ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs- 作:神倉棐
6/5「邂逅した3人」
【種子島 中種子湾 11月23日 16時21分】
〈Tanegashima Taluk Nakatane 1621hrs. Nov 23, 2014〉
時はしばし遡る。
上空より突如として襲来した敵機による急降下爆撃によって「わだつみ」が操艦不能となった頃、一帆は個々の持ち場*1へと向かうこととなるシャルロットと別れると既に着替え始めていた伊奈帆たちを後追いする形で
「整備長!桜木整備長!
艦の座礁と急な全機発進命令によって混沌の坩堝と化した、何時ぞやの時と同様に駆け込んだ格納庫を人と機体の間を縫う様にして走り
「バカ言うんじゃないよ、
一帆の声に振り返った彼女は苦労や焦り、そして少しばかり蓄積しているであろう疲労などを滲ませつつもやや呆れた顔で正論を返す。先の戦闘──「
「しかし参ったな……まさか先に
そして厄介なことに一帆の機体の代替機として隣に駐機されていたその機体──「YKG-X07 ヴァーゼラルド」は同じく乗機の整備が完了していなかったらしい伊奈帆の手によって一足先に起動、丁度死角となるスレイプニール・カスタムの陰で話していた一帆と整備長を他所にその目の前でまんまと強奪?されてしまっていた。
「ともかく!小僧は量産機の整備が整うまで大人しくしてな!今若いのが1機、急ピッチで万全に動かせるように整備してる。整備出来次第渡してやるから大人しくここで待ってるか、それか猫の手でも借りたい状況だ……何か手伝いな!」
「……分かりました。整備長、指示を」
とはいえ、いくら
《第三波来ます!》
《次、フリージアンが狙われるぞ‼︎援護急げ!》
《やられたアルダニティの内、大破した機体からの
機体もなく手持ちぶさた気な一帆が整備長を手伝う内にも戦況は刻々と変化し続ける。既にアルダニティは壊滅、このままではフリージアンもまたそれに続くであろうことは火を見るよりも明らかである。
───焦ったいな……、やはりマスタング以外は練度が足りない。いや、練度云々より士気の低さが原因か
艦内に鳴り響く通信や船体を揺らす振動より大体の戦況を把握しつつ、未だにいつまで経っても出撃準備の整わない一帆に焦りは募る。ただそんな焦りの中でも、一帆はアルダニティとフリージアンが何故こうもあっさりと壊滅状態が陥ったのか──隊全体の士気統制の低さ──を何処か冷静に分析していた。
───アルダニティもフリージアンも一度既に壊滅か解体の憂き目を受けた部隊、隊員も徴兵員な上に肝心な部隊長が隊長経験が碌にないそこそこベテランなだけの一般兵ときた
全体的に練度不足なのもそうだが、それ以上に拍車を掛けるのが隊全体の士気統制の低さだ。何せ
───しかもそれを鼓舞してカバーすべき隊長が経験不足で新兵をカバーできていないからな……まあ部隊自体が昨日今日でできたばかりの即席で理解し合えは些か酷かもしれないが
さらに言えば、一度碌な戦果もなく全滅なり消滅した部隊名を継承するのは験を担ぐにしても縁起が悪いのもある。
その点、マスタングはまだ良い方だ。部隊長が新人ではあるが教官経験があり信用信頼のおける
《追跡目標消失‼︎》
《対空レーダー損傷!》
《何ですって⁉︎》
整備の傍らに考察を続ける一帆、しかし一帆が整備を手伝い始めて既に5分以上が過ぎているというのに一向に終わらない量産機の整備状況に焦りも頂点に達しそうになったその時、振動と共に格納庫内のスピーカーから聞こえてきたその通信は
「……くそっ、最悪だ」
「コイツいけるか?」
「⁈鞠戸大尉⁉︎いえっ、そいつはまだ調整中で碌に動かせ……」
なんとかしなければ、騒然とした格納庫内でそう考えていた一帆の耳に
「でも動くんだろ?なら1発でも撃てればそれで良い。ヘビーバレルで……「あ、鞠戸大尉‼︎」」
「八朔か?何故今ここに……」
一帆の耳に届いたその声の主──鞠戸大尉は
「丁度良かった!手伝って下さい!」
「は?手伝い?」
てっきり既に出撃しているか、それか出撃待機状態にあると思っていたらしい鞠戸大尉が突然現れ声を掛けてきた一帆に反応し一瞬乗り込むのを躊躇した、その瞬間に当の一帆の口から飛び出た「手伝って」の言葉に大尉は思わず呆けてしまった。
「ええ、折角なんで複座機の利点を有効活用しようと思いまして」
動きを止めた鞠戸大尉に対し、一帆は少しだけニヤリと笑う。ちなみに余談だが一帆にサバイバル技能*4や
「戦術データリンク経由で「わだつみ」に付いた砲塔の射撃管制システムをオーバーライドするの手伝って下さい」
そして、時は
【日本 種子島海軍基地 中種子湾防波堤 11月23日 16時30分】
〈Japan Naval Station Tanegashima Taluk Nakatane breakwater 1630hrs. Nov 23, 2014〉
時は戻り、
「砲弾全弾命中。目標α-4、α-6の撃墜を確認だ」
「わだつみ」の艦載砲である54口径127mm単装速射砲が突如沈黙を破り、その砲撃によって敵誘導兵器を撃墜したのは
「了解、では……マスタングおよび残存各機に告ぐ。これより戦術データリンクを更新、本機ならびに残存カタフラクト各機と無事な
鞠戸大尉の戦果確認の報告を
《小僧!たった今、砲塔制御の
カタフラクトで砲塔を遠隔操作する上で必要な調整を丁度済ませた頃、機体外部からスピーカー越しに聞こえた整備長の声に一帆は数値を入力していたキーボードから顔を上げる。
「感謝します、整備長。思い付きの悪巧みでしたが整備長が居てくれて助かりました」
《全くさね。こんな越権行為、文字通り船が傾く緊急事態でもなけりゃC.I.Cの連中も受け入れなかったはずさ》
率直に整備長に向け感謝を口にする一帆だが、実際一帆が整備長に頭が上がらないのは事実。先日のTKG-6B/Sの即日修理と改造に加え、現在進行形では艦載砲の火器管制制御のオーバーライドといい思い付きの
───全く、整備長に足を向けては眠れないな
もう不要となったキーボードなどのコンソール類をコックピット上部の解放されたハッチから新人の整備兵に
「おいおい、八朔。俺には礼はナシか?」
そんな
「無論、大尉もですよ。鞠戸大尉。砲塔の火器管制システムのオーバーライド、大半が大尉の
「よし……
準備完了。先程は必要に迫られたが故に未調整のままでも転生特典ゴリ押しでの艦載砲の両面狙撃を敢行せざるを得なかったが、調整さえ済めば
「鞠戸大尉。右舷側の砲塔操作、お願いします」
「……了解した、まさか……授業以外で
一帆は後席の鞠戸大尉に対し右舷側、すなわち種子島側の砲塔の操作を一任する。それを受けて了解の意と共に、何故か「2人乗り」に関して思うところのあるらしい鞠戸大尉はそうぼやいていた。
「たまには良いじゃないですか?いつもユキさん……界塚准尉に任せっぱなしなんですから、それに大尉は元戦車兵なだけあって射撃成績がかなり良いのは知っていますよ」
ただそれも「だから任せます」と言葉にせずに告げられた一帆からの絶対の信頼に、大尉は何処でそんなこと知ったのか──おおよそ
「ああ……分かった、やってやる、やってやるよ」
しかしそこまで期待と信頼を向けられて腐っていられる程、彼──
「了解、では次接近するα-2、α-3、α-5を迎撃します。伊奈帆、α-5任せられるか?」
迷いながらも覚悟を決めた鞠戸大尉、それを前席で肌で感じ取った一帆は一瞬満足げに口元を歪めるもすぐさま意識を戦争へと切り替える。次の迎撃目標はα-2・α-3・α-5の3機、内2機を艦載砲の一帆と鞠戸大尉で受け持つとして残りの1機を唯一
《勿論、そのための戦術データリンクと10式/SAM-R 75mm狙撃銃だからね。韻子、スポッターを頼む》
《スポッター?》
《いくらデータリンク元の
《オーケー、任せて》
一帆の指示に当然とばかりに
良いコンビである。
「ユキさんと起助君は2人の
続いて
《了解》
《り、了解‼︎》
またその一方で損傷が酷く五体満足ではないアルダニティとフリージアンの生存者に関しては、機体の損傷だけでなく弾薬消費も激しく継戦能力が乏しい以上に隊が壊滅し個人としても碌な活躍はできないであろう彼らはこれ以上の無駄死にを防ぐべく一度艦内に撤収させる。
《分かった、指示に従おう》
《済まない》
それはある種の戦力外通告だったが、アルダニティとフリージアンの残存機のパイロットたちは大人しく一帆の指示に従った。
《それにしてもなんて硬さだ……》
一帆の仕切り直しによって防空網が再構築され敵誘導兵器の有効的な迎撃が開始しておよそ5分、最初に砲撃によって撃墜したと思われていたα-4とα-6がいつの間にか攻撃に復帰し6つに戻った個々の脅威が多方面から重なり合う波を何とか更に2度程凌いだ頃。太平洋側から襲い来る敵誘導兵器を何とかHE弾の着弾の爆発によって命中コースから逸らした伊奈帆が思わずこぼしたその
「破壊はともかく弾道を逸らすだけなら127mm HE弾……いや、上手く当てれば75mm HE弾数発でぎりぎりか。どんな装甲してるんだアレ……」
戦況は「最悪」から仕切り直しによって幾分かはマシとはなったが振り出しに戻るとはまではいかず「悪い」まま、むしろ逸らす以外に敵誘導兵器の破壊手段がない以上ジリ貧であることには変わらず状況が好転したとは言い難い。しかし
「済まん!多少逸らせたが右舷側で
「マグバレッジ艦長!」
しかし対応は可能とはいえ一帆たちが成し遂げているのはある意味、針の穴を
《ええ、右舷中央部ならびに艦尾区画にいる全ての要員は退避!隔壁閉鎖!衝撃に備えて‼︎》
被弾に備えマグバレッジ艦長が号令を発して数秒後、誘導兵器は海面よりやや上の吃水線から数mの位置に斜めに着弾。いくら物理装甲の薄い現代艦艇の側面装甲とはいえ意図も容易く装甲板を貫徹すると、その拳のような質量物体は重要防御区画を貫通し突入口だけに飽き足らず艦底部にまで破口を作る。
《被弾!右舷第24ブロックに被弾!重要防御区画貫通、隣接する23・25ブロックを含め浸水発生っス!》
座礁しながらも再び上下に大きく揺れる船体、艦自体が悲鳴を上げているかのような劈くような金属の破壊音と共に本日何度目かの
《くっ……機関室付近に……当該ブロックの避難を最優先に、急いで下さい》
《了解!でも隔壁閉鎖が……》
度重なる被弾による浸水と火災、火災自体は小規模かつすぐさま消し止められる程度のものだが浸水は酷く艦の傾斜も酷くなる一方。その上で先程の被弾位置もかろうじて機関室に直撃こそしなかったが、新たに発生した破口によってその周辺のブロックが現在進行形で同時に浸水水没の真っ只中であり隔壁閉鎖や強制排水は
《……構いません。この戦いを乗り越えようと越えられなかろうと、いずれにせよ
故にマグバレッジ艦長は艦長であるが故に、迅速かつ最善の決断を下さねばならなかった。
《非戦闘員ならびに負傷兵を優先し退艦!
彼女の決断は「わだつみ」の放棄、軍人や戦闘員で戦えるだけ戦い敵の目を惹きつつ負傷兵や避難民らの非戦闘員を最優先で種子島基地内に避難させカタフラクト隊が全滅した際は艦自体を爆破し自沈させた後に降伏というもの。
《上空の敵誘導兵器急降下!側面からも散開した3機接近!α-1と最初に撃墜したα-4、α-6です!》
黒煙を噴き上げ、右舷側だけでなく艦尾の浸水によって艦尾側へも傾斜し始めた「わだつみ」を見て「そろそろトドメを」とでも考えたのか、今まで高みの見物を決め込んでいた種子島の敵機は明らかに今まで以上の殺気を込めた攻撃──「必殺」の準備に出る。
《先程までものと比べてもかなり遠距離から突入です。おそらく助走により加速し速度を溜めている模様!内、α-4 の1発がこの艦橋直撃コース!来ます!》
襲い来る誘導兵器は3発、超長距離の間合いをとっての突撃を逸らすのは今まで以上に至難の業。その上これまで続けた精密射撃の数々で一帆や鞠戸大尉だけでなく伊奈帆たちも既に慰労困憊、艦自体も既に満身創痍でありより精密な射撃は望めない。
───でもやらなきゃならない。できなきゃ艦橋は粉微塵になるし艦も保たない。誰も……アセイラムさんたちも助からない
それだけは駄目だ、駄目なのだ。戦争を終わらせられる最後の希望を摘み取らせる訳にはいかない。そして何よりそれでは伊奈帆も、ユキも、ソラも、アセイラムやシャルロット、エデルリッゾなどの身内や後輩、非戦闘員を守ることができないのだ。
「砲身冷却が間に合わないか……伊奈帆!1発だけ撃つ、合わせてくれ!」
《了解》
しかし肝心の一帆の担当する砲塔の砲身は度重なる射撃に酷く熱を持ち冷却作業の真っ最中、熱が下がり切らない中でこれ以上の発砲は命中精度低下だけでなく砲身破裂の危険性もありどれだけ妥協しても撃てて1発のみ。
《命中‼︎》
《次、α-1、左7ミル!》
それでも残りを伊奈帆に任せ、かろうじて放った砲弾は連続して放たれた伊奈帆の弾丸と共に艦橋を狙っていたα-4 に命中しその進路を強制変更。拳は「わだつみ」目前で海中へと水没し、艦底を潜ると防波堤の基礎となる地盤を粉砕する。
「そちらはコッチで何とかする!鞠戸大尉!」
「ああ!今度は外さねぇよ!」
続いてα-4とは反対に種子島側から接近して来たα-1を鞠戸大尉が迎撃、今度はただの1発さえ外すことなく命中させα-1は湾内に着弾。着弾したα-1は海底の土砂を巻き上げつつ勢いのままに直進し「わだつみ」が座礁した防波堤を破壊し停止する。
《ラスト!直上!》
そして最後、「わだつみ」直上より接近するα-6に向け伊奈帆はその銃口を構える。まだ幾分か余裕を持って迎撃に発砲された弾丸は見事、α-6を捉えたかに見えた──
──が、しかし命中するはずの弾丸はα-6の僅か数mの横を掠めるようにしてソラへと消えた。
《照準が、外れた?》
「いや、違う。カタフラクトの射撃支援システム、直上への精密射撃には確かプログラムが対応していない!手動で狙え!」
カタフラクトの運用上、仕様として本来想定されていない機体直上への精密射撃という事態にエラーを起こしたプログラムはここに来て伊奈帆の狙撃の足を大きく引っ張る形となってしまったのだ。
「くっ、冷却どころかこっちからじゃ仰角の都合上撃てない!大尉!」
「やってる!クソっ、速過ぎるぞ!」
すぐに伊奈帆もシステムを切り手動に切り替え狙撃を継続するが、一帆のように日頃からシステムに頼らない射撃に慣れていないためそう簡単に当たらない。それを受けて大尉もカバーに入るものの、斜め横からの狙撃では命中させづらく最悪なことに向こうは落下の重力により加速している。よって側面から突っ込んで来た物に対しより遠い距離かつ連続命中で迎撃しなくては先程の鞠戸大尉同様に進路を逸らし切れない。
撃つ
撃つ
撃つ
たった2門とはいえ決死の努力で狙い撃たれた弾幕は、しかしとて命中することもなくその傍を逸れてゆく。
《っ‼︎……弾切れ!》
そしてついに訪れた伊奈帆の狙撃銃の弾切れ、リロードは間に合わない。
───クソッ⁉︎こんな所でっ……
諦めず砲撃を続ける大尉に豆鉄砲とはいえ自動小銃を発砲するユキや起助に韻子と間に合わずともリロードを敢行する伊奈帆、しかし現実は非情にも既に迎撃可能限界を超えている。しかしその場に置いて頭を垂れ、目を瞑る者は誰1人としていない。誰もがソラを見上げながらその結末に抗い、受け入れながらも生きるために、希望を信じ奇跡を自分で掴むためもがく。
《……あ、あれ?生きてる?》
そんな中で唐突に起こった
《あれは……》
見上げたソラ、「わだつみ」への命中を阻止されたα-6が巻き上げた海水と爆炎を引き裂き白線を引きながら艦直上をフライパスしたその機影。
───騎兵隊の登場……といっていいのか
そこには戦場の乱入者──スカイキャリアが飛んでいた。