ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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本作品を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
自分にとって処女作となる本作品につきましては長らく未完の状態ではありましたが、突然ではありますが連載再開と現在構想中の作品の実験の為にも一度内容の修正と改善の為に一部改稿させて頂きました。
今後とも一層のご愛顧を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。


3/3 「戦いの前、その裏で」

3/3 「戦いの前、その裏で」

 

【日本 芦原市 芦原高校 11月19日 16時53分】

〈Japan Awara city Awara hight school 1653hrs. Nov 19, 2014〉

 

 

格納庫へと向かった伊奈帆と別れ、1人別棟の軍事教官室をあとにした一帆は廊下を歩き本校舎1階にある()()()部屋の前に辿り着く。

 

「失礼します」

 

3度ノックをした後、扉をスライドさせ中に入る。

 

「やあ、八朔会長。さては()()()()()()に会いに来たのかな?」

 

そう、一帆が入ったのは保健室だった。

 

「耶賀頼先生も居たんですね。全く……どうしてこんなに知り合いばかり逃げ遅れるのか……。ともかくユキさんに会いに来たんですが、容態は?」

「気を失っていますが命に別状はありません、ですが左腕を痛めているようですよ」

 

耶賀頼先生に案内され、一帆は今もまだ眠ったままでいるユキの診療台に行く。見た所外傷がないようで、一帆は心の底から安堵した。

 

「……良かった。死ななくて本当に良かった」

 

一帆は痛めていない彼女の右手を握りそう呟く、それはそこに嘘偽りはない正真正銘一帆の本音。物語の登場人物でも他人でもない、大切な家族としてヒトとして向けた想いである。

 

───もう「原作(あるべき正史)」は存在しない。いや、俺が貴女達と出会った時から(とっくの昔に)そんなものはなくなっていた

 

ただでさえ朧げな原作知識はもう、ほとんど当てにはならない。「■■(誰か)」の思惑か、はたまた歴史には修正力とでもいえるチカラでもあるのか界塚伊奈帆(原作主人公)の側に()()()()という明らかな異端因子(イレギュラー)が在ってなお、()()()()()こそあれど現在の状況はほぼ原作(あるべき正史)と同じ状況で推移している。

 

───だが今後はそうとは限らない。あるべき未来を、辿るべき道筋を、俺は()()()()に変えてしまった

 

故に原作で彼女(界塚ユキ)という登場人物(キャラクター)が最後まで生き残ったのだとして、今一帆達が実際に生きる現実において界塚ユキがこの先無事で、五体満足で生き残れるかどうかを信じる事なんて出来ないのだ。だからこそ一帆は「家族」である彼女が無事であった事に安心した、もう家族も仲間も友人も亡くしたくなどないのだから。

 

「……ユキさん、済みません。心配ばかり掛けて……でも俺は、俺がしたことに責任を取らなきゃならない。それに「今」何かをしなきゃ、抗わなかったら……例え生き残っても絶対に俺は俺が許せなくなる。後悔なんていくらでもする、でも……何もしないのも自分が許せなくなるのは嫌だから」

 

一帆は気を失って聞こえていないであろうユキに向かってそう言う。聞こえていなくても構わない、これは……そう、一帆自身が一帆に言う誓いの言葉(罪の告白)。でも……一帆はそれを誰かに聞いていて貰いたかったのだ。自分で選んだことの責任から逃げる事などできないように、逃げる術などとうの昔に自ら捨ててきたと理解する為に。

 

「……だから俺は戦う。伊奈帆もソラも皆んなも守りたい、傲慢と言われるかもしれない。それでも俺はユキさん……貴女を守りたいから……」

 

握っていた彼女の手をそっと元の位置に戻した一帆は立ち上がる。

 

「失礼しました耶賀頼先生、ユキさんを頼みます」

「もう少し、いてくれても構わなかったんだけどね……次は彼女が起きてから来ると良いよ。あと……」

「あと?」

「……いや、何でもないよ」

 

一瞬、耶賀頼先生の顔が曇り一帆に何かを言い掛けるが直ぐに口をつぐむ。

 

「では」

 

そこに少しの違和感こそ感じれど、その後特に彼は何かを口にすることもなかったために一帆はさして気にも留めず保健室の扉を閉める。そしてそのまま一帆は国道305号迂回路に輸送車ごと放置されているユキの乗っていたカタフラクト(KG-7 アレイオン)のある新芦原トンネルに向け歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「無くなった予備の包帯と医療キット………君は、何を隠している?君はどうしてそんな怪我を負ってまで戦おうとするんだい?」

 

 

 

 

〈*〉

 

 

【日本 新芦原市 国道305号線 新芦原トンネル 11月19日 17時10分】

〈Japan Sinawara city Japan National Route 305 Sinawara tunnel 1710hrs. Nov 19, 2014〉

 

 

日も沈み、予備電源によって辛うじて非常用の赤色灯の灯った新芦原トンネルにて。一帆は1人、カタフラクトに残っている火星カタフラクトとの戦闘データを直接例のノートPCと繋いで抜き取る作業をしていた。

 

嗚呼(あゝ)……寒いな」

 

地中を通るトンネルとはいえ今は冬も一層冷え込みとともに深まる11月も末、既にほぼ外気温と等しい寒さのトンネル内の空気であったが、さらに当たり前だが人っ子ひとり居ない人気のないトンネルは学校とは違い身も凍るほど寒かった。

 

───さっさとこんな面倒な作業は終わらせて、伊奈帆達と作戦会議を開いてあの火星カタフラクトについて対応策を話さないとな。ぶっちゃけ弱点知ってるけど……

 

吐けばほんのりと白くなる息を吐きながら一帆はアレイオンのコックピットのモニターや計器と繋ぎ持ってきたノートPC()を弄りつつそう思う。もはや()()()()()()()()()()()は信用ならない原作知識でこそあるが、()()()()()()()()()()()を推察するには「無いよりはマシ」程度であるが充分な知識ではある。

 

「……あの火星カタフラクト、カーム君が言ってたが確か「団子虫」だったか?あれの弱点は外部カメラのアンテナのある背面爪の隙間(インテーク)だったかな?」

 

こと今回の機体に関していえば弱点さえ分かれば如何とでもやりようのある機体である。そしてそこまで思い返して、ついでに思い出したカームの言えて妙な例えに少し笑いつつそう一帆は呟く。

 

───この際、敵性ネームは「団子虫(ソーヴォグ)」で良いか

 

ちなみに由来は英語の「Sow bug」からだ。何?ダサい?当たり前だろ、嫌がらせなんだから。と、そんな事を考えていると共同溝の扉が開き誰かが入ってくる足音がする。

 

───伊奈帆か?いやそれなら無線で連絡してくるだろうし……誰だ?わざわざこんな所に?

 

顔を上げ振り返るとそこに居たのは、

 

「何をなさっているのですか?」

「っ⁉︎……」

 

正真正銘、「火星のお姫様」が居た。しかも「立体ホログラム」の光学迷彩を解いた状態の、本物のお姫様がである。

 

「…………」

 

一帆は想像だにしていなかった事態に何も言えずに文字通り固まった。

 

「大丈夫ですか?」

「……アセイラム・ヴァース・アリューシア」

「良かった、ご存知だったのですね。でも改めて自己紹介を(名乗ら)させて頂きます。ヴァース帝国第一皇女、アセイラム・ヴァース・アリューシアと申します」

「……芦原高校生徒会会長、八朔一帆です」

 

辛うじで名前を呟くと彼女──アセイラム姫は少し嬉しそうにする。

 

「無礼者‼︎姫様が直々に話し掛けられているのですからもがっ!」

「エデルリッゾっ!カズホさんに失礼です‼︎……済みませんカズホさん。姫様にはもう全て話して……」

 

その時、視界の端からひょっこり現れていきなり罵倒(?)してきた小ちゃい少女の口を茶髪の少女が抑えてすまなさそうに言ってくる。それでようやく一帆は固まってしまった状態から抜け出す事ができた。

 

「ああ……大丈夫ですシャーリーさん、気にしないで下さい。それよりも……」

 

一帆は目の前にいるお姫様に目を向ける。身長は一帆より15㎝位低い150㎝後半、日焼けの跡もなくされど不健康さを感じさせない血の通った白い肌にテレビのニュースでよく見た白いドレスで身を包み、そしてその綺麗な金髪は左側に纏めて流してある。そんなお姫様の、その翠色の瞳が──未だ穢れを知らぬ瞳が真っ直ぐに一帆を見ていた。

 

───さて……どうしたものか

 

若干の居心地の悪さを感じた一帆は目を合わせるのに戸惑い、それを隠すかのように頬を掻く。何せ()()()()()()()彼女がこんな所に現れるとは想定外も想定外、全く持って予想だにしていなかったせいもあってこれからどうしようか咄嗟には思い浮かばない。だが、わざわざお姫様直々にシャーリー達侍女らを連れて訪ねて来られたとあっては一帆の方も何も話さないと言う訳にはいかない。

 

「……お初にお目に掛かります。先程の失礼をお許し下さい火星のお姫様(プリンセス・オブ・ヴァース)

「許します。ですから普通に話して下さいカズホさん」

「ありがとうございます。……コホン、アセイラムさん」

 

すっと片膝をつき胸元に手を当てる火星の貴族の礼──火星からのプロパガンダ映像の見様見真似だが──をとってみると、それにアセイラム姫はくすりと少し苦笑いをしながらそう言う。とはいえなかなか様にはなっていたのか隣にいるシャーリーは少し驚いたようであり、もう1人の小ちゃい女の子──確かエデルリッゾと言った子──は驚き過ぎて開いた口が塞がらないらしい。

 

───まあ、いきなり目の前の人が貴族の礼をとったら驚くわな

 

内心そう思いながらもお姫様ことアセイラムの許しも得たのもあっていつも通り「アセイラムさん」と呼ぶことにした一帆だが、何もわざわざ秘密を明かして自己紹介をするためだけにこんなところにまで来た訳ではないことも薄々察してはいる。故に一帆はその続き、本題へと移るよう促す。

 

「ところで、アセイラムさんは俺にどのような?シャーリーさんからある程度話を聞いているのであれば俺自身はあまり話せる事はないですよ?」

「かも知れません、ですが私は貴方にお願いをしに参りました」

「お願い?」

 

そんな彼女は胸に手を当てて何かに縋るように、あるいは祈るように一帆の目を見据えてその「願い」を口にした。

 

「はい、シャーリーから──私が最も信用し信頼する者から貴方の事を聞きました。だから私は貴方を()()します、だから()()()()()()()()()

 

アセイラムは深く頭を下げてそう頼み込む。てっきり原作のように戦争拡大の阻止のために然るべき機関に自分の無事を知らせるべく「協力」を求められる程度だろうとタカを括っていたが、まさかお姫様である彼女の方からこれほどまで直接的に「助けて」と頼まれるとは思ってもみていなかった一帆は驚いた。

 

「助けて、欲しいですか……」

「はい、……私のせいで、私が地球に来たせいで15年の休戦協定は踏み躙られました。私が地球と火星の溝を、憎しみを、その深さを理解していればっ!私が軽々しく火星と地球は友好を結ぶべきという「理想」を掲げなければこんなことにはっ‼︎」

 

地球から見てソラの彼方にある星の第一皇女(お姫様)であり、例え信頼に値する身内の侍女が相手であれ真の意味での弱音を吐けず弱みを見せられないはずの彼女が、初めて皇族の姫君らしくなく人目のある場所で吐露したその胸の内に一帆だけでなくシャーリーやエデルリッゾでさえも押し黙る。

 

「……ふざけるな」

 

しかしそんな重苦しい空気の中で、一帆が思わず口をついた言葉はそんな言葉だった。

 

───何故掲げたその「理想」を否定する?何故自ら選んだその「理想」を最後まで信じない?

 

一帆は彼女の懺悔じみた後悔を、自らを罪人と貶める彼女の告白を聞いてそう思う。

 

「ふざけるな‼︎掲げた理想を、願った理想を掲げた者が否定するな!掲げたなら掲げた者にはその理想を、例え誰に否定されその結末がどれだけ認めたくないものだとしても、決して折れることも曲がることもなく貫き通す義務と責任がある!」

 

“誰もが幸せであって欲しい、誰もが幸せで在れる平和であって欲しい”

 

皇族としてヒトを想う彼女が抱いたその「理想」は火星も地球も問わず人としてきっと善いモノなのだ、その「理想」はきっと好いモノなのだ。だから「理想(ユメ)」を見せた者には、その「理想」に魅せられた者に対する責任がある。それは最終的に成功しようが失敗しようが──無論成功するに越したことはないが──関係ない。

 

「だから例えその過程に何があろうとも理想を掲げた者はその理想を誰よりも信じて願い、最後まで貫き続けなきゃならない」

 

───全く、こんな発破をかけるのは俺の柄じゃないのだがな……

 

だがたまには悪くないと一帆は思う。皇族として育ったとは言え彼女はまだ15歳の小娘(子供)でしかないのだ。その「理想」に揺れて押し潰されそうになることもあるだろう、ならばその時支えてやるのが歳上の者の責務というものだ。

 

「迷ってもいい、後悔もして構わない。でも今回はただ失敗しただけなんだ、貴女が人である限りそれは間違いじゃない。だからきっと貴女が望んだ、その理想は決して()()()()()()()()()んだから……」

 

いつの間にか一帆はアセイラムの頭を撫でていた、ついよく(ソラ)にやるように身体が勝手に動いたらしい。

 

「悪い、妹によくやるものだからついな……」

「あっ……」

 

思わず「失礼かな?」と思いすぐに彼女の頭から手をどけると何故か彼女は少し俯いていた顔を上げ少し残念そうな声を出す。どうやら不快には思われていなかったらしい、不敬罪とかにならなくてまあ良かったのだろうか。

 

「ん」

「え?」

 

と、そんな事を一帆が考えているといつの間にかすぐ隣にシャーリーさんが来ていて頭を差し出していた。

 

───撫でろと?

 

流石に一帆も無意識的にでなく、意識的に自分から撫でに行くのは恥ずかしいのだが……どうやら彼女は彼の敵前逃亡を許してくれないらしい。

 

 

結局、伊奈帆(メシア)に「作戦会議をするから会議室に集まって」と連絡を受けるまでずっと一帆はシャーリーと、そして何故か親から餌をねだる雛鳥のように突き出されるアセイラムの頭を交互に撫で続けるハメになった。

 

 

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