ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs- 作:神倉棐
10/2「生命の価値」
【東シベリア永久凍土上空 デューカリオン艦内廊下 11月24日 18時14分】
〈Over the permafrost of East Siberia AAA/BBY-001 Deucalion 1814hrs. Nov 24, 2014〉
アルドノアドライブ緊急停止の3分前、デューカリオン艦内廊下の一角にて。
「お疲れさまです」
「あ、お疲れさまです。カズホさん」
丁度、第二格納庫にて
「これから……入浴ですか?」
「はい!マグバレッジ艦長から私たちは士官用のシャワールームを自由に使って良いと許可を頂いたので、これから姫様と湯浴みをしようかと」
一帆の問いに全身から喜色を滲ませつつ、シャルロットは大きく頷く。アセイラムもそうだが、彼女もまた花も恥じらう年頃の少女である。当然、「魂の洗濯」でもあるお風呂は大大大好きであり、そもそも水資源が黄金にも等しい価値を持つ火星において、貴重な水を身体を清めるためだけに文字通り「湯水のように使える」というのは中流階級出身のシャルロットには夢のような話でもある。*1*2
「あ、シャーリー」
「エデルリッゾ?どうしてここに?」
にこにこと話すシャルロットに、少しばかり癒されていた一帆。そんな2人の下に現れたのは、本来ならば既にアセイラムと共にシャワールームにいるはずの侍女仲間たるエデルリッゾであった。
「どうしてって……姫様のお召し物を取りに──」
何故自分が着替えを持っているのに、
「──⁈」
「きゃあっ⁈」
「ひゃぁぁあっ⁉︎」
が、エデルリッゾが訳を答えようとしたその瞬間。大きく艦全体が、その空間そのものが揺れる。
───くそっ、一体何が⁈これは艦が堕ちているのか⁉︎
艦前方へと大傾斜してゆく艦内廊下、傾斜と振動により大きく
「危ない!」
側に手すりがあったが故に、咄嗟に掴んで無事だった一帆は、自分の方にタタラを踏んで吹き飛んで来た2人を抱き止める。
とはいえ、自分の体重よりも軽いとはいえ一般的10代前半と後半の少女が×2である。
「ぐっ……」
「カズホさん⁉︎ご無事ですか⁈」
無事?吹き飛ばされた一帆はシャルロットとエデルリッゾの2人の下敷きになる形で廊下へと叩きつけられていた。
「……大丈夫、受け身は取った。……エデルリッゾは?」
「う、うぅ〜、だ、だいじょうぶ。です」
いつぞやと同じく
「貴方達は……無事でしたか」
「マグバレッジ艦長?」
戦闘が起こった訳でもないのに既にボロボロになった一帆達を偶然見つけたのか、廊下の端から無傷の艦長が走って来る。
「一体、何が?攻撃ですか?」
「分かりません、ただ──アルドノアドライブが停止したようです」
急いで「何か」を探していたのか、やや肩で息をしつつも律儀に一帆の問いに艦長は答える。しかしそんな艦長が言った「アルドノアドライブ停止」との言葉に過剰に反応したのはエデルリッゾであった。
「そ、そんなはずありません!この船のアルドノアドライブは姫様が直々に起動したのです!
そこまで言って何かに気付いたのか、サーッと青くなった顔をするエデルリッゾとシャルロットの2人。
「っ⁉︎まさか……アセイラム姫は!今何処に⁈」
そんな2人の様子とエデルリッゾが告げた内容を組み合わせ、彼女たちと同じく「最悪の事態」──「アセイラムの死」を連想した一帆の顔色も青くなる。
「し、士官用シャワールームです」
「急ごう!シャーリーさんは耶賀頼先生を」
「わ、分かりました!」
全てが手遅れになってしまう、その前に一帆達は走り出していた。
【東シベリア永久凍土上空 デューカリオン艦内士官用シャワールーム 11月24日 18時20分】
〈Over the permafrost of East Siberia Shower room in AAA/BBY-001 Deucalion 1820hrs. Nov 24, 2014〉
エデルリッゾの案内の下、マグバレッジ艦長とともに士官用のシャワールームに駆け込んだ一帆が目にしたもの。
それは彼らが思い浮かべていた「最悪」の事態そのものであった。
「ひ、姫様!」
「退いて!脈と呼吸は……」
シャワーから流れ続ける温水が模った水面の上で、生まれたままの姿を晒しながらも仰向けで微動だにしないアセイラムの姿を目にしたエデルリッゾが悲鳴とともに思わず入口で硬直するが、一帆はそんな彼女を押し退け飛び付くようにして少女の脈と呼吸を測る。
「ああ、クソっ、どっちもない。AED*3!除細動器を!あとタオルも、水気を取らないと……」
状況は「最悪」の一言と言っても良い。自身の指示に弾かれた様に動き出したエデルリッゾとマグバレッジ艦長を尻目に、一帆ははやる内面を抑えつつアセイラムの状態を観察する。
───心停止の原因は……外傷らしい外傷、首に真新しい擦過痕!これか!
アセイラムの首に掛かった御守りの鎖とその擦過痕、このふたつから考えられる彼女が倒れた原因は「窒息」。
─── 妙だな……絡まった鎖を解こうと
「は、はい。タオルです」
「そのまま身体を拭いて、特に電極を貼る胸元を入念に……艦長、ありがとうございます」
若干の
「使い方は分かりますか?」
「勿論、最悪は案内図通りで何とかなります」
「拭けました!」
「良し……ショックを流す。一旦離れて」
手早く電極パッドを貼り付け、一帆たちはアセイラムから一度距離を取る。心電図の確認、電気ショックが必要との機械の診断に、迷わず一帆は通電ボタンを押し込んだ。
「まだ駄目か、胸骨圧迫。耶賀頼先生が来るまで保たせないと……」
が、アセイラムの息はまだ吹き返さない。
とはいえ、AEDの電圧再回復を待つ間にも取ることのできる救命行為は他にもある。
「手際が良いですね、並の軍人よりも遥かに」
「1、2、3、4……嫌でも学校で習います。軍事教練で」
何としても
「ああ、胸骨圧迫は代わります……確かに、ですが学生は真面目に受けない。せいぜい、人工呼吸を冷やかすだけ」
本職の軍人から見れば、一帆たち高校生が受ける軍事教練など「おままごと」みたいなものなのだろう。
「はあ、はあ……腐っても生徒会長なので、それに他人の生命が掛かっている状態で恥もクソもありません……人工呼吸、します」
そんな生徒たちの代表と言っても過言でもない、生徒会長だった一帆にも中々に耳が痛い艦長からの指摘に、本人は特に否定することなく次の救命措置──人工呼吸へと移る。
「────」
息が漏れぬよう鼻を摘み、顎を上げて気道を確保する。
互いの唇を合わせ、己の息を吹き込んでゆく。
生き返れ、と。
ただただ生命を救う為、懸命に。
そこに恥だの外聞だなんて全く無く。
ただ、少しだけ。
せめて自分からする時くらい、もうちょっとロマンチックな場所でしたかったなぁ……
ほんの少しだけ、そんな未練を抱いていた。
「────っっカハッ……!」
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