ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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6/3「鼠取り」

6/3「鼠取り」

 

【日本近海 太平洋洋上 11月23日 15時49分】

〈Exclusive Economic Zone of Japan 1549hrs. Nov 23, 2014〉

 

 

 

「黒幕……ですか」

 

見上げた空が、青色から西より伸ばされた朱色によって茜色に染まった頃。コンテナの影、それも数多のコンテナが山のように積み上げられた「わだつみ」の全通甲板の一角には幾つかの人影があった。

 

「ええ。衛星軌道や月面基地の貴族について、セラムさんやシャーリーさんたちにも何か心当たりはないだろうかと思って」

 

幾つもの人影──特にそこで話込んでいたのはつい先程合流したばかりの一帆・アセイラム・シャルロットの3人、伊奈帆とエデルリッゾはコンテナ周囲の警戒のため歩哨に立っていた。

そして一帆たち3人がここまでして話し込んでいる内容とは、裏でこの戦争の糸を引いているであろう黒幕についてであった。

 

「……申し訳ありません。確かに火星本星から地球に向かう際に月面とクルーテオ卿の揚陸城を経由・滞在させて頂いた間、幾人かの騎士や貴族の方々とご挨拶しましたが検討も……」

「そもそもひm……んんっ、セラムさんは皇族のそれも皇位継承権第一位とはいえ、陛下から未だ皇太子として正式に指名された訳ではないため政治や軍事についてはまだ……」

 

黒幕の目的が「戦争を起こす事」と「復讐」であるとするならば、これを成し得るために必要なだけの「権力」「資金」「影響力」といった様々な重要な要素を全て持つ者もそうそう居まい。故に相談できる中で数少ない火星の事情に詳しいだろう目の前の人物に「心当たりはないか」と問いかけた訳なのだが、聞かれた当の本人たち──アセイラムとシャルロットの両者はともに首を左右へと振る。

 

「なるほど、そうでしたか」

 

ただその理由も一帆には文句の付けようもない正当な理由故に、一帆はひとまず納得し思考の整理のためにも少し考え込む。

 

「では()()()()ではなく、逆に()()()()()()は誰ですか?」

 

少し考えた後、一帆は探索(犯人探し)の方向性を今度は「疑い」でなく「信頼」といった先程とは真逆の方向性からのアプローチに切り替える。

 

「信頼できる者、ですか?」

「ええ、そうです」

 

存外、古今東西こういった類の謀に関しては「目に見えた敵」よりも「信用も信頼も置けるはずの身内」が実行犯なり首謀者である場合が多い。それを歴史として教科書より学んだことがある一帆は寧ろ、叛逆を起こしそうなくらいにあからさまに怪しい人物よりも表面上絶対にしそうにない信頼する人物の方が余計に怪しく思えるのだ。

 

「……ザーツバルム伯とクルーテオ伯、ゴッドバルト伯の3人……でしょうか。ザーツバルム伯は陛下……お祖父様からの信用や信頼も厚く、月面を含む地球圏の貴族──軌道騎士たちのまとめ役と聞いています。クルーテオ伯はザーツバルム卿の古くからの友人とのことで軌道騎士の中ではNo.2の地位に、地球訪問に際し伯爵の揚陸城に短期とはいえ滞在させて頂いた時にも非常に良くして頂きましたし直接お会いした限り信用に足る人物であると思います。ゴッドバルト伯は……その……当代に代わって以降熱狂的な皇室支持者というべきかかなり忠義に厚い方でして、火星騎士の派閥内に皇室派の一派として「純血派」を独自に束ねておられる方で私が直接お会いした限り信用……できる……方だと思います」

 

そんな一帆の提言を受けて、少し考え込んだアセイラムはやや困惑しつつも彼女自身が実際に感じた上で知り得る限りの相手の情報を交えその3名の名前── ザーツバルム・クルーテオ・ゴッドバルト──を口に出す。

 

「そ、そうですか……」

 

ただ最後のひとり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の名前を聞いた一帆は二重の意味で言葉を詰まらせられる。

 

「んんっ……とりあえず地球に降下して来ているかは不明ですが、その3人──特にザーツバルム伯爵とクルーテオ伯爵の2人とその配下については特に警戒するようにしましょう」

 

とはいえ重要な事柄の確認はできた一帆たちはこの3人の内、誰かが現状最もこの件の黒幕に等しい疑惑の人物であることを確認し警戒を強めることを決める。

 

───だがあくまでこれは繋ぎ合わせた仮定の推論(原作知識)ありきの当てずっぽう、ザーツバルムとクルーテオの裏にさらに黒幕がいたとしても()()俺には分からない……

 

遥か昔(前世)の、それも一巻流し読みで得られた上で保持し続けられる情報など高が知れている。覚えていられたのは「2人の主人公」「ヒロインのお姫様」「暗殺事件」「黒幕らしき火星騎士」「団子虫の弱点」といった印象に残るような酷く断片的な情報のみ、物語としての結末も何もかも明確なことなど何も分からない一帆だったが真の意味で何もない訳ではない分この犯人探しにおいてはまだマシだった。

 

「はい、ただ……」

 

そんな一帆にしか分からない(転生者特有の)悩みを抱えて天を仰ぎそうになる一帆を余所に、アセイラムはまだ少し悩みつつも控え目に話し出す。

 

「ただ?」

「スレインは信用できる……と私は思います」

 

悩みを切り上げ聞き返した一帆にアセイラムは控え目にその名を口に出した。

 

「スレイン?」

 

───たしか原作主人公の片割れ(伊奈帆と対となる主人公)だったと思うが……駄目だ、詳しくは覚えてないな

 

生まれ変わって(転生して)この方十余年、「厄災(ヘブンズ・フォール)」以来ずっと共に家族として暮らしている伊奈帆についてはともかく、巡り合いもしなければ地球側視点の多い一巻ではヒロインのお姫様に比べてほぼチョイ役でしかなかったがために朧げにしか名前と顔を覚えていられなかったのも無理もない話である。

 

「スレイン──スレイン・トロイヤード。5年前の2009年、宮廷博士として招聘されながらもその直後の事故により亡くなられた故トロイヤード博士の遺児であり、2年前にクルーテオ伯爵に引き取られるまではセラムさんの教師兼世話係を務められていた方です」

 

そんな頭上に「(クエスチョンマーク)」を浮かべている一帆のためにシャルロットはアセイラムが挙げた人物の名前──スレイン・トロイヤードについて補足する。

 

「つまりセラムさんやシャルロットさんたちとは顔見知りの存在ということですか?」

「はい。あ、ですが私やシャーリーはともかくエデルリッゾは……」

「そうですね……エデルリッゾはスレインさんと入れ替わりで侍従隊に世話係として配属されましたし、私も2年前は従者見習いとして訓練を受けていましたので特別親しくもない会えば互いに挨拶を交わし合う顔見知り程度でしょうか。それに我々が地球に降下する前に伯爵の揚陸城に短期滞在させて頂いた時、彼も揚陸城に使用人として伯爵に仕えていました」

 

余り役立つ情報でもないがないよりはマシとも言い難い微妙な情報だが、それでも火星側はおおむね原作通りに事態が進行しているであろうことが確認できただけでもひとまず良しとすべきだろう。

 

「騎士でも兵でもないので前線に直接出てくるとは思えませんが信用できる者ではあると思います」

 

───いや、それは……多分新芦原で撃ち落としたあのスカイキャリア(コウモリ)で初戦から出てきてるはずなんだけどなぁ

 

追加でアセイラムがやけにフラグじみた太鼓判を押すのを原作知識より知り得ている火星側主人公の裏事情のせいで曖昧な表情で受け取らざるを得ない一帆は、内心そう考えつつも「Doll Drop(だるま落とし)」作戦で自ら撃ち落とすことになった彼を思う。

 

───多分撃墜した側の身で言うのもなんだが、生きていてくれないと困る。原作主人公云々じゃなく、今唯一残された()()()()()()()()()()()()()()上で比較的自由に動けて信用は置ける人材だからな

 

少なくとも彼がお姫様第一主義者(アセイラムスキー)なのは間違いなく、それでいて原作主人公の片割れ(あの伊奈帆の対抗馬)とされているのならばそれ相応に有能なはずである。すなわちお姫様が味方である現状において、味方に引き込めるならば引き込まない選択肢は一帆にはないということでもある。問題はどうやってその連絡(意思疎通)をするかだが……

 

───さてはて、どうするべきか

 

肝心の連絡手段の欠如に頭を悩ませる一帆、とはいえそれに悩まされると同時に何故かそのうち思い掛けない接触の機会に巡り合えそうな漠然とした予感があった。

 

「ところでシャーリーさん」

 

そんな黒幕探しの話も一段落した頃、何者かの飛行甲板上への侵入*1を検知した伊奈帆たち歩哨組からの連絡を受けて一度2組に分かれて解散した一帆は、同じく甲板前部へ退避中のシャルロットへと話し掛けた。

 

「はい、何でしょうか?」

 

一帆に話し掛けられたシャルロットは歩きつつもそう応える。

 

「……軍に志願した、と聞きました」

 

誰から、とは訊かなかった。

 

「……はい、先程適性検査通知を受け取り看護兵に配属されました」

 

互いに誰が話したのかは検討が付いていた、それ故にシャルロットはただ淡々と己の配属された配属先*2を告げる。暫しの間、彼女が告げたその言葉以降に彼らの間には甲板上に並ぶコンテナを吹き抜ける潮風以外、ただ互いに何を口にするべきかを悩む沈黙があった。

 

「……申し訳ありません」

 

そして、そんな沈黙を先に破ったのはシャルロットの方だった。

 

「……そんな」

「……いいえ、カズホさんやイナホさんに頼り切りでありながら何の相談もなく勝手なことをしたのは私です。姫さまの所為ではありません……私の、責任です」

 

彼女は全ての責任は自分にあると告解する。彼女のその行動の理由はどうあれ、それはある意味で一歩間違えれば一帆たち善意の共犯者の信用や献身を協力をほぼ一方的に享受している自分たちは信用も信頼もしていないと宣言するのと同義と言われてもしかたない行為でもあったのだ。

 

「───そう……かも、知れません」

「っ‼︎」

 

故に「そうかも知れない」と一帆が同意したことにシャルロットは俯いたまま息を呑むよう肩を震わせる。

 

「でも、ありがとうございます。共に戦ってくれて」

 

しかし、その次に続いた一帆の言葉は彼女の想定していたものとは異なっていた。

 

「それにシャーリーさんの判断も間違っている訳でもありません。確かにシャーリーさんたちの内、誰かしらが軍人になれば身元の保証にもなりますし揚陸艦内は酷い人手不足で次の戦闘を乗り越えられるかどうか分からないのも事実」

 

思わず俯いていた顔を上げたシャルロットに対し、一帆はそんな彼女の判断を尊重するように彼女の行動を追認する。

 

「ですが良いんですか?直接銃口を向け合う訳ではない看護兵(後方支援)とはいえ、火星と、祖国(同胞)と戦うことになりますが」

 

ただそんな彼女の判断と行動を追認する中で、一帆はどうしても彼女に問うておかねばならなかったこと──大義こそあれ火星を裏切る行為でもあることについて認識や覚悟をしているかを尋ねた。

 

「……良いんです。例え相手が同じ惑星の人間(祖国の同胞)でも、私が守るべきなのは姫様……セラムさんですから」

 

酷く真剣な顔で、それも彼女に真っ直ぐに向き直って尋ねた一帆にシャルロットは少し目を伏せつつ答える。「それに」と彼女は続けた。

 

「カズホさんたちのお役に立ちたい。命懸けで姫様を守って下さったカズホさんのお役に、私を救って下さった貴方のためにも何かお役に立ちたいのです」

「シャーリーさん……」

 

シャルロットは伏せていた目を今度ははっきりと一帆の瞳を真っ直ぐに見つめそう言う。そこに込められた強い信念と覚悟に、一帆はそれ以上何も言葉にすることができなかった。

 

「しっ、静かに。誰かが……艦首に誰か居ます」

 

とその時、ふと一帆は自分たちの歩く方向の先──艦首方向より潮風に乗って誰かしらの話し声を耳にする。思わず引き寄せるようにして同じコンテナの物陰に身を寄せて隠した一帆はシャルロットとその話し声の主人が誰なのかを特定するべく耳を澄ませた。

 

「……誰でしょうか?」

「……この声は、鞠戸大尉とマグバレッジ艦長?」

 

耳を澄ませ潮風に流され聞こえた会話から判別された艦橋以外では酷く珍しい組み合わせに、一帆とシャルロットは思わず物陰で顔を見合わさざるを得なかった。

 

 

〈*〉

 

 

【種子島近海 太平洋洋上 11月23日 16時4分】

〈Sea near Tanegashima 1604hrs. Nov 23, 2014〉

 

 

一帆とシャルロットが飛行甲板前部の艦首右舷側へと辿り着く少し前、一帆たち以外は無人であったその場へと出て来たのはとある二人組の男性。

 

「お酒にはまだまだ日が高いですよ、大尉」

 

二人組の片割れ、少しばかり高価げな酒瓶片手に甲板を歩く男──鞠戸大尉とそれを追って来たのであろう白衣の男──耶賀頼先生は大尉に向かってそう言った。

 

「いや。これは俺の分じゃない」

 

ただ、そう言われた側の鞠戸大尉は酒瓶を掲げてそう言うと、その瓶の首を掴んだまま投擲の構えを取り目の前に広がった水面の彼方──種子島に向かって放り投げる。

 

「こいつはもう飲めない奴の、奴らの物だ」

「「種子島の戦い」ですか?」

 

大きく、そして綺麗な放物線を描いて夕陽に染まった水面に消えたそれに甲板に出てからは何となくではあったがそれが何のために持ち出された物かを理解していた耶賀頼先生は呟くように鞠戸大尉にそう問うた。

 

「ああ、今じゃ()()()()()()にされた戦闘だが……まあな。抹消されて軍の交戦記録には残っちゃいないが、俺の記憶の中にはしっかりと残ってる」

 

鞠戸大尉はその手に唯一遺った親友の遺品、認識票(ドッグタグ)の付いたチェーンを手に既に南の空に浮かんだ「あの日」砕けた月の残骸を見上げた。

 

「ヒューレイム少尉……のことですか」

「……ああ、二階級特進で大尉だがな。それにジョンだけじゃない、西やジョージ、クリスに池田、梅山曹長やアッフォード少尉もだ。……みんな、みんな良い奴ばかりが先にいっちまう」

 

親友だけでなく戦友たちの死を忘れた日など、ただ一度もない。しかしそんな彼らの死もその死の原因である交戦記録が抹消されたことで遺族でさえ詳細なその最期が知らされることはなく、その爆心地(グラウンド・ゼロ)たる種子島は今や「厄災(ヘブンズ・フォール)」により落着した月の破片が生み出した島の40%を抉る種子島隕石孔(タネガシマ・クレーター)*3で地形が変わるほどの甚大な被害を被った地としてひっそりとした戦没者の慰霊碑や小規模な地球連合軍の基地がある他には上陸禁止令によって今も民間人は住んでいない。

 

「……んで、まあこっちが俺の分だ。精進落としだ、折角だし先生もやるか?」

「……頂きましょう。戦に没した英霊の供養もまた、今を生きる我々には必要なことです」

 

しばしの間、ただ茫然と2人は夕陽に染まった種子島を眺める。かつての「厄災」が残した爪痕、彼──鞠戸大尉にとっては全ての始まりともいえる爆心地に十数年ぶりとはいえ再び足を運び上陸せねばならない彼の心情とは如何ばかりのものか。心理学者でもないただの主治医であり、何処まで行っても()()()()()()()()耶賀頼先生には察することはできてもそれを分かち合うことはできない。故に行動に付き合うことしかできないのだが……まんまと丸め込まれた気分になるのは何故だろう。

 

「私にも貰えますか?」

 

しれっと懐から取り出したいつもの銀色のスキットルを鞠戸大尉が誘いに乗った耶賀頼先生に手渡そうとしたその時、そんな彼らの背後から何故此処に居るのかが分からない今この場に居る訳のないはずの人物の声が掛けられる。

 

「マグバレッジ艦長……」

 

揃って振り向いた先に居たのはこの艦の最高責任者、本来ならば艦橋内に居るはずのダルザナ・マグバレッジ海軍大佐だった。そんな予想だにしていなかった人物の登場に半ば呆けている鞠戸大尉の手から半ば掠め取るようにスキットルを受け取り、そして彼女はそのまま甲板の縁まで歩き彼らに背を向けて立つ。

 

「軍上層部によって抹消された唯一の地球上での対火星製(アルドノア搭載型)カタフラクトとの交戦記録──「種子島レポート」あるいはその戦闘でのただ1人の生存者にしてその報告者の名を取った「鞠戸レポート」……その実在は陸軍だけでなく海軍でも噂だけは耳にしていました」

 

スキットルの蓋を緩めつつ、マグバレッジ艦長は誰に促されることもなく「種子島レポート」について話し出す。

 

「でも私はそれを単なるデマ、与太話やデタラメだとは思っていなかった」

 

ただそんな唐突に始まった彼女の独白じみた話に、鞠戸大尉と耶賀頼先生の2人は黙ってその内容に聞き入った。

 

「軍に入って以降私はあらゆる手段、あらゆる伝手を辿ってレポートを手に入れるべく奔走しました。手に入れられたのは最近です、それも得られた物は大半が黒で塗り潰されたコピーのコピー……それでも私は全てを読みました。この目で、直接」

「……」

 

封の開けられたスキットルを手にその筒口を、更にその奥で揺れる琥珀の液面に視線を落としつつ彼女はついに「種子島レポート」を手に入れたこと、そしてそれを読んだことを告げる。ただそれは軍上層部内でのみ伝達・共有される上で()()()()()()()()()()()()が添削された原本の複製品だったらしい。*4

 

「正直に言いましょう。読んだ当初、私は貴方の気が狂ったのかそれとも出来の悪いSF小説でも読んでいるのかと思いました」

 

しかしそんな虫食い状態なレポートを何度も、それも全て読んだ上で彼女がまず述べたのはそんな感想だった。

 

「ですがただ荒唐無稽なだけでレポートが抹消されるはずがない、レポートが正式に受理された時点で書かれた事は事実のはず。それが公式に否定されるのでなく、あえて人知れず抹消されたのならそれは尚更の事」

 

ただしあくまで感想は感想、その内容がどれほど荒唐無稽で常識外れな内容であれソレを受け取った軍上層部がとったその後の行動──表向き存在を抹消し一部情報を黒塗りで塗り潰してなお厳重に保存・共有されている時点でそこに書かれた代物は事実であることの証明でもある。

と、そこまで言ってマグバレッジ艦長は軽くスキットルを傾けその中身の酒を呷る。

 

「……実はあの「厄災」の(ソラが砕けた)日、「種子島の戦い」に私の兄も参加していたんです」

 

酒を呷ることで一息ついた彼女はしばしの躊躇いの後、「種子島レポート」の品評から「種子島の戦い」自体へと唐突に話題を切り替えた。

 

「……」

 

そんな唐突な話題の転換に、最初に彼女に乱入されて以降ただ黙してその話に耳を傾け続けていた鞠戸大尉と耶賀頼先生はそこに含まれた漠然としたナニカを感じ取る。

そしてその感覚──あるいは予感は的中した。

 

「戦死……いえ、正確には味方に殺されたんです。それも……よりによって貴方に」

「俺……まさか」

 

《種子島》

《厄災》

《戦闘》

《戦死》

 

背を向けつつもさらに「己に殺された」と告げるマグバレッジ艦長の言葉に、今まで彼女が口にしたそれらの単語を繋ぎ合わせ連想した……連想できてしまったその最悪の事実に鞠戸大尉は言葉を失った。

 

「ええ──マグバレッジは私が引き取られた里親の、養父の姓名(ファミリーネーム)です。───旧姓は「ヒュームレイ」、貴方の親友ジョン・ヒュームレイは私の兄です」

 

振り返ったマグバレッジ艦長は鞠戸大尉を見据えつつ、どちらにとっても残酷なその事実を淡々と口にする。話の中心であるマグバレッジ艦長と鞠戸大尉に加え、側で聞いていた耶賀頼先生だけでなく物陰で聞き耳を立てていた一帆やシャルロットを含めてその時その甲板にいた誰もが何も言えなくなったその時───

 

 

 

 

()()()()()()()()()()

*1
といっても飛行甲板は原則立ち入り禁止ではないので来る者がいても不思議ではないが

*2
ちなみにソラと同じである

*3
種子島隕石孔(タネガシマ・クレーター)

種子島の海岸線に落着した数個の月の破片により誕生した巨大衝突クレーター。落着した隕石の衝撃によってそこに存在した民家だけでなく軍事基地や航空宇宙センターは全て崩壊、また島全体のおよそ40%を抉るようにして巨大衝突クレーター(新たな湾)を形成したことで文字通り島の地形が変わるほどの甚大な被害を被ったことから民間人の居住の再開にはかなり危険と判断されている。これにより今なお種子島全域は厳重な関係者以外立ち入り禁止地域に指定されており、現地には被災者や戦没者の慰霊碑や再建された小規模な地球連合軍の基地がある以外には今も民間人は住んでいない。

*4
ちなみにそのレポートの原本(オリジナル)18日()に一帆が大尉に直接開示されて以降、再度大尉自身の机の引き出しに仕舞われた後は同日発生した一連の混乱と戦闘(極東事変と新芦原市防衛戦)によって()()()()()()()()()となっている。

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