次回より、5巻の内容ですね。
あの2人組が?
ザブン!!
堕ちる、水の中へ。
腹のワイヤーが締まり自分を絞め殺そうとする。
「あ、ああ……」
熱を持ったからだと対照的に、怖気がするほど腹に巻き付いたワイヤーが冷たい。
温度が低い訳ではない。
そう、この冷たさは殺意だ。敵意だ、憎悪だ、怒りだ、狂気だ。
琴理は生まれて初めて、ここまで明確な不の感情を受け取った。
それは到底、中学生の女の子に耐えられる物である筈がなく……
無意識に、兄のくれたリボンに手を伸ばすが――
「な、ない!!」
ハッとして周囲を見回すと、離れた所にリボンが有った。
水の飲まれた瞬間、自身の頭のリボンがほどけて流れていったのだろう。
「待って――待って!!」
自らの元にリボンが無い――たった、それだけの事実に琴理は急速に自分が過去の自分へと戻っていくのを感じた。
そう、泣き虫で弱虫で、士道が居ないと何もできない自分へと。
「やだ、やだよぉ!おねがい!!戻って、戻って来て!!」
動けない事など忘れ、必死になって届くはずもないリボンへと手を伸ばす。
無駄と分かっていても、悪あがきする様に自身の熱でワイヤーを引きちぎろうと暴れる!!
ガゴ!!ボゴッ!!
水中、そこへ無数の瓦礫が落ちてくる。
瓦礫のせいで視界から、リボンが消失する。
「やだ!やだ!やだぁ!!!」
口から酸素が抜ける事を全く考慮せず、バタバタと手足をまるで駄々っ子の様にバタつかせる。
「ヒャハ!!折紙ぃ!!じゃあすんじゃねーゼ?いま、俺の家族の仇をうってるところだぁ……
お前は、家でおとなしくしてな!!」
「嫌。私は、あなたを止める為にここに居るから」
「なんででででで、だぁ!?俺が精霊だ!!俺が倒すにをじゃまするな!!」
口の端から、泡を吹くスズモト。
会話も少しづつおかしくなっている。
4Gの性能が、脳に過剰な負荷をかけているのは明白だった。
止めなくては――早く――
「はぁ!!」
「邪魔魔ままま!!!」
ホワイトリコリスのブレードと、4Gのブレードがお互いに火花を飛ばす!!
「んん!!」
コンテナの一部を、相手の頭上から叩きつける!!
武装は、ほぼ同じか4Gの方が多少上だ。
ジリ貧に成って、お互いの脳の負荷をかけ続ければ死人が2人になるだけだ。
此処はいかに早く、相手を行動不能にするかがカギだ。
「3、いや、2分で決める!!」
折紙が、全スラスターを点火して思い切りスズモトに体当たりした!!!
「あ……ああ……」
プールの奥、ワイヤーに締め付けられ瓦礫に潰されても尚琴理は生きていた。
だが、精霊の体とて酸素を必要としない訳ではない。
少しづつ、苦しくなってきた。
不意に、過去の士道の姿が蘇ってくる。
(あ、コレが噂の走馬燈……私も、もう終わり……ね)
そんな琴理の脳裏に不意に蘇る、姿が有った。
「!?」
全身にノイズが走る、存在。
男か女か、人間か精霊かはおろか真実か幻かさえも分からない。
【ふぅん、おとうさんおかあさん、お兄ちゃんもいないんだ。誕生日なのに寂しいね】
それは、琴理に話しかける。
(なに、この記憶……)
そして、ソレは赤い結晶を持ち出した。
宝石の様に紅く、美しく輝ている。
【もし、強くなりたいのなら、これにふれると良い。
そうすれば君はだれよりも強くなれる。強くなった君をお兄ちゃんもきっと君をすきになってくれるよ?】
(だめ、だめぇ!!)
琴理はこの後、どうなるか知っている。
無駄と分かっていたとしても、思わずそう叫ばずにはいられなかった。
暴れる、炎が町を思い出をすべて燃やしつくような炎で何もかもを燃やし尽くす!!
(あぁああああああああああ!!!!)
琴理は必死になって、記憶の中の自分を止めようとするが――
(あ……)
自らの記憶の中、見てしまった。
自らの炎で、自らの最も大切な兄を――
「い、いやだ……ペドー……」
水中の中、誰も聞こえないハズの声が消えて――
「ボゴ!がばおぼぼ?」
突如目の前の、ペドーが現れる。
記憶の中でも、幻でもない。本物が今、琴理の目の前に。
「!?」
琴理は目を見開いた。
此処は水中だ。それもさっき自分が散々力を使いまくった場所。
周囲の水は熱湯と呼んでも差し支えない温度のハズだ。
だが、そんな状況の中ペドーが笑いゆっくり口を動かす。
た す け に き た ぞ
お れ の い も う と を
差し出す手には、さっき流れた黒いリボン。
そう、あの日と同じ――!!
琴理の絶望の記憶の中で最愛の兄がくれた強さの証!!
黒いリボンを手に、琴理の頭に手を伸ばし、そっと唇を合わせる。
その瞬間、琴理の体から暖かいモノが流れる込む。
「ヒャハ!!ブチコロ!!」
スズモトが、左右3本、計6本のブレードで折紙のホワイトリコリスを捕まえる!!
ミシミシと嫌な音がして、折紙モニターに複数のアラームが鳴り響く!!
「おまえ、を、たおした……ら!!、せせせ精れいの番だ!!」
「オールウエポンパージ!!」
数舜の逡巡の後、折紙が息を飲む。
折紙がホワイリコリスを自爆させた!!
「ヒャハ!?何――」
超至近距離の爆発に、スズモトが一瞬だけ萎縮する。
そして――
「はぁ!!!」
すべての武器を捨てた折紙が両手に、小型のレーザーブレードを構えスズモトにとびかかる!!
そして、相手の首と腋に突き立てる!!!
「ぐぅ!?こ、この戦法は――」
スズモトはこの戦い方に覚えが有った。
「そう、あなたが崇宮 真那との訓練で見せた戦いかた。
あなたが教えてくれた、男の意地」
「くっそ……こんなことばっかりおぼえやが……て」
血を吐き、スズモトが悔しそうに笑った。
「テリトリーを展開して。普通なら致命傷でもウィザードなら応急処置できるはず」
折紙の言う通り、首も腋も大量出血間違いなしの場所だが、テリトリー内ならなんとかなる。
だが、それはぎりぎりでなんとか4Gを使っているスズモトには大きすぎる負荷で……
「自分を殺すか、精霊を殺すか選べってか……?」
スズモトの問に、折紙が頷く。
「……へッ、やめだ。やめ!!俺が死んだらお前が殺人犯に成っちまうからな……
俺の家族の仇、頼むわ……」
スズモトが笑い、4Gを破棄した。
「あなたは聡明なウィザード」
「ヒャハ!聡明な奴は、こんなことしねーよ!!」
破棄されて尚も、勝手に動こうとする4Gにスズモトが銃で狙いをつける。
「もう、いい。もういいんだ」
パァン!!!
未練を断ち切る様に、4Gが動かなくなった。
「ちょっと、寝るわ……」
脳を酷使し続けた代償か、スズモトが倒れてそのまま動かなくなった。
「ぷはぁ……」
一体いつからいたのか、プールの中からペドーが琴理を連れて出てくる。
「あ!琴理を気絶させれば人工呼吸できたのに!!
しまった……
琴理、もう一回溺れない?」
「溺れてないし!!」
何時もの兄妹の様子がそこにあった。
「イフリート……!」
痛む頭を押さえ、折紙が琴理にブレードを向ける。
「人違いだ、イフリートは……俺だ」
ペドーが、折紙のブレードを握り手に傷を作る。
折紙の目の前で、その傷を炎が舐める様に這い回り、ペドーの怪我を全快させる。
「な、なぜ!?」
「悪い、折紙。今は詳しく言えない。けど、いつか絶対言うからな」
そういって、ペドーは琴理を連れて帰っていく。
最後に後ろから琴理の尻に手を伸ばし殴られた。
追いたかったが、折紙も脳の負荷が限界だ。
そのまま倒れる様に眠った。
数日後
「ふぅ、四糸乃とくるみと琴理の水着でしばらくオカズは大丈夫だな!!」
無駄にいい笑顔で、無駄に気持ち悪い事を言うペドー。
「ペドー、さんオカズって……なんですか?」
「おお?知りたい?しりたいん?」
おずおずと聞いてきた四糸乃の楽しそうに近づくペドー。
「やめなさいよ!」
琴理の牽制が飛び、ペドーが退散する。
「はぁ、もう……大変な時に」
カタカタと琴理がパソコンを叩く。
「ん?AV?」
「違うわよ!!レポートよ!!レポート!!
5年前に現れた、謎の存在。私を精霊にしてくれたアイツをまた記録を消されないうちに――」
「あー!!半裸で抱き着いてくれたんだよな!!
水着とか目じゃないわ!!脱ぎ掛けっすよ!!脱ぎ掛け!!
あー、思い……出した!!綴る!!幼女の纏いし、絹の感触よ、薫風に混ざりし幼気な芳香よ、臓腑に満ちて目で覚えよ、耳で覚えよ、感触で――」
「どこの詠唱よ!!邪魔よ!!じゃま!!」
怒り狂い、ペドーを部屋から追い出す琴理。
「なんだよ、ちぇー」
すねて、フラクシナス艦内を歩いていく。
「やぁシン。お疲れ」
令音が通りかかり、手を振る。
「あ、令音さん」
「今回は大変だったね。しかし上手くやってくれた君の力には驚嘆するばかりだよ」
「はは、ありがとうございます。
ところで令音さん。
ペドーの言葉に、令音が止まる。
「何を言っているんだ?」
「いやぁ、実は神無月さんにその時の映像を見せてもらって、令音さんっポイ人が映っていたんですよ」
「馬鹿な、それはただのノイズの塊だよ」
「あれぇ?なんで、ノイズの塊って知ってるんです?
神無月さんですら、俺が指摘して初めて気が付いたのに――
なぜ、令音さんは『ノイズの塊』だと?」
「……ペドー君、君にはロリロリな女の子とイチャイチャできるゲームを10本やろう。
勿論18禁番だ。それと画面がクリアなパソコンと、音声がリアルになるヘッドフォンもつけよう。
その代わり、この話は忘れるんだ」
「俺がそんな条件で動くとも?」
「じゃ、20本」
令音が指を2本立てた。
「もう忘れましたーン!!」
「交渉成立だね」
ペドーが上機嫌で、その場を後にした。
「やれやれ、彼は有能だが……色々と問題がありすぎるな」
困った様に令音がため息をつく。
次回のデート・ア・ペドーは!?
「修学旅行来たー!!」
「すさまじいスピードのサイクロン!?」
「な、あの人がDEM社の、社長……?」
「二人で、一人の精霊?」
次回『邂逅のS/精霊は二人で一人』
コレで決まりだ!!