ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs- 作:神倉棐
いつのまにか総評価が600を超えていた件について……、久しぶりに見て驚きましたがそれだけ読者の皆さんが楽しんで頂けているなら嬉しい限りです。文才の無い物語ではありますがこれからもどうぞ宜しくお願い致します。
本作品を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
自分にとって処女作となる本作品につきましては長らく未完の状態ではありましたが、突然ではありますが連載再開と現在構想中の作品の実験の為にも一度内容の修正と改善の為に一部改稿させて頂きました。
今後とも一層のご愛顧を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
4/3 「これからの事」
【地球連合軍「わだつみ」所属LCAC内廊下 11月20日 7時52分】
〈In the Corridor of the UFE "Wadatsumi" 's LCAC 0752hrs. Nov 20, 2014〉
「ねえ、貴方は
かけられた第一声は案の定、
「……
「そうよ、……何処ぞの
そこで一帆はライエを連れ、近くの元が倉庫か何かの空き部屋に入る。名は伏せてはいるといえ誰かに聞かれる可能性は出来る限り潰した方が正解だろう。
「一応確認しておくけど、その「お姫様」って言うのはセラムさんの事だよね?」
「ええ、黙っておくつもり?上に報告すべきじゃ無いの?」
先ほどまで無人の空きの部屋であり薄暗いとはいえ、窓や赤色灯などの光源はしっかりあるので顔色はともかく表情くらいはしっかり確認できる。故に一帆が確認できる今の彼女の顔は、表面上普段とはあまり変わり無いが雰囲気として薄ら感じ取れる内面はかなりマズイ。
「……するつもりだったが今は駄目だ。この
一帆は分かりきった事実を改めてライエに向けて言う。
“死んだはずの戦争の原因になったお姫様が目の前にいる”
言葉にすれば1行か2行にも満たない話だが、それが意味することは極めて重要かつ複雑で。もし少しでも情報の取り扱いや対応を間違えば、
───それに軍内部の
そして信用できないのは民間人だけでなく、艦長や教官達の一部例外を除いた他の軍人たちも当て嵌まる。衛星軌道を火星側に押さえられているとはいえ、原作の様子から見てもこのLCACや「わだつみ」が捕捉された回数が余りにも多過ぎるのだ。
───スパイ天国だなこりゃ……前世の
実際に一応「民間人」として火星側の
「……さっきは火星人に殺されかけたのに優しいのね。敵の心配?」
「真の敵は「火星人」でなく、この戦争を引き起こした「
それに危ないのはアセイラムと従者のシャーリーやエデルリッゾの3人だけでは無い。その暗殺に関わった実行部隊の内の工作員のひとり娘であり、唯一の生き残りであるライエもまた生存が発覚すれば命を狙われることになる。
───ああ……クソったれ、分かってちゃいたが事態は本当にろくでもない方向に転がってばっかりだ
しかし今、一帆ができる事はかなり少ない。一介の軍人ですらないただの高校生にできる事なんて雑用か本職の指示に大人しく従うか、それか慣れないメンタルカウンセリングの真似事でもするしかないくらいに、今の一帆には彼女たち4人を支える方法は無い。
───最優先はアセイラムさんの安全で、次に目の前のライエさんの監視、他にも家族や後輩たちのことも守らなきゃならないとやることやらなきゃならないことばっかりだ
ただでさえ厄介な状況の一帆だが、その中でも特にアセイラムの存在は地球・火星の両陣営のどんな派閥であっても極めて扱いづらい。例え手に入れたとしてもおいそれと切ることのできない、今の地球と火星を取り巻く
「それに、今このタイミングでLCACを下手に刺激させて沈めるわけにはいかない。だからライエさん、君が火星人のことを嫌っているのか、憎んでいるかは知っている。だけどお願いだから彼女の事を黙っておいてくれないか?お願いします」
一帆はライエに向かい真剣に目を合わせると深く頭を下げる。このLCACを、ひいては一帆だけでなくアセイラムやライエ自身の生命を守るためならば、
「っ、…………保障は、しないわ……危ないと思ったら私は…………火星人はみんな敵よ」
ただ唐突に目の前で一帆に頭を下げれたことに動揺したライエであったが、最終的には彼女はひとまず現段階においては黙っておいてくれる事のことを了解してくれたようだった。
「ありがとう、ライエさん」
「……ふん、貴方に礼を言われる筋合いは私には無いわ」
そう言ってライエは部屋から出て行く。一帆は体重を預ける様にして壁にもたれかかり、赤色灯の灯った味気ない天井を見上げた。
「……はぁ」
重い溜息が溢れる。なんとか一帆はライエの危ういところを刺激せずに多少沈静化させる事はできたがまだ油断はできない。それに一帆がいくら気を付けたって一帆の目や手の届かないところで問題が起きたならば、絶対に一帆はソレを阻止することも抑えることもできないのだから。
「次は伊奈帆たちとこれからの事について話さなきゃな……」
ひと息付いた一帆は、重く張り付いた背中を壁から剥がして部屋から出る。一帆がゆっくりと休息が取れるようになるのは、まだ先のようだった。
ライエと別れた後、一度甲板の自機の操縦席に置いてあった「忘れ物」を回収しに寄り道をした一帆が避難民に入室の許可された区間のひとつであるLCAC内部の簡易食堂に足を踏み入れると、そこの空気はとんでもなく暗くなっていた。
「……暗っ」
「カズ兄、こっちこっち。付いて来て」
「お、おお……分かった」
伊奈帆の後に続いてまるでお通夜状態である食堂を後にすると、一帆は艇内のさらに奥にあるとある部屋へと連れられて進む。
「……伊奈帆、ここ
そして一帆が伊奈帆に連れて来た部屋とは、このLCACに到着してすぐに案内の人に「近寄らないように」とあらかじめ釘を刺されていたLCACの機関制御室であった。
───よくここに入れたな。普通は鍵とか警報器とかが付いてるもんじゃないのか?
一帆は部屋の壁に張り巡らされ、そこら中にある配管や圧力メーターの束と制御装置が部屋の大半を占めるその部屋の扉にでかでかと書かれた「軍関係者以外立ち入り禁止」の文字と、所狭しと並べられた各種禁止のデカールの列の割にいとも簡単に民間人──それもただの学生に侵入されている現状を鑑みてそう思う。
「だからこそだよ、立ち入り禁止なら誰も入って来ないよね?」
「言葉遊びじゃないんだがなぁ……全く誰に似たのやら」
相変わらずの
「……カズ兄」
「なんだよ、その目は?」
「いや、分からないならいいよ。分からないなら……ね」
ただその姿を見た伊奈帆が何故だか(意味深)とでも付きそうな台詞とともに意味深げに頷く姿に、一帆は「全く、お兄さんはそんな風に育てた覚えはありませんことよ?」と若干お嬢様口調のオネエくさい台詞を本気で呟きそうになった。
「さてと、じゃあさっさとこれからについて大まかな事は決めておきましょうか」
「はい、お願いしますカズホさん、イナホさん」
「承りましたアセぃ……ラムさん、カズ兄」
「はいはい、じゃ、司会進行は俺がするよ」
こうして一帆、伊奈帆、アセイラム、シャルロット、エデルリッゾの5人はまず彼女たちの正体を隠すための口裏合わせてを始める。
「取り敢えずセラムさんとシャーリーさんの見た目は殆ど同じだから双子の姉妹としておいてどっちを姉にする?」
「シャルロットで」
「了解、じゃあエデルリッゾさんはどうしよう?」
「私は……」
「エデルリッゾは私たちの妹と言う事にしませんか?」
「歳の離れた妹設定ですね。ならエデルリッゾは口調を気を付けるようにしないと違和感があるな……間違っても人前で「姫様」とか言わないようにしないといけないけど、できるか?」
「わ、分かりました。やってみます」
「で、次は出身だけど……」
5人の口裏合わせては着々と進んでゆく。因みに出来た設定がこちら。
●姉妹関係
▶︎長女 シャルロット(17)
▶︎次女 セラム(15)
▶︎三女 エデルリッゾ(12)
●出身
フィンランド(北欧)
●渡航目的
火星使節団見学及び疎開
正直言い訳程度にしか使えない程度の設定だが、それでも口頭で身分を民間人と偽るだけならば十分なレベルだ。しかし軍主導の本格的な所持品検査を兼ねた身元確認となると話は別、LCACも揚陸艦も正式な避難船ではないので正確な身分確認は不可能でもその分厳重になる。よってその時には最悪アセイラムやシャーリー、エデルリッゾの3人には何処か他人には見つからない場所──例えば一帆や伊奈帆のカタフラクトの操縦席*1の中で隠れていてもらわねばならないだろう。
「口裏合わせてはこんなもので良いでしょう。次は本題のこれからの事です」
「はい」
これからがこの
「最終目標はこの馬鹿げた「戦争の終結」、それも地球と火星、その両方が納得した形が理想です。これに相違は無いよね?」
「はい」
一帆の言葉にアセイラムは頷く。その表情に、いつかのような翳りも迷いもカケラもなかった。
「ならば今我々が立てるべきはその過程、「何を識り、何を願い、何を思い、どう考えて、何を成すのか」です。……こんな時にあの聖なる杯があれば便利なんだけどなぁ……汚染されてなければだけど」
「聖なる、杯?」
「“過程を省略し結果だけを生む”とある戦争の優勝賞品の事ですよ。ま、所詮
「ああ、カズ兄とソラが前に読んでた小説だね。確か……なんて名前だっけ?」
そんな幻想
「こほん、話を戻しまして。これからすべき事ですが、まずはこのLCAC……ひいてはこの後合流予定の揚陸艦内部の軍人で信頼できる人物を探し始めましょう。今のところ候補なら軍ならユキさんに鞠戸大尉にマグバレッジ艦長が、他なら耶賀頼先生にソラや網文、カーム、起助に祭陽、変態紳士が候補だけどまだ足りない。それに情報は知る者が少なければ少ないほど漏洩はし難いから協力を仰ぐギリギリまではセラムさん関係は秘密にするべきです」
案外こうやって口に出してみると信用できる人間は多いようにも見えるが、実際に打ち明けたところで物事の決定に関われるような立場にある人間は軍人の艦長と教官たち含めて僅か3人しかおらず、しかも本当に協力を得られるかは未知数でもある。
「成る程……」
「
また事の性質上、現段階では協力者には「数より質」を優先したい都合で目下一帆たちが考えている協力者の最有力候補としては身内である「界塚ユキ」と唯一火星との戦争を知る軍人である「
「そ。あと、セラムさん達は絶対に1人にならないで下さい。避難民にも暗殺者の仲間がいると想定しておく必要があるし、周りの人間を巻き込みたくなければ正体だけは隠し切る必要があります」
「……分かりました。肝に命じておきます」
3人とも理解したらしくしかと頷くのを見て一帆はふと、制服の右ポケットに入っていた液晶型携帯端末の液晶画面を見る。表示された時刻は既に午前10時を少し回った辺りであり、先の戦闘からはおよそ3時間は経過していた。
「……続きは午後からまたここでしましょう。一先ずは休息です、朝からの騒動でアセイラムさんも伊奈帆も疲労が溜まっているでしょうから」
「はい、カズホさんとイナホさんも休んで下さい。最前線で1番大変だったのはおふたりですから」
「ではありがたく」
「少し休みます」
一帆と伊奈帆が頷いたのを見て、アセイラムは少し嬉しそうに微笑む。おそらく彼女たち自身が休んでいる時に協力者である一帆たちが休まずにいたら不公平だとでも思ったのだろう、優しい人である。
「伊奈帆、彼女達の護衛は頼む」
スッと伊奈帆の横に行くと、一帆はそのままさっき自機の操縦席から回収してきた「忘れ物」を伊奈帆の制服の内ポケットに差し込みつつ、小声でそう耳打ちする。
「分かった、でもコレは?」
伊奈帆の内ポケットに差し込まれたモノ、それは──
「学校の備品、ちょっとした
“
オーストリアのグロック社が製造・販売しているグロック・シリーズの内でもコンパクトタイプなグロック19を基にさらに小形化した全長160mm/重量560gの超コンパクトモデルの自動拳銃であり、一帆が先の反攻作戦前夜に軍事教官室の
「了解……、カズ兄は?」
いきなり目の前に「ぽんっ」と手渡されて困った伊奈帆だが、それでも万が一の最悪な事態に備えるならば無いよりかはマシであるのは事実であったし、一応軍事教練で実銃射撃訓練も受けたので銃器の取り扱いにもある程度の理解があったため渋々銃を受け取った。
「俺の分もある、それと俺は先にLCAC内の探索と
「……休まないの?」
「休むさ、終わったらな」
「……はぁ、またユキ姉とソラに言いつけるよ?」
「……適度な所で切り上げマス」
しかし伊奈帆も一帆にやられっぱなしではない。その後の会話で一帆がまたひとりで勝手にあれこれ暗躍しようとしているのを察知すると、一帆の明確な弱点であるユキやソラのお叱りを見せ札に出してあっさりと一帆から「無理はしない」との言質を勝ち取っていた。
───なんだか最近思うんだが伊奈帆は俺を扱うのがだんだん上手くなっている気がする
それに内心「なんだかなー」と思う一帆だが、よくよく考えてもみてみれば確かに一帆はユキとかソラを引き合いに出されたら頭が上がらないのは事実ではある。事実ではあるのだが、何故か最近の伊奈帆のその使い回しがより上手くなってる気がするのだ。
「……なら良いよ。じゃ先に出てくね」
「ああ、頼んだ。また後で」
これで本日何度目か一帆を残し、伊奈帆に連れられた3人が先に機関制御室を出て行く。その時、ほんの一瞬であるが一帆とシャーリーと目があう。その瞳には何かを堪えるかのようでそして何かを言いたげな色を映している、そんな気がした。