デート・ア・ペドー   作:ホワイト・ラム

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ずいぶん時間が空いてしまってすいません。
ゆっくりゆっくりと書いていくので「お、更新来てるラッキー」程度の期待度でお読みください。
ペースは遅くなっていますが、エタリは無いので安心してください。


扉より来る者

「――どうぞ」

そう言って、ガラス製のテーブルに紅茶が置かれる。

一つのテーブルを囲んで座っている、二人の人物の視線が一瞬だけ絡み合う。

 

一人は折紙。この家の家主である彼女は突然の来客にも、真摯に対応してる。

子供になっても、いつも通りで、ペドーが何らかの対応をしたのか体が急に戻ってもいつも通りな鉄面皮な彼女。

だが、僅か――ほんの僅かに、その顔には緊張が見て取れた。

 

「いただきます」

もう一人の人物が、紅茶を受け取り香りを楽しんだ。

だが、決して口をつけようとはしなかった。

 

「何の用?」

折紙の言葉に警戒が混ざる。

それもそのはず、目の前に居る人物は――

 

「エレンママ……」

 

「ママは余計です!」

僅かに鉄面皮が崩れるその人は、DXM社の執行部長エレンメイザース、またの名をエレンママだった。

折紙が彼女に対して、警戒を持つのは仕方のない事だった。

僅か数週間前、彼女はペドーの為エレンと剣を交えている。

ゲームでも、遊びでもない、人間相手の本気の殺し合いをした相手だ。

それが、何のしこりもなく、テーブルを挟んで紅茶を啜れるはずがなかった。

 

「ん、んんッ!では、初めに要件です。

トビイチ オリガミ。私の下で働く気はありませんか?」

 

「赤ちゃんの世話などしたことは無い」

 

「違います!!エリックの世話は私の仕事です!!

働くというのは、戦闘要員としてです!!」

折紙に言い返すと共に、エレンが持ち込んでいたパッドを触りだす。

 

「貴女……ずいぶん勝手をした様ね。

イツカ シドウの為でしょうけど、もう、ASTで働くのは無理ね」

経歴を読み上げながら、エレンはそう語る。

当然だが、ASTの実績はすべて民間には、秘匿である。当然民間企業であるDEM社が知る由もない『ハズ』だが知っている。

場合によっては圧力をかけて、折紙に二度と戦うチャンスを奪う事も可能だろう。

 

「……ッ」

小さく歯を噛む折紙。

 

「さて、今までがムチなら此処からはアメです。

私の下につくなら、ASTよりももっと上位の装備を与えても良いですよ?

そして、とある秘匿情報も」

 

「秘匿情報?」

こっちをスカウトする為に、餌としてエレンが差し出した情報。

一体何なのか、折紙はわずかに興味を持った。

 

「貴女が両親を失った、事件……あの現場には、別の精霊の霊力が観測されています」

 

「――!?」

折紙がエレンの言葉に、目を見開いた。

 

「復讐、どう?それを果たす力が欲しくない?」

それは誘惑、今の自分を捨ててでも果たしたい、目標――

 

「分かった、貴方の下につく」

折紙は、非情な選択を下した。

 

 

 

 

 

「ん――ここ、何処……痛ッ!?いっだぁ……」

真っ白な部屋の中、七罪が目を覚ました。そして胸に走る痛みに体を震わせた。

七罪は知る由もない事だが、ここは町の地下にフラクシナスが建設した秘密施設の一つで、対精霊用の様々な施設があるが、その中の一つだった。

 

七罪はいつの間にか自分が知らない場所で寝ていた事、自分が大けがを負っている事に混乱したが、その前後の記憶が一拍置いて、次々とフラッシュバックする。

 

「そうだ……私、エレンとかいうウィザードに襲われて……!?」

その時急に記憶にノイズが掛かる!!

まるで、自身の体がこの先は思い出してはいけない。とロックをかけている様に。

 

「そうよ……あの、あと……あの、あとに…………」

 

「俺が助けたんだよ!!」

 

「うわぁ!?痛っだぁ!?」

突如耳元で聞こえた声に飛び上がり、同時に胸の斬られた傷が痛み七罪は悶えた。

 

「そうよ……思い出したわ……執行部の化け物の後、本物の怪物が来たのよ……!!」

傷を負った胸を抑えながら、部屋の中をきょろきょろと見回す。

マジックミラーと思われる、鏡の置かれた窓。簡素なテーブルと2つの椅子。

さっき、自分が寝ていたベットにクローゼット、そして部屋の隅に置かれた()()飲み物が置かれた冷蔵庫。

 

「そこにいるのは分かっているわ!!出てきなさい!!」

七罪が、冷蔵庫に向かって指を突き付けるが反応は無い。

 

「とぼける気ね……!

引きずりだして、やるわ!!」

七罪が、恐る恐る冷蔵庫の扉を開けると――!!

 

「誰もいない……?」

中は普通の冷蔵庫だった。

飲み物は、単純に入れ忘れただけらしい。

 

「残念はーずれ!」

再度聞こえるペドーの声に、七罪が怯える!!

 

「!? ならクローゼット!クローゼットよ!!」

クローゼットを開くがそこにも、ペドーの姿はない。

くくくと、ペドーの小さな笑い声が聞こえてくる。

 

「べ、ベットの下に――と見せかけて、天井に張り付いてる!!」

七罪がやけくそ気味に、天井を見たり、ベットの下を覗くがどちらもペドーはいない。

 

「な、なによ!!バカにして!!」

枕を掴んだ瞬間、指に何か固いものが当たる。

 

「ん?」

その中にあったのは、小さなスピーカーだった。

そう、最初に聞こえた声はベットの上、当然七罪は枕の上に頭を乗せていて――

 

「はいはい、最初からいなかったって訳ね!!

お疲れさまでした!!ばーか!!ばーか!!」

結局スピーカーを使ったいたずらにまんまとハメられた、七罪が枕を床に叩きつけると、露骨に不機嫌になった。

 

「まぁ、アイツがいないってわかったし――」

 

「俺は、ここだぁああああ!!!」

七罪が油断した瞬間!!ベットのマットレスが跳ねる!!

 

びりッ!びりぃ~~!!

 

マットレスの一部が破れると、そこからペドーが顔を出す!!

 

「うわぁあああああああ!!!」

 

「ふぅ……七罪の体の重さを全身で感じられた……いい『圧』だったぜ?」

恐怖の悲鳴を上げる七罪を放置して、マットレスからゆっくりと身を出すペドー。

 

「いやぁああああああああ!!!何時からいたのよぉおおおおお!!」

 

「七罪が、運び込まれてから、ずぅうううううううううううううううっと、マットレスの中で、待ってたよ!!」

嫌にいい笑顔を見せるペドー!!

グッと、サムズアップしてみせる!!

 

「うわぁああああああああ!!!キモイぃいいいいいいいいい!!

ぐぅえ!?傷が……!叫んだせいで傷が開いて……!」

エレンに負わされて決して軽いとは言えない傷が、暴れまわったり怒鳴ったりしたことで一気に開いたようで、七罪が胸を押さえる。

 

「ああ、可愛そうに……傷跡をなでなでしてあげるからね……むふふふふふふふふ……」

 

「あ、ちょ――!?」

怪しい笑みを浮かべて、服の上から七罪の胸(の傷)を優しくなでる。

 

「さ、さわった!!今、今私の胸さわ――」

 

()()()()訳ないだろ!?目の前のちっぱいとのコミュニケーションをしないなんて失礼だろ!?現代人はケータイばっかりで、生身のコミュニケーションをしないからダメだよね!」

完全に開き直ったペドーの、言葉に七罪が一気に顔を赤くする!!

 

「もぉおおおやだぁああああああ!!」

 

「そこまでだ!!」

七罪の声が響くと同時に扉が開いて、姿を見せた屈強な男たちがペドーを拘束する。

「ペドーがいたぞ!!確保ォおおおお!!」

 

「はなせぇ!!七罪には、七罪には俺がいてやらないと……!!」

バタバタとペドーが暴れて、何とか七罪に近づこうとする。

 

「ひぃ!?」

肝心の七罪が怯える表情を見せている為、ペドーが無垢な子に襲い掛かろうとしているようにしか見えないが……

 

「くっそ!?なんて力だ!!男子高校生の力じゃないぞ!?」

 

「これが、幼女とイチャイチャしたいがために、DEM社に単身で乗り込んだロリコンの力か!?」

 

「仕方ない、最後の手段だ!!ペドーさん、司令がお話したいことが有るって、ほほを赤く染めながら、恥ずかしそうに言っていましたよ?」

一人の男の言葉を聞いた瞬間、ペドーがピタリと動きを止める。

 

「行くしかねぇな……かわいい妹の為に。

七罪?悪いけど、ちょっと待っててね?」

 

「ひゅ!?」

ペドーが視線を向けると同時に、七罪が震えあがった。

しかしペドーはそんなことを気にせず、部屋からスキップをしながら出て行った。

一人残された七罪は、助かったとばかりに胸をなでおろした。

 

「今更だけど、あの子、ペドーさんが近づいてきた時の方が怯えてね?」

 

「言うなよ……いろいろ台無しになるから……」

二人の男もかわいそうな物を見るような目で七罪を見て帰っていった。

 

 

 

 

 

「さて……なにか申し開きはあるかしら?」

部屋の中、顔に笑みを張り付けた琴里が司令の椅子に座って引きつりながら口角をあげる。

 

「ん?あれ、琴里なんか老けた?」

 

「七罪の能力が解除されただけよ!!」

 

ドンッ――!

 

と大きく、足を地面に叩きつける。

 

「はぁ、前のほうがよかったなぁ……すぎた過去はもう帰らない、か」

しみじみと成長してしまった琴里を眺める。

 

「あ・ん・た・ね!!自分が何をしたか、解ってるの!?

自分がどんだけのチャンスをつぶしたか……!」

 

「チャンス?」

怒れる琴里の言葉にクエスチョンマークを返すペドー。

 

「そうよ、あんたは七罪のヒーローだったのよ。

エレンに襲われて、そこに駆け付けたヒーロー。

これはあの頑なな七罪の心を解きほぐすチャンスだったのよ?」

琴里がモニターを付けると、部屋の隅で布団を被って怯える七罪を見せる。

 

「あの様子を見る限り、天使は使えない……

言い方は悪いけど、付け入るチャンスだった訳ね」

 

「お、美九の時と言い、精霊の封印さえすればどんな手段を使っても良いや感が強くなってきたな。

けど、安心しろよ。俺が、一人で怖がっている幼女を一人で放っておく訳ないだろ?

さてと、んじゃ行きますかね」

真剣な顔つきになって、ペドーは部屋を出ていく。

大人に化けた七罪、真の姿を見られることを嫌った七罪、そして姿の違いで大きく態度の変わった七罪。

ペドーの中で、とある仮説がゆっくりと形作られていく。

 

 

 

「やぁ、七罪!傷の具合はどうだい?」

 

「ひぃ!?こ……こっち、くんな……!」

部屋のドアを開けた瞬間、七罪の体が露骨にこわばった。

怯えるような視線で、枕を振りかぶるが――

 

「おいおい、そんなの、投げんなよ」

 

「ど、どうやって!?」

僅か数センチとなりに、突如現れ姿を見せたペドーに七罪が怯える。

布団をはぎ取り、じりじりと部屋の隅に七罪を追い詰めていく姿は、完全に幼子に乱暴しようとする性犯罪者だが、様子を確認する職員たちは必死になって抑える。

 

「なぁ、七罪。お前、どうして俺に化けたり、ほかのみんなを困らせるような事したんだ?」

ポンとペドーが七罪の肩に手を置いた瞬間、ビクッと七罪の体がこわばった。

 

「そ、それは、あ、あんたが……わたしの、本当の姿を、みたからよ……」

 

「今の姿のことだな?なんで、この姿はダメなんだ?」

ゆっくりと、ペドーが七罪に問いただしていく。

まるで尋問の様で興奮するな、とペドーが勝手に思う。

 

「それは……それは、私がみ、みすぼらしいから、です……」

眼に涙を溜めて涙す一瞬前の顔のまま七罪が、絞り出すように言った。

 

「だって、この姿じゃ誰も相手してくれなかったんだもん!!

『あっちの姿』の時はみんな違った!!ちやほやしてくれて!!優しくしてくれて!!何でも出来るつもりだった!!」

ついにぽろぽろと泣き出す七罪。

 

(やっぱり自分の姿に、コンプレックスがあったのか……)

嫌な予想が当たってしまったと、内心少し困るペドー。

 

「こんなブスがお姉さんの姿とか、キモイとか思ってるんでしょ!?

優しい言葉の影で、私を笑っているんでしょ!?みんなそうよ!!見るのは外見だけ!!

誰も、誰もこの私なんか、好きじゃな――ふぶぅ!?」

ペドーが七罪のほほを両手で押さえつける。

圧力がかかった七罪の顔はひょっとこの様な唇を尖らせるような形になる。

 

「はーい、ストップ。ネガティブタイムは一時終了。

やることは決まった。さてと、準備に時間が掛かるな……

えーと、アレとアレと、アレと……」

何かを考えるような口調で、ペドーが無意識に視線を上に向ける。

 

「ふぶ……ふぶ!ふぶぶ!!」

七罪が、必死な顔でペドーの手をタップする。

 

「よおし!!んじゃ、続きはまた明日!!ばいば~い。

あ!最後に一つ!!俺はBBAの姿より、今のロリロリな七罪のほうが好きだぜ!!

今度こそ、じゃあな!!」

手を振りながら、ペドーがその部屋を後にする。

 

「なんなのよ……マジでアイツ何なのよぉおおおおお!!!」

まるで嵐のようなロリコンの言動に振り回された七罪の、魂の叫びが響いた。




ロリ精霊には、なんというか、見ていたくなる表情がある気がする。

四糸乃は、小さく驚いたようなきょとんとした顔。
くるみには自信ありげな、ドヤ顔。
琴里は、あせるような、慌てるような表情が。
シェリにはぷんすか怒ったような顔が好きですね。

個人的には七罪はガチ泣きにならない程度、少し泣かせたいです。

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