ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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10/6「敗走、嵐を抜けて」

10/6「敗走、嵐を抜けて」

 

【東シベリア永久凍土上空 11月24日 19時20分】

〈Over the permafrost of East Siberia 1920hrs. Nov 24, 2014〉

 

 

 

 

《高熱源反応、自動追尾照準固定(ロックオン)波照射を検知》

 

 

 

 

「っ⁈避けろ、()()()()()!」

 

 

 

 

低い曇天のソラを飛ぶ2機の機影、そんな2機の間に突如として鳴り響いた警報音(ロックオンアラート)とほぼ同時に彼らを射抜く様にして目も眩む閃光が大気を切り裂いていた。

 

「っ⁈何だ!今の()()⁉︎」

 

意識外から差し込まれた横薙ぎの一閃を辛うじて急旋回(ブレイク)にて回避した一帆。未来視じみた先読み能力と勘のおかげで回避できた(命拾いした)まぐれの様なものだが、それもこの光線による狙撃が()()()()()()()()のではなく2()()()()()()を狙った横薙ぎの一閃であったのも大きい。

 

─── ()でなく、()で狙い撃たれてたら危なかった

 

明確な殺意でもって(ピンポイントで)狙われていた訳でもない、ただ()()()()()()()()()()のでなければ回避さえも危うかったのではないかと一帆は冷や汗を流す。

 

───あの攻撃に狙われていたのは、地球人()じゃない……火星騎士(クルーテオ)の方だ

 

光線の照射角度と方向から考え、その攻撃の真の目的が「火星機の撃墜」にあったのだと勘付くが、その真実に辿り着いたのはVF-25(バルキリー)を駆る一帆だけではない。

 

《セルナキス伯……何故》

 

雪の舞い始めたソラを並走するように飛ぶVF-25と同じ白亜の機体──タルシス。

決して一帆の問いに答えた訳ではないのだろうが、それでも通信機越しにうめく様にしてクルーテオの口からこぼれ落ちた声はその襲撃者の心当たりを示していた。

 

《何故?何故とおっしゃいましたか?クルーテオ卿》

 

火星が誇る名門貴族、37家門の一角たるセルナキス辺境伯爵家現当主。地球軌道上に揚陸城(CCF)擁する軌道騎士のひとりでありながら、己の所属する派閥──十字派*1──の要請を受けて己の身ひとつで地球に降下した29人もの火星騎士の内のひとりである。

 

《忠臣を騙り、下等な地球と内通した逆賊に慈悲など無い!》

 

再び閃光が煌めく、明らかにタルシスを狙って放たれた一筋の光。機体の未来演算(アルドノア)能力ありきではあるが、その高い技量でもって辛うじて閃光を交わしたクルーテオ。しかしそこに含まれる膨大な熱量は彼が操作するスカイキャリアの機体表面を容赦なく焼き焦がす。

 

《くっ!待て、セルナキス伯!》

《黙れ、クルーテオ!我が浄化の光で燃え尽きるがいい!》

 

「──っ!やらせるか!」

 

地球人(一帆)そっちのけで戦い始めた火星人であるが、一応タルシスを駆るクルーテオは一帆らに降伏した「捕虜」である。当然、降伏した捕虜(敗者)の身柄を保護するのも降伏勧告者(勝者)の義務*2であることから、一帆もまたクルーテオに加勢すべく機体を加速させる。

 

《邪魔だ!墜ちろ、カトンボ!》

 

一帆の機体に、閃光が迫る。再び薙ぎ払うようにして放たれた閃光を、一帆は戦闘機形態(ファイター)から中間形態(バトロイド)に急変形することで回避した。

 

「っ⁈何⁉︎」

 

変形にて閃光を回避した一帆、しかしその背後では火星騎士同士での交戦を聞きつけて急行していた残存(クルーテオ配下の)スカイキャリア3機が火だるまとなって凍りの大地へと堕ちて行く。

 

「くそっ、くそったれが!」

 

連続して放たれる閃光(対空砲火)、掠めただけても致命的な損害(ダメージ)を受けるのは避けられない弾幕を一帆は変形を織り交ぜて突破する。

 

《小癪な!逆賊より先にまず貴様から──っ》

《──余所見?とは舐められたものだ、セルナキス伯》

《くっ⁉︎クルーテオ!……まずい、スカイキャリアのエンジンが……》

 

火星騎士同士の空中戦の最中に、高速機動によってその戦いを撹乱し続ける地球人の変わった戦闘機の姿に苛立ったセルナキスが明らかにその標的(ターゲット)を一帆に移したその瞬間に、その意識の間隙を突いて背後を取ったクルーテオが放った一斉射がセルナキスのスカイキャリアのエンジンを傷付ける。

 

《ぬっ⁉︎》

 

黒煙を吐いて地上へと降下しつつあるセルナキスの機体だったが、時を同じくしてクルーテオのスカイキャリアもまた無理な機動が祟ったのか何度か閃光の余波に焼かれていたエンジンから黒煙を吐き始める。

 

 

《聞こえますか、メビウス1》

 

 

悪化しつつある戦況、それでも空中戦を続けていた一帆たちの下に届いたその通信は戦闘開始後一帆が常に待ち望んでいたものであり、ある意味その戦況を大きく変える代物であった。

 

《たった今、アルドノアドライブ再起動に成功。これより本艦は緊急発進、最大船速で離脱します。SAMによる援護射撃に紛れ、貴方も至急戦域から離脱して下さい》

 

待ち望んだデューカリオンのアルドノアドライブ再起動。これで当初の作戦(Pole star)通り、あとはとっととこの場から逃げるだけではある。

 

「しかし」

 

が、しかし問題はその作戦にはなかった要素──新たな「捕虜(クルーテオ)の収容についてである。少なくとも襲撃者たるセルナキスの(下駄)は潰した、これ以上の追撃は難しい状況と考えられるがその長大な有効射程を誇る光学兵器は未だ健在。その上、クルーテオが逃げるためのスカイキャリアもまた最早いつ墜ちてもおかしくはない状態であり、SFS(サブフライトシステム)*3の機能の無いVF-25(メサイア)では同等程度の質量を持つタルシスを抱えての離脱は不可能である。

 

()()()()()()()()()です。遮蔽物がない以上、本艦の機動力では敵機の光学兵器は避けられません。辛うじて稜線に隠れらている今のうちに、可能な限り敵機の攻撃範囲から離脱します》

 

どうあがいても捕虜収容は間に合わない。それ故にせめて一帆のVF-25だけでも逃がそうと、デューカリオンのマグバレッジ艦長から「SAMで支援する」と言われても一帆は素直に頷くことができずにいた。

 

 

《聞こえるか、地球人とその母艦の者よ》

 

 

(下駄)を墜とされた以上、新たに足や戦力を調達すべくスカイキャリアを呼ばれては元も子もない。そんな一刻の猶予もない状況で悩んでしまった一帆の耳に、クルーテオからの通信が届く。

 

《先程の話は聞いた、この状況……私の不徳の致すところだ。よもや味方から背中を撃たれるとはな……》

 

その上、敵であるはずの地球人に助けられ協力して戦うこととなるとはな、と付け加えつつ彼は黒煙を吐くスカイキャリア上でその両腕に備え付けた兵装を構え直す。

 

《責任は取る、セルナキス伯が駆る機体──ソリスは私が抑えよう。貴様らは今すぐこの場を去るが良い》

「なっ、何を言って……」

 

まさか「残る」と言うとは思ってもいなかった一帆は唖然としつつそう問い返すが、クルーテオの方は答えることなくそのスカイキャリアの進路を既に大地に墜落したセルナキスのカタフラクトへと向ける。

 

《……死ぬおつもりですか?》

《まさか!まだ死ねぬさ。まだ成すべきとこを為せてはいないのでね》

 

そんなクルーテオに、今まで一帆と彼の通信には割り込んではきていなかったマグバレッジ艦長がそう問い掛けると、彼は小さく笑うと「死ぬつもりはない」と断言する。

 

 

《行け、翼を持つ()()よ。方舟の、己が主人を──()()を護るといい》

 

 

「っ!」

 

 

死地(ソラス)に向けて降下()して行くクルーテオは、未だ固まったままの一帆へと「行け」と叱咤激励を贈る。その言葉に、弾かれたように一帆は操縦桿を捻り──その空域を離脱した。

 

 

 

 

 

 

《メビウス1の収容完了、本艦の戦域離脱を確認。作戦終了を宣言します──

 

 

 

──一帆くん、詰城くん(レーダー手)から報告が入りました。……たった今、レーダーからタルシスの反応が消えたとのことです》

 

 

 

 

 

 

作戦は成功、だがこの戦いは今まで常勝を誇った一帆にとって初めての「敗北」であった。

 

 

 

 

 

*1
▶︎十字派

月面基地や軌道上等の地球圏に拠点を置く火星貴族たちが属する派閥の内のひとつ。

地球に対する侵略を是とする好戦派閥であり、表向きは地球を聖地とみなしてそこに住まう下等な地球人の根絶もしくは支配を目的としている。

「十字派」の派閥名は、中世西欧カトリック諸国が聖地たるエルサレムをイスラム諸国から奪還すべく派兵・遠征を繰り返した十字軍に由来する。

この他にも火星本星貴族を中心としたアルドノアの寵愛を受けた皇室全体を神聖視する「皇室派」や、近年増加傾向にあるその皇室の中でも直系純血(特定の個人)のみを神聖視する「純血派」。更に帝国建国の礎でありあらゆる派閥が生まれる原点となったアルドノアそのものを神聖視する「神授派」等があり、主に「十字派」「皇室派」「神授派」が「三大派閥」として存在する。

*2
南極戦時条約第4項「捕虜の待遇に関する取り決め」

*3
▶︎サブフライトシステム

通称「SFS」、「下駄」

火星側にて、幾ら無限の可能性とエネルギーを供給するアルドノアドライブ搭載機である火星カタフラクトとはいえ、地球の重力下で運用するには機体単体の行動半径は歩行能力や搭載可能な推進剤の関係により大きな制限が掛かってしまう点を改善すべく考案・開発された大型戦術輸送機(スカイキャリア)やそれに類する機能を持つ機体のこと。

ちなみに、地球連合では地球製のカタフラクトがアルドノアドライブ搭載機のように一騎当千の戦闘能力を持つ訳でもないため、その戦闘教義に合わせて展開速度の速さはともかくより大量輸送が可能な既存の輸送機の改良に留まっている。

俗称としてその見た目から誰が言ったか「下駄」や「お馬さん」とも呼ばれる場合もある。




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