ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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10月に入ってなお、更新が遅れてしまい申し訳ございません。
今後もちょくちょく更新が遅れてしまうかと思いますが、今後とも一層のご愛顧を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。


EPISODE.10/【嵐になるまで -Before the War-】
10/1「破綻の前触れ」


 

 

【東シベリア永久凍土上空 11月24日 18時17分】

〈Over the permafrost of East Siberia 1811hrs. Nov 24, 2014〉

 

 

北太平洋を北上しベーリング海峡を突破、北極海を経由し日没には東シベリアの永久凍土地帯へと入ったデューカリオン。青ヶ島を出航してからは比較的安全かつ順調に航路を辿っていたデューカリオンを襲ったソレは、まさに唐突であった。

 

「ッ⁈異常事態発生‼︎アルドノアドライブ出力低下!」

「半重力装置稼働率が急激に低下、高度維持できません!」

 

何の前触れもなく訪れたソレ──本艦の主機たる「アルドノアドライブ(無限の動力機関)」の()()()()に艦橋は騒然となっていた。

 

「降下角度、更に増加中!このままでは約30秒後に地表に激突します!」

「総員対衝撃(ショック)体勢!衝撃に備えて‼︎」

 

懸命に操縦桿を引きながら体勢を立て直そうとする操縦席(ニーナ・クライン)となんとか軟着陸を目指し試行錯誤する機関士席(筧至綱)からあげられる悲鳴じみた報告に、咄嗟に艦内警報の発令と衝撃に備えるよう指示を出すマグバレッジ艦長。主機停止によって急速に効果を失いつつはあるが、それでもかろうじて残っていた慣性制御装置の効果により艦内の人間に掛かる大半のマイナスGの負荷は軽減され、遂にその船底を眼下に広がる永久凍土帯へと押し付けるようにして長大な落着痕を残しつつデューカリオンは停船した。

 

「一体何が……?」

「……状況報告」

 

やや右舷側に傾きつつ停船したデューカリオン、その艦橋では墜落の衝撃からなんとか復帰したマグバレッジ艦長が被害報告を求める。

 

「ダメージコントロール班より報告、着底時の衝撃と滑走により主に船底部に擦過や亀裂等の損傷はあるものの船体全体の損傷は軽微。ただ各部署の被害については現在確認中です」

「墜落した場所が永久凍土の雪原地帯かつ低空飛行だったことが幸いしました。かなり低出力ではありましたが、残っていた重力場で砕かれた雪原が断衝材になったみたいです」

 

しばらくしてようやく返ってきた艦内各部署からの報告をまとめつつ、それらの報告をニーナや筧軍曹から受けた艦長と不見咲副長は幾つか目線だけで意思の疎通を行うと艦長は副長と手分けして艦内外の指揮を始めた。

 

「対空警戒を厳に、足りない分は艦載機を発進させ警戒にあたらせるように」

 

第一に、早期警戒及び迎撃のための艦載機部隊の出撃。相変わらず搭載機の大半は即席の低練度部隊かつ場当たり的ではあるが「無いよりはマシ」なのは言うまでもない。

 

「ダメコン班は被害のあった箇所を即刻修理。機関室──桜木軍曹、状況は?」

 

第二に、アルドノアドライブが緊急停止した原因の究明。本艦の主機であるアルドノアドライブは、「重力制御」という地球上の現行技術では全くの理解不能なトンデモ科学(テクノロジー)の塊、そしてそれを用いて航行を行う本艦においては何よりの生命線である。

 

《副機の熱核反応炉は異常なし、姿勢制御用の反重力装置ならびに推進器にも異常なしさ。つまり、原因は本艦の主機──アルドノアドライブの停止にある》

「アルドノアドライブの停止、まさか……」

 

機関室からの報告にマグバレッジ艦長は少し考え込むと、そこから導き出され思い至った答えに今まで座っていた艦長席から立ち上がる。

 

「艦長?」

「不見咲くん、艦の指揮は頼みます」

「え?は?艦長はどちらに?」

 

唐突に立ち上がった艦長に驚き困惑しつつ振り向いた副長の問いに、艦長は凛とした表情で艦橋の出入り口たる水密扉の前に立ち答えた。

 

「アセイラム姫殿下の下へ、嫌な予感がします。耶賀頼軍医(メディック)にもすぐに動けるよう待機するよう伝えて下さい」

 

 

 

〈*〉

 

 

【東シベリア永久凍土上空 デューカリオン艦内士官用シャワールーム 11月24日 18時11分】

〈Over the permafrost of East Siberia Shower room in AAA/BBY-001 Deucalion 1811hrs. Nov 24, 2014〉

 

 

遡ること、アルドノアドライブ緊急停止の6分前。

 

「もっと敵視されるのではと心配しましたが杞憂でした」

「はい、地球の方々が親切で助かりました」

「姫様は敵でなくむしろ被害者だと理解したのでしょう」

 

彼女たちのいるシャワールームは士官用と付くだけあって艦内でも上層、普段避難民たちに解放されている区間の下層や中層にある艦内食堂から物理的にも()()()()()遠く、士官クラスの軍人など一部の例外(敢えて遠い場所に足を伸ばす物好き)でもない限り普段人気は無い。故に、()()()()()()()()かどうか確認することもなくやって来た彼女たちは湯浴みの準備と、それと他人(異星人)からは見聞き(言動を監視)されていないとの思い込み(油断)からそんな駄弁を交わしていた。

 

「元を正せば同じ母なる惑星(ほし)、地球に生まれ落ちた人類同士。生まれ育った場所は違えど、分かり合えるということです。それを私は実感しました」

 

芦原高校の制服を脱ぎつつ、下着姿となったアセイラムは制服をエデルリッゾに渡しながら少々不躾な発言をした彼女を嗜める。

 

「中には無礼な変わり者もいましたが……あっ、申し訳ありません。新しいお召し物が……!すぐ取って参ります!」

「あっ、エデルリッゾ。着替えはシャーリーが……行ってしまいましたか」

 

とはいえいくら目上の存在であるアセイラムが言ったところで、まだマシな部類といえど長年凝り固まった思想*1がそう簡単に変わるはずもなく。アセイラムの言葉虚しく着替えの用意をうっかり忘れていたと勘違いしたエデルリッゾは、彼女の制止を聞かずに脱衣所を飛び出していた。

 

「あら?シャーリー?それともエデルリッゾ?早かったですね……っ⁈」

 

飛び出したエデルリッゾを呼び戻すことについては半ば諦めつつ、今後地球と友好関係を築く中で彼女を含め母星に住まう火星人たちの思想教育について頭を悩ませながらアセイラムは生まれたままの姿になると脱衣所から防水カーテンで仕切られたシャワー室の個室に入る。エデルリッゾや後から着替えと共にシャワー浴びに合流する予定のシャーリーには悪いが、空調の完備された軍艦内であっても外は極寒の地シベリアでしかも今は11月。いくらなんでも全裸では肌寒い。

心の内で多少の罪悪感に「早く来ない方が悪い」と言い訳しつつ、ひと足先にシャワーを浴び始めた彼女は。直後、背後からした水音──床に流れた水とタイルの上を歩く音に振り返る。

 

「⁈」

 

彼女がおもむろに振り返った、その先にいたのは彼女が見知った金髪や茶髪の少女のどちらでもなく。カーテンを開け立っていたのは昼間会ったきり姿を見ていなかった()()()()()()()、そして瞳から光を失ったそんな彼女が手にしていたのは──

 

「──っッ⁉︎」

 

赤髪の少女は手にしていた銀色のソレ──アセイラムがスレインから貰った御守りのペンダント、その鎖をアセイラムの首に目掛けて走らせる。

 

「あ"……ッ!……っ⁉︎」

 

突然背後から襲われ、掛けられた鎖によって首を絞められ呼吸を止められたアセイラムだが、その余りに突然な襲撃に冷静さを失い碌な抵抗もできず次第に意識が薄れ始める。

 

 

「……カズ…ホ…さ……ん」

 

 

窒息寸前、踠くばかりで喉が締められ碌に息をすることも声を出すこともできない彼女が声にならない声で口に出したのは、そんな彼女の脳裏に最後に映ったその少年の名前だった。

 

「……‼︎」

 

バシャリと、力なく床に広がった水面に前から倒れ込む少女の(カラダ)。そんな少女を見下ろしつつ、目の前の少女()()()モノを手に掛けた赤髪の少女はただ茫然とその両手を眺め……そしてそこに来てようやく気付いた。

 

「なんでっ……そんなっ……私……私がッ⁈」

 

己のしたこと──自身の手で火星のお姫様(ヒト)を絞め殺した──を()()()理解した赤髪の少女、ライエ・アリアーシュはその絞め殺した相手と自分の手を見つつ半狂乱に陥った。

 

「私、私そんなつもりじゃ……ッ‼︎」

 

目の前の結果から逃げるようにして後ずさった彼女は、シャワー室反対側の壁に背中をぶつけ茫然として動けなくなる。同じ火星人の手によって家族を失い、自己矛盾によって傷付き砕ける寸前だった少女の硝子の心。そんな心を守るために彼女自身が無意識に取った防衛行動は、彼女を最も苦しめる精神的苦痛(ストレス)源──自分で勝手に親近感を覚えていながら、自分と異なり地球人に受け入れられてしまった火星人(アセイラム・ヴァース・アリューシア)の実力排除だった。

()()()()を排除したというのに、反対に胸の内から込み上げる強烈な吐き気と嫌悪感、そしてふと脳裏に過った誰かさんの顔に絶叫じみた悲鳴をあげそうになった──その瞬間。

 

 

 

デューカリオン艦内に鳴り響いた警報音と、慣性制御の行われている艦内にはあってはならない唐突な浮遊感にその全ては飲み込まれていった。

 

 

*1
それに加え()()()()()()な皇室崇拝も相まって




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