ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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10/7「私の声がきこえますか」

10/7「私の声がきこえますか」

 

【西シベリア平原 地球連合本部ノヴォスタリスク 11月25日12時8分】

〈West Siberia Novostarsk UFE Headquarters 1208hrs. Nov 25, 2014〉

 

 

Pole star(明けぬソラの極星)」作戦の成功と敗走の翌日。相変わらず曇天で、時折雪がチラつくシベリアの空。そんな空を単独で航行するデューカリオンはオビ川を越え、それから少しした位置で「何処か」に向けて通信を送る。

 

 

《こちらUFE極東方面軍元第四艦隊所属、AAA/BBY-001航宙戦艦デューカリオン。()()、入港許可願います》

 

 

空から地上に向けて放たれた通信、極東より遥々やって来た艦から発された入港許可を求める声に、地上からは間髪入れることなくその返信が返ってきていた。

 

 

《ようこそ、AAA/BBY-001「デューカリオン」。貴艦の入港を許可します。メインシャフト解放、6番ドッグに着艦して下さい》

 

 

太平洋を越え、北極海を越え、永久凍土を越えてようやく辿り着いた地球連合本部「ノヴォスタリスク」。本部管制室から出された入港許可と共に、雪の大地に偽装されていた巨大なサイロの隔壁が開放される。

 

 

《メインシャフト降下、ドッグ内の係留装置(アーム)の展開を確認。着底まであと3……2……1……》

 

 

解放された巨大サイロのメイシャフトをゆっくりと降下するデューカリオン。幾つもの隔壁を越え、地下に建設された種子島の秘密ドッグとは比べ物にならない程巨大な6番ドッグへと降下したデューカリオンは、着底と係留装置(アーム)への固定に備え減速する。

 

 

《着底、係留装置(アーム)による船体の固定を確認しました。係留完了です》

 

 

「ふぅ……これで、我々の旅も終わりですね。艦長」

「ええ、ひとまずは」

 

船体が係留装置(アーム)に固定され、無事に入港できたことに安堵の息を漏らした不見咲副長に対し、艦長席に座ったマグバレッジ艦長は半ば同意しつつも今後の進退について考えひとまずは、と答える。

 

「ひとまず……ですか?」

「ええ、この様な特殊な艦艇*1……おそらく本部であっても持て余す筈、それに連合内でも本艦の戦果は目覚ましく火星側からの注目度も高い……各戦線で戦う主力部隊を補助する遊撃部隊(囮部隊)とするには最適です」

「……つまり、このまま我々が本艦を預かることになると?」

 

そんな艦長の答えに思わず聞き返した副長は、続けて答えられた艦長の「丁度、本来の母艦を失って暇を持て余している人員もいる事ですしね」との答えに、今後もこの艦と長い付き合いともなりそうなこと*2に気付き天を仰ぎそうになる。

 

「「「「…………」」」」

 

そんなマグバレッジ艦長と不見咲副長のやり取りに、同じく艦橋(ブリッジ)にいる操舵手のニーナや通信手の祭陽、レーダー手の詰城、機関士の筧の4人は絶妙な表情をしていたのだった。

 

 

〈*〉

 

 

一方その頃、艦底部格納ハッチにて。

 

決して無事とはいいきれないものの、それでも()()()()誰ひとりとして欠けることなく連合本部に到着したことに安堵しつつ、解放されたハッチから避難民用の収容場所へと歩いて行く彼ら彼女ら民間人を第二格納庫から通じるキャットウォークから眺めていた一帆。

 

「バイバイ!ひこーきのおにぃちゃん!」

「まもってくれてありがとー!」

「おひめさまのこと、まもってあげてね!」

 

そんな一帆に気付いた幾人かの子供や大人──アセイラムに折り鶴を渡していた姉妹とその母親等──が手を振って去って行くのを手を振り返しつつ、デューカリオンから離れて行く彼らを見送った一帆はまたいつぞやの時と同じ様に見えないソラを見上げる。

 

───救えなかった……と、考えるのは傲慢……だな

 

思い返すのは先の「Pole star(明けぬソラの極星)」作戦にて、なし崩し的にとはいえ友軍として共に「ソラス」なる火星側カタフラクトと交戦することとなったクルーテオと名乗った火星騎士のこと。

 

───思い上がってた……VF-25(メサイア)さえあれば、たったひとりでも何でもできるって

 

貰いモノの翼で、何処に行けるというのだろうか。否、借り物ばかりの人間が「英雄」なんぞになれる訳がない……なかったのだ。

 

───「ACE(エース)」……「Mobius1(メビウス1)」には、まだまだ届きそうにない

 

結局、3日前の11月22日から大して変われてもいない。あの日再確認した生きる理由や戦う理由、覚悟はあっても下手に連戦連勝でやっと手に入れることのできた(VF-25)の件もあって、まるで自分が「英雄」(物語の主人公)であるかの様に錯覚していた一帆は、後悔とともに自分を殴り倒したくなる程に猛省していた。

 

「一帆、さん」

「アセイラムさん……」

 

一帆以外、眼下のハッチ付近を含めて誰もいなくなったはずのハッチ入り口のキャットウォーク。そうだったはずの空間に少女──アセイラムの声が響く。

 

「……どうされましたか?」

 

何処か迷う様に、少し声を掛けずらそうに声を掛けてきた彼女に、一帆もまた少し気まずそうに彼女へと向き直す。

 

「その……一帆さん……」

 

互いに向き合ったふたり。ただ向き合ったはいいものの、互いに先の「Pole star(明けぬソラの極星)」作戦についてや、アセイラムには特にそれ以前にも戦って(助けて)もらってばかりいる負い目を感じていることも相まってどうしても無言の時間が生まれてしまう。

 

「一帆さん!」

「は、はい」

 

しかしそんな状況で、意を決したかの様にアセイラムは一帆を真っ直ぐに見据えるとその目の前まで突き進む。そしてそんな彼女は一帆の目の前、一歩手前で立ち止まると振り絞るかの様に一帆の名を呼ぶ。いきなり大声で名前を呼ばれたことに、弾かれるように反応した一帆だったがそれも彼女が続けた言葉に完全に停止した。

 

 

「好きです」

 

「え、……は?」

 

 

唐突なアセイラムからの告白にカッチンと固まった一帆。そんな一帆の様子を他所に、アセイラムの方は今度こそ迷わずあと一歩を詰めると少し背伸びをしつつ、目前にある一帆の顔へと己の顔を寄せる。

とはいえ最後の最後で羞恥で日和ったのか、はたまた足場が悪い中で背伸びをしたせいでバランスを崩したのか、アセイラムの唇は一帆の頬へと触れていた。

 

「………」

 

ただそれでも突然の告白含めて破壊力は十分だった様で一帆の思考は完全停止。結局、一帆はアセイラムがキスを終えてすぐに立ち去ってなお、その場から一歩も動くことができなかった。

 

「ああ、見つけました。一帆くん少しよろしいですか?」

 

しばらくして、その場で立ち尽くしていた一帆を探していたらしいマグバレッジ艦長がキャットウォークへと現れる。

 

「どうしましたか?」

「い、いえ……何でも、何かあったんですか?」

 

相変わらずボーッとしていた一帆の様子に、違和感を感じたマグバレッジ艦長が大丈夫かと問い掛ける。ここにきてようやく思考の再起動を果たした一帆が艦長に向き直ると、わざわざ艦長直々に自身を探しに来ていた理由を尋ねる。

 

 

 

「ええ、参謀本部からの出頭命令です。私を含め、殿下と共に軍司令部まで出頭して貰います」

 

 

 

マグバレッジ艦長が探していたその理由、それは一帆とアセイラムに対する地球連合軍参謀本部からの出頭命令だった。

 

 

 

 

────数時間後

 

 

 

 

私の声が聞こえていますか

 

私の声が、届いていますか

 

──私はアセイラム・ヴァース・アリューシア。

ヴァース帝国初代皇帝レイレガリア・ヴァース・レイヴァースの孫娘にして、今は亡き2代目皇帝ギルゼリア・ヴァース・レイヴァースの娘、第一皇女(皇位継承権第一位)アセイラム・ヴァース・アリューシアです。

 

我が祖国、そしてそこに座す皇帝陛下。月面と軌道の騎士、地球に降下したすべての民に告げます

 

この無意味な戦争の即時停戦、講和を求めます

 

私は無事に生きています

 

命の恩人たる、地球人の手を借りて──この地にて結んだ我が騎士「翼を持つ者」や多くの彼らの犠牲と献身を受けて、私はこの地まで辿り着くことができました

 

私の命を狙ったのは地球人ではありません、地球侵略を目論んだ軌道騎士──十字派による謀略です

 

私の生存を知り馳せ損じた幾人かの騎士のひとり──クルーテオ卿も、私に忠を尽くし……そして同じ火星人同士の戦いの中で戦死なされました

 

地球人に罪はありません、今すぐに戦争を止めて下さい

 

そして和平を、地球と講和を結んで下さい

 

どうかこの不幸に終止符を

 

 

母なる赤き星と祖なる青き星の間に、結びの祝福が在らんことを

 

 

 

 

*1
アルドノアドライブ搭載艦艇なのもそうだが、格納庫に可変戦闘機(バルキリー)の運用を前提とした艦載機格納シリンダーを搭載している点など

*2
つまるところ、世界各地の最前線かつ激戦地……しかも基本劣勢な戦場へ転戦させられ(でこき使われ)続けるということ




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