次回より、美九編が始まります。
今回悪ふざけ多めです。
琴理が広い廊下の中を軍服姿で歩いていく。
不安からか、琴理の小さな胸の中の心臓が早鐘の様に鳴り響いている。
スゥ――
小さく息を吸って、目の前の荘厳な扉をノックした。
「五河 琴理。参りました」
『入り給え』
失礼しますと小さく声を上げ扉を開いた。
その部屋は所謂書斎と呼べるような、四隅を本棚で囲まれた部屋だった。
そして中央に机と、椅子があり50代ほどの白髪の老人が座っていた。
多少若いが好々爺と呼べる姿をしている。
彼こそが
〈ラタトスク機関〉の創設者にして、琴理の恩人でもある。
「ご無沙汰しております、
「うぐ……」
琴理がナチュラルにウッドマンの名前を間違え、小さくうなった。
「ず、ずいぶんと活躍している様じゃないか。
円卓の連中も驚いていたよ」
「彼らは大仰に驚くのが仕事ですから」
琴理の言葉に、ウッドマンが面白そうに喉を鳴らした。
「まぁ、そういうな。彼らとて〈ラタトスク機関〉に必要な人材だ。
……それより五河司令。精霊の力を使ったと聞いたが、大事ないかね?」
「はい、ご心配おかけしました」
「そうか、それは良かった」
ウッドマンがあごひげを撫で、一瞬の時間を溜め再度口を開いた。
「そうそう、先ほど〈フラクシナス〉がDEM社制と思しき空中艦と戦ったらしい」
「!?――そうですか。しかし、あの艦には神無月が居ます問題は――」
「問題はもう一つの方だよ。
キミの兄が天使を顕現それも、2つ同時にだ」
「!」
ウッドマンの言葉に、琴理が目を見開いた。
「もしもの時は『適切な対応』をしてもらう事になるかもしれない」
ウッドマンの言葉に、琴理が泣きそうになるがグッとこらえて、無表情を作った。
「分かっています。もしもの時は、士道は
重くつらい、決意の言葉と共にその日のラウンズは終了した。
その日の夜、琴理は自身の家の前に来ていた。
会議を終え、ようやく自身の家へと帰ってくることが出来たのだ。
ぼんやりと暗い街の中でも、五河家は光にあふれていた。
修学旅行に行ったペドーが帰って来ているのだろう。
タダの家の明かり、しかしその光は琴理にとって、自身を歓迎してくれている様に思わせる物だった。
「ペドー、今帰ったわよ」
扉を開き、小さな話し声のするリビングへと足を運ぶ。
そのさなか、琴理は自身の兄と何を話そうかと夢想する。
司令官らしく『ベルセルク』を封印したことでも良い、家族らしく修学旅行のお土産についてでも良い、それとももっと身近に今夜の夕食について話しても良いだろう。
わくわくと弾む小さな胸の鼓動の命じるまま、琴理はリビングの部屋の扉を開ける。
「よし、サイズはピッタリだな」
ペドーが部屋の真ん中、もごもごと怪しく動くバックを目の前にして何度も頷く。
「ぺどーさん、あたらしいかばんをかってきたんですのね」
くるみが興味深そうに見る。
「あ、琴理、おかえりー」
琴理に気が付きペドーが声を掛けるが、なおも琴理は自身の頭に手を当てたまま反応しない。
「……なんでよ」
「ん?」
「なんで、まだあきらめていないのよ!!!
カバンに幼女を詰めて旅行しても逮捕されるだけでしょ!?
まったく、ほら、四糸乃も付き合ってないでかばんの中から――」
その時、台所の方から四糸乃がジュースを持ってやってくる!!
「琴理さん、おかえりなさ、い?」
不思議そうにコップの乗ったお盆をテーブルに置く。
コップの数は『4つ』
「ねぇ、四糸乃……このジュースって私の分ある?」
「あ、ご、ごめんなさい。すぐに注いできます」
パタパタと再度、キッチンの向かう四糸乃を前に琴理が口を大きく開いた!!
「おかしいでしょ!?どうして4つなのよ!!
ペドー、くるみ、四糸乃で3つでしょ!?
ねぇ、ねぇ!!!なんで4つなのよ!!なんでさっきからカバンが勝手に動いているのよ!?」
悲鳴のような琴理の声に、ペドーがカバンのチャックを開く。
「なにって、シェリちゃんの分だよ」
「入れなくないけど、スゴイせまい……」
カバンの中から、褐色肌の幼女が顔を見せる。
「ぺ、ペドー!!!あんた遂にヤッったわね!?
修学旅行先で攫ってきたの!?幼女を持っていくなとは言ったけど、持って帰ってくるのはもっとダメに決まってるじゃない!!」
ガクガクと震え、琴理が大量の汗をかきはじめる。
「あ、シェリちゃん。コイツが琴理。
すぐ叫ぶし、性格コロコロ変わるし、中二病だし、そのくせそこそこ可愛いから、学校の女子に友達が一人もいないボッチなんだけど、仲良くしてくれる?」
「うーん、内弁慶っぽいからヤダ!」
ペドーの言葉に、シェリが元気に答えた。
「じゃー、しょうがない。琴理、頑張って生きてね?」
「ちょっと!?いきなり何言ってるのよ!!
私別に友達いるし!!」
「相手はお前の事、友達とは思ってないよ」
「思ってるわよ!!う、うわぁあああああん!!」
きつい現実を突きつけられ、琴理が遂にその場でゴロゴロ転がって泣き出した。
数分後……
「ぐす、え、ぐす、で?島で、新しく見つけた準精霊を連れてきたの?」
涙をぬぐいながら、琴理が話しをきく。
島でのことは詳しくは令音に聞けば分かるだろうと、心の中で整理をつけていく。
「なんで、こういう精霊バッカ集めるのよ……」
涙声で琴理が尋ねる。
目の前のペドーは、膝にくるみを座らせ、右側に四糸乃、左にシェリとまるでハーレムものエロゲのワンシーンの様になっている。
「ふっふっふ、それはこの或美島で買ったこの『幼神様』の力さ」
そう言って自身満々に見せるのは、小学生くらいの女の子をかたどったフィギュアだ。
なぜかスク水にランドセル、そしてリコーダーを加えさせられ、大量のケフィアが掛かっている。
「どー見ても、コレ、なんかのエロゲ早期購入特典よね!?
なにを買って来ているの!?」
琴理がぶちぎれ、フィギュアをペドーから奪い取る!!
「ヤメロぉ!!幼神様の怒りに触れるぞ!!」
「知らないわよ!!こんなもん!!!」
琴理が幼神様を思いっきり地面にたたきつける!!
その瞬間!!
デンデンデンデン!!デ~ンデデン!!
呪いのBG永夢ゥ!!っぽい音楽が聞こえた。
「ああ、なんてことだ。幼神様の怒りに触れた……!!
あと24時間はそのままだぞ?」
ペドーがそう言うが、琴理は体になんの異常も感じていなかった。
「いったいにゃにがぁ、おこったにょ?
!?――にゃにこれぇ!?きょえが、きょとばが、ふちゅうにでにゃいのぉおおおお!!んほぉおおおおおおおお!!!」
なぜか琴理のセリフすべてが、エロゲボイスっぽくなっている!!
「ぺどーさん、これなんていってるんですの?」
くるみが不安そうに聞く。
「あ、えーっとね
『一体何が起こったの?
!?――なにこれ!?声が、言葉が普通に出ない!!』
かな?」
「ペドー、コイツ頭おかしいぞ!!」
シェリが琴理に向かって指をさす。
四糸乃は必死によしのんに頬をつねってもらって、笑うのを我慢している!!
「ま、明日には戻る筈……
そうだ!みんなで、お土産のチョコでも食べようぜ!!
琴理もチョコスキだろ?」
ペドーが話題を変えようとして、カバンから或美島チョコを取り出す。
タイアップ商品なのか、ゲドーの顔がでかでかと乗って。
『デブと虫歯のお友達ゲド!』の一文が載っている。
次々と、チョコをみんなに配っていくペドー。
拗ねていた琴理も遂に近づいてきて、手を差し出す。
此処によこせ、と言いたいらしい。
「まったく、別にみんな笑ったりしてないって。
ほら、せっかくのチョコだぞ?むすっとしてたら不味くなるぞ?
チョコスキだろ?」
ペドーの言葉に、琴理がようやく再度口を開いた。
「うん、しゅき、チ
チ
チ
言葉の一部に不自然にかかる規制音!!
「うわぁ……」
その言葉に、ペドーが慌ててくるみの耳をふさぐ。
なんというか、聞かせては成らない。
ペドーのなけなしの良心がそう叫んだ結果だった。
「さ、さぁーて、みんな、ええと……
きょ、今日は出前でも取ろうか?
シェリちゃん出前って初めてだろ?かつ丼とか食べたことある?」
ペドーが気を利かせ、あえて話題を別の事に振った。
他の皆も何も言わなかった。
その優しさがなぜか逆につらくて、琴理は小さく泣いたのだった。
「うわぁああああん!!精霊ほしいよぉおおお!!
精霊、精霊!精霊!!精霊!!!」
部屋の中、おむつと涎掛けのみを身に着けた、ウェスコットこと、うぇすちゃまこと、赤ちゃんプレイ野郎が泣きわめく。
「うぇすちゃま、泣かないでねー。
うぇすちゃまは強い子、すごい子、DEMの代表ですよ~」
「ぐす、だってみんな、〈バンダースナッチ〉勝手に経費少なくするし、戦艦一騎堕ちたし、エレンママだってスーツ無くしてるしぃいいい!!
うわぁああああああん!!」
「はいはい、悲しかったでちゅねー」
エレンママが哺乳瓶に入れた、ミルクを赤ちゃんプレイ野郎に飲ませる。
約一時間後……
『エレンはんお疲れやでー』
「……バンダースナッチ……」
話しかけてきたロボに対して、エレンがため息をつく。
前までは楽しくてしょうがなかった、うぇすちゃまのお世話。
だが、なぜか今日はドッと疲れた。
「なんででしょう……」
エレンの胸に浮かぶのは、殿町の顔。
嵐に飲まれ、機能停止した鉄くずに潰されエレンは死の一歩手前だった。
だが、その瞬間殿町が駆け付け、鉄くずの下からエレンを助け出していた。
その後、防水加工されていたバンダースナッチのプロトタイプ(大量生産を度外視した設計なので、多くの機能がある)のおかげで無事雨宿りする所まで言った。
チーン!
『たこ焼きできたでー、冷めへんウチに食いー』
バンダースナッチの胸部が開かれ、タコ焼き機の上に沢山のたこ焼きが載って出てくる。
「〈プロトバンダースナッチ〉……なんのつもりですか?」
『何って、タコ焼き作ったねん。食いなはれや!』
「私一人では数が多すぎます……だから――」
『だから、食べたい人と一緒に食べ行けばええやん』
「え――ちょ!?」
バンダースナッチがエレンを抱きかかえ、建物の外へ行く。
『100年後、だぁれも生きてへんさかいな。
出来る事せぇへんと、後悔するでー』
バンダースナッチはそのまま遠くの空へ、エレンを連れて消えていった。
「はぁー、腹減ったなー。
両親が法事で居ないと、自由だけど不便だな」
自室で殿町が、ゴロゴロとゲームをする。
その時――
こん、こん
自室の窓を叩く音がする。
「へ?え、エレンさん?」
窓の外にいたのはエレンその人!!
なぞの巨大マシンに乗って、空を飛んでいる!!
少しのためらいの後、エレンが殿町に向かって口を開いた。
「ね、ねぇ、最新型のタコ焼き機買ったんだけど……一緒にたべない?」
「もちろんですよ!!」
殿町が嬉しそうに笑った。
作中キャラ紹介!!
幼神様(ようがみさま)幼女と幼女好きの為の神様。
実は或美島に古代から伝わる呪いの儀式が奔流。
子どもを守るために、生贄とされた子供が元になっており、自身を傷つける者を決して許さない。
その力は、もはや祟りの領域で昔の権力者は、幼神様を神様として奉る事で呪いを弱めることにした。
しかし島の人間だけで、呪いを受け止めきれず苦渋の選択として、幼神様のご神体を大量に作りお土産物として売る事にした。その結果、呪いは弱くなるが多くの地方へと飛び火することに成る。
ふつうは何の害も無いのだろうが、たまに『当たり』のご神体が混ざっているので注意。
プロトタイプバンダースナッチ。
量産型のバンダースナッチより前に作られた、バンダースナッチ。
『予算に糸目は付けない』の言葉を聞いた研究者グループの悪ふざけにより、無駄に昨日が充実している。
主な機能は、タコ焼き機、ラジオ、時計、ドライヤー、懐中電灯、CDプレイヤー、温度計、湿度計、高度計、爪切り。
冷却装置を使う事で、500ミリリットルのペットボトル2本までなら、冷やせる。
本来は、教育ビデオを見せて学習させる気だったが、職員が間違えてお笑いのビデオを見せた結果AIがこのように学習した。
仲間が容赦なくコストダウンの為に、機能が減らされ物言わぬ機械へと変わっていくのを悲しく思う。
雨に濡れて壊れた、鉄くずも彼にとっては大切な兄弟だったのだ。