デート・ア・ペドー   作:ホワイト・ラム

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ご無沙汰しております。
遂に帰ってきました。

待っていた人、エタったと思った人。
遂に帰ってきましたよ!

申すこし、ペースを上げなくては……


「私は一体何を見せられているの……?」

11月11日の午前10時。

 

ペドーは服を着替えて、街中を歩いていた。

今日は折紙とのデートの日である。

 

『なんか早すぎるんじゃない?約束の時間は11時でしょ?

それに昨日は寝る前から全部支度して、すぐにでも出かけられる様にしたから寝たそうじゃない?

本当に前の世界でタダのクラスメイトだったのかしら?』

インカムから聞こえてくる琴里の声を聴きながらペドーがあくびをする。

琴里は空中1500メートル上空で、こちらをモニターしている。

無論、折紙とペドーのデートをこっそり助けるのが目的だ。

 

「ダメだな琴里、全然ダメです!

折紙の心がわかってな~い!」

その場で両手をクロスしてバッテンを作った。

突如はなたれるペドーの動きと言葉によって、何も知らず通りかかった男がビクリと身を震わせる。

 

「いいか?相手は折紙さんだぞ?

常にこちらの予測の範囲外の動きをする前提で動くんだ。

どんな状況が起きても対処できる心構えをするんだよ!

第一俺がすぐに出かけられる恰好をしたのも、今日0時に成った瞬間俺の部屋の何処かに隠れていた折紙が飛び出してきて『今日はデートの約束。間違って速く来てしまった』という状況に対応する為だ」

 

『どーいう状況よ!?おかしいでしょ!!』

インカム越しに琴里の言葉が響く。

 

「いや、前の世界の折紙が相手なら、準備はいくらしても足りない位だし……

いきなり怪しいお薬を嗅がされて、気が付けばホテルで……『名前、何にする?パパ』とかあり得る訳で……」

ペドーがそんな事を話ながら歩くと目的地が見えて来た。

以前くるみとデートの集合場所に使った噴水だ。

水中にもぐって相手を待とうと思ったが最近寒くなって来たのでペドーはやむなくそのアイディアを諦めた場所だ。

そして――

 

『うっそでしょ……?』

琴里の驚いた声がインカム越しに聞こえて来た。

約束の時間までおよそ一時間。

それなのに、それなのに――

 

「ちぃーす折紙!元気ーぃ?」

既に来ていた折紙に向かってペドーが手を振りながら話しかける。

 

「あ、ペドー君!?なんか、早いね……っていうか、私ちょっと早めに眼が覚めて二度寝すると今度は完全に遅れそうだから、ちょっと早めに来ちゃって――」

あわあわと聞かれてい事まで、慌てて折紙が話し出す。

 

「いやー、俺もなんだよ。

変な所で気が合うな!」

あははと笑うペドーを見て、折紙は内心「自由すぎる人だなー」と考えた。

だが、そんな部分に惹かれる自分がいるのでなおさら不思議な気分だ。

 

「あ、それより今、折紙って……」

今更だが折紙がペドーに名前呼びされた事を意識し始めた様だ。

 

「え、あ、その、なーんか、呼びやすくってな?

すまない。すこし、気安すぎたか?」

前の世界ではむしろ自分から、名前で呼ぶことを求めてきた折紙だが、確かによくよく考えると殆ど繋がりのない年頃の女の子をいきなり下の名前で呼ぶのは、呼ばれた側からしてもハードルが高いのかもしれない。

 

「う、ううん。大丈夫。

この名前お父さんとお母さんが付けてくれた大切なモノだから……

むしろもっと呼んで欲しい……かな?」

小さくうつむいて折紙がそう話す。

 

「分かった。なら今まで通り『折紙』で統一な?

んじゃ、俺の事は今まで通り『ペドー』で良いから、ってか最近は『五河』じゃ逆に収まりが悪いというか……

あと、敬語もやめないか?

もっと、こう、腹を見せて話そうぜ。

せっかくの休みだしさ!」

 

「うん、そうだね。士道く……じゃなくて。

分かった、ぺど……くん……」

折紙が顔を上げ、つぶやいた。

そのセリフにペドーは前の世界の折紙が無意識に重なった。

 

「さ、さぁ!早速行こうぜ、時間は有限だからな」

フラッシュバックを遮ってペドーは街中に進んで歩き出した。

 

 

 

ピコーン!

空中艦フラクシナスのメインモニターに、選択肢が現れた。

精霊とのデートの状況を読み取り行動を決定するこの装置は、すっかり忘れているだろうがフラクシナスの誇る高度なAIによって選出されるシステムなのだ。

 

①「そう言えば俺、見たい映画有るんだよな……」二人で映画を見に行く。平成の集大成にして一本の映画で収まらないほど豊満で潤沢なキャラクターたちが活躍する様を見に行く。

 

②「よし、二人で買い物に行こうぜ」二人で買い物に出かける。

 

③「君の話はとても興味深い。ホテルで朝まで語り合わないか?」大人なホテルにいきなり誘い込み「ホテル提案ロリコン」の称号をゲットする。

 

「総員選択!!って、何よ③ってAIにウイルスでも侵入しているのかしら?」

琴里が指示を出し、メンバーたちが続々と自らの考えを投票していく。

どうやら②最も人気であり次点が①、まぁ当たり前だが③には票が入ってはいない。

 

「やはり最良は②の買い物でしょう。やや無難すぎる気がしますが、無難こそ最も失敗が少ない物です」

 

「①もデートの定番と言えど、映画と言うのは実はなかなかリスキーです。

まず何を見るか。そして映画の印象がお互いに違った場合はどうするか。まぁ、2時間近く全く会話が無くなるというのが一番の問題ですね」

続々と意見が集まっていくのを琴里が聴く。

そして、それらの意見を集め自身の中で吟味した結果――

 

「ペドー、ここは②よ!二人で買い物よ!」

琴里がマイクに向かって話す。

 

 

 

「よぉし!なら心当たりがるぜ!」

 

「ペドーくん!?一体どうしたの?」

突然のペドーの言葉に折紙が驚く。

インカムを付けている事は秘密なので、折紙が驚くのも無理は無いだろう。

 

「いや、実は買い物に誘おうと思ってだな?

買いたいモノを売ってる店を脳内で思い出していたんだよ」

慌てて誤魔化して、ペドーが折紙を誘う。

 

「買いたい物?ペドー君は何を買いたいの?」

折紙の言葉を聴き、ペドーは静かに微笑んだ。

そして……

 

 

 

「あの……ここは?」

折紙が小さく声を発して、ペドーに尋ねる。

 

「え、行きつけの店だけど?」

そう話すペドーと折紙が居る店は様々な意味で異様だった。

瓶漬けにされたハブに、どぎつい色をした謎の赤黒い液体。

壁や棚に掛かる商品のセールス用の言葉として「赤マムシ」「今夜は3回戦」「バリっと開いてズンと伸びる」「ヤリすぎ!ツエすぎ!カマしすぎ!」など怪しい言葉が躍る。

 

「え、これ……」

折紙が店の怪しい内装を気にしながら、怯えた様子で歩いていく。

 

 

 

 

 

「ぺどぉおおおおおおおお!!何やってるのよアイツは!?

遂にやったわ!!ついにここまでおかしくなったのね!!」

琴里がインカムを床に叩きつけ、地団駄を踏んだ。

 

「感情値不安定化!!乱高下を繰り返しています!!」

 

「当り前よ!!あのロリコンはぁあああ!!!」

報告を受けて琴里が頭を掻きむしる。

一時とは言え、自分がペドーの言葉を信じたのは間違いだったと、激しく後悔する。

だが、そんなことを今更言ってもどうしようもない。

あのロリコンのせいで精霊攻略は失敗に――

 

「し、しかし、好感度は下がっていません!

それどころか、僅かづつですが上昇して……?」

データに不備があるのでは、と読み上げたメンバーが訝しがる。

 

「はぁ!?」

思いがけない状況に琴里が声を上げる。

完全に終わったと思った直後、まだ何とか続いているの理解する。

 

『ふむ、やっぱりか』

モニターにペドーの声が響いた。

 

 

 

 

 

「ねぇ、ペドー君このお店……

悪いんだけど私にはちょっと――」

折紙が申し訳なさそうに、口を開く。

 

「お、それ行っちゃう?やるねぇ!」

おずおずと話しかける折紙に、ペドーがその手に持つカゴを指さす。

 

「え、あ!?」

何時の間にか折紙の腕には買い物カゴが下げられ、その中には複数の精力剤や媚薬の数々がセットに成っていた。

大人のお買い得セット(玄人向け)だ。

 

「ち、ちが!な、なんで?何時の間に!?」

慌てて折紙がその大人のお買い得セット(蔵人向け)を返しに行く。

 

「……やはり、ホテルはやめておいたのは正解だったようだな。

喰われる所だったぜ……」

折紙の背中を見ながらペドーが冷や汗をかく。

そして、それと同時にある一つの仮説がペドーの中に沸いた。

 

 

 

「折紙、すまない。今度は服を見に行かないか?

一着プレゼントさせてくれよ」

 

「あ、そんな、悪いし……」

必死になってさっきの事を誤魔化しながら折紙が話す。

だが、やはりこの店に居たくないというのは折紙も同じ様で、結局は折れてペドーの案内する服屋に向かった。

 

 

 

服屋にて――

「お、コレとかかわいいじゃないか?」

ペドーが適当な服を見せて笑みを浮かべる。

 

「あ、本当だ。ペドー君センス良いんだね」

2人はまるで本当のカップルの様に、楽し気に服を見て回る。

 

「あ、コレ良いかも」

何かの服を見つけた折紙がソレを持ち上げる。

 

「お、気に入ったの在ったか?せっかくなら試着してみたらどうだ?

俺もさ、折紙がどんな趣味してるか知りたいしさ」

 

「え、それって……ちょっと待って!

せっかく見せるなら、もっといいやつ探して……

ペドー君が気に入りそうなの、着るから!」

ペドーの言葉に折紙が頬を赤らめながら、いくつか服を持って試着室へと向かっていく。

そして、数分後――

 

「ペドー君、この恰好どうかな?」

カーテンが開き折紙が姿を見せる。

その姿は所謂スクール水着とランドセルだった。

 

「惜しい!もう少し若ければ……」

 

「え、そう……って、きゃぁああああああ!?

なんで!?なんで私こんな格好してるの!?」

突如折紙が悲鳴を上げる。

まるで、さっきまで見えない力に操られ意識を奪われていた者が正気に戻ったようなリアクションだった。

今の今まで、自分がどんな格好か客観的に見れていなかった様だ。

 

「折紙、俺が気に入りそうな服って……」

 

「ちが、私こんな、変態な子じゃ……!」

はっとして必死になって折紙が弁明する。

だが、その恰好はどう見ても小学生コスプレをする変態JKでしかなく……

 

 

 

 

 

「すまん、すこしトイレに行ってくる」

ペドーがそう言って席を立つ。

場所は服屋から少し離れたファミレス。

あの後混乱する折紙をペドーは優しく諭し、服を購入して昼食を取れる店にやってきたのだった。

注文した品を口にし、さっきの事に触れないような雑談をして一息ついた。

 

「はぁ……一体どうしたのよ、私……」

机に突っ伏して折紙がため息をつく。

いや、ため息どころか今すぐにでも、自室のベットの上で枕を抱いてじたばた暴れたい衝動を必死に抑える。

振り返ってみるとどう考えても今日の自分はおかしい。

 

(どうしちゃったの私?なんだか今日は、ヘンだわ)

なぜか今日という日に限って自分の中の衝動が押さえきれない。

本当の事を言うと、今日のデート時間を間違えたという事で深夜0時に自宅に侵入して「デートの時間を間違えた、仕方ないから今から行こう」と24時間に渡ってデートを楽しもうという衝動が襲ってきた。

その他にも「せっかくのデートだから下着は着ない方が良いのでは?」と真剣に迷ったり、ペドーに連れていかれた店では何処に何があるのかなぜか自分で分かっており、気が付けばドリンクセットを購入しようとしていたし、彼に喜んでもらおうと考えた結果おかしな服装を無意識に選び着ていたり……

 

(はぁ、こんなんじゃ絶対変な目で見られる……

いや、ペドー君も変わり者だし……大丈夫なハズ……

緊張して、疲れているのかな私?

ペドー君を連れて、ホテルで()()()しないと……)

そう思いながら、折紙が非常にナチュラルな動作で、ペドーの食べかけのパスタのフォークを口に含んで舐め始めた。

 

 

 

「うわ……ついにフォークまで舐め始めたわ……何よアレ」

琴里がドン引きしながら折紙の奇行をモニターする。

 

「おや、次はペドー君飲んだコップに手を伸ばしましたよ。

む、見事なイッキですね」

神無月が指摘する。

 

『折紙……安心したぜ。やっぱり折紙は世界が変わっても折紙なんだな』

インカムからは隠れて折紙の奇行を見て涙するペドーの声が聞こえてくる。

尚もフォークをぺろぺろする折紙をみて、ペドーが感動の涙を流す。

 

「私は一体何を見せられているの……?」

変態行為を繰り返す折紙と、その行動を見て感動する兄。

未だかつてない理解不能な現実に琴里の口から、乾いた笑みがこぼれた。




お互い相手の事を探る変態カップルみたいで楽しい……

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