ、指定された部屋に誰かがいるのを目視する。
背丈から見て、はやり真那の様だった。
琴里が来るのを待っているのか、熱心の窓の外を見ている。
(残念ながら私はこっち――)
足音を殺しながら、そっと真那に近づく。
だんだんと真那の声が聞こえ始める。
「フッ、ふぅ……ふっ……」
「一体何をしているのかしら?」
「!?何やつ!?」
琴里が声をかけた事に気が付き、真那が即座に後ろを振り返る!!
ペッ!!
その時真那の口から、以前大切そうに首から下げていたロケットがこぼれる。
なぜ口に含んでいたのかわからないが、よだれで怪しく光っている。
「何してんのよ……」
「まさか、私の一番のリラックスタイムを狙うとは、さすがでやがりますね!!」
その時、真那の手にビデオカメラが握られている事に気が付く!!
「え?」
「くくく……今回も良い絵でやがりますねぇ……」
そういってにやりと、カメラに記録された動画を再生させる。
そこには――
「小さな男の子の生命の輝きを感じますねぇ!!」
鼻息を荒くして、小学生の男の子の盗撮ビデオを見る真那!!
そう!!この廃ビルは小学校のグラウンドが見える位置に存在している!!
「ええ……こいつもなの……?」
非常に認めたくない部分でペドーとの兄妹説が真実味を帯びる!!
「べ、別にこれはいかがわしい気持ちがある訳じゃねーんです!!
純粋にな気持ち――そう、兄さまの唯一の手がかりのこの写真……
兄さまを毎日毎日見ている内に、この位の男の子に興味がわいただけやがります!!
はぁはぁ……ショタ兄さま……ふひひひ……真那が――真那が成長度合いを見てあげますからねぇ?怖がらなくても平気でやがりますよぉ、すぐに気持ちよくなりますから……」
よだれでべとべとになった写真を見ながら、怪しい目で興奮し始める!!
「純粋に邪な気持ちじゃない!?この兄妹どうなってるのよ!!」
あまり見たくない現実を振り切るように琴里が叫ぶ!!
「ふぅ、仕切り直しでやがります」
ふやけて使い物にならなくなったペドーの写真を丸めて、ロケットに別の写真に移し替える。
いやに手慣れた動きにさらに琴里が気を重くする。
「まさか、実際に精霊を懐柔する組織が存在していたのが驚きですが――
別に私はラタトクスの事を上に報告する気はねーんです。
兄さまの身の安全、そのためにこんなバカなことから手を引かせてくだせぇ」
「身の安全?安全な所から、どうやって精霊を攻略するのよ!?
第一こっちは、しっかりとサポートをしているわ!!
そんな事より、こっちもあんたのことを調べたわ。
DEM社からの出向社員だったんですってね?悪いことは言わないわ、今すぐその組織から抜けなさい!!」
「一体なんのつもり出やがりますか?DEMを悪く言うのは――」
『ピりりり!!』
『おねーちゃん、しゅきぃ……ボクをもっと気持ちよくしてぇ……』
ほぼ同時に、二人の携帯の音が鳴る。
一瞬だけ目を合わせたが、順次電話を取った。
奇しくも、二人の電話の内容は同じだった――
「な!?学校に!!?」
「精霊でやがりますか!!」
学校にて――
「ペドーさん……」
学校の屋上、ペドーとのデートで見せた幼い容姿の狂三が屋上を歩いていく。
何かを始めるような、怪しい雰囲気が伝わる。
「うわぁッ!?」
突如として体がだるくなる様な感覚が、ペドーを包む。
どんよりとした感覚で、うまく動けない。
「マジか……」
パタパタと、目前ので倒れていくほかの生徒を見る。
まるで映画やドラマの様な光景に目を丸くする。
急いでインカムを取り出し耳に装着する。
「令音さん!!」
『ああ、もうこちらでも記録しているよ、どうやら一定の空間の人間を衰弱させる結界が張られているようだ、おそらくは――』
「狂三か」
『いきなりで悪いが、攻略を頼めるか?こんな強硬策に出るとは思ってなかったんだ。
おそらくだが、高い場所――屋上が怪しいと私は踏んでいる』
令音の情報を聞きつけると、ペドーは勢い勇んで屋上への階段を上がり始めた。
「あら、ぺどーさん。きてくださいましたのね?」
幼女姿の狂三――くるみがエアコンの室外機に腰かけ足をぶらぶらしている。
「やぁ、小さなレディ?ちょっとイタズラが過ぎるんじゃないか?
それ以上やるんなら、お尻ぺんぺんの刑だぞ?」
カッコつけてペドーがいうがくるみは笑うばかりだった。
「またそれですの?しょうじきうんざりですわ。
わたくし、あなたのことがだいきらいでしたの!!
あなたもわたしのえさにして、さしあげたいくらいですわ」
くるみが髪をかき上げ、目を見せるその目は時計になっておりぐるぐると逆回転していた。
「それは?」
明らかに人体には無いであろう機関にペドーが意識を向ける。
「わたくしのてんしはきょうりょくなのですけど、ひどくねんぴがわるくて――」
「――他者から時間をいただいているんですわ」
「!?」
いつの間にか、後ろに高校生に成長した狂三が立っていた。
「私の天使は時間を操る、あなたがセコセコ口説いていたのは、過去の私。
能力でつくった、虚像にすぎませんわ」
再び振り返るペドーの前で、くるみが音もなく消滅した。
「あ……」
「あの子はあなたをその気にさせる餌ですわ。
さぁ、釣った魚をいただくとしましょうか?」
にやりといやな笑みを浮かべ、狂三が銃を構えた。
自分が虚像だと分かったとき、どんな気分なんだろう?